「赤ちゃんが動かない」の裏を読む―子宮底長が教える胎児発育不全と羊水過少
第107回医師国家試験 B問題 第47問
国試問題にチャレンジ
37歳の1回経妊0回経産婦。妊娠35週0日。昨夜から胎動の減少を自覚し来院した。これまでの妊娠経過は順調であった。身長160 cm,体重56 kg(非妊時52 kg)。血圧110/68 mmHg。尿検査:蛋白(-),糖(-)。子宮底長28 cm,腹囲85 cm。Leopold診察法では,第1頭位であった。胎児心拍は136/分であった。両下肢に浮腫を認めない。超音波検査を行うことにした。 注意して観察すべき項目はどれか。2つ選べ。
- a.羊水量
- b.胎盤の位置
- c.胎児推定体重
- d.子宮壁の厚さ
- e.胎児後頸部浮腫
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
妊娠後期の胎動減少は胎児の状態悪化を示すことがあり、子宮底長が週数に比べ小さい場合や母体の体重増加が少ない場合には、胎児発育不全(FGR)や羊水過少を疑います。子宮底長が小さくなる主な原因は胎児が小さいことと羊水が少ないことであり、胎盤機能不全では胎児尿量が減って羊水過少を伴いやすいため、超音波では胎児推定体重と羊水量を優先して評価します。FGRは推定体重-1.5 SD以下、羊水過少はAFI 5 cm以下または最大羊水深度2 cm未満が目安で、さらにNST、BPS、臍帯動脈ドプラで胎児well-beingを確認します。胎盤の位置は前置胎盤、子宮壁の厚さは子宮破裂、胎児後頸部浮腫は妊娠初期の染色体異常スクリーニングで評価する項目であり、症状と週数に応じて観察項目を選ぶ考え方が妊婦健診の基本となります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・37歳の初産婦(1回経妊0回経産)、妊娠35週0日。主訴は昨夜からの胎動減少である。胎動減少は胎児の状態悪化(低酸素など)を示すサインのことがあり、胎児の健康状態(well-being)を評価する必要がある。 ・子宮底長28 cm:妊娠後半の子宮底長はおおよそ「妊娠週数から数cm引いた値」になり、35週ではおよそ30~32 cm前後が目安である。28 cmは週数に比べて小さい。 ・体重増加は4 kg(52→56 kg)。非妊時BMIは約20.3で普通体型であり、この体型では妊娠全期間で10~13 kg程度の増加が目安とされる。35週で4 kgは少ない。 ・血圧110/68 mmHg、尿蛋白・尿糖陰性、浮腫なしで、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を示唆する所見はない。 ・腹痛や性器出血の記載はなく、常位胎盤早期剝離を強く疑う状況ではない。胎児心拍136/分は正常範囲(110~160/分)である。
考え方
胎動減少に加えて子宮底長が週数に比べ小さいことから、胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR、かつての子宮内胎児発育遅延〈IUGR〉)や羊水過少が疑われる。子宮底長が小さくなる原因は、胎児自体が小さいことと、羊水が少ないことの大きく二つである。FGRでは胎盤機能の低下により胎児の腎血流が減って尿量が減少し、羊水過少を伴いやすい。 したがって超音波検査ではまず、胎児計測(児頭大横径、腹部周囲長、大腿骨長)から推定体重を算出して週数相当の発育かを判定し、同時に羊水量を評価する。これに加えて、胎児心拍数モニタリング(ノンストレステスト)、臍帯動脈などの血流ドプラ、胎児の呼吸様運動・体動・筋緊張を含むBPS(biophysical profile score)なども胎児の状態評価に用いられる。
