分娩前なのに頭が下りてこない―児頭の「固定」を阻むメカニズム
第107回医師国家試験 G問題 第36問
国試問題にチャレンジ
児頭の固定を妨げるのはどれか。2つ選べ。
- a.狭骨盤
- b.過長臍帯
- c.頸部筋腫
- d.前置血管
- e.羊水過少症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
児頭の固定とは、児頭の最大周囲径が骨盤入口面を通過する前に入口へはまり込み、外から押しても容易に動かなくなった状態で、その先の段階が嵌入です。固定を妨げるのは、骨盤入口が狭い場合(狭骨盤、児頭骨盤不均衡)、入口がふさがれている場合(頸部筋腫などの前置腫瘍、前置胎盤)、児がよく動く場合(羊水過多)、臍帯が短い場合(過短臍帯)です。過長臍帯は臍帯巻絡や脱出、前置血管は破水時の胎児失血、羊水過少症は肺低形成や臍帯圧迫が問題となり、いずれも固定を妨げる因子ではありません。初産婦で分娩直前まで児頭が浮動している場合は児頭骨盤不均衡を中心に原因を検索することが、安全な分娩方法の選択に直結します。
解答・解説
正解はa, cです
分娩の準備段階で起こる「児頭の固定」と、それを妨げる因子を問う一般問題である。
児頭の固定とは
妊娠末期から分娩開始の前後にかけて、頭位の胎児の頭(児頭)は骨盤入口に向かって下降していく。児頭の最も大きな周囲(最大周囲径)はまだ骨盤入口面を越えていないものの、入口にはまり込んで、内診や外診(Leopold触診法)で押しても容易には動かせなくなった状態を「固定」という。固定前の、骨盤入口の上で児頭が自由に動く状態は「浮動」とよばれる。さらに進んで最大周囲径が骨盤入口面を通過した状態は「嵌入(engagement)」である。初産婦では分娩開始前の妊娠末期にすでに固定していることが多く、経産婦では分娩開始後に固定することが多い。
固定を妨げる因子の考え方
固定が起こるには、児頭が骨盤入口まで下がってきて、入口にはまり込めることが必要である。したがって妨げとなるのは、次のような状態である。 ・骨盤入口が児頭に比べて狭い(狭骨盤、巨大児、児頭骨盤不均衡) ・児頭と骨盤入口の間を何かがふさいでいる(子宮頸部や子宮下部の筋腫、骨盤内の卵巣腫瘍、前置胎盤) ・子宮内で児がよく動き、児頭が入口に落ち着かない(羊水過多) ・臍帯が短すぎて児の下降が制限される(過短臍帯) この考え方で選択肢を検討すると、骨盤入口が狭い狭骨盤(a)と、産道の入口部を占拠する頸部筋腫(c)が正しい。 初産婦で分娩直前になっても児頭が浮動している場合は、これらの原因、特に児頭骨盤不均衡の有無を評価することが臨床上重要である。
選択肢考察
- ○a. 狭骨盤
正しい。狭骨盤は骨盤の内腔、とくに骨盤入口の前後径(産科的真結合線。一般に9.5 cm未満で狭骨盤とする)が狭い状態である。骨盤入口が狭いと児頭が入口にはまり込めず、分娩が近づいても浮動したままとなり固定しない。狭骨盤に限らず、巨大児や児頭の異常(水頭症など)によって児頭と骨盤の大きさが釣り合わない状態を児頭骨盤不均衡(cephalopelvic disproportion:CPD)といい、固定しないことがその手がかりとなる。CPDが疑われる場合は、骨盤X線計測(Guthmann法・Martius法)やMRIによる骨盤計測、超音波による児頭大横径の測定で評価し、経腟分娩が難しいと判断されれば帝王切開の適応となる。
- ×b. 過長臍帯
誤り。臍帯の長さは通常50〜60 cm程度で、極端に長いもの(一般に70 cm以上)を過長臍帯という。臍帯が長くても児の下降は制限されないため、児頭の固定を妨げる原因にはならない。過長臍帯では、臍帯巻絡(頸部などに臍帯が巻きつくこと)、臍帯真結節、臍帯下垂・臍帯脱出などが起こりやすく、胎児機能不全の原因となりうる点が問題となる。一方、臍帯が極端に短い過短臍帯(一般に25 cm未満とされる)では、臍帯に引っ張られて児の下降が妨げられるため、固定不全や分娩停止の原因となりうる。過長と過短を取り違えないことが大切である。
- ○c. 頸部筋腫
