渡航帰りの発熱を見逃すな―蚊・赤血球・届出で押さえるマラリアの基本
第107回医師国家試験 I問題 第26問
国試問題にチャレンジ
マラリアについて正しいのはどれか。
- a.マダニが媒介する。
- b.国内での感染例が多い。
- c.ワクチンが有効である。
- d.血液中では白血球に感染する。
- e.診断後速やかに保健所に届け出る。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
マラリアはマラリア原虫による感染症で、ハマダラカの雌が媒介し、原虫は肝細胞で増殖した後、血液中では赤血球に感染して発熱・貧血・脾腫を引き起こします。日本の症例はほぼすべてが流行地で感染した輸入マラリアであり、渡航者の予防は防蚊対策と抗マラリア薬の予防内服が中心で、近年WHOが推奨したワクチンも流行地小児向けで効果は部分的です。感染症法では4類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届け出る必要があります。熱帯熱マラリアは急速に重症化しうるため、発熱患者では渡航歴を確認し、血液塗抹のギムザ染色で迅速に診断することが重要です。媒介者・感染細胞・感染症法の類型をセットで整理することは、輸入感染症全般の理解にもつながります。
解答・解説
正解はeです
マラリアの基本事項(媒介生物、国内の疫学、予防、病原体の生活環、感染症法上の扱い)を問う問題である。
マラリアの概要
マラリアはPlasmodium属の原虫(マラリア原虫)による感染症で、ハマダラカ(Anopheles属の蚊)の雌が吸血する際に媒介される。ヒトに感染する主な原虫は熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)、三日熱マラリア原虫(P. vivax)、卵形マラリア原虫(P. ovale)、四日熱マラリア原虫(P. malariae)の4種で、東南アジアのサルマラリア原虫(P. knowlesi)もヒトに感染する。
生活環のポイント
蚊の唾液腺から注入されたスポロゾイトはまず肝細胞に入り増殖する(肝内期、この間は無症状の潜伏期)。その後メロゾイトとして血中に放出され、赤血球に侵入して増殖と破壊を繰り返す(赤内期)。赤血球が一斉に壊れるタイミングで発熱発作が起こり、赤血球の破壊が貧血や脾腫の原因となる。
解き方
媒介生物(蚊かダニか)、感染する血球(赤血球か白血球か)、日本での感染状況(輸入感染症)、感染症法上の類型(4類感染症で直ちに届出)を正確に押さえていれば、正解は「診断後速やかに保健所に届け出る」と判断できる。
選択肢考察
- ×a. マダニが媒介する。
マラリアを媒介するのはハマダラカ(雌)であり、マダニではない。ハマダラカは主に夜間から明け方に吸血するため、流行地では夜間の防蚊対策(蚊帳、忌避剤、長袖の着用)が重要となる。マダニが媒介する代表的な感染症には、日本紅斑熱(Rickettsia japonica)、ライム病(Borrelia属)、野兎病、ダニ媒介脳炎、重症熱性血小板減少症候群(SFTS、2011年に原因ウイルスが同定)などがある。なお、ツツガムシ病を媒介するのはマダニではなくツツガムシ(ダニの一種)の幼虫である。
- ×b. 国内での感染例が多い。
日本でもかつては三日熱マラリアの流行があったが、第二次世界大戦後の衛生状態の改善などにより国内での伝播は終息した。現在国内で報告されるマラリアは、アフリカ、アジア、オセアニアなどの流行地で感染し、帰国・入国後に発症する輸入マラリアがほぼすべてであり、年間数十〜100例程度である。そのため、渡航歴のある発熱患者ではマラリアを必ず鑑別に挙げることが重要となる。
- ×c. ワクチンが有効である。
本問の出題時点では実用化されたマラリアワクチンは存在しなかった。その後、WHO(世界保健機関)は2021年にRTS,S/AS01、2023年にR21/Matrix-Mを、流行地に住む小児を対象として推奨したが、これらの発症予防効果は部分的であり、日本では承認されておらず、渡航者の予防には用いられない。渡航者のマラリア予防は、防蚊対策と、必要に応じた抗マラリア薬の予防内服(アトバコン・プログアニル合剤、メフロキンなど)が中心である。したがって「ワクチンが有効」という記述は、渡航者を含む一般的な予防法としては誤りである。
- ×d. 血液中では白血球に感染する。
マラリア原虫は血液中では赤血球に侵入して増殖する。赤血球内で輪状体(リング体)、栄養体、分裂体へと発育し、赤血球を破壊してメロゾイトを放出し、新たな赤血球に感染することを繰り返す。このため診断では、末梢血の塗抹標本をGiemsa(ギムザ)染色し、赤血球内の原虫を顕微鏡で確認する。白血球内に病原体がみられる感染症としては、アナプラズマ症やエーリキア症などが知られる。
- ○e. 診断後速やかに保健所に届け出る。
マラリアは感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で4類感染症に指定されている。4類感染症は動物や飲食物などを介してヒトに感染する疾患で、ヒトからヒトへの直接の感染はほとんどないが、媒介動物の駆除などの対策が必要とされる。1〜4類感染症および5類の一部は全数把握対象で、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。したがって、マラリアと診断したら速やかに保健所へ届け出る。
臨床症状
潜伏期は熱帯熱マラリアで約1〜2週間、ほかの種ではより長いことがある。三大主徴は発熱、貧血、脾腫で、頭痛、筋肉痛、悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状、黄疸、血小板減少もみられる。発熱周期は三日熱・卵形マラリアで48時間ごと、四日熱マラリアで72時間ごとが典型だが、熱帯熱マラリアでは周期が不規則なことが多い。
熱帯熱マラリアの危険性
感染赤血球が微小血管の内皮に接着して循環障害を起こすため、治療が遅れると発症から数日〜1、2週間で脳マラリア(意識障害、けいれん)、急性腎障害、肺水腫・急性呼吸窮迫症候群、重症貧血、低血糖、播種性血管内凝固(DIC)などを起こし死亡しうる。重症例ではアーテスネートなどの静注治療を行う。
再発
三日熱・卵形マラリア原虫は肝細胞内に休眠体(ヒプノゾイト)を形成し、治療後数か月〜数年して再発することがある。これを防ぐため、血中の原虫の治療に加え、休眠体を根治するプリマキンを投与する(投与前にG6PD欠損症の有無を確認し、溶血を防ぐ)。
診断
末梢血塗抹Giemsa染色標本の鏡検が基本で、原虫の種類と赤血球の感染率を評価する。迅速診断キット(抗原検出)やPCR法も補助的に用いられる。
感染症法の類型(届出時期)
1〜4類感染症:全数把握で、診断後直ちに届出。 5類感染症:全数把握の疾患は原則7日以内(一部は直ちに)、定点把握の疾患は指定届出機関が報告する。 マラリアは4類であり、同じ4類にはデング熱、日本脳炎、狂犬病、ツツガムシ病、日本紅斑熱、SFTSなどが含まれる。
POINT
・マラリアはマラリア原虫による感染症で、ハマダラカが媒介する(マダニではない)。 ・原虫は肝細胞で増えた後、血中では赤血球に感染する。三大主徴は発熱・貧血・脾腫。 ・日本の症例はほぼすべてが輸入マラリアである。渡航歴のある発熱では必ず疑う。 ・熱帯熱マラリアは急速に重症化し致死的となりうる。 ・4類感染症であり、診断したら直ちに保健所へ届け出る。 ・渡航者の予防は防蚊対策と予防内服が基本で、流行地小児向けのワクチン(RTS,S、R21)は近年WHOが推奨したが効果は部分的である。
