StudyMed医師国家試験

介護の調整より、まず命を救え―在宅で寝たきりの高齢者に起きた重症肺炎と病診連携

第107回医師国家試験 B問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第43問

79歳の女性。昨夜から発熱していると連絡があり主治医による往診となった。7年前に脳梗塞を発症し,1年前から無床診療所の医師が主治医として在宅診療を行っている。要介護度は4で,1日中ベッド上で過ごしている。排泄,清拭,食事などには全面的な介助が必要である。高齢の夫と2人暮らしで,訪問介護サービスを利用している。認知症はなく,夫にこれ以上介護の負担をかけたくないと話している。意識は清明。身長143 cm,体重38 kg。体温38.2℃。脈拍88/分,整。血圧88/52 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 88%(room air)。口腔内と皮膚は乾燥し,右胸部にcoarse cracklesとrhonchiとを聴取する。  対応として適切なのはどれか。

  1. a.ショートステイを紹介する。
  2. b.地域医療支援病院へ紹介する。
  3. c.ケアプランの見直しを指示する。
  4. d.在宅のまま抗菌薬の経口投与を行う。
  5. e.特別養護老人ホームに緊急入所させる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、在宅診療中の寝たきりの高齢者が発熱したときの対応を問う問題だ。選択肢には介護サービスの話がたくさん並んでいるけれど、まず考えてほしいのは「今この患者さんに何が起きていて、どんな医療が必要か」という点だよ。
医学生医学生
発熱と右胸部の副雑音があるので肺炎だと思います。脳梗塞後で寝たきり、食事も全介助なので誤嚥性肺炎でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。右主気管支は左より太くて急峻に分岐するから、誤嚥物は右肺に入りやすい。次は重症度だ。バイタルサインをどう読む?
医学生医学生
SpO2が低くて、呼吸数も多いです。でも意識ははっきりしているし、本人も夫に負担をかけたくないと言っているので、在宅で何とかならないかとも思ってしまいます。
ドクタードクター
気持ちは分かるけれど、数字が示している危険を見逃してはいけない。市中肺炎の重症度分類A-DROPで考えてみよう。年齢、脱水、SpO2 90%以下、意識障害、収縮期血圧90 mmHg以下の5項目だ。
医学生医学生
女性で75歳以上、SpO2 88%、収縮期血圧88 mmHgで、少なくとも3項目。口や皮膚の乾燥から脱水もありそうなので4項目かもしれません。
ドクタードクター
その通り。3項目で重症、4項目以上なら超重症で、入院治療が必要、場合によってはICU管理も考える状態だ。さらにqSOFAでは、呼吸数22/分以上と収縮期血圧100 mmHg以下の2項目を満たすので、敗血症を疑うべき状態でもある。
医学生医学生
救急科の実習で、qSOFAが2点以上ならすぐ評価を進めるよう言われました。かなり危ない状況なんですね。
ドクタードクター
そう。必要なのは酸素投与、静脈路確保と輸液、注射用抗菌薬、血液検査や画像・培養検査、そして24時間のモニタリングだ。ところが主治医の診療所は無床だから、自分のところには入院させられない。そこでどうする?
医学生医学生
入院できる病院に紹介することになります。地域医療支援病院は、かかりつけ医からの紹介患者を受け入れる病院でしたよね。
ドクタードクター
正解。地域医療支援病院は都道府県知事が承認する病院で、紹介患者への医療提供、救急医療、病床や医療機器の共同利用、地域の医療従事者への研修といった役割をもつ。かかりつけ医を後方から支える病院と考えればいい。これが病診連携の典型的な場面だね。
医学生医学生
在宅のまま抗菌薬を飲んでもらうのは、やはり無理ですか。
ドクタードクター
経口抗菌薬での外来・在宅治療が選択肢になるのは、A-DROPで軽症の肺炎だ。今回は低酸素血症と血圧低下があるうえ、嚥下機能も落ちていると考えられるから、内服では確実性に欠ける。介護者が高齢の夫だけでは、在宅で点滴や酸素を集中的に管理するのも現実的ではないよ。
医学生医学生
ショートステイや特別養護老人ホームなら、夫の負担も減らせると思ったんですが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。ショートステイは介護者の休息などのために数日から数週間施設で介護を受ける介護保険サービスで、急性疾患の治療の場ではない。特別養護老人ホームも原則要介護3以上の人が生活する介護施設で、医師は非常勤が基本だから、重症肺炎の治療はできない。
医学生医学生
ケアプランの見直しも、夫の負担を考えると必要そうですが、今やることではないということですね。
ドクタードクター
その通り。ケアプランはケアマネジャーが作る介護サービスの計画で、見直す意義はある。ただ、それは肺炎が落ち着いてから、退院支援の中で検討することだ。急性の医療的問題を先に解決し、介護の調整は後で、という優先順位を押さえておこう。
医学生医学生
本人は意識清明なので、入院について説明して同意をもらうことも大事ですよね。
ドクタードクター
大切な視点だ。意思決定能力のある本人に病状と入院の必要性を説明し、同意を得たうえで紹介する。発展として、地域医療支援病院と特定機能病院の違いも確認しておこう。特定機能病院は厚生労働大臣が承認し、大学病院本院など高度な医療の提供・開発・研修を担う。承認者の違いはよく問われるよ。また、治療後は退院前カンファレンスなどで介護体制を見直して在宅に戻れるよう支援するし、誤嚥性肺炎の再発予防には口腔ケアや食事時の姿勢調整、嚥下リハビリテーションが重要だ。
医学生医学生
在宅医療では、在宅で診るべきか入院させるべきかを判断するのも主治医の大事な役割なんですね。

