StudyMed医師国家試験

ストレスに備えるホルモン―コルチゾールの作用はCushing症候群とステロイドの副作用から逆算せよ

第107回医師国家試験 G問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第35問

糖質コルチコイドの作用はどれか。2つ選べ。

  1. a.糖新生の促進
  2. b.リンパ球の増加
  3. c.筋肉における蛋白同化
  4. d.下垂体ACTH分泌の抑制
  5. e.腎尿細管におけるカルシウム再吸収促進

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は糖質コルチコイド、つまりコルチゾールの生理作用を問う問題だ。ばらばらに暗記するより、「ストレス時にエネルギーを確保し、行き過ぎた炎症や免疫を抑えるホルモン」という一本の軸で整理すると、どの選択肢も判断しやすくなる。もうひとつのコツは、過剰状態であるCushing症候群やステロイド薬の副作用と対応させることだ。
医学生医学生
名前に「糖質」とついているくらいなので、血糖を上げる作用はありそうですね。
ドクタードクター
その通り。コルチゾールは肝臓でPEPCKなど糖新生に関わる酵素の発現を高め、アミノ酸などからブドウ糖をつくる糖新生を促進する。さらに筋肉や脂肪でのブドウ糖の取り込みを抑え、インスリン抵抗性を生む。だから糖新生の促進は正しい。
医学生医学生
内科の実習で、プレドニゾロンを始めた患者さんの血糖が上がってインスリンを追加していました。
ドクタードクター
ステロイド糖尿病だね。特に昼から夕方の食後高血糖が目立ちやすいのが特徴で、朝の空腹時血糖だけ見ていると見逃しやすいから注意しよう。では、糖新生の材料はどこから来ると思う?
医学生医学生
アミノ酸ということは……筋肉の蛋白でしょうか。でも筋肉の蛋白同化という選択肢もあって、ちょっと迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。答えは逆で、コルチゾールは筋肉では蛋白を分解する「異化」作用をもつ。分解で出たアミノ酸が肝臓に運ばれて糖新生の材料になるんだ。だから過剰になると、四肢近位筋の萎縮や筋力低下、いわゆるステロイドミオパチーが起こる。皮膚のコラーゲンも減るから、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条、あざができやすいといった所見も出る。
医学生医学生
Cushing症候群で手足が細いのに体幹は太る、というのはそのためなんですね。では筋肉で蛋白同化をするのは何ですか。
ドクタードクター
代表はテストステロンなどのアンドロゲン、インスリン、成長ホルモンだ。次はリンパ球の増加。免疫への作用はどう考える?
医学生医学生
ステロイドは免疫を抑える薬なので、リンパ球は減るはずです。でも、ステロイドを使うと白血球が増えると聞いたことがあって混乱しています。
ドクタードクター
いい疑問だ。コルチゾールはリンパ球のアポトーシスを誘導し、リンパ組織や骨髄へ再分布させるので、末梢血のリンパ球は減る。好酸球も減る。一方で好中球は骨髄からの動員と血管壁への接着の減少で増えるから、白血球総数としては増えるんだ。ステロイド投与中の白血球増多を、すぐに感染と決めつけないことが大切だよ。だからリンパ球の増加は誤り。
医学生医学生
カルシウムの再吸収はどうでしょう。ステロイドで骨粗鬆症になるのは、骨を壊すからだと思っていました。
ドクタードクター
骨への作用が中心だけど、カルシウムの出納も悪くする。コルチゾールは腎尿細管でのカルシウム再吸収を抑え、腸管での吸収も減らす。さらに骨芽細胞を抑えて骨形成を低下させる。その結果がステロイド性骨粗鬆症で、尿中カルシウムの増加はCushing症候群で尿路結石が多い一因にもなる。再吸収を促進するのはPTHだから、この選択肢も誤りだ。
医学生医学生
残る下垂体ACTH分泌の抑制は、ネガティブフィードバックのことですね。
ドクタードクター
そう。コルチゾールは視床下部のCRHと下垂体前葉のACTHをともに抑える。これを利用したのがデキサメタゾン抑制試験で、健常者では少量のデキサメタゾンで翌朝のコルチゾールが抑えられるが、Cushing症候群では抑えられない。正解は糖新生の促進とACTH分泌の抑制の2つだ。
医学生医学生
長くステロイドを飲んでいる人が急にやめると危ない、というのもこのフィードバックと関係ありますか。
ドクタードクター
大いに関係する。長期投与でACTHが抑えられ続けると副腎皮質が萎縮して、自前のコルチゾールをつくれなくなる。そこで急に中止すると急性副腎不全を起こしうるから、必ず漸減する。手術や重症感染などのストレス時には補充量を増やすステロイドカバーを行うこともある。逆にAddison病のように副腎そのものが壊れると、フィードバックが外れてACTHが著増し、色素沈着が出るんだ。
医学生医学生
作用、過剰症状、離脱のリスクが全部一本の線でつながりました。
ドクタードクター
最後に副腎皮質の層構造も確認しておこう。球状層がアルドステロン、束状層がコルチゾール、網状層が副腎アンドロゲンで、「塩・糖・性」と覚えるといい。コルチゾールは早朝に高く深夜に低い日内変動があることも、検査のタイミングを考えるうえで大事だよ。

