産後3か月、消えない蛋白尿が告げるもの―妊娠高血圧症候群の「その後」を読む
第107回医師国家試験 G問題 第15問
国試問題にチャレンジ
妊娠高血圧症候群のために帝王切開を受けた女性。 分娩後3か月の時点で,異常所見と考えられるのはどれか。
- a.尿蛋白3+である。
- b.乳房に緊満がある。
- c.月経が発来していない。
- d.血圧が136/84 mmHgである。
- e.妊娠前の体重に復していない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
妊娠高血圧症候群による高血圧や蛋白尿は分娩後に改善するのが原則であり、分娩後12週(約3か月)を過ぎても持続する場合は、慢性腎炎、ループス腎炎、本態性高血圧など妊娠前からの基礎疾患を疑って精査します。そのため分娩後3か月で尿蛋白3+が続いていることは明らかな異常所見です。一方、136/84 mmHgは高血圧の基準(140/90 mmHg以上)に達しておらず、乳房緊満、授乳性無月経、妊娠前体重に戻っていないことは産後3か月では生理的な範囲です。ただし妊娠高血圧症候群の既往は将来の高血圧や心血管疾患、慢性腎臓病のリスク因子であり、産後も長期的な血圧・尿所見のフォローが勧められます。産後の正常な回復過程を理解したうえで、妊娠では説明できない所見を拾い上げる視点は、女性の生涯にわたる健康管理につながります。
解答・解説
正解はaです
妊娠高血圧症候群(HDP:hypertensive disorders of pregnancy)の既往がある女性について、産褥期(分娩後に母体が妊娠前の状態へ戻っていく期間)を過ぎた分娩後3か月の時点で、何が異常かを判断する問題である。 考え方の軸は二つある。 一つ目は、妊娠高血圧症候群の高血圧と蛋白尿は、妊娠という状況がもたらす一過性の変化であり、分娩後は通常速やかに改善するという点である。かつての定義では「妊娠20週以降、分娩後12週まで」に高血圧がみられるものとされていた。分娩後12週(約3か月)を過ぎても高血圧や蛋白尿が残る場合は、妊娠による一過性の変化では説明しにくく、もともと存在した腎疾患や本態性高血圧、膠原病(SLEなど)といった基礎疾患を疑って精査すべきである。 二つ目は、授乳に伴う乳房の変化、授乳による月経再開の遅れ、体重がまだ戻りきっていないことなどは、分娩後3か月の女性ではごく一般的にみられる生理的な範囲の所見だという点である。 この二点から選択肢をみると、分娩後3か月でなお尿蛋白3+が持続していることだけが明らかな異常所見である。血圧136/84 mmHgは高血圧の基準(140/90 mmHg以上)に達していない。
選択肢考察
- ○a. 尿蛋白3+である。
尿試験紙法の3+はおおむね300 mg/dL程度の高度の蛋白尿に相当する。妊娠高血圧症候群による蛋白尿は分娩後に消失していくのが通常であり、分娩後12週を過ぎてもこの程度の蛋白尿が続くのは異常である。慢性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症などの基礎にある腎疾患を疑い、尿蛋白定量や腎機能検査、必要に応じて自己抗体の測定や腎生検を検討する。
- ×b. 乳房に緊満がある。
授乳中の女性では、授乳間隔が空いたときなどに乳汁がたまり乳房が張るのはよくみられる生理的な現象であり、異常所見とはいえない。発赤・熱感・疼痛や発熱を伴う場合には乳腺炎を考えるが、緊満だけでは異常と判断しない。
- ×c. 月経が発来していない。
授乳中は吸啜刺激によりプロラクチンが高値に保たれ、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の分泌が抑えられて排卵が起こりにくくなる(授乳性無月経)。そのため授乳婦では分娩後3か月で月経が戻っていないのは普通である。授乳していない女性でも、月経再開の時期には個人差が大きく、分娩後3か月の時点で未発来であっても直ちに異常とはいえない。
- ×d. 血圧が136/84 mmHgである。
高血圧の基準は収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上であり、136/84 mmHgはどちらも満たさないため、高血圧とは判断しない。ただし、妊娠高血圧症候群の既往がある女性は将来の高血圧や心血管疾患のリスクが高いことが知られており、長期的に血圧を追跡することは望ましい。
- ×e. 妊娠前の体重に復していない。
妊娠中に増えた体重は分娩後に段階的に減っていき、元の体重に戻るまでには半年〜1年程度かかることも多い。分娩後3か月の時点で妊娠前の体重に戻っていないことは珍しくなく、異常とはいえない。
妊娠高血圧症候群(HDP)の定義と病型
日本産科婦人科学会の2018年の改訂により、妊娠時に高血圧(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)を認めた場合を妊娠高血圧症候群とし、以下の4病型に分類する。 ・妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、蛋白尿を伴うもの。蛋白尿がなくても、肝機能障害、腎機能障害、神経障害(子癇など)、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全のいずれかを伴えば妊娠高血圧腎症とする。 ・妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、妊娠高血圧腎症の条件を満たさないもの。 ・加重型妊娠高血圧腎症:妊娠前または妊娠20週までに存在した高血圧や腎疾患に、蛋白尿や臓器障害などが加わったもの。 ・高血圧合併妊娠:妊娠前または妊娠20週までに高血圧があり、加重型に当たらないもの。 重症の基準は、血圧160/110 mmHg以上、または妊娠高血圧腎症で母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合である(蛋白尿の量は重症度の判定には用いない)。
分娩後の経過と基礎疾患の検索
妊娠高血圧症候群の高血圧・蛋白尿は分娩後に改善するのが通常で、旧定義では分娩後12週までの病態とされていた。分娩後12週以降も高血圧や蛋白尿が持続する場合は、本態性高血圧、慢性腎炎、ループス腎炎など妊娠以前からの疾患が隠れていないかを検索する。
HDP既往の長期的意義
HDPの既往がある女性は、将来の高血圧、脳心血管疾患、慢性腎臓病、糖尿病などのリスクが高い。分娩後も定期的な健診で血圧や尿所見を確認することが勧められる。
産褥期の正常経過
産褥期はおおむね分娩後6〜8週間で、子宮は分娩後約6週で非妊時の大きさに戻る。授乳婦では授乳性無月経が続くことが多く、非授乳婦ではより早期に月経が再開する傾向がある。
POINT
・妊娠高血圧症候群の高血圧・蛋白尿は分娩後に改善するのが原則。分娩後12週(約3か月)を過ぎても持続すれば、腎疾患・本態性高血圧・SLEなどの基礎疾患を疑って精査する。 ・高血圧の基準は140/90 mmHg以上。136/84 mmHgは高血圧ではない。 ・乳房緊満、授乳性無月経、体重が戻りきっていないことは分娩後3か月では生理的範囲。 ・HDP既往女性は将来の高血圧・心血管疾患のハイリスク群として長期フォローが必要。
