胎内で奪われる「聞こえ」―TORCHのRとCが鍵を握る先天性感音難聴
第107回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
胎児期の感染が感音難聴の原因となるのはどれか。2つ選べ。
- a.EBウイルス
- b.風疹ウイルス
- c.サイトメガロウイルス
- d.インフルエンザウイルス
- e.ヒトパピローマウイルス〈HPV〉
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
胎児期の感染で感音難聴を起こす代表的なウイルスは、TORCH症候群に含まれる風疹ウイルスとサイトメガロウイルスです。先天性風疹症候群は妊娠初期の初感染で起こり、先天性心疾患・感音難聴・白内障が三大症状で、妊娠前のMRワクチン接種で予防できます。先天性CMV感染症は最も頻度の高い先天性感染症で、非遺伝性の先天性感音難聴の最大の原因であり、出生時に無症状でも遅れて難聴が出現・進行することがあるため、生後3週以内の尿検査による診断と継続的な聴力の評価が重要です。EBウイルスやインフルエンザウイルス、HPVは胎内感染で感音難聴を起こすことはなく、HPVでは産道感染による喉頭乳頭腫が問題となります。TORCHの各病原体と特徴的所見を結びつけておくことは、産科・小児科・耳鼻咽喉科にまたがる母子感染症の理解の土台になります。
解答・解説
正解はb, cです
胎児期(子宮内)に病原体が母体から胎盤を通じて胎児へ移行すると、先天異常や臓器障害を起こすことがある。こうした母子感染症の代表を頭文字でまとめたのがTORCH症候群である(T:トキソプラズマ、O:その他〈梅毒、パルボウイルスB19、水痘など〉、R:風疹〈Rubella〉、C:サイトメガロウイルス〈Cytomegalovirus〉、H:単純ヘルペスウイルス〈Herpes simplex virus〉)。 感音難聴は、内耳(蝸牛)や聴神経・中枢聴覚路の障害による難聴である。胎内感染で感音難聴を起こす代表的なウイルスは風疹ウイルスとサイトメガロウイルス(CMV)であり、どちらもTORCHに含まれる。特に先天性CMV感染症は、遺伝性難聴を除いた先天性感音難聴の原因として最多とされる。 選択肢のうち、EBウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトパピローマウイルスはいずれも胎内感染によって先天性感音難聴を起こす病原体としては知られていない。TORCHの構成を覚えていれば、正解の2つを選ぶことができる。
選択肢考察
- ×a. EBウイルス
Epstein-Barr(EB)ウイルスはヘルペスウイルス科に属し、主に唾液を介して感染する。伝染性単核球症の原因となるほか、Burkittリンパ腫、上咽頭癌、慢性活動性EBウイルス感染症などに関与する。胎内感染による先天異常の原因としては重要でなく、胎児期感染による感音難聴の原因にはならない。
- ○b. 風疹ウイルス
妊婦(特に妊娠初期、概ね20週頃まで)が風疹に初感染すると、ウイルスが胎盤を通って胎児に感染し、先天性風疹症候群(CRS:congenital rubella syndrome)を起こす。三大症状は先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、感音難聴、白内障である。感染時期が早いほど発症率が高く多彩な異常を生じるが、難聴は妊娠中期の感染でも起こりうる。このほか緑内障、網膜症、低出生体重、血小板減少性紫斑、肝脾腫、精神運動発達遅滞などもみられる。
- ○c. サイトメガロウイルス
サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、母子感染による先天性感染症の中で最も頻度が高い(日本では出生児の約0.3%程度とされる)。妊婦の初感染だけでなく、既感染妊婦の再活性化や再感染でも胎児に感染しうる。症候性の場合は低出生体重、黄疸、点状出血・紫斑、肝脾腫、小頭症、脳室周囲石灰化、脈絡網膜炎、血小板減少、肝機能障害、感音難聴などを呈する。出生時に無症状でも、後から難聴が出現・進行することがあり、遺伝性以外の先天性感音難聴の最大の原因である。
- ×d. インフルエンザウイルス
インフルエンザウイルスは飛沫・接触で感染する急性呼吸器感染症の原因ウイルスである。通常ウイルス血症を起こしにくく、胎盤を通過して胎児に感染することはまれで、先天異常や先天性感音難聴の原因とはならない。ただし妊婦は重症化しやすいため、妊娠中のインフルエンザワクチン接種が推奨されている。
- ×e. ヒトパピローマウイルス〈HPV〉
ヒトパピローマウイルス(HPV)は皮膚・粘膜の上皮に感染し、尋常性疣贅、尖圭コンジローマ、子宮頸癌、中咽頭癌などの原因となる。母子感染としては、分娩時に産道で感染して小児の再発性呼吸器乳頭腫症(喉頭乳頭腫)を起こすことが知られているが、胎内感染による感音難聴の原因にはならない。
先天性風疹症候群(CRS)
妊娠初期の初感染で起こる。妊娠1か月以内の感染では発症率が非常に高く、週数が進むにつれて低下する。三大症状は先天性心疾患、感音難聴、白内障。予防には妊娠前の風疹ワクチン(MRワクチン)接種が有効であり、生ワクチンのため妊娠中は接種できず、接種後は2か月間の避妊が勧められる。妊婦の抗体価(HI法)が低い場合は、分娩後早期のワクチン接種が推奨される。成人男性の抗体保有率が低い世代があり、流行時にCRSが発生したことから、成人への接種も推進されている。
先天性CMV感染症
日本の成人女性のCMV抗体保有率は低下傾向にあり、妊娠中の初感染が問題となる。有効なワクチンはなく、予防には妊婦への衛生指導(乳幼児の唾液や尿に触れた後の手洗い、食器やおもちゃの共有を避けるなど)が重要である。診断には生後3週以内の新生児尿を用いたCMV核酸検査が用いられる(3週以降では出生後の感染と区別できない)。症候性の新生児には抗ウイルス薬(バルガンシクロビルなど)による治療で聴力や発達の予後改善が期待される。
新生児聴覚スクリーニング
自動聴性脳幹反応(AABR)や耳音響放射(OAE)を用いて出生後早期に難聴を発見する。先天性CMV感染による難聴は遅発性・進行性のことがあるため、スクリーニングを通過しても経過観察が必要な場合がある。
TORCH症候群の主な所見
トキソプラズマ:水頭症、脳内石灰化(びまん性)、網脈絡膜炎 梅毒:肝脾腫、骨軟骨炎、Hutchinson三徴(実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯) 風疹:心疾患、難聴、白内障 CMV:小頭症、脳室周囲石灰化、難聴、網脈絡膜炎 単純ヘルペス:主に産道感染で、皮膚水疱、脳炎、全身播種
POINT
・胎内感染で感音難聴を起こす代表は風疹ウイルスとサイトメガロウイルス(TORCHのRとC)。 ・先天性風疹症候群の三大症状:先天性心疾患、感音難聴、白内障。 ・先天性CMV感染症は最も頻度の高い先天性感染症で、非遺伝性の先天性感音難聴の最大の原因。出生時無症状でも遅発性に難聴が出現しうる。 ・先天性梅毒でも内耳性難聴(Hutchinson三徴の一つ)が起こる。 ・HPVの母子感染は産道感染による喉頭乳頭腫が問題となる。
