ショックより先に守るもの―血だらけの口腔が告げる「Aの危機」
第107回医師国家試験 G問題 第66問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,66~68の問いに答えよ。 17歳の男子。交通外傷のため搬入された。 現病歴:乗っていた乗用車が対向車と衝突し,受傷したため搬入された。助手席に座りシートベルトをしていたという。 現症:頭部挫創から軽度の出血を認める。閉眼しており,痛み刺激を加えても開眼しない。顔面蒼白で冷汗を認める。口唇に裂創があり,出血した血液が口腔内に流れ込んでいる。呼吸は促迫しており,頻脈を認める。両上肢を触ると冷たく,湿っている。右下腿は明らかに変形している。病院到着直後に輸液と酸素投与とが実施されている。
優先的に行うべきなのはどれか。
- a.輸血
- b.口腔内吸引
- c.四肢の加温
- d.右下腿の固定
- e.頭部創の止血
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
外傷初期診療では、JATECのprimary surveyに沿ってA(気道)→B(呼吸)→C(循環)→D(中枢神経)→E(脱衣と体温管理)の順に評価し、異常があればその場で蘇生処置を行います。本例は高度のショックを伴いますが、輸液と酸素投与はすでに始まっており、意識障害のため口腔内に流れ込んだ血液を自力で排出できないという気道の異常が最優先の問題です。そのため、頸椎を保護しながら口腔内吸引で気道を開通させ、気道を保てなければ気管挿管へ進みます(GCS 8点以下が目安)。輸血はCの処置、四肢の加温はEの処置で、下腿骨折の固定や軽度の頭部創の処置はsecondary surveyで行います。見た目の派手な損傷ではなく、死に至るまでの時間が短い生理学的異常から順に対処するという原則は、あらゆる重症患者の初期対応の土台になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
乗用車同士の正面衝突で受傷した17歳男子で、高エネルギー外傷である。来院時の所見を生理学的な観点から並べ直すと次のようになる。 ・気道(A): 口唇の裂創から出血し、その血液が口腔内に流れ込んでいる。しかも意識障害があるため、自力で血液を喀出・嚥下できず、誤嚥や窒息を起こしやすい。 ・呼吸(B): 呼吸促迫がある。 ・循環(C): 顔面蒼白、冷汗、頻脈、四肢の冷感・湿潤があり、末梢血管が収縮した状態で、ショックと判断できる。 ・中枢神経(D): 閉眼しており、痛み刺激でも開眼しない。GCS(Glasgow Coma Scale)の開眼反応はE1で、高度の意識障害がある。 ・その他: 頭部挫創からの軽度の出血、右下腿の明らかな変形(骨折の疑い)がある。後者は解剖学的な異常にあたる。
考え方
外傷の初期診療は、日本ではJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care: 外傷初期診療ガイドライン)に沿って行う。まずprimary survey(初期評価)で、生命を脅かす生理学的異常を A(Airway: 気道)→ B(Breathing: 呼吸)→ C(Circulation: 循環)→ D(Dysfunction of CNS: 中枢神経障害)→ E(Exposure & Environmental control: 脱衣と体温管理)の順に評価し、A・B・Cに異常を見つけたら、その場で蘇生処置を行ってから次へ進む。個々の損傷の詳しい評価と処置(骨折の固定、軽い創の処置など)は、生理学的な状態が安定した後のsecondary survey(二次評価)で行う。 この順序になっているのは、異常が死に直結するまでの時間が A<B<C の順に短いからである。気道が閉塞すると数分で低酸素による心停止や脳障害に至る。気道が開通していなければ、酸素投与も輸液・輸血も効果を発揮しない。 本例はショックも高度だが、到着時にすでに輸液と酸素投与が始まっている。残っている最も緊急度の高い問題は、口腔内に血液がたまり、意識障害のため自力で気道を守れないというAの異常である。したがって、まず口腔内の血液を吸引して気道を開通させることを優先する。さらに、意識障害が高度(GCS合計8点以下が目安)で気道を保持できない場合は、吸引に続いて気管挿管などの確実な気道確保を考慮する。高エネルギー外傷なので頸椎損傷があるものとして扱い、用手的に頸椎を保護しながら処置する。
選択肢考察
- ×a. 輸血
