StudyMed医師国家試験

「人が合わせる」から「モノが合わせる」へ―7原則で読み解くユニバーサルデザイン

第107回医師国家試験 E問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第37問

ユニバーサルデザインについて正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.日用品は対象である。
  2. b.長時間使っても疲れない。
  3. c.知的障害者は対象ではない。
  4. d.利用者の適応能力が求められる。
  5. e.うっかりミスが危険につながりにくい。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はユニバーサルデザインの基本理念を問う問題だ。ポイントは2つ。「誰を対象にしているのか」と「利用者と製品のどちらが合わせるのか」。そこに有名な7原則を重ねれば、選択肢は自然に判断できるよ。まず、ユニバーサルデザインと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
駅のエレベーターやスロープでしょうか。あれ、でもそれはバリアフリーかもしれません。
ドクタードクター
いいところに引っかかったね。そこは混同しやすい。バリアフリーは、すでにある段差などの障壁を、主に高齢者や障害者のために後から取り除く発想。ユニバーサルデザインは、はじめから障壁が生じないように、年齢・体格・障害の有無・言語などにかかわらず、できる限りすべての人が特別な改造なしに使えるよう設計する発想なんだ。1980年代に米国の建築家ロナルド・メイスが提唱したよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「事後的・特定対象型」と「事前的・全員対象型」と対比して習いました。
ドクタードクター
まさにその整理だ。では対象の範囲から。建物や公共交通機関だけが対象だと思う?
医学生医学生
「デザイン」というくらいなので、日用品も含まれそうです。
ドクタードクター
その通り。対象は日用品、家電、文具、包装、案内表示、情報機器など、生活にかかわるものすべて。むしろ毎日誰もが使う日用品こそ意義が大きい。シャンプー容器側面の凹凸で触ってリンスと区別できるとか、牛乳パック上部の切り欠き、左右どちらの手でも使えるはさみなんかが代表例だね。
医学生医学生
シャンプーのギザギザ、そういう意味があったんですね。では、知的障害者が対象外というのは明らかにおかしいですよね。
ドクタードクター
そう、理念と正反対だ。ユニバーサルデザインは特定の集団を除外しない。7原則には「使い方が簡単で直感的にわかる」「必要な情報がすぐにわかる」という項目があって、これは知的障害のある人、認知症の人、子ども、言語に不慣れな外国人にとって特に大切な配慮なんだ。ピクトグラムがその代表例だよ。
医学生医学生
利用者の適応能力が求められる、というのも……使い方を覚えてもらう努力は必要な気がして、少し迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるけれど、ここが一番大事な考え方なんだ。ユニバーサルデザインは、利用者が製品に合わせるのではなく、製品や環境の側があらかじめ多様な利用者に合わせておく。特別な技能や慣れを前提にすると、高齢者や障害のある人が使えなくなってしまう。だから利用者に適応能力を求めるのは理念に反するんだ。
医学生医学生
なるほど、「人が合わせる」のではなく「モノが合わせる」んですね。長時間使っても疲れないというのは、7原則に入っていますか。
ドクタードクター
入っている。「身体的な負担が少ない」という原則で、無理のない姿勢で、少ない力で、繰り返し長時間使っても疲れにくいことを求めている。握力の弱い高齢者や関節リウマチの人を想定したものだけれど、結果的に誰にとっても使いやすくなるんだ。
医学生医学生
うっかりミスが危険につながりにくい、というのも原則の一つですよね。医療安全の講義で聞いたフールプルーフと似ている気がします。
ドクタードクター
鋭いね。「エラーへの寛容性」と呼ばれる原則で、誤操作が起こりにくく、たとえ誤っても重大な事故に直結しない設計を求める。ガスコンロの立ち消え安全装置、パソコンの元に戻す機能、押しながら回さないと開かない薬の容器などが例だ。医療安全のフールプルーフやフェイルセーフと根っこは同じ考え方だよ。
医学生医学生
ということは、正しいのは日用品が対象、長時間使っても疲れない、うっかりミスが危険につながりにくい、の3つですね。
ドクタードクター
正解。7原則を全部挙げておこう。誰でも公平に使える、使い方の自由度が高い、使い方が簡単で直感的、必要な情報がすぐわかる、うっかりミスが危険につながらない、身体的負担が少ない、近づいて使うのに十分な大きさと空間がある。この7つだ。
医学生医学生
病院実習で、案内表示が色分けされた床のラインになっていたのを思い出しました。あれも情報がすぐわかる工夫ですね。
ドクタードクター
いい例だね。病院は高齢者、障害のある人、外国人、体調の悪い人が集まる場所だから、ユニバーサルデザインの考え方がとても重要になる。歴史的には、障害のある人も地域で普通の生活を送れる社会を目指すノーマライゼーションの理念があり、その実現手段としてバリアフリーが進み、さらに対象を限定しない考え方としてユニバーサルデザインが広まった。わが国ではバリアフリー法がハード・ソフト両面の整備を定めているよ。
医学生医学生
ノーマライゼーション、バリアフリー、ユニバーサルデザインの3つを流れで覚えておけば、関連問題にも対応できそうです。
ドクタードクター
その通り。選択肢を見て迷ったら、「特定の人を除外していないか」「利用者に努力を強いていないか」と自問してみるといい。それに当てはまる記述は理念と逆だと判断できるはずだ。

