StudyMed医師国家試験

むくみより血小板を見よ―妊娠高血圧症候群の「重症」を見抜く指標

第117回医師国家試験 B問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第9問

妊娠高血圧症候群の重症化の指標となるのはどれか。

  1. a.血小板の減少
  2. b.呼吸数の減少
  3. c.下腿浮腫の悪化
  4. d.子宮収縮の増強
  5. e.尿蛋白/クレアチニン比の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠高血圧症候群の重症度をどんな所見で判断するかという知識問題だ。ポイントは、この病気の本態が何かを理解しておくこと。そうすれば重症化の指標は自然に見えてくる。まず、妊娠高血圧症候群の本態は何だったかな。
医学生医学生
胎盤がうまく作られないことが出発点、と産婦人科の講義で習いました。
ドクタードクター
そう。胎盤形成不全を起点に、母体の全身の血管内皮が障害される病気だと考えるといい。高血圧はその表れの一つにすぎない。内皮障害が進むと、全身の臓器にどんなことが起こると思う?
医学生医学生
腎臓なら蛋白尿、肝臓なら肝機能障害……あとは脳でしょうか。
ドクタードクター
いいね。それに加えて血液にも影響が出る。傷んだ血管内皮で血小板が活性化されて消費されるから、血小板数が減るんだ。
医学生医学生
なるほど、だから血小板の減少が重症化の指標になるんですね。
ドクタードクター
正解。現在の日本の分類では、重症とするのは二つの場合だ。一つは収縮期160mmHg以上か拡張期110mmHg以上という重度の血圧上昇。もう一つは妊娠高血圧腎症や加重型妊娠高血圧腎症で、母体の臓器障害か子宮胎盤機能不全を伴う場合。血小板が15万/μL未満に減るのは、この臓器障害の一つとして扱われる。
医学生医学生
高血圧に血小板減少が加わったら、蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症になるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。しかも臓器障害を伴うから重症だ。さらに進むと、溶血、肝酵素上昇、血小板減少がそろうHELLP症候群につながる。だから血小板数の推移は、分娩時期を決めるうえでも重要な指標になる。
医学生医学生
浮腫の悪化はどうですか。妊娠中毒症というとむくみのイメージがあります。
ドクタードクター
多くの人がそう思うけれど、浮腫は正常妊娠でもよくみられて、重症度とは相関しない。だから2005年に妊娠中毒症から妊娠高血圧症候群へ名称と定義が変わったとき、浮腫は診断項目から外されたんだ。ただし急な体重増加を伴う全身性の浮腫は体液貯留の進行を示すことがあるから、ほかの所見と合わせて見るべきだね。
医学生医学生
尿蛋白/クレアチニン比はどうでしょう。蛋白尿が増えたら重症だと思っていたのですが、今回は「低下」なので逆向きですね。
ドクタードクター
よく気づいた。低下は蛋白尿が減っているということだから、重症化とは逆の方向だ。それに、以前は1日2g以上の蛋白尿が重症の基準だったけれど、蛋白尿の量は母児の予後と必ずしも相関しないため、2018年の改訂で重症度判定から外された。蛋白尿の量は今は「あるかないか」の診断に使うと考えよう。
医学生医学生
診断の基準は随時尿で0.3以上、蓄尿なら1日300mg以上でしたね。呼吸数の減少は、妊娠中の生理的変化と関係がありますか。
ドクタードクター
妊娠中はプロゲステロンの作用で換気量が増えるけれど、それは主に1回換気量の増加によるもので、呼吸数はほとんど変わらない。むしろ妊娠高血圧症候群で肺水腫を起こせば呼吸数は増える。呼吸数の減少で気をつけたいのは、子癇予防の硫酸マグネシウムが過量になったときの呼吸抑制だ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、マグネシウム投与中は腱反射と呼吸数と尿量をチェックするよう言われました。
ドクタードクター
まさにそれ。腱反射の消失が呼吸抑制の前触れになる。ただしそれは薬の副作用の指標で、病気自体の重症度の指標ではないから区別しよう。子宮収縮の増強は陣痛や切迫早産を示す所見で、重症度分類には含まれない。ただ、この病気では常位胎盤早期剥離の合併に注意が必要で、持続する腹痛や子宮が板のように硬くなる所見があれば要注意だ。
医学生医学生
根本的な治療は分娩、でしたよね。
ドクタードクター
そう。重症例では母体の状態と胎児の成熟度を天秤にかけて分娩時期を決める。降圧にはヒドララジン、メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピンなどを使い、ACE阻害薬やARBは胎児への影響から妊娠中は禁忌だ。それから、上腹部痛や悪心・嘔吐はHELLP症候群の初発症状のことがあるので、胃腸炎と決めつけずに血小板と肝酵素を確認する習慣をつけておこう。

