お酒が「素通り」する臓器―飲酒と発癌、膀胱癌だけが外れる理由
第107回医師国家試験 I問題 第27問
国試問題にチャレンジ
飲酒がリスクファクターとならないのはどれか。
- a.咽頭癌
- b.肝癌
- c.食道癌
- d.大腸癌
- e.膀胱癌
対話形式の解説
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ドクターまとめ
アルコール飲料とその代謝産物のアセトアルデヒドは国際がん研究機関(IARC)でグループ1の発癌物質とされ、飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・女性の乳房の癌の確立した危険因子です。直接曝露される上部気道・消化管、代謝臓器である肝臓、腸内細菌がアセトアルデヒドを生成する大腸、と機序で整理すると覚えやすく、ALDH2低活性のフラッシャーや喫煙者では特にリスクが高まります。一方、膀胱癌は飲酒との明確な関連がなく、喫煙や芳香族アミンへの職業性曝露など、尿中に排泄される発癌物質が主な原因です。癌ごとの危険因子を機序とともに理解しておくことは、生活指導やハイリスク者の検診を考えるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はeです
本問は、飲酒(アルコール摂取)が発癌の危険因子として確立している臓器を知っているかを問う問題である。 世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、アルコール飲料およびその代謝産物であるアセトアルデヒドを「ヒトに対して発癌性がある(グループ1)」と分類している。飲酒との因果関係が十分な証拠をもって認められている癌は、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌(特に扁平上皮癌)、肝細胞癌、大腸癌、女性の乳癌である。いずれも飲酒量が多いほどリスクが上がる用量反応関係が示されており、「少量なら安全」といえる明確な閾値は確認されていない。 覚え方としては、アルコールが直接触れる上部消化管・気道の入り口(口腔・咽頭・喉頭・食道)、アルコールを代謝する臓器(肝臓)、アセトアルデヒドが腸内細菌によっても生成される大腸、ホルモン環境の影響を受ける乳腺、と機序ごとに整理するとよい。 一方、膀胱癌は飲酒との明確な関連が示されておらず、主な危険因子は喫煙と芳香族アミンなどの職業性化学物質曝露である。したがって、飲酒がリスクファクターとならないのは膀胱癌である。
選択肢考察
- ×a. 咽頭癌
飲酒は咽頭癌の確立した危険因子である。エタノールが分解されて生じるアセトアルデヒドはDNAと結合して遺伝子損傷を起こす発癌物質であり、飲酒時には唾液中のアセトアルデヒド濃度も上昇するため、咽頭粘膜が直接曝露される。喫煙との併用で相乗的にリスクが高まる点も重要である。なお中咽頭癌ではヒトパピローマウイルス(HPV)感染、上咽頭癌ではEBウイルス(Epstein-Barr virus)感染も重要な原因となる。
- ×b. 肝癌
飲酒は肝癌(肝細胞癌)の危険因子である。長期多量飲酒によりアルコール性脂肪肝→アルコール性肝炎→肝線維化・肝硬変と進行し、肝硬変を背景に肝細胞癌が発生する。わが国ではB型・C型肝炎ウイルスによる肝癌の割合が低下し、アルコール性肝疾患や代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD、旧称NAFLD)など非ウイルス性の肝癌の割合が増加している。
- ×c. 食道癌
飲酒は食道癌、特にわが国で大半を占める扁平上皮癌の代表的な危険因子である。アセトアルデヒドを分解するアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)の活性が低い人(少量の飲酒で顔が赤くなる、いわゆるフラッシャー)は、アセトアルデヒドが蓄積しやすく、飲酒による食道癌リスクが特に高い。喫煙との併用でリスクは相乗的に増加する。熱い飲食物の摂取も危険因子とされる。
- ×d. 大腸癌
飲酒は大腸癌の危険因子として確立している。大腸内では腸内細菌がエタノールをアセトアルデヒドに変換するため、大腸粘膜もアセトアルデヒドに曝露される。また葉酸代謝の障害などの関与も考えられている。飲酒のほか、赤肉・加工肉の摂取、肥満、運動不足、喫煙も大腸癌の危険因子である。
- ○e. 膀胱癌
膀胱癌と飲酒との間には明確な因果関係は確認されておらず、飲酒は膀胱癌のリスクファクターとはされていない。膀胱癌の最大の危険因子は喫煙であり、たばこ煙中の芳香族アミンなどが尿中に排泄されて尿路上皮に作用する。そのほか、染料・ゴム工業などで扱われる芳香族アミン(β-ナフチルアミン、ベンジジンなど)への職業性曝露、シクロホスファミドの使用、ビルハルツ住血吸虫(Schistosoma haematobium)感染(扁平上皮癌の原因)、骨盤部への放射線照射などが知られている。したがって本問の正解である。
飲酒と発癌の機序
エタノールは主に肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに代謝され、さらにアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)により酢酸に分解される。アセトアルデヒドはDNA付加体を形成する発癌物質である。日本人を含む東アジア人にはALDH2の活性が低い・欠損した遺伝子型の人が多く、こうした人が習慣的に飲酒すると食道癌・頭頸部癌のリスクが大きく上昇する。そのほか、エタノールによるエストロゲン濃度の上昇(乳癌)、肝硬変の形成(肝癌)、喫煙による発癌物質の溶媒としての作用、栄養障害なども発癌に関与する。
飲酒が確立した危険因子となる癌(IARCグループ1)
口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、肝細胞癌、大腸癌、女性の乳癌。
主な癌の危険因子の整理
・膀胱癌:喫煙、芳香族アミン(β-ナフチルアミン、ベンジジン等)、シクロホスファミド、ビルハルツ住血吸虫 ・肺癌:喫煙、アスベスト、ラドン、ヒ素 ・胃癌:Helicobacter pylori感染、高塩分食、喫煙 ・肝癌:B型・C型肝炎ウイルス、飲酒、脂肪性肝疾患、アフラトキシン ・子宮頸癌:ヒトパピローマウイルス(HPV) ・悪性中皮腫:アスベスト
喫煙と飲酒の相乗作用
口腔・咽頭・喉頭・食道の癌では、喫煙と飲酒が重なるとそれぞれ単独の場合を大きく上回るリスクとなる。
POINT
・飲酒が危険因子となる癌:口腔・咽頭・喉頭・食道・肝・大腸・乳房(女性) ・膀胱癌の危険因子は喫煙と芳香族アミン(染料工業)であり、飲酒は含まれない ・アセトアルデヒドは発癌物質であり、ALDH2低活性者(フラッシャー)は飲酒による食道癌・頭頸部癌リスクが高い ・飲酒と喫煙は上部消化管・頭頸部癌で相乗的にリスクを高める
