StudyMed医師国家試験

麻痺よりも重いもの―「言葉が通じない」ことが脳卒中リハビリを止める理由

第107回医師国家試験 E問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第27問

脳血管障害による片麻痺患者のリハビリテーションで最も大きな阻害因子となるのはどれか。

  1. a.痙縮
  2. b.全失語
  3. c.構成失行
  4. d.尖足変形
  5. e.肩手症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳卒中後の片麻痺のリハビリで何が一番の壁になるかを問う問題だ。選択肢には運動器の問題と高次脳機能障害が混ざっている。着眼点は「リハビリはどうやって成り立っているか」。そこから考えてみよう。
医学生医学生
リハビリというと、麻痺した手足を動かす訓練のイメージなので、痙縮や尖足のような体の問題が一番困りそうに思えます。
ドクタードクター
そう考える人は多いね。でもリハビリの本質は、療法士の指示を理解して、目的に沿った動作を患者さん自身が繰り返し練習すること、つまり運動学習なんだ。だから成果を左右するのは麻痺の重さだけではなく、指示を理解できるか、意思を伝えられるか、練習を覚えて次に生かせるか、という認知やコミュニケーションの面が大きい。
医学生医学生
そうか、指示が伝わらなければ、そもそも練習が始められないですね。
ドクタードクター
その通り。そこで正解は全失語だ。全失語は話す、聞いて理解する、読む、書くのすべてが高度に障害された状態で、多くは左中大脳動脈領域の広い梗塞でBroca野とWernicke野を含む言語野全体が損傷されて起こる。右片麻痺を伴うことが多いのも特徴だね。
医学生医学生
神経内科の講義で、Broca失語は非流暢だけど理解は比較的保たれ、Wernicke失語は流暢だけど理解が悪い、と習いました。全失語はその両方が重いということですね。
ドクタードクター
よく整理できている。理解も表出もできないと、訓練の目的を伝えることも、患者さんが痛みや困りごとを訴えることも難しい。能動的な練習を引き出せないから、麻痺が軽くてもADLの自立が難しくなりやすいんだ。では痙縮はどうだろう。
医学生医学生
痙縮は錐体路障害で伸張反射が亢進して、速度依存性に抵抗が増える状態でしたね。強いと関節が動かしにくくなりそうですが……。
ドクタードクター
そう、動作の妨げにはなる。でもストレッチや可動域訓練、装具、バクロフェンやチザニジンなどの内服、ボツリヌス毒素の筋注で調整できる。しかも片麻痺では下肢伸筋の痙縮が膝の支持性を高めて、立位や歩行を助けることすらあるんだ。
医学生医学生
痙縮が役に立つこともあるのは意外でした。尖足変形も、装具で対応できそうですね。
ドクタードクター
その通り。尖足は下腿三頭筋の痙縮や放置による拘縮で足関節が底屈位で固まる変形だけど、早期からの可動域訓練で予防でき、短下肢装具やボツリヌス毒素療法、重い例ではアキレス腱延長術もある。むしろリハビリで予防・治療すべき対象なんだ。
医学生医学生
肩手症候群は、臨床実習でリハビリ科を回ったときに、麻痺側の手がむくんで痛がっている患者さんを見ました。
ドクタードクター
いい経験だね。肩の痛みと運動制限、手の腫脹や皮膚温・色調の変化を伴い、CRPSのI型に含まれる。痛みで上肢の訓練が妨げられることはあるけれど、良肢位の保持、愛護的な可動域訓練、浮腫管理、ステロイド内服などで改善が期待できるし、上肢に限局した問題なんだ。
医学生医学生
構成失行は高次脳機能障害なので、全失語と同じくらい厄介に思えて迷いました。
ドクタードクター
迷うのは自然だよ。構成失行は図形の模写や積み木など、部分を空間的に正しく配置できない障害で、主に頭頂葉病変で起こり、左右どちらの半球でも生じうる。でも言葉による指示は理解できるから、動作を分解したり手順を決めて繰り返したりと、工夫しながら訓練を進められる。
医学生医学生
つまり、体の問題は治療やリハビリの対象になるけれど、コミュニケーションの土台が崩れると訓練そのものが成り立たない、ということですね。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の核心だ。発展として、ほかの阻害因子も押さえておこう。意識障害や重度認知症、右半球病変による左半側空間無視や病態失認、意欲低下や脳卒中後うつ、肺炎や心不全などの重い合併症も、リハビリの成果を大きく左右する。
医学生医学生
半側空間無視の患者さんは、自分の麻痺に気づかずに立ち上がろうとして転倒しそうになると聞きました。
ドクタードクター
そう、安全な動作の学習が進みにくく転倒リスクも高い。それから失語の患者さんと接するときは、短く簡単な言葉で話す、ジェスチャーや絵、実物を使う、はい・いいえで答えられる質問にする、ゆっくり待つ、といった工夫が大切だ。OSCEの医療面接でも役立つ視点だから覚えておこう。