まとめ

糖質コルチコイド(コルチゾール)は副腎皮質束状層から分泌され、CRH-ACTH系で調節されるストレスホルモンで、肝臓での糖新生促進とインスリン抵抗性により血糖を上昇させ、その材料を得るため筋蛋白を異化します。免疫面では好中球を増やす一方でリンパ球・好酸球を減らして抗炎症・免疫抑制作用を示し、骨・カルシウム面では腎でのカルシウム再吸収と腸管吸収を抑え骨形成も低下させるため、骨粗鬆症や尿路結石につながります。またCRHとACTHの分泌をネガティブフィードバックで抑制し、これはデキサメタゾン抑制試験の原理であると同時に、長期投与後の急な中止で副腎不全を招く理由でもあります。各作用をCushing症候群の症状やステロイド薬の副作用と結びつけて理解することは、内分泌疾患の診断だけでなく、日常診療でのステロイドの安全な使い方にも直結します。

解答・解説

正解はa, dです

糖質コルチコイド(グルココルチコイド)の生理作用を問う一般問題である。 糖質コルチコイドの代表はコルチゾールで、副腎皮質の束状層から分泌される。分泌は視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)→下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)→副腎皮質という経路(視床下部-下垂体-副腎系、HPA系)で制御される。コルチゾールには早朝に高く深夜に低い日内変動があり、身体的・精神的ストレスで分泌が増える。 作用はストレス時に生体がエネルギーを確保し、過剰な炎症・免疫反応を抑えるという方向でまとめると理解しやすい。 ・代謝:肝臓での糖新生を促進して血糖を上げる。その材料を得るため筋蛋白を分解し(異化)、脂肪分解も促す。 ・免疫・炎症:リンパ球・好酸球を減らし、サイトカイン産生などを抑える(抗炎症・免疫抑制作用)。 ・骨・カルシウム:骨形成を抑え、腸管でのカルシウム吸収と腎でのカルシウム再吸収を減らす。 ・内分泌:CRHとACTHの分泌をネガティブフィードバックで抑える。 これらの作用の多くは、過剰状態であるCushing症候群や、ステロイド薬の副作用として現れる症状と対応している。以上から、糖新生の促進(a)と下垂体ACTH分泌の抑制(d)が糖質コルチコイドの作用である。

選択肢考察

  1. ○a.  糖新生の促進

    正しい。糖質コルチコイドは肝臓でホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)やグルコース-6-ホスファターゼなど糖新生に関わる酵素の遺伝子発現を高め、アミノ酸などからブドウ糖をつくる糖新生を促進する。さらに、筋肉・脂肪組織でのブドウ糖の取り込みを抑え、インスリンの効きを弱める(インスリン抵抗性)。これらによって血糖が上昇する。「糖質」コルチコイドという名称はこの糖代謝作用に由来する。臨床的にはCushing症候群やステロイド薬投与で耐糖能異常・糖尿病(ステロイド糖尿病)が生じる。ステロイド糖尿病では特に昼から夕方の食後高血糖が目立ちやすい。

  2. ×b.  リンパ球の増加

    誤り。糖質コルチコイドはリンパ球を減少させる。リンパ球のアポトーシス誘導や、末梢血からリンパ組織・骨髄への再分布によって末梢血のリンパ球数が減り、胸腺やリンパ節も萎縮する。好酸球も減少する。一方、好中球は骨髄からの動員促進と血管壁への接着(辺縁プール)の減少によって末梢血中で増加するため、白血球総数は増える。ステロイド投与後の白血球増多は主に好中球増加によるものであり、感染による増加と区別が必要である。リンパ球減少やサイトカイン産生抑制によって細胞性免疫・液性免疫がともに低下し、易感染性(日和見感染を含む)を生じる。この免疫抑制作用は、自己免疫疾患や臓器移植、リンパ系腫瘍の治療に利用されている。