ショックに対する循環(C)の蘇生処置である。本例は出血性ショックの可能性が高く、いずれ必要になるかもしれない。しかし気道(A)の問題を解決するより前に行う処置ではない。JATECでは、まず温めた細胞外液(乳酸リンゲル液など)を急速に投与し、その反応を見て輸血の必要性や止血術を判断する。さらに輸血は、血液型の確認や製剤の準備に時間がかかる。気道が閉塞しかけている状況で最初に選ぶ処置ではない。
- ○b. 口腔内吸引
口唇裂創からの血液が口腔内に流れ込み、意識障害のため自分で排出できない。これは気道閉塞と誤嚥の危険がある状態、すなわちAの異常である。ABCDEアプローチでは最優先で解決すべき問題であり、吸引で血液を除いて気道を開通させる。すでに酸素投与は行われているが、気道が開いていなければ肺に酸素は届かない。吸引は、ほかのどの処置よりも先に行うべきである。吸引後も気道の保持が困難であれば、頸椎を保護しながら気管挿管へ進む。
- ×c. 四肢の加温
体温管理はprimary surveyのE(Exposure & Environmental control)にあたる。外傷患者の低体温は、凝固障害やアシドーシスとともに「死の三徴」の一つで、予後を悪化させる。そのため保温や加温輸液は重要である。ただし、気道・呼吸・循環の異常を後回しにしてまで行う処置ではない。また、四肢の冷感・湿潤はショックによる末梢血管収縮の表れである。四肢を温めてもショックそのものは改善しない。
- ×d. 右下腿の固定
右下腿の変形は骨折を疑わせる解剖学的異常であり、その評価と固定は原則としてsecondary surveyで行う。なお、大腿骨骨折や骨盤骨折は大量出血を起こしうるので、primary surveyのCの段階で考慮される(骨盤骨折ではシーツラッピングなどの簡易固定を行う)。一方、下腿骨折による出血量はそれらより少なく、気道確保より優先する理由はない。
- ×e. 頭部創の止血
頭部挫創からの出血は軽度であり、現時点で生命を脅かしてはいない。頭皮は血流が豊富で大出血することもある。その場合は、primary surveyのCの段階で圧迫止血などを行う。しかし本例のような軽度の出血であれば、創の処置はsecondary surveyで行えばよい。気道確保より優先されることはない。
JATECによる外傷初期診療の流れ
1. primary survey(初期評価)と蘇生: 生理学的異常をABCDEの順に評価し、異常があれば同時に蘇生する。 ・A(気道): 発声できるか、口腔内の異物・血液・吐物の有無、気道狭窄音などを確認する。処置は、吸引、下顎挙上、エアウェイの挿入、気管挿管、輪状甲状靱帯切開など。頸椎保護を併せて行う。 ・B(呼吸): 呼吸数、胸郭の動き、呼吸音、SpO2を確認する。緊張性気胸、大量血胸、フレイルチェスト、開放性気胸など、ただちに生命を脅かす胸部外傷を見つけて処置する(胸腔穿刺による脱気、胸腔ドレナージなど)。 ・C(循環): 皮膚の色調・温度、脈拍、血圧、毛細血管再充満時間(CRT)、外出血を確認する。FAST(focused assessment with sonography for trauma: 外傷時の迅速超音波検査)や胸部・骨盤X線で出血源を検索し、初期輸液の反応に応じて輸血や止血術を行う。 ・D(中枢神経): GCS、瞳孔、麻痺の有無を確認し、「切迫するD」(GCS 8点以下、GCSが2点以上低下、脳ヘルニア徴候)があれば、確実な気道確保のうえで頭部CTを優先的に考慮する。 ・E(脱衣と体温管理): 全身を観察し、保温して低体温を防ぐ。 2. secondary survey(二次評価): 頭から足先まで全身を系統的に診察し、解剖学的損傷を検索する。骨折の固定や創の処置はここで行う。 3. 根本治療・転院搬送
意識障害と気道
意識レベルが低下すると、舌根沈下、咳嗽反射・嚥下反射の低下により、口腔内の血液や吐物を誤嚥しやすくなる。GCSが8点以下の場合は、気道を確保・保護するための気管挿管の適応とされる。
外傷とショック
外傷で見られるショックの大部分は出血性(循環血液量減少性)ショックであるが、緊張性気胸や心タンポナーデによる閉塞性ショック、脊髄損傷による神経原性ショックも鑑別に挙がる。ショックの早期認知には、血圧低下よりも先に現れる皮膚所見(蒼白、冷汗、冷感)、頻脈、CRT延長が有用である。
POINT
・外傷初期診療は、JATECのprimary surveyでA→B→C→D→Eの順に評価し、異常があればその場で蘇生する。 ・ショックがあっても、気道(A)の問題を最優先で解決する。 ・意識障害があり、口腔内に血液が流れ込んでいる場合は、吸引による気道開通が最初の処置である。気道を保持できなければ気管挿管を行う(GCS 8点以下が目安)。 ・頸椎保護を忘れない。 ・骨折の固定や軽度の創の処置はsecondary surveyで行う。