まとめ

脳卒中後の片麻痺のリハビリテーションは、患者が指示を理解し自ら動作を繰り返す運動学習によって成り立つため、言語の理解と表出がともに高度に障害される全失語は最も大きな阻害因子となります。全失語は左中大脳動脈領域の広範な病変で生じ、右片麻痺を伴うことが多いのが特徴です。一方、痙縮・尖足変形・肩手症候群は薬物療法や装具、運動療法で対応でき、構成失行も指示理解が保たれていれば工夫して訓練を進められます。意識障害、重度認知症、半側空間無視、病態失認、意欲低下なども重要な阻害因子です。身体面よりも認知・コミュニケーション面がリハビリの成否を左右するという視点は、リハビリ計画や予後予測を考えるうえでの土台になります。

解答・解説

正解はbです

脳卒中後の片麻痺に対するリハビリテーションは、患者が療法士の指示を理解し、目的に沿った動作を自ら繰り返し練習すること(運動学習)によって成り立つ。したがって、リハビリテーションの成果を左右する要因は、麻痺そのものの重さだけではない。指示の理解や意思の伝達ができるか、練習の内容を覚えて次に生かせるか、といった認知・コミュニケーション面の能力が大きく影響する。 痙縮、尖足変形、肩手症候群のような運動器・末梢側の問題は、薬物療法・装具・運動療法などで対応でき、それ自体がリハビリテーションで治療・予防すべき対象でもある。構成失行のような高次脳機能障害も、指示が理解できれば代償手段を含めて訓練を進められる。これに対し、言語の理解と表出の両方が高度に障害された状態では、訓練の目的や方法を伝えること自体が難しく、能動的な練習が引き出せない。本問では、コミュニケーションが根本から成り立たなくなる障害がどれかを考えればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  痙縮

    痙縮は、錐体路(上位運動ニューロン)障害によって伸張反射が亢進し、筋を他動的に伸ばしたときの抵抗が速度に依存して増す状態である。強い痙縮は関節可動域の制限や動作の妨げとなるが、ストレッチ・関節可動域訓練、装具、経口抗痙縮薬(バクロフェン、チザニジンなど)、ボツリヌス毒素の筋注などで調整できる。また片麻痺では、下肢の伸筋群の痙縮が膝を伸ばした位置での支持性を高め、立位や歩行を助けることもある。必ずしも阻害因子になるとは限らず、最も大きな阻害因子とはいえない。

  2. ○b.  全失語

    全失語は、話す・聞いて理解する・読む・書くという言語機能のすべてが高度に障害された状態である。多くは優位半球(通常は左半球)の中大脳動脈領域の広範な梗塞などで、Broca野とWernicke野を含む言語野全体が損傷されて生じ、右片麻痺を伴うことが多い。療法士の指示や訓練の目的が理解できず、患者も自分の意思や困っていることを伝えられないため、目的をもった能動的な動作を引き出すことが極めて難しい。その結果、運動学習が進まず、麻痺が軽くても日常生活動作(ADL)の自立が困難になりやすい。コミュニケーションの基盤そのものが失われる点で、選択肢の中で最も大きな阻害因子である。

