「見える人」と「夢で暴れる夜」―Lewy小体型認知症の4つの柱
第107回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
78歳の男性。「誰もいないのに知らない人が部屋に見える」と訴え,来院した。妻によると,数年前から日中は眠そうでぼう然としていることがしばしばあり,徐々に物忘れが目立ってきたという。動作は緩慢で,小刻みに歩く。 この疾患でみられるのはどれか。
- a.常同行動
- b.滞続言語
- c.言語蹉跌
- d.全生活史健忘
- e.レム〈REM〉睡眠行動障害
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
高齢者の進行性の認知機能低下に、具体的な幻視、注意・覚醒レベルの変動、パーキンソニズムが加わればLewy小体型認知症を考え、残る中核的特徴であるレム睡眠行動障害もこの疾患でみられます。レム睡眠行動障害はレム睡眠中の筋緊張消失が失われて夢の内容どおりに行動してしまう状態で、α-シヌクレイン病に特徴的であり、認知症に何年も先行することがあります。常同行動・滞続言語は前頭側頭型認知症、言語蹉跌は進行麻痺、全生活史健忘は解離性健忘の症状として整理しておくと、認知症の鑑別問題に強くなります。MIBG心筋シンチグラフィーやドパミントランスポーターSPECTの取り込み低下が診断を支え、抗精神病薬への過敏性は臨床で特に注意すべき点です。症状の組み合わせから病型を絞り込む力は、認知症診療の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・78歳の男性(高齢者)。 ・「誰もいないのに知らない人が部屋に見える」→ 具体的で生々しい人物の幻視。 ・数年前から日中に眠そうでぼう然としていることが「しばしば」ある → 注意・覚醒レベルが日や時間によって変わる認知機能の変動、あるいは日中の過眠を示唆する。 ・徐々に物忘れが目立ってきた → 緩徐進行性の認知機能障害(認知症)。 ・動作緩慢と小刻み歩行 → パーキンソニズム。
診断へのプロセス
高齢発症の進行性認知症に、(1)繰り返し出現する具体的な幻視、(2)認知機能の変動、(3)パーキンソニズム、という特徴がそろっている。これらはいずれもLewy小体型認知症(DLB:dementia with Lewy bodies)の中核的特徴であり、診断はLewy小体型認知症となる。 鑑別として、Alzheimer型認知症は記憶障害が前景に立ち、病初期から幻視やパーキンソニズムが目立つことは少ない。Parkinson病に伴う認知症(PDD)もLewy小体病という点で同じ系統だが、パーキンソニズムが先行し、認知症の出現まで1年以上の間隔があるものをPDDと呼ぶ慣例(1年ルール)がある。本例は物忘れと幻視・変動が主体で、パーキンソニズムが先行したという記載はなく、DLBと考えるのが妥当である。
設問の考え方
設問は「この疾患(DLB)でみられるもの」を問うている。DLBの中核的特徴のうち、本文に記載のない残り一つがレム睡眠行動障害であり、これを選べばよい。他の選択肢は、前頭側頭型認知症、神経梅毒(進行麻痺)、解離性障害といった別の疾患に特徴的な症状である。
選択肢考察
- ×a. 常同行動
常同行動とは、状況にかかわらず同じ行動を型にはまったように繰り返すことである。認知症の中では前頭側頭型認知症(FTD:行動障害型)に特徴的で、毎日同じ時刻に同じ道を歩く(周遊)、同じ食べ物ばかり食べる、決まった手順に固執するといった形で現れる。ほかに統合失調症の緊張病症状(常同姿勢・常同運動・常同言語)、自閉スペクトラム症、重度の強迫症などでもみられる。DLBの特徴的症状ではない。
- ×b. 滞続言語
滞続言語(stehende Redensarten)とは、会話の話題や質問の内容に関係なく、同じ語句や決まった話(エピソード)が何度も差し挟まれて繰り返される症状である。単に直前の語を繰り返す保続とは異なる。前頭側頭型認知症(特に前頭葉・側頭葉の萎縮が進んだ例、かつてのPick病)に特徴的な言語症状であり、DLBではみられない。
- ×c. 言語蹉跌
言語蹉跌(Silbenstolpern)とは、つまずくような話し方で、音節の繰り返し、脱落、順序の入れ替わりなどが起こる構音の障害である。梅毒トレポネーマによる脳実質の障害である進行麻痺(神経梅毒の一病型)に特徴的とされる。かつては「るりもはりもてらせばひかる」のような発音しにくい文を復唱させて確認した。進行麻痺ではほかにArgyll Robertson瞳孔(対光反射消失、輻輳反射保持)、人格変化、誇大妄想などがみられる。DLBの症状ではない。
- ×d. 全生活史健忘
