「妊娠かもしれない」がすべてを決める―下腹部痛の女性に最初に当てるべきプローブ
第107回医師国家試験 B問題 第44問
国試問題にチャレンジ
28歳の女性。下腹部痛を主訴に来院した。2日前から下腹部痛が持続しているが我慢できる程度であるという。最終月経は6週前。月経周期は30~40日,不整。腹部の触診で反跳痛と筋性防御とを認めない。 まず行うべき画像検査として適切なのはどれか。
- a.腹部CT
- b.腹部MRI
- c.腹部超音波検査
- d.下部消化管造影
- e.腹部エックス線撮影
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生殖年齢の女性の下腹部痛では、月経歴が不確かでも常に妊娠の可能性を考え、尿中hCGによる妊娠反応を確認することが出発点です。最初に行う画像検査は、被曝がなく簡便で、子宮内胎囊・付属器腫瘤・ダグラス窩の液体貯留を評価できる超音波検査であり、妊娠初期には経腟法が特に有用です。CTやエックス線は絶対禁忌ではないものの、必要性が被曝のリスクを上回るときに行う検査で、MRIは超音波で診断がつかない場合の二次検査と位置づけられます。hCG値と胎囊の有無を組み合わせて異所性妊娠を見逃さないこと、月経周期が不整な人では週数のずれも考慮することが重要です。「まず妊娠を疑い、安全な検査から始める」という姿勢は、救急外来から一般外来まであらゆる場面で女性を診る際の基本になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・28歳の生殖年齢の女性で、主訴は2日前から続く我慢できる程度の下腹部痛。 ・最終月経は6週前。月経周期は30〜40日と不整なので、「月経が遅れているだけ」なのか「妊娠している」のかは、この情報だけでは判断できない。 ・反跳痛(押した手を急に離したときに増強する痛み)や筋性防御(腹壁が反射的に硬くなる現象)はなく、腹膜刺激症状は認めない。現時点では汎発性腹膜炎や大量の腹腔内出血を強く示唆する所見はない。
考えるべき鑑別
生殖年齢の女性の下腹部痛では、常に妊娠の可能性を念頭に置く。妊娠に関連するものとして異所性妊娠(子宮外妊娠)や流産、妊娠と関係しないものとして卵巣囊腫の茎捻転・破裂、黄体出血、骨盤内炎症性疾患(PID)、さらに急性虫垂炎や大腸憩室炎などの消化器疾患、尿路結石・膀胱炎などの尿路疾患が挙がる。特に異所性妊娠は破裂すれば大量出血を起こしうるため、見逃してはならない。
設問の考え方
画像検査を選ぶ際には、①診断に役立つこと、②妊娠している可能性がある患者(胎児)に安全であること、③簡便で迅速に実施できることの3点を考える。 超音波検査は電離放射線(エックス線など、物質を電離させるエネルギーをもつ放射線)を用いないため胎児への被曝がなく、ベッドサイドで繰り返し行える。子宮内の胎囊(gestational sac:GS)の有無、付属器(卵巣・卵管)の腫瘤、ダグラス窩などの腹腔内液体貯留を評価でき、上記の鑑別診断の多くに有用である。したがって、まず行うべき画像検査は超音波検査である。 実際の診療では、画像検査と並行して尿中hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)による妊娠反応検査をまず行い、妊娠の有無を確認するのが基本である。妊娠反応が陽性であれば、経腟超音波で子宮内に胎囊があるかを確認し、正常妊娠か異所性妊娠かを見極めていく。
選択肢考察
- ×a. 腹部CT
CTは腹部臓器を広く評価でき、虫垂炎などの診断に有用ではあるが、エックス線を用いるため被曝を伴う。妊娠の可能性がある女性に最初から行う検査ではなく、妊娠反応の結果や超音波所見を踏まえ、必要性が被曝のリスクを上回ると判断された場合に行う。なお、通常の診断的CTの胎児被曝線量は、奇形などの確定的影響が問題となるとされる線量(おおむね100 mGy)を下回ることが多く、絶対的な禁忌というわけではない。
