右肩下がりの曲線が語る「年齢」―オージオグラムで読み解く老人性難聴
第107回医師国家試験 C問題 第4問
国試問題にチャレンジ
純音聴力検査(気導検査)の結果(①~⑤)を別に示す。 老人性難聴に特徴的なのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
オージオグラムは縦軸が下に行くほど聞こえが悪く、どの周波数帯が低下しているかという形から難聴の原因を推定できます。老人性難聴は、高音を担当する蝸牛基底回転の有毛細胞が加齢の影響を受けやすいため、両側対称性に高音域から低下する高音漸傾型(右肩下がり)を示します。4,000 Hz付近を底として8,000 Hzで回復するc5 dipは騒音性難聴、低音障害型は急性低音障害型感音難聴やMénière病初期、水平型は伝音難聴や一部の突発性難聴を考える手がかりになります。老人性難聴では純音閾値の割に語音明瞭度が低下しやすく、補聴器などによる早期の聴覚補償は認知症予防の観点からも注目されています。オージオグラムの形を読む力は、難聴の鑑別と患者への適切な対応の出発点になります。
解答・解説
正解はbです
純音聴力検査は、周波数ごとに純音を聞かせて「やっと聞こえる最小の音の強さ(閾値、dB)」を測る検査である。結果はオージオグラムに描かれ、横軸が周波数(左が低音、右が高音)、縦軸が聴力レベル(下に行くほど閾値が高い=聞こえが悪い)である。したがって、曲線が下がっている周波数帯ほど難聴が強い。 難聴は、どの周波数帯が障害されているかという「型(パターン)」によって原因疾患をある程度推定できる。主な型は次の通りである。 ・水平型(平坦型):全周波数でほぼ同程度に低下 ・高音漸傾型(右下がり型):高音域ほど低下が強い ・低音障害型(上昇型):低音域が主に低下 ・dip型:特定の周波数(典型的には4,000 Hz付近)だけが谷状に落ち込む ・谷型(皿型):中音域が最も悪い ・山型:中音域が比較的保たれ、低音域と高音域がともに低下 老人性難聴(加齢性難聴)は、加齢に伴う内耳(蝸牛)や聴神経の変性による両側対称性の感音難聴である。蝸牛では高い音を担当する有毛細胞が基底回転(入口側)にあり、ここが加齢の影響を最も早く、強く受ける。そのため高音域から聴力が落ち始め、年齢とともに徐々に中音域へ広がっていく。オージオグラムでは低〜中音域はある程度保たれ、高音域に向かってなだらかに下がっていく「高音漸傾型(右下がり型)」を示す。本問ではこのパターンを示す②が該当する。
選択肢考察
- ×a. ①
全周波数で閾値が30〜40 dB程度とほぼ一様に上昇した水平型(平坦型)である。気導検査のみでは伝音難聴か感音難聴か区別できないが、滲出性中耳炎などで鼓室に液体がたまり鼓膜・耳小骨の振動が妨げられる伝音難聴や、耳硬化症などでみられることがある。感音難聴でも突発性難聴の一部などで水平型をとりうる。高音域が選択的に悪くなるわけではないため、老人性難聴の典型像ではない。
- ○b. ②
低音〜中音域(125〜2,000 Hz付近)はおおむね保たれ、4,000 Hz付近から8,000 Hzに向けて閾値が大きく上昇している高音漸傾型(右下がり型)である。蝸牛の基底回転にある高音担当の外有毛細胞は加齢変化を最も受けやすいため、老人性難聴は高音域から始まり、年齢とともに低い周波数へ進展する。両側ほぼ対称に、このような右下がりの曲線を描くのが老人性難聴の典型であり、本問の正解である。
- ×c. ③
125〜1,000 Hzの低音域で閾値が大きく上昇し、高音域は比較的保たれた低音障害型(上昇型)である。感音難聴であれば急性低音障害型感音難聴やMénière病(初期)に典型的なパターンである。いずれも内リンパ水腫(内耳の内リンパ腔が膨らむ状態)が関与すると考えられ、蝸牛頂回転(低音を担当)が影響を受けやすい。なお、滲出性中耳炎など伝音難聴でも低音域優位の低下を示すことがある。高音から悪化する老人性難聴とは逆の形である。
- ×d. ④
