StudyMed医師国家試験

薪の束が語る白血病―ファゴット細胞からt(15;17)を導く

第107回医師国家試験 I問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第107回 I問題 第13問

汎血球減少症を呈する患者の骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。  この患者にみられる染色体異常はどれか。

第107回 I問題 第13問の問題画像
  1. a.t(8;14)
  2. b.t(8;21)
  3. c.t(9;22)
  4. d.t(15;17)
  5. e.inv(16)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、骨髄像から白血病の病型を見抜き、それに対応する染色体異常を選ぶ問題だ。ポイントは標本に写っている細胞の「顆粒」と「針状の封入体」。まずはMay-Giemsa染色の像をどう読むか考えてみよう。
医学生医学生
大きめの細胞がたくさん集まっていて、細胞質に赤紫の粒がびっしり詰まっているように見えます。
ドクタードクター
いい観察だね。細胞質が粗大なアズール顆粒で埋め尽くされ、核の輪郭が見えにくいほどだ。そして一部の細胞には、細い針状のAuer小体が何本も束になって重なっている。この束を薪の束に見立てて、ファゴット細胞と呼ぶんだ。
医学生医学生
Auer小体があるということは骨髄系ですよね。でも、病理実習ではAuer小体は1本見えるくらいだった気がします。
ドクタードクター
普通の急性骨髄性白血病ではそうだね。それが束になっているのが特徴的で、粗大顆粒をもつ異常な前骨髄球の増加と合わせると、急性前骨髄球性白血病、FAB分類のM3と診断できる。汎血球減少で見つかることが多いのもこの病型の特徴で、問題の設定にも合致している。
医学生医学生
白血病なのに白血球が増えないんですか。
ドクタードクター
APLは末梢血の白血球数が正常か、むしろ減少していることが多いんだ。「白血病=白血球増多」と思い込んでいると見逃すから注意したい。では、APLに特徴的な染色体異常は何だろう。
医学生医学生
t(15;17)だったと思います。PML-RARAでしたっけ。
ドクタードクター
正解。15番染色体のPML遺伝子と17番染色体のレチノイン酸受容体α、RARA遺伝子が融合してPML-RARA融合遺伝子ができる。この融合蛋白が前骨髄球より先への分化を止めるから、異常な前骨髄球が溜まっていくんだ。ほかの選択肢の転座もよく出るから、対応する疾患と一緒に確認しよう。t(8;21)はどうかな。
医学生医学生
AMLのM2で、RUNX1-RUNX1T1でした。M2でもAuer小体は出ますよね。そこで少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだよ。M2でもAuer小体はみられるけれど、細胞質が粗大顆粒で満たされた前骨髄球がびっしり増えたり、ファゴット細胞が出たりするのは通常APLなんだ。inv(16)はどうだろう。
医学生医学生
M4Eoで、好酸球が増えるタイプですね。t(8;21)と同じくコア結合因子が関わる予後良好群だと講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。CBFB-MYH11融合遺伝子ができて、骨髄では異常な好酸球が目立つ。本症例の像とは違うね。t(9;22)はフィラデルフィア染色体で、BCR-ABL1を形成する。慢性骨髄性白血病のほぼ全例と、成人ALLの一部にみられる。
医学生医学生
CMLなら白血球が著明に増えて、いろいろな成熟段階の顆粒球が見えるはずなので、汎血球減少とは合わないですね。t(8;14)はBurkittリンパ腫でしょうか。
ドクタードクター
そう。MYCが免疫グロブリン重鎖遺伝子の近くに移って過剰発現する。白血化したL3の芽球は好塩基性の細胞質に空胞が多いのが特徴で、顆粒だらけの今回の細胞とはまったく違う見た目だ。
医学生医学生
APLの治療はレチノイン酸でしたよね。融合遺伝子にRARAが入っているから効く、というのがつながりました。
ドクタードクター
まさにそこが面白いところ。全トランス型レチノイン酸、ATRAで白血病細胞を成熟好中球へ分化させる分化誘導療法が基本で、亜ヒ酸も有効だ。適切に治療すればAMLの中でも予後は良好な部類に入る。ただし臨床で最も怖いのが播種性血管内凝固、DICの合併なんだ。
医学生医学生
血液内科を回ったとき、APLは診断したらすぐに凝固系を確認するように言われました。
ドクタードクター
それは大事な教えだね。異常前骨髄球の顆粒に含まれる組織因子などで凝固が進むうえ、著しい線溶亢進を伴うから、フィブリノゲンが低下して脳出血など致命的な出血を起こしうる。もう一つ、ATRAや亜ヒ酸の投与中には分化症候群に注意が必要だ。発熱、呼吸困難、肺浸潤、胸水、体重増加などが出て、副腎皮質ステロイドで治療する。
医学生医学生
骨髄像でファゴット細胞を見たらAPL、t(15;17)、DICに注意してATRA、分化症候群も警戒、という一連の流れで覚えます。
ドクタードクター
完璧だ。ちなみに、現在のWHO分類ではAMLは遺伝子異常に基づいて分類されていて、APLもPML::RARA融合を伴う病型として扱われている。形態と遺伝子異常を結びつけて理解しておくと、分類が変わっても困らないよ。

