StudyMed医師国家試験

右と左は対称じゃない―大動脈弓の3本の枝から読み解く「直接分枝」の見分け方

第107回医師国家試験 G問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第107回 G問題 第12問

大動脈から直接分枝する動脈はどれか。

  1. a.総肝動脈
  2. b.左総頸動脈
  3. c.右椎骨動脈
  4. d.右鎖骨下動脈
  5. e.左外腸骨動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は血管解剖の基本問題だ。ポイントは「大動脈から直接出る第1次分枝か、それとも枝からさらに分かれた第2次以降の分枝か」を見分けること。そして、もう一つの着眼点が大動脈弓の枝の左右差だよ。まず大動脈の区分から整理しよう。左心室を出た大動脈はどう続いていくかな。
医学生医学生
上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈の順で、下行大動脈は横隔膜を境に胸大動脈と腹大動脈に分かれる、と解剖学の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。横隔膜の大動脈裂孔はおおよそ第12胸椎の高さだね。それぞれの部位から出る主な枝を言えるかな。上行大動脈からはどうだろう。
医学生医学生
上行大動脈からは左右の冠状動脈ですね。大動脈弁のすぐ上のバルサルバ洞から出ると習いました。
ドクタードクター
完璧だ。では大動脈弓から出る3本の枝は、右から順に何かな。
医学生医学生
腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈です。あれ、そうすると右鎖骨下動脈も大動脈弓から出ていそうな気がしてしまうんですが……。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だよ。右側はまず腕頭動脈が1本だけ出て、それが胸鎖関節の後方で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。一方、左側は総頸動脈と鎖骨下動脈がそれぞれ大動脈弓から直接出る。つまり右鎖骨下動脈は大動脈からみて第2次分枝なんだ。
医学生医学生
なるほど。だから選択肢の中で大動脈から直接出ているのは左総頸動脈だけ、ということですね。
ドクタードクター
正解。左総頸動脈は大動脈弓の2番目の枝で、甲状軟骨上縁の高さで内頸動脈と外頸動脈に分かれる。この左右差は、発生の過程で左右の咽頭弓動脈が非対称に退縮・再構築されることで生じるんだ。では右椎骨動脈はどうだろう。
医学生医学生
椎骨動脈は鎖骨下動脈の最初の枝なので、右椎骨動脈は腕頭動脈、右鎖骨下動脈を経た第3次分枝になりますね。
ドクタードクター
よく追えているね。椎骨動脈は通常第6頸椎から上の横突孔を上行し、大後頭孔から頭蓋内に入って、左右が合流して脳底動脈になる。ちなみに左椎骨動脈は数%の頻度で大動脈弓から直接出る変異があるけれど、右椎骨動脈が大動脈から直接出ることは通常ない。次は腹部、総肝動脈はどうかな。
医学生医学生
総肝動脈は腹大動脈から直接出ていると思っていました。肝臓に行く大事な血管なので……。
ドクタードクター
そう誤解しやすいところだね。腹大動脈から出るのは腹腔動脈で、それが短い幹のあと左胃動脈、脾動脈、総肝動脈の3本に分かれる。だから総肝動脈は第2次分枝だ。さらに総肝動脈は胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。
医学生医学生
消化器外科の実習で、胃切除の手術を見学したときにその枝分かれを説明してもらいました。左外腸骨動脈も同じように考えればいいですか。
ドクタードクター
その通り。腹大動脈は第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれ、総腸骨動脈が仙腸関節の前方で内腸骨動脈と外腸骨動脈に分かれる。だから外腸骨動脈も第2次分枝。鼠径靱帯をくぐると大腿動脈と名前が変わるね。
医学生医学生
整理すると、椎骨動脈は鎖骨下動脈の枝、総肝動脈は腹腔動脈の枝、外腸骨動脈は総腸骨動脈の枝で、右側の総頸動脈と鎖骨下動脈は腕頭動脈の枝、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に臨床とのつながりを押さえておこう。まず鎖骨下動脈盗血症候群。鎖骨下動脈が椎骨動脈の分岐より近位で狭窄すると、椎骨動脈の血流が逆流して患側上肢へ流れ、腕を動かしたときにめまいなど椎骨脳底動脈循環不全の症状が出ることがある。
医学生医学生
だから上肢の血圧に左右差がないか確認することが大事なんですね。OSCEでも両腕の血圧測定を練習しました。
ドクタードクター
そうだね。大動脈解離が弓部の分枝に及んだときも、脳虚血や上肢血圧の左右差が手がかりになる。それから、まれな変異として右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として直接出て、食道の後ろを通る右鎖骨下動脈起始異常もある。食道を圧迫して嚥下障害の原因になることがあるんだ。正常解剖をしっかり理解していると、こうした変異や病態にも気づきやすくなるよ。