- ×b. 腹部MRI
MRIは電離放射線を使わず、軟部組織のコントラストに優れるため、卵巣腫瘍や子宮の病変の評価、妊娠中の虫垂炎の診断などに用いられる。しかし、検査に時間がかかり、実施できる施設や時間帯も限られるため、初めに行う検査には適さない。また、器官形成期に当たる妊娠初期には必要性が乏しければ避けるのが一般的であり、ガドリニウム造影剤は胎盤を通過するため原則使用しない。超音波で診断がつかない場合の二次的な検査である。
- ○c. 腹部超音波検査
放射線被曝がなく、妊娠の可能性がある女性にも安全に行える。簡便・迅速でベッドサイドでも施行でき、子宮内の胎囊の有無、付属器腫瘤、腹腔内の液体貯留(出血)などを評価できるため、異所性妊娠、流産、卵巣囊腫茎捻転、黄体出血、虫垂炎など、本例で考えるべき鑑別の多くに有用である。妊娠初期の子宮内や付属器の観察には、経腹法よりも解像度の高い経腟法が優れる。
- ×d. 下部消化管造影
注腸造影とも呼ばれ、肛門から造影剤(バリウムなど)を注入してエックス線透視で大腸を観察する検査である。骨盤部への透視・撮影を繰り返すため被曝量が比較的多く、しかも大腸の腫瘍や狭窄などの評価が主目的で、本例のような急性の下腹部痛の初期評価には適さない。妊娠の可能性がある女性に最初に行う検査ではない。
- ×e. 腹部エックス線撮影
腸閉塞のニボー(鏡面像)や消化管穿孔によるフリーエア、尿路結石などの評価に用いられるが、婦人科・妊娠関連疾患に対する情報はほとんど得られない。エックス線による被曝も伴うため、妊娠の可能性がある女性に優先して行う検査ではない。1回の撮影で胎児が受ける線量はごくわずかであり、撮影したことだけを理由に妊娠継続を断念する必要はない。
妊娠可能年齢の女性を診るときの原則
生殖年齢の女性では、腹痛の有無にかかわらず、エックス線検査や薬剤投与の前に妊娠の可能性を確認する。最終月経、月経周期、性交歴を聴取し、少しでも可能性があれば妊娠反応(尿中hCG定性)を行う。月経周期が不整な人では最終月経から妊娠週数を正確に推定しにくい点にも注意する。
胎児被曝の考え方
・放射線の胎児への影響は、被曝した時期と線量で決まる。受精から2週ごろまでは「all or none」(流産するか、影響を残さず正常に発育するか)とされ、器官形成期(おおむね妊娠4〜7週ごろ)は奇形のリスクが問題になる時期である。 ・奇形などの確定的影響が生じるしきい線量はおおむね100 mGyとされ、通常の単純エックス線撮影や1回の腹部CTの胎児線量はこれを下回る。したがって、診断的エックス線検査を受けたことだけを理由に人工妊娠中絶を勧める根拠はない。 ・とはいえ、被曝のない検査で代替できるなら、そちらを優先するのが原則である。
妊娠初期の超音波所見の目安
・経腟超音波では、胎囊はおおむね妊娠5週ごろから、胎児心拍はおおむね妊娠6〜7週ごろから確認できるようになる。 ・血中hCGが一定値(経腟超音波でおおむね1,500〜2,000 IU/L前後)を超えているのに子宮内に胎囊を認めない場合は、異所性妊娠を強く疑う。 ・異所性妊娠では、付属器の腫瘤像やダグラス窩の液体貯留(腹腔内出血)がみられることがある。 ・本例は月経周期が30〜40日と長く排卵が遅れている可能性があり、最終月経から6週でも実際の妊娠週数はそれより短いかもしれない。胎囊が見えないときは、時間をおいて超音波やhCGを再検することもある。
POINT
・生殖年齢の女性の下腹部痛では、まず妊娠の可能性を考え、妊娠反応を確認する。 ・妊娠の可能性がある患者の最初の画像検査は、被曝のない超音波検査(妊娠初期は経腟法が有用)。 ・超音波で子宮内胎囊、付属器腫瘤、ダグラス窩液体貯留を評価し、異所性妊娠などを鑑別する。 ・CTやエックス線は妊娠の可能性を確認したうえで、必要性がリスクを上回るときに行う(絶対禁忌ではない)。 ・MRIは被曝はないが、超音波で診断がつかない場合の二次検査である。