まとめ

妊娠高血圧症候群は胎盤形成不全を起点とした全身の血管内皮障害が本態で、内皮障害に伴う血小板の活性化・消費によって起こる血小板減少(15万/μL未満)は母体臓器障害を示す重症化の指標です。現在の分類では、収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上の血圧、あるいは妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症で母体臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴う場合を重症とします。浮腫は重症度と相関しないため診断項目から外れ、蛋白尿の量も2018年の改訂で重症度判定に用いなくなりました。呼吸数は妊娠中ほぼ不変で、その減少はむしろ硫酸マグネシウム過量の徴候として監視します。血小板減少の先にあるHELLP症候群や常位胎盤早期剥離を意識し、病態の本質から重症化のサインを読み取る力は、母児の安全を守る産科診療の基本です。

解答・解説

正解はaです

テーマ

妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)の重症度をどのような所見で判断するかを問う問題である。

HDPの重症度の考え方(日本産科婦人科学会、2018年改訂)

2018年の定義・分類改訂により、重症度は次のいずれかに当てはまる場合を「重症」とする形に整理された。 (1) 血圧が重度に上昇している:収縮期血圧160mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上。 (2) 妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において、母体の臓器障害(肝機能障害、腎機能障害、血小板減少・凝固異常、神経障害、肺水腫など)または子宮胎盤機能不全(胎児発育不全など)を伴う。 改訂前は蛋白尿の量(2g/日以上)も重症の基準に含まれていたが、蛋白尿の多寡は母児の予後と必ずしも相関しないことから重症度判定には用いなくなった。また「軽症」という語は、リスクが低いと誤解されるおそれがあるため用いず、重症でないものは単に重症と記載しない扱いになっている。

本問の解き方

HDPの本態は、胎盤形成不全を起点とした全身の血管内皮障害である。内皮障害が進むと血小板が消費されて減少し、さらに肝細胞障害や溶血が加わるとHELLP症候群(Hemolysis:溶血、Elevated Liver enzymes:肝酵素上昇、Low Platelets:血小板減少)に至る。したがって血小板減少は臓器障害を直接反映する指標であり、重症化の指標となる。浮腫、呼吸数、子宮収縮、蛋白尿/クレアチニン比の「低下」は、いずれも重症化を示す所見ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  血小板の減少

    HDPでは血管内皮障害によって血小板の活性化・消費が進み、血小板数が減少する。日本産科婦人科学会の分類では、血小板数15万/μL未満(あるいは播種性血管内凝固〈DIC〉や溶血の合併)は母体臓器障害の一つとされ、妊娠高血圧に血小板減少が加われば蛋白尿がなくても妊娠高血圧腎症と診断され、かつ臓器障害を伴うため重症に分類される。さらに進行するとHELLP症候群や常位胎盤早期剥離に伴うDICなど母体の生命を脅かす病態につながるため、血小板数の推移は重症化と分娩時期の判断の重要な指標である。

  2. ×b.  呼吸数の減少

    妊娠中は黄体ホルモン(プロゲステロン)の呼吸中枢刺激作用で分時換気量が増えるが、それは主に1回換気量の増加によるもので、呼吸数はほとんど変化しない。呼吸数の減少はHDPの重症化を示す所見ではない。むしろHDPで肺水腫を合併すると呼吸数は増加する。なお、子癇予防に用いる硫酸マグネシウムが過量になると、腱反射消失に続いて呼吸抑制(呼吸数減少)が起こるため、投与中は呼吸数を監視する。これは薬剤の副作用の指標であり、HDPそのものの重症度の指標ではない。

