「締めつける」か「中身が増える」か―区画症候群の原因を2つの軸で見抜く
第120回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
区画〈コンパートメント〉症候群の原因で誤っているのはどれか。
- a.圧迫包帯
- b.床上安静
- c.ギプス固定
- d.筋肉内血腫
- e.長時間手術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
区画症候群は、骨・骨間膜・筋膜という伸びにくい壁に囲まれた区画の内圧が上がり、静脈・毛細血管レベルの循環障害から筋や神経が虚血に陥る病態です。原因は、きつい包帯やギプス、長時間の体位による圧迫など「外から締めつける」ものと、筋肉内血腫や再灌流後の浮腫など「中身が増える」ものに整理でき、長時間手術(特に砕石位)や駆血帯の長時間使用も含まれますが、通常の床上安静は原因になりません。早期で鋭敏な所見は強い疼痛と他動伸展時痛で、末梢の脈拍は保たれることが多いため、脈があっても否定できません。疑えば外固定を解除して患肢を心臓の高さに保ち、改善がなければ緊急筋膜切開を行います。発生機序から原因を理解しておくことは、ギプス管理や術後管理で後遺症を防ぐ臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はbです
【テーマ】区画〈コンパートメント〉症候群の発生機序と原因 四肢の筋は、骨・骨間膜・筋膜という伸び縮みしにくい壁で囲まれたいくつかの区画(コンパートメント)に分けられている。区画内の圧(区画内圧)が上がると、まず圧の低い静脈・毛細血管の血流が妨げられ、組織の灌流が低下する。虚血になった筋や神経はさらにむくみ(浮腫)、内圧がいっそう上がるという悪循環に陥る。放置すると数時間のうちに筋壊死や神経障害が不可逆となり、Volkmann拘縮などの後遺症を残す。
正解を導く考え方
区画内圧が上昇する仕組みは、大きく2つに分けて考えるとよい。 ①区画の外から締めつけて「容れ物」を小さくする(外因性):きつい包帯、ギプス、長時間の体位による局所圧迫など。 ②区画の中身が増える(内因性):骨折や打撲による筋肉内出血・血腫、虚血後の再灌流で毛細血管透過性が高まって生じる浮腫、熱傷、過度の運動など。 各選択肢をこのどちらかに当てはめられるかを確認すれば、区画内圧を上昇させる機序をもたないものが「誤っている」ものとして選べる。通常の床上安静はどちらにも当てはまらない。
選択肢考察
- ×a. 圧迫包帯
外因性の原因である。弾性包帯などをきつく巻くと、外側から区画を締めつけて区画内の容積を小さくし、内圧を上げる。外傷後や術後で組織が腫れてくると、巻いた時点では適切でも相対的にきつくなり、区画内圧上昇を招く。原因として正しい。
- ○b. 床上安静
ベッド上で安静にしていること自体には、区画を外から締めつける作用も、区画内の容積を増やす作用もなく、区画症候群の原因とはならない。したがって本問で「誤っている」のはこれである。なお、意識障害(薬物中毒や泥酔など)で同じ姿勢のまま長時間四肢を体の下敷きにした場合には、局所圧迫による圧挫(クラッシュ)を介して区画症候群を起こしうるが、これは持続的な局所圧迫が原因であり、通常の床上安静とは区別して考える。
- ×c. ギプス固定
外因性の原因である。ギプスは硬く伸びないため、骨折後の腫脹が強くなっても外側へ逃げられず、区画内圧が上がる。特に受傷・手術直後の急性期に前腕や下腿を全周性に固定した場合に起こりやすい。疑わしいときはギプスに縦割り(割入れ)を入れて除圧する。原因として正しい。
- ×d. 筋肉内血腫
内因性の原因である。骨折や打撲などで筋肉内に出血すると、筋膜で囲まれた区画の中身が増え、伸びにくい壁のために圧が逃げずに内圧が上昇する。抗凝固薬を内服している患者や血友病患者では、軽い外傷でも筋肉内血腫から区画症候群を生じることがある。原因として正しい。
- ×e. 長時間手術
長時間同じ体位を保つ手術では、手術台や支持器との接触部が持続的に圧迫されて阻血となり、その後の再灌流で浮腫が生じて区画内圧が上がる。特に砕石位(下肢を挙上・開脚する体位)での下腿の区画症候群の報告が多い。また、四肢手術で駆血帯(ターニケット)を長時間使用した場合も、解除後の再灌流性浮腫が原因となりうる。原因として正しい。
好発部位
下腿(前方区画など4区画)と前腕(掌側区画)が代表的である。脛骨骨幹部骨折、小児の上腕骨顆上骨折(前腕屈筋群の虚血によるVolkmann拘縮)が重要な原因となる。
症状(5P)
・Pain:外見の割に強い疼痛。特に、その区画の筋を他動的に伸ばしたときの痛み(他動伸展時痛)が早期から現れ、最も鋭敏な所見とされる。 ・Paresthesia:区画内を走る神経の支配領域のしびれ・感覚障害。 ・Paralysis:運動麻痺(進行例)。 ・Pallor:蒼白。 ・Pulselessness:脈拍消失。区画内圧は通常動脈圧より低いため、末梢の動脈拍動は最後まで触れることが多い。脈が触れることは区画症候群を否定する根拠にならない。
診断
臨床所見に加え、区画内圧を測定する。区画内圧が30mmHg以上、あるいは拡張期血圧と区画内圧の差が30mmHg未満などが筋膜切開を考慮する目安とされる。
治療
・まず包帯やギプスを緩め、除去・割入れを行う。 ・患肢は心臓の高さに保つ。心臓より高く挙上すると動脈の灌流圧が下がり、虚血を悪化させるおそれがあるため避ける。 ・改善しなければ、緊急で筋膜切開を行い減圧する。発症から数時間(おおむね6〜8時間)を過ぎると筋壊死が不可逆になりやすい。 ・広範な筋壊死では、ミオグロビン尿による急性腎障害や高カリウム血症にも注意する。
POINT
・区画症候群は、伸びにくい筋膜に囲まれた区画の内圧上昇による循環障害である。 ・原因は「外から締めつける(包帯・ギプス・体位による圧迫)」と「中身が増える(血腫・浮腫・再灌流)」に分けて整理する。 ・長時間手術(特に砕石位)や駆血帯の長時間使用も原因となる。 ・通常の床上安静は原因とならない。 ・最も早期で鋭敏な所見は、強い疼痛と他動伸展時痛。末梢動脈の拍動は保たれることが多い。 ・治療は外固定の解除、患肢を心臓の高さに保つこと、改善しなければ緊急筋膜切開。