  3. ×c.  筋肉における蛋白同化

    誤り。糖質コルチコイドは筋肉では蛋白の分解を促し、合成を抑える「蛋白異化」作用をもつ。分解で生じたアミノ酸は肝臓に運ばれ、糖新生の材料として使われる。このため過剰状態では、四肢近位筋を中心とした筋萎縮・筋力低下(ステロイドミオパチー)が起こる。また皮膚の膠原線維も減るため、皮膚の菲薄化、赤色皮膚線条、皮下出血(あざができやすい)などのCushing症候群の特徴的所見が生じる。筋肉で蛋白同化作用を示す代表的なホルモンは、テストステロンなどのアンドロゲン、インスリン、成長ホルモン(IGF-1を介する)である。

  4. ○d.  下垂体ACTH分泌の抑制

    正しい。コルチゾールは視床下部のCRH分泌と下垂体前葉のACTH分泌をネガティブフィードバックで抑える。この仕組みを利用したのがデキサメタゾン抑制試験で、健常者では少量のデキサメタゾン投与により翌朝のコルチゾールが抑制されるが、Cushing症候群では抑制されない。また、ステロイド薬を長期に使うとACTH分泌が持続的に抑えられて副腎皮質が萎縮するため、急に中止すると副腎不全(ステロイド離脱症候群、急性副腎不全)を起こす危険がある。このため長期投与後は徐々に減量する必要がある。逆に、副腎そのものが障害されるAddison病(原発性副腎不全)ではフィードバックが外れてACTHが著増し、色素沈着を生じる。

  5. ×e.  腎尿細管におけるカルシウム再吸収促進

    誤り。糖質コルチコイドは腎尿細管でのカルシウム再吸収を抑制し、尿中カルシウム排泄を増やす。同時に腸管からのカルシウム吸収も抑える。さらに骨芽細胞の働きを抑えて骨形成を低下させ、骨吸収を相対的に優位にするため、骨量が減少する(ステロイド性骨粗鬆症、続発性骨粗鬆症の代表)。尿中カルシウムの増加は、Cushing症候群で尿路結石が合併しやすい一因となる。腎尿細管でのカルシウム再吸収を促進する代表的ホルモンは副甲状腺ホルモン(PTH)である。

副腎皮質の層構造と分泌ホルモン

・球状層:鉱質コルチコイド(アルドステロン)。主にレニン-アンジオテンシン系と血清カリウムで調節される。 ・束状層:糖質コルチコイド(コルチゾール)。ACTHで調節される。 ・網状層:副腎アンドロゲン(DHEA、DHEA-Sなど)。 覚え方として「球・束・網」の順に「塩・糖・性(Salt・Sugar・Sex)」と対応させるとよい。

糖質コルチコイドの主な作用と過剰時の症状

・糖代謝:糖新生促進、末梢での糖利用抑制 → 高血糖、耐糖能異常 ・蛋白代謝:筋・皮膚などで蛋白異化 → 近位筋萎縮、皮膚菲薄化、赤色皮膚線条、易出血性 ・脂肪代謝:脂肪分解促進と脂肪の再分布 → 中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩(buffalo hump) ・血液・免疫:好中球増加、リンパ球・好酸球減少、抗炎症・免疫抑制 → 易感染性 ・骨・カルシウム:骨形成抑制、腸管カルシウム吸収抑制、尿中カルシウム排泄増加 → 骨粗鬆症、尿路結石 ・循環:カテコールアミンに対する血管の反応性を高める(許容作用)。大量ではミネラルコルチコイド受容体にも作用し、ナトリウム貯留・低カリウム血症を起こしうる → 高血圧 ・中枢神経:多幸感、不眠、抑うつ、精神症状 ・その他:胃酸分泌の亢進など(消化性潰瘍との関連が議論される)、眼圧上昇(緑内障)、白内障

HPA系のフィードバックと検査

・コルチゾールはCRHとACTHをともに抑制する(長環フィードバック)。 ・デキサメタゾン抑制試験:Cushing症候群のスクリーニング(少量)や、Cushing病と異所性ACTH産生腫瘍などの鑑別(大量)に用いる。 ・長期ステロイド投与後の急な中止は急性副腎不全を招くため、漸減が必要である。手術や重症感染などのストレス時には補充量を増やす(ステロイドカバー)ことがある。

POINT

・糖質コルチコイド(コルチゾール)は副腎皮質束状層から分泌され、ACTHで調節される。 ・糖新生促進・インスリン抵抗性 → 高血糖。 ・筋蛋白は異化(同化ではない)→ 近位筋萎縮。 ・好中球増加、リンパ球・好酸球減少 → 易感染性。 ・腎でのカルシウム再吸収を抑制し、骨形成も抑える → 骨粗鬆症、尿路結石。 ・CRH・ACTH分泌をネガティブフィードバックで抑制 → 長期投与後の急な中止で副腎不全。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。