血は止まりやすくなる?出やすくなる?―作用機序から読み解く薬の副作用
第107回医師国家試験 F問題 第13問
国試問題にチャレンジ
薬物と副作用の組合せで誤っているのはどれか。
- a.経口避妊薬 ―― 皮下出血
- b.ビスホスホネート ―― 食道潰瘍
- c.ベンゾジアゼピン系薬 ―― ふらつき
- d.HMG-CoA還元酵素阻害薬 ―― 横紋筋融解症
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉 ―― 胃潰瘍
対話形式の解説
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ドクターまとめ
薬物の副作用は、作用機序や薬の性質から理解すると覚えやすくなります。NSAIDsはCOX阻害によるプロスタグランジン減少で胃潰瘍を、ベンゾジアゼピン系薬は中枢抑制と筋弛緩でふらつき・転倒を、スタチンは横紋筋融解症を、経口ビスホスホネートは局所刺激で食道潰瘍をきたし、いずれも正しい組合せです。一方、経口避妊薬のエストロゲンは凝固因子の産生を増やして凝固亢進状態をもたらすため、問題となるのは皮下出血ではなく静脈血栓塞栓症などの血栓症であり、35歳以上の喫煙者や前兆を伴う片頭痛、血栓症の既往では禁忌となります。ビスホスホネートの服用方法やベンゾジアゼピン系薬による高齢者の転倒など、副作用を防ぐための具体的な注意点まで押さえておくことが、安全な処方と服薬指導につながります。
解答・解説
正解はaです
日常診療で頻繁に使われる薬物について、代表的な副作用を正しく結び付けられるかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、薬物と副作用の組合せとして成り立たないものを一つ選ぶ。 考え方の軸は、各薬物の作用機序から副作用を予想することである。ビスホスホネートは服用時に食道粘膜に直接触れて傷害する局所刺激性、ベンゾジアゼピン系薬は中枢神経抑制と筋弛緩作用、スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は骨格筋障害、非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉はシクロオキシゲナーゼ〈COX〉阻害によるプロスタグランジン減少で胃粘膜防御が低下する、というようにそれぞれ機序と結び付けて理解できる。 一方、経口避妊薬に含まれるエストロゲンは肝臓での凝固因子の産生を増やし、血液を固まりやすくする方向に働く。したがって経口避妊薬で問題となるのは出血ではなく血栓症であり、「皮下出血」との組合せは誤りである。
選択肢考察
- ○a. 経口避妊薬 ―― 皮下出血
誤った組合せであり、これが正解である。経口避妊薬(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)のエストロゲン成分は、肝臓でのフィブリノゲンや第VII・VIII・X因子など凝固因子の合成を促進し、アンチトロンビンやプロテインSを減少させるため、凝固亢進状態をもたらす。その結果、最も重要な重大副作用は深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症などの静脈血栓塞栓症であり、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈血栓症のリスクも上昇する。特に35歳以上で1日15本以上の喫煙者、前兆を伴う片頭痛、血栓症の既往などでは禁忌となる。このほかの副作用として不正性器出血(破綻出血)、悪心、乳房緊満感、頭痛などがあるが、凝固が亢進する薬物であるため皮下出血は典型的な副作用とはいえない。
- ×b. ビスホスホネート ―― 食道潰瘍
正しい組合せである。ビスホスホネート(アレンドロン酸、リセドロン酸など)は骨吸収を担う破骨細胞の働きを抑える骨粗鬆症治療薬である。経口製剤は食道にとどまると粘膜を直接刺激し、食道炎・食道潰瘍、まれに食道穿孔を起こす。これを防ぐため、起床時の空腹時に十分量(約180 mL)の水で服用し、服用後少なくとも30分(製剤によっては60分)は横にならず、水以外の飲食や他の薬の服用を避ける、噛んだり口の中で溶かしたりしない、といった独特の服用方法が定められている。食道狭窄やアカラシアなど食道通過を遅らせる疾患のある患者や、30分以上立位・坐位を保てない患者には使用できない。