まとめ

ユニバーサルデザインは、年齢・体格・障害の有無・言語などにかかわらず、できる限りすべての人が特別な改造なしに使えるよう、製品や環境をはじめから設計する考え方です。対象は建物だけでなく日用品や情報など生活のあらゆるものに及び、知的障害者を含め特定の人を除外せず、利用者に適応能力を求めるのではなく製品側が利用者に合わせることを基本とします。公平性、柔軟性、単純性、知覚性、エラーへの寛容性(うっかりミスが危険につながらない)、身体的負担の少なさ(疲れにくい)、十分な空間の7原則として整理されています。既存の障壁を後から取り除くバリアフリー、その背景にあるノーマライゼーションとの違いを理解しておくことは、多様な患者が集まる医療現場の環境づくりや医療安全の考え方にもつながります。

解答・解説

正解はa, b, eです

ユニバーサルデザイン(universal design)とは、年齢・性別・体格・障害の有無・国籍や言語などにかかわらず、できる限り多くの人が、特別な改造や専用設計なしにそのまま使えるように、製品・建物・環境・情報などをはじめから設計しようとする考え方である。1980年代に米国の建築家ロナルド・メイス(Ronald Mace)が提唱し、ノースカロライナ州立大学のグループが「ユニバーサルデザインの7原則」としてまとめた。

7原則

1. 誰でも公平に使える(公平性) 2. 使い方の自由度が高い(柔軟性:右利き・左利きどちらでも使える等) 3. 使い方が簡単で直感的にわかる(単純性) 4. 必要な情報がすぐにわかる(知覚性:視覚・聴覚・触覚など複数の手段で伝える) 5. うっかりミスや危険につながらない(安全性:エラーへの寛容性) 6. 身体的な負担が少なく、疲れにくい(省体力) 7. 接近して使うのに十分な大きさと空間がある(空間性) 本問は、この7原則と「対象は“すべての人”であり、あらゆる製品・環境が対象になる」という基本理念を押さえていれば解ける。「特定の人を対象外とする」「利用者側に努力や適応を求める」といった記述は、ユニバーサルデザインの理念と正反対であると判断すればよい。

選択肢考察

  1. ○a.  日用品は対象である。

    ユニバーサルデザインの対象は建築物や公共交通機関に限らず、日用品・家電・文具・包装・案内表示・情報機器など生活にかかわるものすべてである。むしろ誰もが毎日使う日用品こそ適用の意義が大きい。例として、シャンプー容器側面の凹凸(触ってリンスと区別できる)、牛乳パック上部の切り欠き、押しやすい大型スイッチ、左右どちらの手でも使えるはさみなどが挙げられる。