  3. ×c.  下腿浮腫の悪化

    浮腫は正常妊娠でも高頻度にみられ、HDPの重症度とは相関しない。そのため、かつての「妊娠中毒症」では浮腫が診断項目に含まれていたが、2005年に妊娠高血圧症候群へ名称と定義が変更された際に診断・分類から除外された。下腿浮腫の悪化だけでは重症化の指標とならない。ただし、急激な体重増加を伴う全身性の浮腫は体液貯留の進行を示すことがあり、血圧や他の検査値と合わせて評価する。

  4. ×d.  子宮収縮の増強

    子宮収縮の増強は、陣痛の発来や切迫早産を示唆する所見であり、HDPの重症度分類には含まれない。HDPでは常位胎盤早期剥離の合併に注意が必要で、早期剥離では持続的な腹痛や子宮の硬化がみられるが、子宮収縮の増強そのものがHDPの重症化の指標とされているわけではない。

  5. ×e.  尿蛋白/クレアチニン比の低下

    随時尿の尿蛋白/クレアチニン比(g/gCr、mg/mgCrと同値)が0.3以上、または24時間蓄尿で300mg/日以上の蛋白尿を認めた場合に蛋白尿ありと判定し、妊娠高血圧腎症の診断に用いる(試験紙法で2回以上連続して2+以上の場合も蛋白尿とみなす)。「低下」は蛋白尿が減っていることを意味し、重症化の方向とは逆である。さらに2018年の改訂以降は、蛋白尿が多いこと自体も重症度判定の基準から外されている。

HDPの病型分類(日本産科婦人科学会 2018年)

高血圧の定義:収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上。 ・妊娠高血圧(GH):妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、分娩後12週までに正常化するもので、妊娠高血圧腎症の基準を満たさないもの。 ・妊娠高血圧腎症(PE):妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し、蛋白尿を伴うもの。蛋白尿がなくても、母体の臓器障害(肝機能障害、進行性の腎障害、脳卒中・神経障害、血液凝固障害〈血小板減少など〉)または子宮胎盤機能不全(胎児発育不全、臍帯動脈血流異常、死産など)を伴えばPEとする。 ・加重型妊娠高血圧腎症(SPE):妊娠前または妊娠20週までに存在した高血圧や腎疾患に、蛋白尿や臓器障害などが新たに加わったもの。 ・高血圧合併妊娠(CH):妊娠前あるいは妊娠20週までに高血圧があり、加重型に該当しないもの。

重症化に注意すべき合併症

・子癇:HDPに伴う痙攣発作。予防と治療に硫酸マグネシウムを用いる。 ・HELLP症候群:溶血、肝酵素上昇、血小板減少。上腹部痛・心窩部痛、悪心・嘔吐が初発症状となることが多い。 ・常位胎盤早期剥離、肺水腫、脳出血、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)など。 ・胎児側:胎児発育不全、胎児機能不全。

管理の原則

根本的な治療は妊娠の終了(分娩)であり、重症例では母体の状態と胎児の成熟度を考慮して分娩時期を決定する。降圧薬はヒドララジン、メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピンなどを用い、ACE阻害薬やARBは胎児への影響のため妊娠中は禁忌である。

POINT

・HDPの重症=①収縮期160mmHg以上または拡張期110mmHg以上、②PE・SPEで母体臓器障害または子宮胎盤機能不全を伴う場合。 ・血小板減少(15万/μL未満)は臓器障害の指標であり重症化の指標。HELLP症候群に注意。 ・蛋白尿の量は2018年改訂以降、重症度判定に用いない。蛋白尿の定義は尿蛋白/クレアチニン比0.3以上または300mg/日以上。 ・浮腫はHDPの診断・分類に含まれない。 ・妊娠中の呼吸数はほぼ不変。硫酸マグネシウム投与中は呼吸数・腱反射・尿量を監視する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。