  3. ×c.  構成失行

    構成失行(構成障害)は、図形の模写や積み木の組み立てなど、部分を空間的に正しく配置してまとまった形を作ることができない障害である。主に頭頂葉の病変で生じ、左右どちらの半球の病変でも起こりうる。ADLでは物の組み立て、整理整頓、衣服の着方(着衣失行を伴う場合)などに支障が出ることがある。しかし言語による指示は理解できるため、動作を分解して練習する、手順を決めて繰り返すといった方法で訓練は十分に可能であり、全失語ほどの阻害因子とはならない。

  4. ×d.  尖足変形

    尖足は、足関節が底屈位(つま先が下がった状態)で固まる変形であり、下腿三頭筋の痙縮や、麻痺側下肢を放置した結果の拘縮によって生じる。歩行時のつまずきや立位の不安定の原因になるが、早期からの関節可動域訓練・ストレッチによる予防、短下肢装具(AFO)の使用、ボツリヌス毒素療法、重度例ではアキレス腱延長術などの手術で対応できる。リハビリテーションで予防・治療すべき対象であり、最も大きな阻害因子とはいえない。

  5. ×e.  肩手症候群

    肩手症候群は、脳卒中後の麻痺側上肢に生じる、肩の痛みと運動制限、手の腫脹・疼痛・皮膚温や色調の変化などを特徴とする病態で、複合性局所疼痛症候群(CRPS)I型に含まれる。発症後数週〜数か月に起こりやすい。疼痛のために上肢の訓練が妨げられることはあるが、良肢位の保持、愛護的な関節可動域訓練、浮腫の管理、副腎皮質ステロイドの内服などで改善が期待できる。上肢に限局した問題であり、最も大きな阻害因子とはいえない。

脳卒中リハビリテーションの主な阻害因子

・意識障害、重度の認知症:訓練への参加自体が困難。 ・全失語など重度のコミュニケーション障害:指示理解・意思伝達ができない。 ・半側空間無視(主に右半球病変による左側の無視)や病態失認:麻痺や無視に気づかず、安全な動作の学習が進みにくい。転倒の危険も高い。 ・意欲の低下、脳卒中後うつ:訓練量が確保できない。 ・重篤な合併症:心不全、不整脈、肺炎、重い全身状態など。 一般に、身体面の障害(麻痺、痙縮、拘縮、疼痛)よりも、意識・認知・コミュニケーション・意欲の障害のほうが、リハビリテーションの成果を大きく左右する。

失語の分類(要点)

・Broca失語(運動性失語):発話が非流暢、理解は比較的保たれる。左前頭葉下部。 ・Wernicke失語(感覚性失語):発話は流暢だが錯語が多く、理解が障害される。左側頭葉上部後方。 ・伝導失語:理解・発話は比較的良好だが、復唱が特に障害される。弓状束など。 ・全失語:発話・理解・復唱・読み書きすべてが高度に障害される。左中大脳動脈領域の広範な病変。

失語患者との接し方

短く簡単な言葉で話す、ジェスチャーや絵・実物を用いる、はい/いいえで答えられる質問にする、ゆっくり待つ、といった工夫が有用である。

POINT

・脳卒中後の片麻痺のリハビリテーションでは、指示理解・意思疎通ができないこと(全失語、重度認知症、意識障害)が最大の阻害因子となる。 ・痙縮、尖足、肩手症候群などの身体的合併症は、薬物療法・装具・運動療法で対応可能であり、リハビリテーションの治療対象でもある。 ・全失語は優位半球(通常左)の中大脳動脈領域の広範な病変で生じ、右片麻痺を伴うことが多い。 ・半側空間無視や病態失認も予後不良因子として重要である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。