まとめ

在宅療養中の寝たきり高齢者に発熱と右胸部の副雑音がみられ、低酸素血症・血圧低下・頻呼吸を伴う場合、誤嚥性肺炎を背景とした重症肺炎で、敗血症も疑うべき状態です。A-DROPで3項目以上は重症、qSOFAで2項目以上は敗血症を疑い、酸素投与・輸液・静注抗菌薬と24時間の管理が必要となるため、無床診療所の主治医は入院可能な地域医療支援病院へ紹介します。ショートステイ、特別養護老人ホーム、ケアプランの見直しといった介護サービスの調整は、急性期治療を終えてから退院支援の中で検討すべき事項です。地域医療支援病院は都道府県知事、特定機能病院は厚生労働大臣が承認する点も併せて押さえておきましょう。在宅で診るか入院させるかを見極め、病診連携で適切な医療につなぐ判断力は、在宅医療を担う医師に欠かせない力です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・背景:79歳女性。7年前の脳梗塞の後遺症で終日臥床(寝たきり)、排泄・清拭・食事すべてに全介助を要する要介護4。無床診療所(入院ベッドをもたない診療所)の医師による在宅診療を受けている。介護者は高齢の夫のみ(いわゆる老老介護)。本人は認知症がなく意思表示が可能で、夫の介護負担を気にかけている。 ・現症:昨夜からの発熱(38.2℃)。血圧88/52 mmHgと低下、呼吸数24/分と頻呼吸、SpO2 88%(室内気)と低酸素血症がある。口腔内・皮膚の乾燥は脱水を示す。右胸部でcoarse crackles(水泡音)とrhonchi(いびき様音)を聴取する。

診断・重症度の評価

発熱と右胸部の副雑音から肺炎がまず考えられる。脳梗塞後で寝たきり・食事全介助の高齢者であり、嚥下機能の低下を背景とした誤嚥性肺炎の可能性が高い(右主気管支は左より太く急峻に分岐するため、誤嚥物は右肺に入りやすい)。 重症度は次のように評価できる。 ・A-DROP(日本呼吸器学会の市中肺炎重症度分類):Age(女性75歳以上)、Dehydration(本例では口腔・皮膚乾燥から脱水が疑われる。本来の基準はBUN 21 mg/dL以上または脱水あり)、Respiration(SpO2 90%以下)、Orientation(意識障害)、Pressure(収縮期血圧90 mmHg以下)の5項目のうち、少なくともA・R・Pの3項目、脱水を含めれば4項目を満たし、重症(3項目)〜超重症(4項目以上)に相当する。重症以上は入院治療、超重症ではICU管理も考慮される。 ・qSOFA(quick SOFA):呼吸数22/分以上、収縮期血圧100 mmHg以下の2項目を満たし(意識は清明)、感染症に伴う臓器障害、すなわち敗血症を疑うべき状態である。血圧低下が進めば敗血症性ショックへ移行しうる。 つまり本例は、酸素投与、静脈路確保と輸液、注射用抗菌薬による治療、血液検査・胸部画像検査・培養検査、そして24時間のモニタリングが必要な重症肺炎である。

設問の考え方

在宅医療・介護に関する選択肢が並ぶが、まず優先すべきは「今この患者に必要な医療が何か」である。生命に関わる急性疾患が起きている以上、介護体制の調整は後回しにして、入院治療が可能な病院へ速やかに紹介・搬送する必要がある。主治医は無床診療所の医師であり自院に入院させることはできないため、地域のかかりつけ医を支援し、紹介患者の受け入れや救急医療を担う地域医療支援病院への紹介が最も適切となる。加えて、介護者は高齢の夫一人であり、在宅で点滴や酸素投与を継続して集中的に管理することは現実的でない点も、入院を選ぶ理由となる。本人は意識清明で意思決定能力があるため、病状と入院の必要性を説明し、同意を得たうえで紹介するのが原則である。

