その処置は原因を解決するか―横位・骨盤位・肩甲難産から学ぶ分娩トラブルの正しい対応
第107回医師国家試験 B問題 第18問
国試問題にチャレンジ
分娩中の異常とその対応の組合せで正しいのはどれか。
- a.横位 ―― 帝王切開
- b.骨盤位 ―― 吸引分娩
- c.肩甲難産 ―― 鉗子分娩
- d.低在横定位 ―― 会陰切開
- e.不正軸進入 ―― 陣痛促進
対話形式の解説
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ドクターまとめ
分娩中の異常への対応は、経腟分娩が成立する胎位か、吸引・鉗子分娩の前提(頭位、子宮口全開大、児頭の十分な下降など)を満たすか、処置が異常の原因を解消するか、という3つの軸で整理できます。横位は経腟分娩が原則不可能なため帝王切開の適応であり、放置すると嵌入横位から子宮破裂に至りうるので、陣痛発来前の予定帝王切開が望まれます。骨盤位に吸引分娩は使えず、肩甲難産は児頭娩出後の障害なのでMcRoberts法と恥骨上部圧迫をまず行い、低在横定位や不正軸進入のような回旋・進入の異常は会陰切開や陣痛促進では解決しません。処置名を丸暗記するのではなく、異常の原因と処置の作用を対応させて考えることが、試験でも分娩の現場でも正しい判断につながります。
解答・解説
正解はaです
分娩中に起こる胎位・胎勢・回旋の異常や娩出障害について、それぞれに適した対応を選ぶ問題である。 考えるうえでの軸は次の3つである。 (1) 経腟分娩がそもそも成立する胎位かどうか。成立しないなら帝王切開しかない。 (2) 吸引分娩・鉗子分娩(急速遂娩術)が使える前提を満たしているか。どちらも頭位で、児頭が十分に下降し、子宮口が全開大していることが前提である。 (3) その処置が異常の原因を解消するかどうか。原因が回旋の異常や児頭と骨盤の位置関係のずれであれば、会陰(出口の軟産道)を広げたり陣痛を強めたりしても解決しない。 この3点で各組合せを見ると、横位は(1)により経腟分娩が成立せず帝王切開の適応となる。ほかの組合せは(2)または(3)の点で不適切である。
選択肢考察
- ○a. 横位 ―― 帝王切開
横位とは、胎児の縦軸が母体の縦軸とほぼ直角に交わる胎位である。先進部が肩甲や上肢となり、児頭も骨盤も産道に入れないため、生存児の経腟分娩は原則として不可能である。したがって分娩時に横位であれば帝王切開の適応となる。陣痛が来たまま放置すると、破水で羊水が流れ出て子宮壁が児に密着し、肩が骨盤入口に押し込まれた遷延横位(嵌入横位)となる。さらに過強陣痛・臍帯脱出・上肢脱出を起こし、最終的には子宮破裂や胎児死亡に至る。そのため、陣痛発来前や破水前に予定帝王切開を行うのが望ましい。
- ×b. 骨盤位 ―― 吸引分娩
吸引分娩は児頭にカップを密着させ、陰圧で牽引する方法であり、頭位でしか行えない。骨盤位では先進部が殿部や足で、カップを安全かつ確実に装着できないため適応にならない。骨盤位を経腟分娩で急いで娩出させるときは骨盤位牽出術(上肢の解出や、Mauriceau法などによる後続児頭の娩出)を行う。後続児頭の娩出が難しい場合に限り鉗子(Piper鉗子など)を用いることがある。なお現在は、骨盤位の多くが帝王切開で分娩されている。
- ×c. 肩甲難産 ―― 鉗子分娩
肩甲難産は、児頭が娩出された後に前在肩甲が恥骨結合に引っかかり、肩が出てこない状態である。児頭はすでに外に出ているので、児頭をはさんで牽引する鉗子分娩の適応はない。無理に児頭を引くと腕神経叢麻痺(Erb麻痺など)や鎖骨骨折の原因になる。対応は、応援を呼んだうえで、McRoberts法(母体の両大腿を腹部へ強く屈曲させて恥骨結合の角度を変える)と恥骨上部圧迫(前在肩甲を押し下げ、回旋させる)をまず行う。それで出なければ、Woods法やRubin法などの回旋手技、後在上肢の娩出を順に試みる。手技の操作空間を確保するため会陰切開を加えることはある。
- ×d. 低在横定位 ―― 会陰切開
低在横定位は、児頭が骨盤底近くまで下降しているのに、矢状縫合が骨盤の横径に一致したまま(第2回旋が起こらないまま)止まって分娩が停止した状態である。停止の原因は児頭の回旋の異常にあり、出口の軟産道が狭いことではない。そのため会陰切開で会陰を広げても回旋は起こらず、児は娩出されない。対応としては、条件が合えば用手回旋、あるいは鉗子や吸引で回旋させつつ牽引する方法をとる。経腟分娩が難しければ帝王切開を選ぶ。
- ×e. 不正軸進入 ―― 陣痛促進
不正軸進入(asynclitism)は、児頭の矢状縫合が骨盤軸から前方または後方にずれたまま骨盤に入る状態である。矢状縫合が後方(仙骨側)にずれると前頭頂骨進入(Naegele傾斜)となる。軽度であれば分娩初期に生理的にもみられる。矢状縫合が前方(恥骨側)にずれると後頭頂骨進入(Litzmann傾斜)となり、分娩停止を起こしやすい。不正軸のまま陣痛を強めても児頭は正しく下降せず、ずれた状態で押し込まれるだけなので、分娩経過はかえって悪化しうる。対応はまず経過観察で自然に矯正されるかを見ることであり、分娩が停止すれば帝王切開を行う。
胎位・回旋異常と分娩方針の整理
・横位(斜位を含む): 経腟分娩は不可能であり、帝王切開を行う。妊娠中期までは胎位が変わりやすいが、分娩時まで横位であれば帝王切開を選択する。 ・骨盤位: 経腟分娩は可能だが、後続児頭の娩出困難や臍帯脱出などのリスクがある。経腟分娩では骨盤位牽出術(Mauriceau法など)を行う。現在は帝王切開が主流である。 ・低在横定位: 第2回旋の異常である。用手回旋・鉗子・吸引による回旋、または帝王切開で対応する。 ・後方後頭位: 第2回旋で小泉門が仙骨側に回った状態である。分娩が遷延しやすい。 ・不正軸進入: 後頭頂骨進入(Litzmann傾斜)は分娩停止を起こしやすい。
吸引・鉗子分娩の主な要件
頭位であること、子宮口が全開大していること、破水していること、児頭が十分に下降していること、児頭骨盤不均衡がないこと。吸引分娩は原則として妊娠34週以降に行う。
肩甲難産
危険因子は巨大児(とくに糖尿病合併妊娠)、母体の肥満、過期妊娠、分娩第2期の遷延などである。児の合併症として腕神経叢麻痺、鎖骨・上腕骨骨折、低酸素性虚血性脳症がある。母体の合併症として産道裂傷、弛緩出血がある。
POINT
・横位は経腟分娩が不可能であり、帝王切開の適応となる。 ・吸引分娩・鉗子分娩は頭位が前提である(骨盤位の後続児頭に鉗子を使う場合は例外)。 ・肩甲難産は児頭娩出後の障害であり、McRoberts法と恥骨上部圧迫をまず行う。 ・回旋異常や不正軸進入は、会陰切開や陣痛促進では解消しない。
