食道を失ったら何でつなぐ?―「胃管」が再建の主役である理由
第107回医師国家試験 D問題 第2問
国試問題にチャレンジ
胸腹部食道切除後の再建に最も多く使用されるのはどれか。
- a.胃
- b.空腸
- c.回腸
- d.大腸
- e.筋皮弁
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胸腹部食道切除後の再建では、胃の大弯側を細長く形成した胃管が最も多く用いられる標準術式です。胃管は頸部まで届く長さがあり、右胃大網動静脈を中心とした血流が安定し、頸部での吻合1か所で再建が完了するため、手技が簡便で合併症も抑えやすいという利点があります。胃切除歴などで胃が使えない場合は結腸が選ばれ、頸部食道や下咽頭の切除後には遊離空腸移植が一般的で、筋皮弁の使用は限定的です。再建は臓器と経路(後縦隔・胸骨後・胸壁前)の組み合わせで考え、術後は逆流、ダンピング症候群、胃管癌などに注意する必要があります。再建臓器に求められる条件から選択理由を理解しておくと、消化器外科の術式全般を学ぶ土台になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
食道癌などで胸部から腹部にかけての食道を切除した後、失われた食物の通り道(消化管の連続性)を何で作り直すか、という再建臓器の選択を問う問題である。
考え方
胸部食道癌の標準手術は、右開胸(または胸腔鏡下)で胸腹部食道を切除し、リンパ節郭清を行ったうえで、頸部の残存食道と腹部の消化管をつなぐものである。再建臓器に求められる条件は、(1) 頸部まで届く十分な長さがあること、(2) 血流が安定していること、(3) 吻合箇所が少なく手術操作が簡便で、縫合不全などの合併症が少ないことである。 胃は大弯側を細長く形成した「胃管」にすると頸部まで容易に届き、右胃大網動静脈(および右胃動静脈)からの血流が保たれる。胃管の先端を頸部食道とつなぐだけでよいため吻合は1か所で済み、下部の消化管の連続性は保たれたままである。このため、胃管による再建が標準術式であり、最も多く用いられる。胃切除の既往などで胃が使えない場合に、結腸や空腸などが代わりに選ばれる。
選択肢考察
- ○a. 胃
胸腹部食道切除後の再建では胃(胃管)が最も多く用いられる。胃管は十分な長さが確保でき、右胃大網動静脈を中心とした血流が安定している。頸部食道との吻合1か所だけで再建が完了するため、手術時間が短く、手技も比較的簡便である。欠点としては、噴門(下部食道括約部)がなくなることによる胃内容の逆流や逆流性食道炎、胃の貯留能が低下することによるダンピング症候群、胃管に新たに癌が発生する可能性(胃管癌)などがある。
- ×b. 空腸
空腸は、胸腹部食道切除後の再建では主な選択肢ではない。腸間膜の血管の走行上、頸部まで長く挙上することが難しいためである。一方、下咽頭癌や頸部食道癌の切除後には、血管を付けて空腸の一部を切り離し、頸部の血管とつなぐ遊離空腸移植が広く行われる。また、下部食道や食道胃接合部の癌で下部食道と胃(噴門側または全部)を切除した場合には、空腸を挙上して吻合する(Roux-en-Y再建など)。空腸は内径が食道に近く、自ら蠕動運動を持つ利点があるが、吻合箇所が多くなること、挙上できる長さに限りがあることが欠点である。
- ×c. 回腸
回腸を単独で食道再建に用いることはほとんどない。小腸を用いる場合は主に空腸が選ばれる。なお、胃が使えないときの大腸再建の一つとして、回腸末端を右側結腸と一緒に挙上する回結腸再建があり、回腸が再建臓器の一部に含まれることはある。
- ×d. 大腸
大腸(結腸)は、胃に次いで用いられる再建臓器である。胃癌や胃潰瘍などで胃切除の既往がある場合や、胃に病変がある場合など、胃が使えないときに選ばれる。右側結腸(回結腸を含む)や左側結腸が用いられる。長さは十分確保できるが、頸部での食道との吻合に加えて、腹部で結腸と胃(または空腸)との吻合、残った結腸同士の吻合が必要となり、手技が煩雑になる。また血流障害による移植腸管の壊死が起こりうる。
- ×e. 筋皮弁
筋皮弁は、筋肉とそれを覆う皮膚・皮下組織を血管付きで一塊として移動・移植する組織であり、大胸筋皮弁などが用いられる。頸部食道や下咽頭の欠損を補う目的などに限定的に使われるが、胸腹部食道切除後の再建にはほとんど用いられない。
食道再建の要素
食道再建は「再建臓器」と「再建経路」の組み合わせで考える。 ・再建臓器:胃(第一選択)、結腸(胃が使えないとき)、空腸(頸部食道の遊離空腸移植、下部食道・噴門の切除後など)、筋皮弁(限定的) ・再建経路:後縦隔経路(食道があった場所を通す。最も生理的で距離が短い)、胸骨後経路(胸骨の裏を通す)、胸壁前経路(胸の皮下を通す。縫合不全時の処置がしやすいが距離が長く、外観や通過に問題がある)
胃が使えない主な状況
・胃切除の既往(日本では胃癌・胃潰瘍の手術歴をもつ患者が少なくない) ・胃癌など胃に同時に病変がある場合 これらの場合は結腸(特に右側結腸・回結腸)を用いることが多い。
食道切除術以外の対応
根治切除が難しい場合や通過障害の緩和を目的とする場合には、化学放射線療法のほか、食道ステント留置、バイパス手術、胃瘻・腸瘻造設などが行われる。
食道切除後の主な合併症
縫合不全、反回神経麻痺(嗄声・誤嚥)、肺炎、乳び胸、吻合部狭窄、逆流性食道炎、ダンピング症候群などがある。
POINT
・胸腹部食道切除後の再建臓器は胃(胃管)が第一選択で、最も多い。 ・理由:頸部まで届く長さと安定した血流(右胃大網動静脈)があり、吻合が1か所で済む。 ・胃が使えないとき(胃切除後など)は結腸が次に選ばれる。 ・頸部食道・下咽頭切除後の再建では遊離空腸移植が一般的である。