選択肢考察

  1. ×a.  ショートステイを紹介する。

    ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)は、介護者の休息や一時的な不在の際に、要介護者が施設に数日から数週間入所して介護を受ける介護保険サービスである。急性の重症疾患を治療する場ではなく、酸素化の低下や血圧低下を伴う肺炎の患者を受け入れて集中的に治療することはできない。

  2. ○b.  地域医療支援病院へ紹介する。

    本例は低酸素血症・血圧低下・頻呼吸を伴い、敗血症も疑われる重症肺炎で、入院による酸素投与・輸液・静注抗菌薬と全身管理が必要である。主治医の診療所は無床で入院できないため、かかりつけ医からの紹介患者を受け入れ、救急医療を提供する役割をもつ地域医療支援病院へ紹介するのが適切である。病診連携の典型的な場面である。

  3. ×c.  ケアプランの見直しを指示する。

    ケアプラン(居宅サービス計画)は介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成する介護サービスの計画であり、夫の負担軽減などを考えれば将来的に見直す意義はある。しかし今は急性の重症肺炎の治療が最優先であり、介護体制の調整は病状が落ち着いてから、退院支援の過程で検討すべき事項である。

  4. ×d.  在宅のまま抗菌薬の経口投与を行う。

    経口抗菌薬による外来・在宅治療が選択肢となるのは、A-DROPで軽症(0項目)程度の肺炎である。本例は低酸素血症と血圧低下を伴う重症例で、脱水もあり、嚥下機能も低下していると考えられるため経口投与は確実性に欠ける。酸素投与や輸液、静注抗菌薬、24時間の監視が必要であり、高齢の夫のみの介護環境では在宅での管理は困難である。

  5. ×e.  特別養護老人ホームに緊急入所させる。

    特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、常時介護を要し在宅生活が困難な高齢者(原則要介護3以上)が生活する介護施設であり、医師は非常勤の配置が基本で、急性疾患に対する集中的な医療は提供できない。重症肺炎の治療の場としては不適切である。

地域医療支援病院と特定機能病院

・地域医療支援病院:医療法に基づき都道府県知事が承認する病院。原則200床以上で、紹介患者への医療提供(一定以上の紹介率・逆紹介率)、地域の医療従事者が利用できるよう病床・医療機器を共同利用に供すること、救急医療の提供、地域の医療従事者への研修などの役割をもつ。かかりつけ医を後方から支える病院と理解するとよい。 ・特定機能病院:医療法に基づき厚生労働大臣が承認する病院。原則400床以上で、高度な医療の提供・開発・研修を担う(大学病院本院など)。

在宅医療と病診連携

在宅療養中の患者に急性増悪が起こった場合、在宅で対応可能か、入院が必要かを判断するのは主治医の重要な役割である。入院が必要なときは、患者・家族の意向を確認しながら、後方支援病院(地域医療支援病院や在宅療養支援病院など)へ速やかに紹介する。在宅療養支援診療所は24時間の往診・連絡体制をとるが、無床の場合は入院先を確保する連携体制が不可欠である。治療後は退院支援・退院前カンファレンスを通じて在宅へ戻るための介護体制を再調整する。

介護保険の主なサービス

・居宅サービス:訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション、短期入所(ショートステイ)など。 ・施設サービス:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護医療院。 ・ケアプランは介護支援専門員が利用者・家族と相談して作成する。

高齢者の誤嚥性肺炎

脳血管障害の後遺症、寝たきり、口腔衛生不良などが危険因子である。不顕性誤嚥(むせを伴わない誤嚥)が多く、嫌気性菌を含む口腔内常在菌が関与する。仰臥位では下葉背側(S6、S10)に、右肺に生じやすい。予防には口腔ケアや食事時の姿勢調整、嚥下リハビリテーションが重要である。

POINT

・在宅療養中でも、低酸素血症・血圧低下・頻呼吸を伴う肺炎は入院治療の適応である。 ・A-DROPで3項目以上は重症、qSOFA 2項目以上は敗血症を疑う。 ・急性の医療的問題の解決が優先で、介護サービスの調整(ショートステイ、ケアプラン、施設入所)は後回し。 ・無床診療所の主治医は、地域医療支援病院など入院可能な病院へ紹介する(病診連携)。 ・地域医療支援病院は都道府県知事承認、特定機能病院は厚生労働大臣承認。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。