まとめ

粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球の増加と、Auer小体が束状に集まったファゴット細胞は急性前骨髄球性白血病(APL、M3)の特徴的な骨髄像で、末梢血では白血球が増えず汎血球減少で見つかることが多い病型です。APLではt(15;17)によりPML-RARA融合遺伝子が形成され、前骨髄球の段階で分化が停止します。鑑別として、t(8;21)はAML M2、inv(16)は好酸球増加を伴うM4Eo、t(9;22)はCMLやPh陽性ALL、t(8;14)はBurkittリンパ腫に対応します。治療はATRAによる分化誘導療法が基本で亜ヒ酸も有効ですが、線溶亢進型DICによる致命的出血と、治療中の分化症候群に注意が必要です。形態所見から病型、遺伝子異常、治療、合併症までを一続きに結びつけることが、白血病診療の理解の要となります。

解答・解説

正解はdです

骨髄像から白血病の病型を判定し、その病型に特徴的な染色体異常を選ぶ問題である。

骨髄像の読み取り

赤血球の間に、大型で細胞質が豊富な異常細胞がびっしりと集まっている。細胞質は赤紫色に染まる粗大なアズール顆粒で埋め尽くされ、核の輪郭が見えにくいほどである。左上の細胞には、細い針状の封入体であるAuer(アウエル)小体が多数、束状に重なってみられる。このようにAuer小体が薪の束のように集まった細胞をファゴット細胞(faggot cell)と呼ぶ。

診断

粗大なアズール顆粒をもつ異常な前骨髄球が増加し、ファゴット細胞を認めることから、急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL、FAB分類M3)と診断できる。APLは末梢血の白血球数が増えず、むしろ汎血球減少で見つかることが多い点も本問の設定と合致する。

問われていること

APLに特徴的な染色体異常は、15番染色体と17番染色体の相互転座t(15;17)(q24;q21)である。この転座により、15番染色体上のPML遺伝子と17番染色体上のレチノイン酸受容体α(RARA)遺伝子が融合してPML-RARA融合遺伝子が形成される。融合蛋白は前骨髄球から先への分化を妨げ、異常な前骨髄球が蓄積する。

選択肢考察

  1. ×a.  t(8;14)

    Burkittリンパ腫、およびその白血化である成熟B細胞性急性リンパ性白血病(FAB分類L3)に特徴的な転座である。8番染色体のMYC遺伝子が14番染色体の免疫グロブリン重鎖遺伝子の近くに移ることで、MYCが過剰に発現し腫瘍細胞が急速に増殖する。L3の芽球は好塩基性の細胞質に空胞を多数もつのが特徴で、本問の顆粒に富む細胞とは異なる。

  2. ×b.  t(8;21)

    急性骨髄性白血病(AML)のうち、成熟傾向を伴う病型(FAB分類M2)に多い転座で、RUNX1-RUNX1T1(AML1-ETO)融合遺伝子を形成する。Auer小体を認めることがあるが、APLのような粗大顆粒で満たされた前骨髄球の増加やファゴット細胞は通常みられない。予後良好群の染色体異常に分類される。