低音域(125〜1,000 Hz付近)は比較的保たれ、4,000 Hz付近を底として閾値が谷状に上昇し、8,000 Hzにかけて再び回復する形である。これは騒音性難聴(または音響外傷)に典型的なnotch(dip)パターンで、4,000 Hz付近の落ち込みはc5 dipと呼ばれる(オージオメータの第5オクターブのC音がおよそ4,096 Hzにあたることに由来する)。強大音に曝露されると、外耳道の共鳴特性などの影響で、蝸牛のうち4,000 Hz付近を担当する部位の外有毛細胞が最も障害されやすいと考えられている。長期間の騒音職場勤務による騒音性難聴は、通常は両側ほぼ対称性の感音難聴となる。曝露が続くと谷は深く広くなり、周囲の周波数へ低下が広がっていく。老人性難聴では8,000 Hzに向けてさらに悪化し続けるのに対し、騒音性難聴では8,000 Hzで聴力が戻る点が鑑別の手がかりになる。なお、先天性・遺伝性難聴でみられる谷型(cookie-bite型)は、低音・高音の両端が比較的良好で、中音域を中心としたより対称的な皿状を呈する点で、4,000 Hz付近に底をもつ本図の形とは異なる。
- ×e. ⑤
中音域(2,000〜4,000 Hz付近)が比較的保たれ、低音域と高音域の両方が低下した山型である。④とちょうど逆の形になる。臨床的に頻度の高い典型パターンとはいいにくいが、Méniere病が進行して低音障害型から高音域にも障害が広がる過程で山型を示すことがあるとされる。高音域が低下してはいるものの、低音域も同程度に低下しており、低〜中音域が保たれて高音にかけて漸傾する老人性難聴とは一致しない。
純音聴力検査の基本
・気導検査:ヘッドホンで音を聞かせる。音は外耳道→鼓膜→耳小骨(中耳)→内耳→聴神経と伝わるため、どこが障害されても閾値が上昇する。 ・骨導検査:耳の後ろ(乳突部)に骨導受話器(振動子)を当て、頭蓋骨の振動で直接内耳を刺激する。外耳・中耳を迂回するため、内耳以降(感音系)の機能を反映する。 ・気導のみ低下し骨導が正常=伝音難聴、気導・骨導がともに同程度に低下=感音難聴、両者が低下し気導と骨導の差(気骨導差)もある=混合性難聴。 ・正常聴力の目安はおおむね25 dB以下である。
老人性難聴(加齢性難聴)
・両側対称性の感音難聴で、高音域から始まり徐々に進行する。 ・病理学的には、感覚細胞(有毛細胞)の障害、ラセン神経節細胞の減少(神経性)、血管条の萎縮(代謝性)などが組み合わさる(Schuknechtの分類では感覚性、神経性、代謝性〔血管条性〕、蝸牛伝音性などに分けられる)。血管条性では水平型に近い曲線を示すこともある。 ・純音閾値の割に語音明瞭度(言葉の聞き分け)が低下しやすく、「音は聞こえるが何を言っているかわからない」と訴えることが多い。騒がしい場所での会話聴取が特に苦手になる。 ・子音(「さ行」「た行」など)は高い周波数成分を多く含むため、高音域の低下が言葉の聞き違いにつながる。 ・根本的治療はなく、補聴器による聴覚補償が中心である。高度になれば人工内耳も適応となりうる。近年は加齢性難聴が認知症の修正可能な危険因子の一つとして注目されている。
オージオグラムの型と代表疾患
・高音漸傾型:老人性難聴、進行した騒音性難聴、薬剤性難聴(アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチンなど) ・c5 dip(4,000 Hz付近を底とし8,000 Hzで回復する落ち込み):騒音性難聴・音響外傷 ・低音障害型:急性低音障害型感音難聴、Ménière病初期 ・水平型:滲出性中耳炎・耳硬化症など伝音難聴、一部の突発性難聴 ・谷型(皿型、cookie-bite型):先天性・遺伝性難聴(中音域中心の対称的な皿状) ・高度〜聾型:突発性難聴の重症例など
POINT
・オージオグラムは縦軸が下に行くほど聞こえが悪い。 ・老人性難聴=両側対称性の感音難聴で、高音域から低下する高音漸傾型(右下がり型)。 ・蝸牛の基底回転(高音担当)は加齢や騒音、耳毒性薬剤の影響を受けやすい。 ・騒音性難聴はc5 dip(4,000 Hz付近を底とし8,000 Hzで回復する谷)、Ménière病初期や急性低音障害型感音難聴は低音障害型。 ・老人性難聴では純音閾値に比べて語音明瞭度の低下が目立つ。