- ×c. ベンゾジアゼピン系薬 ―― ふらつき
正しい組合せである。ベンゾジアゼピン系薬はGABA-A受容体に作用して抑制性神経伝達物質GABAの働きを強め、抗不安・催眠・抗けいれん・筋弛緩作用を示す。この中枢抑制作用と筋弛緩作用のため、眠気、ふらつき、注意力低下、健忘などが生じる。特に高齢者では作用が翌日まで持ち越されやすく、ふらつきによる転倒・骨折の原因として重要である。このほか、せん妄、呼吸抑制、長期使用による依存や急な中止に伴う離脱症状も注意すべき副作用である。
- ×d. HMG-CoA還元酵素阻害薬 ―― 横紋筋融解症
正しい組合せである。HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は肝臓でのコレステロール合成の律速酵素を阻害し、LDLコレステロールを低下させる脂質異常症治療薬である。重大な副作用に横紋筋融解症があり、骨格筋が壊れて筋肉痛・脱力、血清CK(クレアチンキナーゼ)上昇、ミオグロビン尿(赤褐色尿)をきたし、ミオグロビンによる急性腎障害に至ることがある。腎機能障害のある患者やフィブラート系薬との併用でリスクが高まるため、筋症状の有無やCK値を確認しながら使用する。肝機能障害(トランスアミナーゼ上昇)もスタチンの副作用として知られる。
- ×e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉 ―― 胃潰瘍
正しい組合せである。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ〈COX〉を阻害してプロスタグランジンの産生を抑え、鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮する。胃粘膜ではプロスタグランジンが粘液・重炭酸の分泌や粘膜血流を保って粘膜を守っているため、これが減ると胃潰瘍・十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍や消化管出血が起こりやすくなる。このため消化性潰瘍のある患者には原則禁忌である。そのほか、腎血流低下による腎障害(急性腎障害など)、血小板機能抑制による出血傾向、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の誘発なども重要な副作用であり、重篤な腎障害や血液異常のある患者にも禁忌とされる。
代表的な薬物と押さえておきたい副作用
・経口避妊薬:静脈血栓塞栓症、心筋梗塞・脳梗塞、不正性器出血、悪心。禁忌の例として35歳以上で1日15本以上の喫煙、前兆を伴う片頭痛、血栓症の既往、エストロゲン依存性腫瘍などがある。 ・ビスホスホネート:食道潰瘍・食道炎、顎骨壊死、非定型大腿骨骨折、低カルシウム血症。 ・ベンゾジアゼピン系薬:眠気、ふらつき・転倒、健忘、せん妄(特に高齢者)、依存・離脱症状、呼吸抑制。 ・スタチン:横紋筋融解症・ミオパチー、肝機能障害。フィブラート系薬との併用や腎機能低下で横紋筋融解症のリスクが高まる。 ・NSAIDs:消化性潰瘍・消化管出血、腎障害、アスピリン喘息、出血傾向。胃粘膜障害の予防にはプロトンポンプ阻害薬やプロスタグランジン製剤(ミソプロストール)が用いられる。
ビスホスホネートの服用方法(食道障害の予防)
①起床後、最初の飲食の前に服用する。 ②コップ1杯程度(約180 mL)の水で服用する(ミネラルを含む水や牛乳・コーヒーなどでは吸収が落ちる)。 ③服用後少なくとも30分(製剤により60分)は横にならず、水以外の飲食や他の薬の服用を避ける。 ④噛んだり口の中で溶かしたりしない。 ⑤就寝前や起床して体を起こす前には服用しない。
POINT
・経口避妊薬の重大な副作用は出血ではなく血栓症(凝固亢進)。 ・ビスホスホネートは食道潰瘍を防ぐため、起床時に多めの水で服用し、服用後30分以上は横にならない。 ・ベンゾジアゼピン系薬は高齢者のふらつき・転倒の原因となる。 ・スタチンは横紋筋融解症(筋肉痛、CK上昇、ミオグロビン尿)に注意する。 ・NSAIDsはCOX阻害→プロスタグランジン低下→消化性潰瘍。