  3. ×c.  t(9;22)

    フィラデルフィア(Ph)染色体を生じる転座で、BCR-ABL1融合遺伝子を形成する。慢性骨髄性白血病(CML)のほぼ全例にみられ、成人の急性リンパ性白血病の一部(Ph陽性ALL)にも認められる。CMLの慢性期では白血球が著明に増加し、各成熟段階の顆粒球がみられるのが典型で、汎血球減少と異常前骨髄球の増加を示す本症例とは合わない。

  4. ○d.  t(15;17)

    急性前骨髄球性白血病(APL、M3)に特徴的な転座であり、これが正解である。PML-RARA融合遺伝子が形成され、前骨髄球の段階で分化が止まる。骨髄像では粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球の増加とファゴット細胞がみられ、本症例の所見に一致する。融合蛋白にはレチノイン酸受容体の部分が含まれるため、全トランス型レチノイン酸(ATRA)の投与により白血病細胞を成熟好中球へ分化させる分化誘導療法が有効である。

  5. ×e.  inv(16)

    16番染色体の逆位で、CBFB-MYH11融合遺伝子を形成する。好酸球増加を伴う急性骨髄単球性白血病(FAB分類M4Eo)に特徴的で、骨髄では異常な好酸球の増加がみられる。t(8;21)と同じくコア結合因子(CBF)が関わる白血病であり、予後良好群に分類される。本症例の骨髄像とは合わない。

急性前骨髄球性白血病(APL)の特徴

・骨髄:粗大なアズール顆粒に富む異常前骨髄球の増加、ファゴット細胞。ミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色は強陽性。 ・末梢血:白血球数は減少〜正常のことが多く、汎血球減少で発見されやすい。 ・播種性血管内凝固(DIC)の合併:異常前骨髄球の顆粒に含まれる組織因子やアネキシンIIなどにより、凝固亢進に加えて著しい線溶亢進を伴うDICが起こりやすい。フィブリノゲン低下が目立ち、脳出血などの致命的な出血をきたすことがある。 ・治療:ATRAによる分化誘導療法が基本で、亜ヒ酸(三酸化ヒ素)も有効である。化学療法を併用することがある。 ・分化症候群(かつてのレチノイン酸症候群):ATRAや亜ヒ酸の投与中に、発熱、呼吸困難、肺浸潤、胸水、体重増加、腎障害などをきたす合併症で、副腎皮質ステロイドで治療する。 ・適切に治療されれば、AMLの中でも予後は良好である。

白血病・リンパ腫と代表的な染色体異常

・t(15;17):APL(M3)、PML-RARA ・t(8;21):AML M2、RUNX1-RUNX1T1 ・inv(16)/t(16;16):AML M4Eo、CBFB-MYH11 ・t(9;22):CML、Ph陽性ALL、BCR-ABL1 ・t(8;14):Burkittリンパ腫、ALL L3、MYC ・t(14;18):濾胞性リンパ腫、BCL2 ・t(11;14):マントル細胞リンパ腫、CCND1(サイクリンD1) ・t(2;5):ALK陽性未分化大細胞リンパ腫、NPM1-ALK なお、現在のWHO分類ではAMLは特定の遺伝子異常に基づいて分類され、APLは「PML::RARA融合を伴う急性前骨髄球性白血病」として扱われている。

POINT

・粗大なアズール顆粒をもつ異常前骨髄球の増加とファゴット細胞(Auer小体の束)をみたらAPL(M3)を考える。 ・APLの染色体異常はt(15;17)で、PML-RARA融合遺伝子を形成する。 ・APLは汎血球減少で発見されることが多く、線溶亢進型のDICを合併しやすい。 ・治療はATRAによる分化誘導療法(亜ヒ酸も有効)で、分化症候群に注意する。 ・t(8;21)はM2、inv(16)はM4Eo、t(9;22)はCML、t(8;14)はBurkittリンパ腫と対応づけて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。