「気が散る」「待てない」「じっとできない」―訴えを3つの箱に仕分けるADHDの症状学
第107回医師国家試験 G問題 第16問
国試問題にチャレンジ
注意欠陥多動性障害にみられる症状のうち,注意欠陥と考えられる訴えはどれか。
- a.「順番を待つことが苦手だ」
- b.「ささいなことで気が散りやすい」
- c.「椅子に座っていても手足を動かしてしまう」
- d.「小学3年生になるのに自分の名前が書けない」
- e.「学校の持ち物が気になり何度も確認してしまう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
ADHD(注意欠如・多動症)の中核症状は不注意、多動性、衝動性の3つで、訴えをどの症状群に当てはめるかを具体的にイメージしておくことが重要です。外的刺激で気が散りやすい、集中が続かない、忘れ物が多いといった訴えは不注意、手足をそわそわ動かす・じっと座っていられないは多動性、順番を待てない・割り込むは衝動性に分類されます。年齢相応の読み書きができないのは知的能力障害や限局性学習症、不安から何度も確認してしまうのは強迫症の症状であり、ADHDの不注意とは区別して評価します。多動性は成長とともに軽減しやすい一方、不注意は成人期まで残りやすく、合併症や二次障害にも目を向ける必要があります。訴えの背後にあるメカニズムから症状を仕分ける力は、発達障害の診断と適切な支援につなげるための基本となります。
解答・解説
正解はbです
注意欠陥多動性障害(ADHD:attention-deficit/hyperactivity disorder)は、現在のDSM-5では「注意欠如・多動症」と呼ばれる神経発達症の一つである。中核症状は「不注意(注意欠陥)」「多動性」「衝動性」の三つであり、多動性と衝動性はひとまとめに「多動性-衝動性」として扱われる。 本問は、訴えを聞いてそれがどの症状群に当たるかを分類できるかを問うている。それぞれの症状群のイメージは次のとおりである。 ・不注意:注意を集中・持続できない、外からの刺激ですぐ気がそれる、忘れ物・なくし物が多い、ケアレスミスが多い、話しかけられても聞いていないように見える、順序立てて物事を進められない。 ・多動性:じっと座っていられない、手足をそわそわ動かす、授業中に席を離れる、しゃべりすぎる。 ・衝動性:順番を待てない、質問が終わる前に答えてしまう、他人の会話や遊びに割り込む。 さらに、ADHD以外の病態(知的能力障害、学習障害、強迫症など)による訴えが紛れ込んでいるので、それらを除外することも必要である。「ささいなことで気が散りやすい」は外的刺激で注意がそれる状態で、不注意の典型的な表現である。
選択肢考察
- ×a. 「順番を待つことが苦手だ」
自分の欲求や行動を抑えて待つことができないのは、衝動性の症状である。DSM-5の衝動性の項目にも「自分の順番を待つことがしばしば困難」が挙げられている。注意の問題ではないため、注意欠陥には当たらない。
- ○b. 「ささいなことで気が散りやすい」
周囲の物音や視界に入るものなど、課題と関係のない小さな刺激に注意を奪われ、一つのことに集中し続けられない状態であり、不注意(注意欠陥)の代表的な症状である。DSM-5の不注意の項目にも「外的な刺激によってすぐ気が散ってしまう」が含まれている。
- ×c. 「椅子に座っていても手足を動かしてしまう」
座っていても手足をもじもじ・そわそわと動かしてしまい、じっとしていられないのは多動性の症状である。多動性は年齢とともに目立たなくなることが多く、成人では内的な落ち着かなさとして感じられることがある。注意欠陥には当たらない。
- ×d. 「小学3年生になるのに自分の名前が書けない」
小学3年生(8〜9歳)で自分の名前も書けないのは、年齢相応の学習能力が身についていないことを示し、知的能力障害(知的障害)や、読み書きなど特定の領域に限って困難を示す限局性学習症(書字表出の障害、いわゆる書字障害)を考える所見である。ADHDの不注意そのものを表す訴えではない。ADHDでは学習障害や知的障害を合併することがあるが、両者は区別して評価する。
- ×e. 「学校の持ち物が気になり何度も確認してしまう」
持ち物が気になって(強迫観念)、何度も確認せずにはいられない(強迫行為)のは、強迫症(強迫性障害、かつての強迫神経症)の確認強迫にみられる症状である。ADHDの不注意ではむしろ確認が不十分で忘れ物・なくし物が多くなるのが特徴であり、方向性が逆である。
ADHD(注意欠如・多動症)の概要
・神経発達症の一つで、学童期の有病率は5%前後とされ、男児に多い。 ・DSM-5の診断では、不注意または多動性-衝動性の症状が12歳以前から存在し、学校と家庭など2つ以上の場面でみられ、社会生活や学業に支障をきたしていることが必要である。症状の数は不注意、多動性-衝動性それぞれ9項目中6項目以上(17歳以上では5項目以上)が6か月以上持続することが求められる。 ・病型:不注意優勢型、多動・衝動優勢型、混合型。 ・経過:多動性は成長とともに軽減しやすいが、不注意は成人期まで残りやすい。自己評価の低下から二次的に抑うつや不安障害、反抗挑発症などを伴うことがある。自閉スペクトラム症、限局性学習症、チック症などの合併も多く、他の症状の陰にADHDが見逃されることもある。
治療
環境調整、ペアレント・トレーニング、心理社会的支援が基本で、必要に応じて薬物療法(メチルフェニデート徐放剤、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミンなど)を行う。
鑑別すべき病態
・知的能力障害:全般的な知的機能の遅れ(学習全般の遅れ) ・限局性学習症:知的発達に大きな遅れがないのに、読字・書字・算数など特定の領域の習得に著しい困難がある ・強迫症:不合理とわかっていても繰り返し浮かぶ考え(強迫観念)と、それを打ち消すための反復行為(強迫行為) ・自閉スペクトラム症:対人コミュニケーションの障害と、限定された興味・反復的な行動
POINT
・ADHDの三主徴:不注意、多動性、衝動性。 ・不注意=気が散りやすい、集中が続かない、忘れ物・なくし物、ケアレスミス。 ・多動性=じっと座っていられない、手足をそわそわ動かす、しゃべりすぎる。 ・衝動性=順番を待てない、質問が終わる前に答える、割り込む。 ・名前が書けない(知的能力障害・限局性学習症)、何度も確認する(強迫症)はADHDの症状ではない。