正しい。子宮頸部や子宮下部に発生した筋腫は、児頭と骨盤入口の間に位置して産道の入口部をふさぐ形になるため、児頭が骨盤入口に下りてこられず固定が妨げられる。このように産道を物理的に閉塞する腫瘤を「前置腫瘍」とよぶことがあり、頸部筋腫のほか、Douglas窩(子宮直腸窩)にはまり込んだ卵巣腫瘍も同じ機序で固定を妨げる。前置腫瘍は児頭の固定不全のほか、胎位異常(骨盤位・横位など)や分娩停止の原因ともなり、経腟分娩が困難な場合は帝王切開の適応となる。子宮体部の筋層内・漿膜下筋腫では、位置によっては固定に大きな影響を与えないこともある点で、頸部筋腫とは区別して考える。
- ×d. 前置血管
誤り。前置血管は、卵膜付着(臍帯が胎盤ではなく卵膜に付着する状態)や分葉胎盤などのために、胎盤や臍帯に守られていない胎児血管が卵膜上を走り、内子宮口付近を横切っている状態である。血管自体は細く、児頭の下降を物理的に妨げることはないため、固定を妨げる原因にはならない。前置血管で問題となるのは、破水時などに血管が破綻して胎児血が失われ、短時間で胎児が失血死に至る危険があることと、下降した児頭による血管の圧迫で胎児機能不全が起こりうることである。妊娠中に経腟超音波(カラードプラ法)で診断された場合は、破水や陣痛発来前に予定帝王切開を行う。なお、胎盤そのものが内子宮口を覆う前置胎盤は、児頭の下降を妨げて固定不全の原因となるので、前置血管と混同しないよう注意する。
- ×e. 羊水過少症
誤り。羊水過少症は羊水量が異常に少ない状態で、超音波検査では羊水ポケット(最大羊水深度)2 cm未満、または羊水インデックス(AFI)5 cm未満が目安となる。羊水が少なければ子宮内で児が自由に動く余地が少ないため、児頭が浮動しやすくなるわけではなく、固定を妨げる原因にはならない。羊水過少症では臍帯圧迫による胎児機能不全、胎児の肺低形成、四肢の変形などが問題となり、原因として破水、胎児の腎・尿路異常(腎無形成など)、胎盤機能不全などを考える。反対に羊水過多症では、子宮内の児の可動性が大きくなるため児頭が骨盤入口に落ち着かず、固定しにくくなる。
児頭の下降に関する用語
・浮動:児頭が骨盤入口の上にあり、外から押すと容易に動く状態。 ・固定:児頭の最大周囲径はまだ骨盤入口面を通過していないが、入口にはまり込んで容易には動かせない状態。 ・嵌入(engagement):児頭の最大周囲径が骨盤入口面を通過した状態。 ・時期の目安:初産婦では分娩開始前(妊娠末期)に、経産婦では分娩開始後に固定・嵌入することが多い。初産婦で分娩直前まで浮動が続く場合は、児頭骨盤不均衡などの原因検索を行う。
児頭の固定を妨げる主な因子
・母体(骨盤)側:狭骨盤、骨盤の変形 ・胎児側:巨大児、水頭症などの児頭の異常、反屈位などの胎勢異常 ・産道をふさぐもの(前置腫瘍など):子宮頸部・子宮下部の筋腫、Douglas窩の卵巣腫瘍、前置胎盤 ・子宮内環境:羊水過多症 ・臍帯:過短臍帯 ・その他:多胎妊娠、子宮の奇形、腹壁の弛緩(懸垂腹)などが関与することがある
臍帯の長さの異常
・正常:約50〜60 cm ・過長臍帯:臍帯巻絡、真結節、臍帯下垂・脱出が起こりやすい ・過短臍帯:児の下降障害、分娩停止、常位胎盤早期剥離や臍帯断裂の原因となりうる
前置血管と前置胎盤の違い
・前置胎盤:胎盤が内子宮口を覆う、またはその近くに付着する。警告出血(妊娠中の無痛性出血)がみられ、児頭の固定も妨げる。 ・前置血管:胎盤・臍帯に保護されない胎児血管が内子宮口付近の卵膜上を走る。破水とともに胎児血が失われる危険があり、出血は胎児由来である。
POINT
・児頭の固定とは、最大周囲径が骨盤入口面を越える前に、児頭が入口にはまり込んで動かなくなった状態(その先が嵌入)。 ・固定を妨げるのは、骨盤入口が狭いか(狭骨盤、CPD)、入口がふさがれているか(頸部筋腫、卵巣腫瘍、前置胎盤)、児がよく動く状態か(羊水過多)、臍帯が短い場合(過短臍帯)。 ・過長臍帯、前置血管、羊水過少症は固定を妨げない。 ・初産婦で分娩直前まで児頭が浮動していれば、児頭骨盤不均衡を疑う。
