「痛い」は早く、「痩せる」は遅い―時間軸で見抜くコンパートメント症候群
第107回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
下肢の区画〈コンパートメント〉症候群の急性期の症候でないのはどれか。
- a.疼痛
- b.錯感覚
- c.皮膚萎縮
- d.他動伸展時痛
- e.区画内圧上昇
対話形式の解説
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ドクターまとめ
コンパートメント症候群は、骨・筋膜に囲まれた区画の内圧上昇により筋・神経が虚血に陥る病態で、骨折やきついギプス固定などを契機に数時間単位で進行します。急性期には区画内圧上昇そのものに加え、不釣り合いに強い疼痛、他動伸展時痛、錯感覚などの知覚異常、皮膚の腫脹・緊満・光沢がみられ、皮膚萎縮は時間をかけて生じる慢性の変化であるため急性期の症候ではありません。末梢の脈拍は触知できることが多く、脈拍消失や麻痺を待たずに診断することが重要です。治療は圧迫の解除と緊急の筋膜切開で、遅れるとVolkmann拘縮や尖足などの拘縮、横紋筋融解による高K血症・急性腎障害を招きます。症候を「いつ現れるか」という時間軸で整理する考え方は、外傷後の患者を診る際の見逃し防止に直結します。
解答・解説
正解はcです
区画症候群(コンパートメント症候群)とは、骨・筋膜・骨間膜に囲まれた閉鎖空間(区画、コンパートメント)の内圧が上昇し、その中の筋肉や神経への血流が障害される病態である。下腿(前方・外側・浅後方・深後方の4区画)や前腕に好発し、骨折(特に脛骨骨幹部骨折)、打撲・挫滅、長時間の圧迫、きついギプス固定、血行再建後の再灌流などが原因となる。 病態の流れは次のとおりである。外傷による出血や浮腫で区画内の容積が増える→伸びにくい筋膜に囲まれているため内圧が上昇する→静脈がつぶれて静脈還流が滞り、さらに浮腫が増える→毛細血管の灌流圧が低下して筋・神経が虚血に陥る、という悪循環が起こる。虚血が数時間続くと筋壊死・神経障害が不可逆となり、放置すればVolkmann拘縮(前腕)などの後遺症や、横紋筋融解による高K血症・急性腎障害を生じうる。 したがって急性期には、区画内圧上昇そのものと、それによる虚血・神経圧迫の症候(強い疼痛、他動伸展時痛、知覚異常・錯感覚、皮膚の緊満・腫脹・光沢)が現れる。一方、萎縮は組織が長期間かけて痩せ細る変化であり、数時間単位で進行する急性期の症候とはならない。「急性期の症候でないもの」を選ぶ本問では、この時間軸の違いに気づくことが鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 疼痛
疼痛は区画症候群で最も早期から現れる重要な症候である。特徴は、外傷の程度から予想されるより明らかに強く、鎮痛薬を使っても治まりにくい点である。筋肉の虚血による痛みであり、急性期の症候に該当する。なお、神経障害が進行すると逆に痛みを感じにくくなるため、痛みの訴えが減っても改善とは限らない。
- ×b. 錯感覚
錯感覚とは、加えた刺激と異なる感覚が生じる状態(例:軽く触れただけでピリピリした痛みを感じる)である。区画内を走行する末梢神経が圧迫・虚血に陥ることで生じ、いわゆる5P/6Pのparesthesia(知覚異常)に相当する急性期の症候である。例えば下腿前方区画では深腓骨神経が障害され、第1・第2趾間の背側の感覚異常が出やすい。
- ○c. 皮膚萎縮
区画症候群の急性期には、区画内の容積増大を反映して皮膚は腫脹し、緊満して光沢を帯びる。皮膚萎縮はこれと正反対の変化であり、長期間の血流障害や廃用などで時間をかけて生じる慢性の所見である。したがって急性期の症候ではなく、これが正解である。
- ×d. 他動伸展時痛
虚血に陥った区画内の筋を他動的に引き伸ばすと、疼痛が著しく増強する(pain on passive stretch)。例えば下腿前方区画では足趾・足関節を他動的に底屈させると前方区画の筋が伸ばされて痛む。5P/6Pには含まれないが、比較的早期から出現する診断的価値の高い所見であり、急性期の症候に該当する。
- ×e. 区画内圧上昇
区画内圧の上昇は区画症候群の病態の本質そのものであり、急性期に必ず存在する。臨床所見で判断が難しい場合(意識障害や小児など)には、針やカテーテルを区画内に刺して内圧を実測する。正常の区画内圧はおおむね10mmHg未満であり、30mmHg以上、あるいは拡張期血圧との差(ΔP=拡張期血圧−区画内圧)が30mmHg未満となる場合は減圧(筋膜切開)を考慮する目安とされる。
5P・6P
急性の阻血を疑う古典的な症候として、pain(疼痛)、paresthesia(知覚異常)、pallor(蒼白)、pulselessness(脈拍消失)、paralysis(麻痺)の5Pがあり、poikilothermia(冷感・変温)を加えて6Pともいう。ただし区画症候群では、区画内圧は動脈圧(収縮期血圧)ほどには上がらないことが多く、末梢の脈拍は触知できることが多い。脈拍消失・蒼白・麻痺は進行した段階の所見であり、これらの出現を待っていては手遅れになる。早期診断の手がかりは、不釣り合いに強い疼痛、他動伸展時痛、知覚異常、区画の緊満である。
治療
きついギプスや包帯は直ちに除去・切割する。患肢を心臓より高く挙上しすぎると灌流圧がさらに下がるため、心臓の高さ程度に保つ。改善しなければ、緊急の筋膜切開(減張切開)で区画を開放して減圧する。発症から6〜8時間程度を過ぎると筋・神経の不可逆的障害が生じやすいとされ、時間との勝負である。
後遺症
治療が遅れると筋が壊死・線維化して拘縮を残す。前腕屈筋群で起これば Volkmann拘縮(手指の屈曲拘縮)となり、下腿では尖足や鷲爪趾変形などを残す。また、広範な筋壊死は横紋筋融解症によるミオグロビン尿、高K血症、急性腎障害を招く。
POINT
・区画症候群は、閉鎖区画の内圧上昇→循環障害→筋・神経の虚血という病態である。 ・急性期の症候:不釣り合いに強い疼痛、他動伸展時痛、知覚異常(錯感覚)、皮膚の腫脹・緊満・光沢、区画内圧上昇。 ・脈拍は触知できることが多く、脈拍消失を待たずに診断する。 ・皮膚萎縮は慢性期の変化であり、急性期の症候ではない。 ・治療はギプス除去などの圧迫解除と、緊急の筋膜切開。
