塩は胃潰瘍?肥満は骨を弱らせる?―「すり替え」と「逆向き」を見抜くリスクファクター問題
第107回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
疾患とリスクファクターの組合せで正しいのはどれか。
- a.胃潰瘍 ―― 高塩分食
- b.虚血性心疾患 ―― 喫煙
- c.骨粗鬆症 ―― 肥満
- d.痛風 ―― 高脂肪食
- e.白血病 ―― 飲酒
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
喫煙は高血圧・脂質異常症・糖尿病と並ぶ虚血性心疾患の主要な危険因子で、血管内皮障害や血栓形成を介して動脈硬化を進め、禁煙は予防上きわめて重要な介入です。一方、高塩分食は胃潰瘍ではなく胃癌・高血圧の危険因子であり、胃潰瘍の主因はヘリコバクター・ピロリ感染とNSAIDsです。骨粗鬆症のリスクは肥満ではなく低体重で、肥満はむしろ保護的に働きます。痛風はプリン体・アルコール・果糖・肥満などによる高尿酸血症が背景で、白血病の危険因子は放射線・抗がん薬・ベンゼン・HTLV-1などであり飲酒とは確立した関連がありません。「別の疾患の因子へのすり替え」や「逆向きの関係」に注意しながら疾患ごとの代表的な危険因子を整理しておくことは、国試対策だけでなく、外来での予防指導や生活習慣への介入の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
生活習慣病や頻度の高い疾患について、確立したリスクファクター(危険因子:その要因があると疾患の発生確率が高まるもの)を知っているかを問う問題である。 解くときは、各疾患について「最も代表的なリスクファクター」を思い浮かべ、選択肢の組合せがそれに合致するかを確認するとよい。胃潰瘍ならヘリコバクター・ピロリ感染とNSAIDs、虚血性心疾患なら喫煙・高血圧・脂質異常症・糖尿病、骨粗鬆症なら低体重・加齢・閉経、痛風なら高尿酸血症をもたらすプリン体やアルコールの過剰摂取、白血病なら放射線被曝や抗がん薬・ベンゼンである。 また、紛らわしい組合せには「別の疾患のリスクファクターがすり替えられている」パターン(高塩分食は胃潰瘍ではなく胃癌)や、「逆向きの関係」(肥満はむしろ骨粗鬆症に対して保護的)が含まれている点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 胃潰瘍 ―― 高塩分食
誤りである。高塩分食は胃粘膜の萎縮性変化を促し、ヘリコバクター・ピロリ感染と相まって胃癌のリスクを高める因子として知られており、胃潰瘍の代表的なリスクファクターではない。胃潰瘍の二大原因はヘリコバクター・ピロリ感染とNSAIDs(低用量アスピリンを含む)であり、これに喫煙、ストレス、ステロイド併用などが加わる。飲酒やコーヒーも粘膜刺激因子として挙げられることがあるが、寄与は前二者に比べて小さい。
- ○b. 虚血性心疾患 ―― 喫煙
正しい組合せである。喫煙は虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の確立した主要冠危険因子である。タバコ煙中の成分は血管内皮障害、LDLの酸化、HDLコレステロールの低下、血小板凝集の亢進、冠動脈の攣縮などを引き起こし、動脈硬化の進展と血栓形成を促す。禁煙によってリスクは速やかに低下するため、予防上重要な介入対象である。ほかの冠危険因子として、高血圧、脂質異常症(高LDLコレステロール血症・低HDLコレステロール血症)、糖尿病、肥満(特に内臓脂肪型)、慢性腎臓病、加齢、男性、若年発症の冠動脈疾患の家族歴などがある。
- ×c. 骨粗鬆症 ―― 肥満
誤りである。骨粗鬆症のリスクファクターは肥満ではなく低体重(やせ)である。体重による骨への機械的負荷や、脂肪組織でアンドロゲンからエストロゲンが産生されることなどから、体重が多いほど骨密度は保たれやすく、肥満は骨粗鬆症に対してむしろ保護的に働く。骨粗鬆症の主なリスクファクターは、女性・閉経(エストロゲン欠乏)、加齢、低体重や過度のダイエット、カルシウムやビタミンD・Kの不足、運動不足、日光曝露不足、喫煙、過度の飲酒、ステロイド(グルココルチコイド)の長期使用、骨折の家族歴などである。
- ×d. 痛風 ―― 高脂肪食
誤りである。痛風は高尿酸血症により関節内に尿酸ナトリウム結晶が析出して起こる関節炎であり、リスクファクターは尿酸値を上昇させる要因である。具体的には、プリン体を多く含む食品(レバーなどの内臓肉、魚卵、一部の魚介類など)の過剰摂取、アルコール(特にビール)、果糖を多く含む清涼飲料、肥満、利尿薬の使用、男性であることなどが挙げられる。プリン体は体内で代謝されて尿酸になる。高脂肪食そのものは痛風の直接的なリスクファクターとしては位置付けられていない(過食による肥満を介した間接的な関連はある)。
- ×e. 白血病 ―― 飲酒
誤りである。飲酒と白血病との間に確立した因果関係はない。白血病の既知のリスクファクターは、電離放射線被曝(原爆被爆者で白血病が増加したことが知られる)、アルキル化薬やトポイソメラーゼII阻害薬などの抗がん薬治療歴(治療関連白血病)、ベンゼンへの職業性曝露、ヒトT細胞白血病ウイルス1型〈HTLV-1〉感染(成人T細胞白血病・リンパ腫の原因)、Down症候群などの先天異常、喫煙などである。飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・乳房のがんのリスクファクターとして知られる。
主な疾患のリスクファクターの整理
・胃潰瘍・十二指腸潰瘍:ヘリコバクター・ピロリ感染、NSAIDs(低用量アスピリンを含む)、喫煙、ストレス、ステロイド併用。 ・胃癌:ヘリコバクター・ピロリ感染、高塩分食、喫煙、野菜・果物の摂取不足。 ・虚血性心疾患:喫煙、高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満(内臓脂肪型)、慢性腎臓病、加齢、男性、家族歴。 ・骨粗鬆症:閉経・女性、加齢、低体重・ダイエット、カルシウム・ビタミンD・ビタミンKの不足、運動不足、日照不足、喫煙、過度の飲酒、ステロイド長期使用、家族歴。 ・痛風:高尿酸血症(プリン体の過剰摂取、アルコール、果糖、肥満、利尿薬など)、男性。 ・白血病:電離放射線、抗がん薬(アルキル化薬など)、ベンゼン、HTLV-1(成人T細胞白血病・リンパ腫)、Down症候群。
「すり替え」に注意したい組合せ
高塩分食は胃潰瘍ではなく胃癌と高血圧のリスクファクターである。肥満は虚血性心疾患・糖尿病・痛風などのリスクを高めるが、骨粗鬆症に対しては逆に保護的である。
POINT
・喫煙は虚血性心疾患の主要な冠危険因子(高血圧・脂質異常症・糖尿病と並ぶ)。 ・高塩分食は胃潰瘍ではなく胃癌(および高血圧)のリスクファクター。 ・骨粗鬆症のリスクは肥満ではなく「やせ」。 ・痛風のリスクはプリン体・アルコール・果糖・肥満。 ・白血病のリスクは放射線、抗がん薬、ベンゼン、HTLV-1で、飲酒は関係しない。