全生活史健忘とは、自分の名前、年齢、住所、家族など、個人の生活史に関する記憶全体が突然想起できなくなる状態であり、解離性健忘(解離性障害)の一型である。強い心理的ストレスを契機に発症することが多く、一般的知識や言語・日常動作などの手続き的な能力は保たれるのが特徴である。器質的な脳疾患による認知症では、古い自伝的記憶は比較的保たれ新しい記憶から障害されるため、このような形の健忘は起こらない。DLBでみられる症状ではない。
- ○e. レム〈REM〉睡眠行動障害
レム睡眠行動障害(RBD:REM sleep behavior disorder)は、本来レム睡眠中に起こる骨格筋の脱力(筋緊張消失)が失われるため、夢の内容に合わせて大声で寝言を言う、叫ぶ、手足を振り回す、殴る・蹴るなどの行動をとってしまう睡眠時随伴症である。高齢男性に多く、脳幹のレム睡眠制御系にα-シヌクレインが蓄積して生じると考えられている。DLBでは中核的特徴の一つに位置づけられ、認知症や幻視が出現する何年も前から先行してみられることも多い。RBDはParkinson病や多系統萎縮症などのほかのα-シヌクレイン病(シヌクレイノパチー)でもみられ、特発性RBDの多くは長期経過のうちにこれらの疾患へ移行する。確定には睡眠ポリグラフ検査で、レム睡眠中に筋緊張が保たれていること(筋活動抑制を欠くレム睡眠)を確認する。
Lewy小体型認知症(DLB)の概要
・大脳皮質や脳幹の神経細胞内に、α-シヌクレインを主成分とするLewy小体が広く出現する神経変性疾患である。わが国ではAlzheimer型認知症に次いで多い変性性認知症とされ、高齢者、特に男性にやや多い。 ・Parkinson病とは同じLewy小体病の連続体と考えられている。
臨床診断基準(2017年改訂版の骨子)
必須:日常生活に支障をきたす進行性の認知機能低下(初期には記憶障害より注意・遂行機能・視空間認知の障害が目立つことが多い)。 中核的特徴: 1. 注意や覚醒レベルの明らかな変動を伴う認知機能の動揺 2. 繰り返し出現する具体的で詳細な幻視 3. レム睡眠行動障害(認知機能低下に先行することがある) 4. パーキンソニズム(動作緩慢、静止時振戦、筋強剛のうち1つ以上) 指標的バイオマーカー: ・SPECTまたはPETでの基底核のドパミントランスポーター取り込み低下 ・MIBG心筋シンチグラフィーでの取り込み低下(心臓交感神経の障害を反映) ・睡眠ポリグラフ検査で確認された筋活動抑制を欠くレム睡眠 支持的特徴:抗精神病薬への重篤な過敏性、姿勢の不安定性、繰り返す転倒、失神・一過性の無反応、起立性低血圧・便秘・尿失禁などの自律神経障害、過眠、嗅覚低下、幻視以外の幻覚、妄想、アパシー、不安、うつなど。 中核的特徴2つ以上、または中核的特徴1つと指標的バイオマーカー1つ以上でprobable DLBと診断する。
画像・検査所見
・脳血流SPECTで後頭葉(視覚野)の血流低下。後部帯状回の血流が比較的保たれる所見(cingulate island sign)もDLBを示唆する。 ・MRIでは内側側頭葉(海馬)が比較的保たれることが多く、Alzheimer型認知症との鑑別点となる。
治療・管理の注意
・コリンエステラーゼ阻害薬のドネペジルはわが国でDLBに対する適応があり、認知機能障害や幻視の改善が期待できる。 ・抗精神病薬に対する過敏性が強く、少量でもパーキンソニズムの急激な悪化、意識障害、悪性症候群などを起こしうるため、使用はきわめて慎重に行う。 ・パーキンソニズムにはレボドパを用いるが、幻視を悪化させることがある。 ・RBDにはクロナゼパムが用いられることが多く、寝室の環境整備(危険物の除去、ベッド周囲の配慮)も重要である。
認知症ごとの特徴的症状の整理
・Alzheimer型認知症:近時記憶障害、見当識障害、物盗られ妄想、取り繕い反応。 ・Lewy小体型認知症:幻視、認知機能の変動、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害、抗精神病薬過敏。 ・前頭側頭型認知症:人格変化、脱抑制、常同行動、滞続言語、食行動の変化、病識の欠如。 ・血管性認知症:段階的な悪化、まだら認知症、局所神経症状。
POINT
・幻視+認知機能の変動+パーキンソニズム → Lewy小体型認知症。 ・中核的特徴は「認知機能の変動」「幻視」「レム睡眠行動障害」「パーキンソニズム」の4つ。 ・レム睡眠行動障害はα-シヌクレイン病に特徴的で、DLBやParkinson病の発症に先行しうる。 ・MIBG心筋シンチグラフィーの取り込み低下、ドパミントランスポーターSPECTの取り込み低下、後頭葉の血流低下が診断を支持する。 ・抗精神病薬への過敏性に注意。 ・常同行動・滞続言語は前頭側頭型認知症、言語蹉跌は進行麻痺、全生活史健忘は解離性健忘。
