基底膜の「外側」に立つ細胞―PAS染色で見抜くポドサイトの居場所
第107回医師国家試験 G問題 第13問
国試問題にチャレンジ
正常腎糸球体の腎生検組織のPAS染色標本を別に示す。 糸球体上皮細胞〈ポドサイト〉はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
正常糸球体のPAS染色標本では、赤紫に染まる基底膜を基準に核の位置を見ることで細胞を同定でき、係蹄の外側(Bowman腔側)に乗る細胞が糸球体上皮細胞(ポドサイト)です。基底膜の内側に薄く張り付くのは内皮細胞、係蹄の間の軸でPAS陽性基質に囲まれるのはメサンギウム細胞、Bowman囊の内面を裏打ちするのは壁側上皮細胞、刷子縁をもつ立方上皮は近位尿細管上皮細胞です。ポドサイトの足突起とスリット膜は蛋白の漏出を防ぐ濾過障壁の最終層であり、その障害は微小変化型ネフローゼ症候群や巣状分節性糸球体硬化症に、上皮下沈着は膜性腎症につながります。メサンギウム増殖はIgA腎症、内皮細胞の増殖は管内増殖性糸球体腎炎、壁側上皮の増殖は半月体形成と対応しており、各細胞の位置と役割を押さえることが腎生検所見を病態として読み解く土台になります。
解答・解説
正解はeです
正常な腎糸球体の光学顕微鏡像(PAS染色)で、糸球体を構成する細胞と周囲の構造を見分ける問題である。 PAS(periodic acid-Schiff)染色は、糖を多く含む基底膜やメサンギウム基質、近位尿細管の刷子縁を赤紫色に染め出すため、糸球体の構造を把握しやすい染色法である。糸球体の細胞を同定するときは、「毛細血管壁(係蹄壁)の基底膜を基準に、核がどちら側にあるか」を見るのが基本となる。 ・基底膜の内側(毛細血管腔側)に薄く張り付く核 → 内皮細胞 ・基底膜の外側(Bowman腔側)で、係蹄の表面に乗るように位置する核 → 糸球体上皮細胞(ポドサイト、足細胞) ・毛細血管どうしの間の軸(茎)の部分で、PAS陽性の基質に囲まれている核 → メサンギウム細胞 ・Bowman腔を隔てて外周を裏打ちする扁平な核 → Bowman囊上皮細胞(壁側上皮細胞) ・糸球体の外にある、管腔側に刷子縁をもつ立方状の細胞 → 近位尿細管上皮細胞 この位置関係を押さえれば、係蹄の外側面に位置する⑤がポドサイトであると判断できる。
選択肢考察
- ×a. ①
①は毛細血管の間を支える軸(メサンギウム領域)にある核で、周囲をPAS陽性のメサンギウム基質が取り囲んでいることから、メサンギウム細胞である。メサンギウム細胞は平滑筋に似た性質をもつ細胞で、係蹄を支持し、基質の産生や高分子物質の貪食・処理に関わる。IgA腎症などでは増殖や基質増加がみられる。ポドサイトではない。
- ×b. ②
②は糸球体の外にある尿細管の上皮細胞で、管腔側にPAS陽性の刷子縁(微絨毛の集まり)を備えることから近位尿細管上皮細胞と判断できる。刷子縁は吸収面積を広げ、糖・アミノ酸・水・Na+などの大量の再吸収を担う構造である。ポドサイトではない。
- ×c. ③
③は毛細血管腔に面し、基底膜の内側を薄く覆う扁平な核で、糸球体毛細血管の内皮細胞である。糸球体内皮細胞は多数の窓(フェネストラ)をもつ有窓内皮で、血球の通過は防ぐが水や小分子は通しやすい。管内増殖性糸球体腎炎では内皮細胞の腫大・増殖がみられる。ポドサイトではない。
- ×d. ④
④はBowman腔の外周、Bowman囊の内面を裏打ちする扁平な核で、Bowman囊上皮細胞(壁側上皮細胞)である。この細胞は尿細管極で近位尿細管上皮へと移行する。急速進行性糸球体腎炎などで壁側上皮細胞が増殖すると、半月体(crescent)を形成する。ポドサイトは臓側上皮細胞であり、壁側上皮細胞とは区別される。
- ○e. ⑤
⑤は糸球体係蹄の外側、すなわち基底膜のBowman腔側に付着して位置する細胞であり、糸球体上皮細胞(臓側上皮細胞)=ポドサイト(足細胞)である。ポドサイトは細胞体から一次突起を伸ばし、さらに細かな足突起を基底膜外面に張り巡らせる。この足突起の特徴は電子顕微鏡で初めて観察でき、隣り合う足突起の間はスリット膜(ネフリンなどで構成)で結ばれ、蛋白の漏出を防ぐ最終的なバリアとなる。
糸球体濾過障壁の3層構造
血液側から、①有窓の内皮細胞、②糸球体基底膜(GBM)、③ポドサイトの足突起とその間のスリット膜、の順に並ぶ。基底膜は陰性荷電をもつため、陰性荷電のアルブミンは通過しにくい(サイズバリアと荷電バリア)。
糸球体を構成する4種類の細胞
・内皮細胞:毛細血管腔を覆う有窓内皮 ・メサンギウム細胞:係蹄の支持、基質産生、貪食、収縮による濾過面積の調節 ・糸球体上皮細胞(臓側上皮細胞、ポドサイト):足突起とスリット膜で濾過障壁を形成 ・Bowman囊上皮細胞(壁側上皮細胞):Bowman囊を裏打ちする扁平上皮
病態との関連
・ポドサイト障害:微小変化型ネフローゼ症候群では電子顕微鏡で足突起の広範な消失(癒合)がみられ、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)もポドサイト障害が中心とされる。膜性腎症では上皮下(ポドサイトと基底膜の間)に免疫複合体が沈着する。先天性ネフローゼ症候群(フィンランド型)はネフリン遺伝子の異常による。 ・メサンギウム細胞:IgA腎症でメサンギウム増殖とIgA沈着がみられる。 ・内皮細胞:溶連菌感染後急性糸球体腎炎などの管内増殖で腫大・増殖する。 ・壁側上皮細胞:増殖して半月体を形成する(急速進行性糸球体腎炎)。
PAS染色で赤紫に染まるもの
糸球体基底膜、尿細管基底膜、メサンギウム基質、近位尿細管の刷子縁など。
POINT
・糸球体の細胞は基底膜との位置関係で見分ける:内側(血管腔側)=内皮細胞、外側(Bowman腔側)=ポドサイト、係蹄の間の軸=メサンギウム細胞、Bowman囊の内面=壁側上皮細胞。 ・PAS染色で管腔側に刷子縁が見える尿細管は近位尿細管。 ・ポドサイトの足突起とスリット膜は蛋白尿を防ぐ最終バリアで、その障害はネフローゼ症候群(微小変化型、FSGS)に直結する。 ・半月体は主に壁側上皮細胞の増殖による。
