月経が遅れた女性の腹痛と出血―超音波が「異常なし」でもまず確かめるべきこと
第107回医師国家試験 G問題 第50問
国試問題にチャレンジ
30歳の既婚女性。下腹部痛を主訴に来院した。昨夜から下腹部に軽度の痛みを感じていた。少量の性器出血を伴っているという。最終月経は約7週前。月経周期は30~60日,不整。経腟超音波検査で子宮と卵巣とに異常を認めない。 対応として適切なのはどれか。
- a.妊娠反応
- b.子宮内膜組織診
- c.基礎体温の測定
- d.2週後の来院を指示
- e.プロゲステロンの投与
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
生殖年齢の女性が下腹部痛や性器出血を訴えた場合、まず妊娠反応で妊娠の有無を確認するのが鉄則です。月経周期が不整な女性では排卵が遅れることがあり、最終月経から数えた週数と実際の妊娠の進行がずれるため、経腟超音波で胎嚢が見えなくても妊娠は否定できません。妊娠反応が陽性で子宮内に胎嚢がなければ、血中hCGの定量(discriminatory zone)と超音波を組み合わせ、異所性妊娠を見逃さないよう経過を追います。子宮内膜組織診は妊娠の可能性がある女性には禁忌であり、診断のつかないままの様子見や薬剤投与も異所性妊娠の破裂を招きうるため不適切です。「女性を見たら妊娠を考える」という基本は、救急・外科・内科を問わずあらゆる場面で患者の安全を守る土台となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・30歳の既婚女性(性交渉があり、妊娠の可能性がある年齢・背景)。 ・前夜からの軽い下腹部痛と少量の性器出血。 ・最終月経から約7週経過。ただし月経周期は30~60日と不整。 ・経腟超音波検査では子宮・卵巣に異常なし(子宮内に胎嚢は確認されず、付属器腫瘤や多量の腹腔内液体貯留もない)。
考え方
生殖年齢の女性が月経の遅れ、下腹部痛、性器出血を訴えた場合、最初に確認すべきは妊娠の有無である。妊娠していれば、正常妊娠の初期、流産(切迫流産・進行流産など)、異所性妊娠が問題となり、特に異所性妊娠は破裂すれば腹腔内大出血で生命に関わるため、見逃してはならない。 本例では周期が30~60日と幅があるため、最終月経から7週経っていても、排卵が遅かった周期であれば妊娠週数はまだ早く、経腟超音波で胎嚢が見えなくても矛盾しない。周期30日で排卵していれば妊娠6週台(通常は子宮内に胎嚢が見える時期)となる一方、周期60日に近い遅い排卵であれば妊娠が成立していてもごく初期であり、あるいは単に月経が遅れているだけ(これから月経が来る)という可能性もある。 つまり超音波所見だけでは、非妊娠(月経の遅れ・不正出血)、ごく初期の正常妊娠、流産、異所性妊娠のいずれも否定できない。これらを振り分ける出発点が妊娠反応(尿中hCG検査)であり、簡便・迅速・非侵襲的に外来ですぐ結果が得られる。
妊娠反応の結果に応じた方針
・陽性で子宮内に胎嚢がない: ごく初期の子宮内妊娠、完全流産、異所性妊娠を鑑別する。血中hCGの定量値と経腟超音波での胎嚢の有無を合わせて評価し(血中hCGがおおむね1,500~2,000 IU/L以上で子宮内に胎嚢がなければ異所性妊娠を強く疑う)、数日ごとのhCGの推移と超音波を繰り返して経過をみる。 ・陰性: 月経の遅れや排卵障害による不正出血などを考え、必要に応じて基礎体温の記録を指示し、後日再評価する(排卵が遅い周期ではまだ陽性化していない可能性もあるため、月経が来なければ再検する)。 妊娠の有無が不明なまま、組織を採取する検査や薬剤投与、様子見を選ぶことは、妊娠の継続を妨げたり異所性妊娠を見逃したりする危険がある。
選択肢考察
- ○a. 妊娠反応
尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を検出する妊娠反応は、外来で数分以内に結果が得られ、非侵襲的である。一般的な市販・外来用の検査薬は尿中hCG 25~50 IU/L程度から陽性となり、おおむね予定月経のころから検出できる。月経の遅れ・下腹部痛・性器出血がそろった生殖年齢の女性では、正常妊娠・流産・異所性妊娠と非妊娠を振り分けるために、まず妊娠反応を確認するのが原則であり、その後の検査や治療の方針もこの結果で決まる。
- ×b. 子宮内膜組織診
子宮内膜組織診は、子宮内に器具を挿入して内膜組織を採取する検査で、主に子宮体癌や子宮内膜増殖症の診断に用いる。妊娠している可能性がある女性に行うと、流産を引き起こしたり感染を招いたりする危険があるため禁忌である。本例は妊娠の可能性が否定されておらず、行ってはならない。
- ×c. 基礎体温の測定
基礎体温は排卵の有無や黄体機能を知るのに役立ち、高温相が3週間以上続けば妊娠が示唆される。しかし判定には毎朝の測定を数週間続ける必要があり、今まさに腹痛と出血がある患者の妊娠の有無を判断する手段としては遅すぎる。妊娠反応が陰性だった場合に、その後の経過観察として記録を指示するのは妥当である。
- ×d. 2週後の来院を指示
妊娠の有無を確かめずに2週間待つと、もし異所性妊娠であった場合、その間に卵管破裂などによる腹腔内出血を起こす危険がある。下腹部痛と性器出血がある以上、少なくとも妊娠反応で妊娠の有無を確認してから経過観察の間隔を決めるべきである。
- ×e. プロゲステロンの投与
プロゲステロン(黄体ホルモン)は、無月経の程度を判定するゲスターゲン試験(投与後に消退出血があれば第1度無月経)や、黄体機能不全の治療などに用いられる。いずれも妊娠の有無と診断が確定してから行うものである。原因が分からないまま投与すると、異所性妊娠などの診断を遅らせることになり、適切でない。
生殖年齢女性の急性下腹部痛・不正性器出血
生殖年齢の女性では、月経歴にかかわらず「妊娠の可能性」を最初に確認するのが鉄則である。妊娠の有無によって鑑別疾患が大きく変わり、薬剤投与や放射線検査の可否も左右される。
妊娠初期の主な鑑別
・切迫流産: 子宮内に胎嚢があり、少量の出血や軽い腹痛があるが子宮口は閉じている。 ・進行流産・不全流産・完全流産: 子宮口が開き、妊娠組織が排出されつつある、あるいは排出された状態。 ・異所性妊娠: 受精卵が子宮内膜以外(約9割以上は卵管、特に膨大部)に着床したもの。無月経後の下腹部痛と少量の性器出血が典型で、破裂すると腹腔内出血によりショックとなる。危険因子は骨盤内感染(クラミジアなど)の既往、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療など。
hCGと経腟超音波の関係
・経腟超音波では、正常妊娠なら妊娠5週前後から子宮内に胎嚢が見え始める。 ・血中hCGがおおむね1,500~2,000 IU/L(discriminatory zone)を超えても子宮内に胎嚢が見えなければ、異所性妊娠や流産を強く疑う。 ・正常な妊娠初期では血中hCGは約48時間ごとにおおよそ倍増する。上昇が乏しい場合は異常妊娠を疑う。
月経周期が不整な場合の妊娠週数
妊娠週数は最終月経の初日を0週0日として数えるが、これは周期28日で14日目に排卵することを前提としている。周期が長い、あるいは不整な女性では排卵が遅れるため、最終月経から数えた週数と実際の妊娠の進行がずれる。その場合は超音波での胎児計測(頭殿長など)で週数を補正する。
POINT
・生殖年齢女性の下腹部痛・性器出血では、まず妊娠反応で妊娠の有無を確認する。 ・月経不順があると最終月経からの週数が当てにならず、超音波で胎嚢が見えなくても妊娠は否定できない。 ・妊娠の可能性がある女性に子宮内膜組織診は禁忌である。 ・異所性妊娠の見逃しにつながる「診断をつけないままの経過観察や投薬」は不適切である。