選択肢考察
- ○a. 羊水量
子宮底長が小さい原因として羊水過少が考えられるうえ、FGRでは胎盤機能不全による胎児尿量減少から羊水過少を伴いやすい。羊水過少は臍帯圧迫による胎児機能不全の危険因子でもあり、胎動減少を訴える本例では必ず評価すべき項目である。羊水インデックス(AFI)5 cm以下、または最大羊水深度(羊水ポケット)2 cm未満で羊水過少と判定する。
- ×b. 胎盤の位置
胎盤の位置は、前置胎盤や低置胎盤を疑うとき、特に無痛性の性器出血がある場合に重要となる。本例には出血がなく、これまでの経過も順調で、妊婦健診で胎盤位置はすでに確認されているのが通常である。胎盤・臍帯の異常がFGRの原因となることはあるが、本例の症状・所見から優先して注意すべき項目ではない。
- ○c. 胎児推定体重
子宮底長が週数に比べて小さく、母体の体重増加も少ないことから、胎児が週数相当に発育していない(FGR)可能性がある。超音波で児頭大横径(BPD)、腹部周囲長(AC)、大腿骨長(FL)を計測して推定体重を算出し、基準値と比較する。わが国では推定体重が週数の基準値から-1.5 SD以下の場合にFGRと判断するのが目安である。
- ×d. 子宮壁の厚さ
子宮壁の厚さ(子宮筋層の菲薄化)は、帝王切開や子宮筋腫核出術などの既往があり子宮破裂が懸念される場合に評価する項目である。本例は初産婦で子宮手術歴の記載もなく、腹痛もないため対象とならない。なお、常位胎盤早期剝離では胎盤後血腫による胎盤の肥厚像などを観察するが、本例ではその疑いも低い。
- ×e. 胎児後頸部浮腫
胎児後頸部浮腫(nuchal translucency:NT)は、主に妊娠11~13週頃の妊娠初期に計測する所見で、肥厚はDown症候群などの染色体異常や先天性心疾患と関連する。妊娠35週の胎動減少の評価項目ではない。
胎児発育不全(FGR)
・定義:胎児が妊娠週数に相当する発育をしていない状態。わが国では超音波推定体重が-1.5 SD以下を目安とする。旧称は子宮内胎児発育遅延(IUGR)。 ・分類: 均衡型(symmetrical):頭部と体幹がともに小さい。妊娠早期からの原因(染色体異常、先天感染〈TORCH〉など)が多い。 不均衡型(asymmetrical):頭部は比較的保たれ、腹部周囲長が小さい。妊娠後半の胎盤機能不全(妊娠高血圧症候群など)が多い。胎児が脳への血流を優先するため(brain sparing)とされる。 ・原因:母体因子(妊娠高血圧症候群、喫煙、低栄養、糖尿病の血管合併症など)、胎盤・臍帯因子(胎盤梗塞、臍帯付着異常など)、胎児因子(染色体異常、先天感染、多胎など)。
胎児well-beingの評価
・ノンストレステスト(NST):一過性頻脈の有無などで反応性を判断。 ・BPS:NST、胎児呼吸様運動、胎動、筋緊張、羊水量の5項目を評価する。 ・ドプラ血流計測:臍帯動脈の拡張期血流の途絶・逆流は胎盤血管抵抗の上昇を示し、重症化のサインである。中大脳動脈の血管抵抗低下は脳血流優先を示す。
子宮底長の目安
妊娠中期以降は「妊娠週数から数cm引いた値」前後で推移する。測定誤差の大きい簡便な指標であり、小さい場合は超音波で胎児推定体重と羊水量を確認する。
羊水過少の判定
AFI 5 cm以下、または最大羊水深度2 cm未満。原因として破水、胎盤機能不全、胎児の腎・尿路異常などがある。
POINT
・胎動減少+子宮底長が週数に比べ小さい → FGRや羊水過少を疑う。 ・超音波で確認すべきは胎児推定体重と羊水量。 ・FGRは推定体重-1.5 SD以下が目安。胎盤機能不全型では羊水過少を伴いやすい。 ・胎盤の位置は前置胎盤(無痛性出血)、子宮壁の厚さは子宮破裂、NTは妊娠初期の染色体異常スクリーニングで評価する項目である。