まとめ

大動脈弓から直接出る枝は、右から腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本であり、右総頸動脈と右鎖骨下動脈は腕頭動脈から分かれる第2次分枝です。このため選択肢の中で大動脈の直接の枝は左総頸動脈のみで、椎骨動脈は鎖骨下動脈の枝、総肝動脈は腹腔動脈の枝、外腸骨動脈は総腸骨動脈の枝となります。腹大動脈からは腹腔動脈・上腸間膜動脈・腎動脈・下腸間膜動脈が出て、第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれる流れも併せて覚えておきましょう。この左右非対称の分岐構造は、鎖骨下動脈盗血症候群や大動脈解離による上肢血圧の左右差、右鎖骨下動脈起始異常による嚥下障害などを理解する土台となり、臨床での血圧測定や画像読影にも直結します。

解答・解説

正解はbです

大動脈は左心室から出たあと、上行大動脈、大動脈弓、下行大動脈と続く。下行大動脈は、横隔膜の大動脈裂孔(第12胸椎の高さ)を境に、上の胸大動脈と下の腹大動脈に分けられる。本問では、選択肢の各動脈が大動脈から「直接」出る第1次分枝なのか、それとも大動脈の枝からさらに分かれた第2次以降の分枝なのかを見分ける必要がある。 大動脈から直接出る主な枝は、部位ごとに次のとおりである。 ・上行大動脈: 左右の冠状動脈 ・大動脈弓: 腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈(右から左へこの順に並ぶ) ・胸大動脈: 肋間動脈、気管支動脈、食道動脈など ・腹大動脈: 腹腔動脈、上腸間膜動脈、腎動脈、下腸間膜動脈、そして終枝である左右の総腸骨動脈 押さえておくべき点は、大動脈弓の枝の出方が左右で非対称なことである。左側では総頸動脈と鎖骨下動脈がそれぞれ大動脈弓から直接出る。一方、右側では、まず腕頭動脈が1本出て、それが右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。選択肢のうち、大動脈から直接出るのは左総頸動脈だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  総肝動脈

    総肝動脈は、腹大動脈から第12胸椎〜第1腰椎の高さで出る腹腔動脈の枝である。腹腔動脈は短い幹のあと、左胃動脈、脾動脈、総肝動脈の3本に分かれる。総肝動脈は、その後、胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。つまり大動脈からみて第2次分枝であり、直接の枝ではない(まれに上腸間膜動脈から出る変異もある)。

  2. ○b.  左総頸動脈

    左総頸動脈は、大動脈弓から直接出る3本の枝のうち、2番目(腕頭動脈と左鎖骨下動脈の間)に位置する。これに対し、右総頸動脈は腕頭動脈から出る。この左右の違いは、発生の過程で左右の鰓弓動脈(咽頭弓動脈)が非対称に退縮・再構築されることによって生じる。左総頸動脈は、甲状軟骨上縁の高さで内頸動脈と外頸動脈に分かれる。大動脈から直接分枝する動脈であり、これが正解である。