  2. ○b.  長時間使っても疲れない。

    7原則の一つ「身体的な負担が少ない(low physical effort)」に該当する。無理のない姿勢で、少ない力で操作でき、繰り返し・長時間使っても疲れにくいことが求められる。握力の弱い高齢者や小児、関節リウマチなどの障害がある人でも使えることを意図しており、健常者にとっても使いやすさにつながる。

  3. ×c.  知的障害者は対象ではない。

    ユニバーサルデザインは「可能な限りすべての人」を対象とし、特定の集団を除外しない。知的障害者も当然対象である。7原則のうち「使い方が簡単で直感的にわかる(単純性)」「必要な情報がすぐにわかる(知覚性)」は、知的障害者・認知症の人・子ども・その国の言語に不慣れな外国人などにとって特に重要な配慮であり、ピクトグラム(絵文字による案内表示)はその代表例である。

  4. ×d.  利用者の適応能力が求められる。

    ユニバーサルデザインは、利用者が製品や環境に合わせるのではなく、製品や環境の側があらかじめ多様な利用者に合わせておくという発想である。使い方を覚える努力や特別な技能・適応能力を必要とせず、誰でも初めてでもすぐに使えることを目指す(単純性・柔軟性の原則)。利用者の適応能力を前提とすると、高齢者や障害者などが使えなくなり、理念に反する。

  5. ○e.  うっかりミスが危険につながりにくい。

    7原則の一つ「うっかりミスや危険につながらない(tolerance for error:エラーへの寛容性)」に該当する。誤操作が起こりにくく、たとえ誤って操作しても重大な事故や危険に直結しない設計が求められる。例として、ガスコンロの立ち消え安全装置、パソコンの「元に戻す」機能、押し込みながら回さないと開かないチャイルドレジスタンス容器などがある。医療安全におけるフールプルーフ・フェイルセーフの考え方とも共通する。

関連概念の整理

・ノーマライゼーション(normalization):障害のある人も、障害のない人と同じように地域社会で普通の生活を送れる社会を目指す理念。1950年代にデンマークのバンク-ミケルセンが提唱した。 ・バリアフリー(barrier-free):すでに存在する障壁(段差、狭い通路、情報の障壁、制度や意識の障壁など)を、主に高齢者・障害者のために取り除くという考え方。段差の解消、駅へのエレベーター設置、点字ブロック、手すりの設置などが例である。「障壁が生じてから除去する」事後的・特定対象型の発想といえる。 ・ユニバーサルデザイン:障壁を後から取り除くのではなく、はじめから障壁が生じないよう、すべての人を対象に設計する事前的・全員対象型の発想である。バリアフリーを発展させた概念として位置づけられる。 歴史的には、ノーマライゼーションの理念の実現手段としてバリアフリーが推進され、さらに対象を障害者・高齢者に限定しない考え方としてユニバーサルデザインが普及した。わが国では「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法、2006年)」がハード・ソフト両面の整備を定めており、ユニバーサルデザインの考え方も取り入れられている。

POINT

・ユニバーサルデザインは「すべての人」が対象で、特定の人(障害者の種類など)を除外しない。 ・日用品・建物・情報など、生活にかかわるあらゆるものが対象となる。 ・利用者が製品に合わせるのではなく、製品が利用者に合わせる(利用者に適応能力を求めない)。 ・7原則:公平性、柔軟性、単純性(直感的)、知覚性(情報がわかる)、安全性(ミスが危険につながらない)、省体力(疲れにくい)、空間性(十分な大きさと空間)。 ・バリアフリー=既存の障壁を取り除く、ユニバーサルデザイン=はじめから障壁をつくらない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。