  3. ×c.  右椎骨動脈

    右椎骨動脈は、右鎖骨下動脈の最初の枝として出る。右鎖骨下動脈は腕頭動脈から出るため、右椎骨動脈は大動脈からみて第3次分枝にあたる。椎骨動脈は通常、第6頸椎から上の横突孔を上行し、大後頭孔から頭蓋内に入る。その後、左右の椎骨動脈が合流して脳底動脈となる。なお、左椎骨動脈は数%の頻度で大動脈弓から直接出る変異がある。しかし右椎骨動脈が大動脈から直接出ることは、通常はない。

  4. ×d.  右鎖骨下動脈

    右鎖骨下動脈は、腕頭動脈が胸鎖関節の後方で右総頸動脈と分かれてできる枝であり、大動脈からみて第2次分枝である。これに対し、左鎖骨下動脈は大動脈弓から直接出る。まれな変異として、右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として直接出て、食道の後ろを通り右へ向かうことがある(右鎖骨下動脈起始異常、arteria lusoria)。この場合、食道が圧迫されて嚥下障害の原因となることがある。しかし通常の解剖では、右鎖骨下動脈は大動脈の直接の枝ではない。

  5. ×e.  左外腸骨動脈

    腹大動脈は第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれる。左外腸骨動脈は、そのうち左総腸骨動脈が仙腸関節の前方で内腸骨動脈と分かれてできる枝であり、大動脈からみて第2次分枝である。外腸骨動脈は鼠径靱帯の下をくぐると大腿動脈と名前が変わり、下肢へ血液を送る。

大動脈の区分と主な枝

・上行大動脈: 右冠状動脈、左冠状動脈(大動脈弁のすぐ上にあるバルサルバ洞から出る) ・大動脈弓: 腕頭動脈(のちに右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる)、左総頸動脈、左鎖骨下動脈 ・胸大動脈: 肋間動脈(第3〜11肋間)、肋下動脈、気管支動脈、食道動脈、上横隔動脈 ・腹大動脈(臓側枝): 腹腔動脈(第12胸椎〜第1腰椎の高さ)、上腸間膜動脈(第1腰椎)、腎動脈(第1〜2腰椎)、下腸間膜動脈(第3腰椎)、精巣動脈または卵巣動脈、中副腎動脈 ・腹大動脈(壁側枝): 下横隔動脈、腰動脈、正中仙骨動脈 ・終枝: 左右の総腸骨動脈(第4腰椎の高さ)

腹腔動脈の枝

腹腔動脈は左胃動脈、脾動脈、総肝動脈の3本に分かれる。総肝動脈は、胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。固有肝動脈からは右胃動脈が出て、その後、左右の肝動脈に分かれる。

鎖骨下動脈の主な枝

椎骨動脈、内胸動脈、甲状頸動脈、肋頸動脈がある。鎖骨下動脈は第1肋骨の外側縁を越えると腋窩動脈と名前が変わる。

臨床との関連

・鎖骨下動脈盗血症候群: 鎖骨下動脈が椎骨動脈の分岐部より近位で狭窄・閉塞すると、椎骨動脈の血流が逆向きになり、患側の上肢へ流れる。その結果、腕を動かしたときなどに、めまいなどの椎骨脳底動脈循環不全の症状が出る。 ・大動脈解離: 大動脈弓の分枝に解離が及ぶと、脳虚血を起こしたり、上肢の血圧に左右差が生じたりする。

POINT

・大動脈弓から直接出る枝は、右から順に腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本である。 ・右総頸動脈と右鎖骨下動脈は腕頭動脈の枝であり、左右で分岐の仕方が異なる。 ・椎骨動脈は鎖骨下動脈の枝、総肝動脈は腹腔動脈の枝、外腸骨動脈は総腸骨動脈の枝である。 ・腹大動脈は第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。