上顎洞に光る白い点と黒い菌糸―一側性陰影から副鼻腔真菌症を見抜く
第107回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。3週前からの右側の鼻閉と頬部違和感とを主訴に来院した。副鼻腔エックス線写真と副鼻腔単純CTとで右上顎洞に異常陰影を認めたため,内視鏡下に中鼻道から上顎洞組織の生検を行った。副鼻腔単純CT冠状断像と横断像(A)(B),生検組織のGrocott染色標本(C)を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.上顎洞癌
- b.歯性上顎洞炎
- c.慢性副鼻腔炎
- d.副鼻腔真菌症
- e.術後性上顎嚢胞
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
一側性の上顎洞陰影では、上顎洞癌、歯性上顎洞炎、副鼻腔真菌症、術後性上顎嚢胞、一側性の慢性副鼻腔炎を鑑別します。CTで洞内陰影に点状の高吸収域が散在すれば副鼻腔真菌症(真菌塊)を示唆し、生検のGrocott染色で隔壁のある鋭角分岐の菌糸がみられればアスペルギルスによる真菌症と考えられます。骨破壊を伴わない非浸潤性の真菌塊は内視鏡下副鼻腔手術での除去が基本で、抗真菌薬の全身投与は通常必要ありません。一方、糖尿病や免疫不全患者に生じる浸潤性真菌症は急速に進行し致死的となるため、緊急の切除と抗真菌薬が必要です。画像所見と病理、患者背景を組み合わせて判断する姿勢は、悪性腫瘍の見逃しを防ぐうえでも重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳の男性。3週前からの右側のみの鼻閉と頬部違和感。 ・副鼻腔エックス線写真とCTで右上顎洞に異常陰影がある。 ・内視鏡下に中鼻道から上顎洞の組織を生検し、Grocott染色標本が提示されている。
画像の読み方
CT冠状断像(A)と横断像(B)では、右上顎洞がほぼ全体にわたって軟部組織濃度の陰影で占められ、その内部に点状・斑状の高吸収域(石灰化に近い濃度の部分)が散在している。左上顎洞は含気が保たれている。上顎洞の骨壁は保たれており、明らかな骨破壊はみられない。 Grocott染色(C)は、真菌の細胞壁を黒色に染め出す特殊染色である。標本には、黒く染まった細長い菌糸が密に集まり、隔壁をもって鋭角に枝分かれしている様子がみられる。これはアスペルギルス(Aspergillus)の菌糸に典型的な形態である。
診断へのプロセス
一側性の上顎洞陰影をみたときは、上顎洞癌、歯性上顎洞炎、副鼻腔真菌症、一側に生じた慢性副鼻腔炎、術後性上顎嚢胞などを鑑別する。 ・骨破壊がなく、画像上は悪性腫瘍を強く示唆しない。 ・洞内の軟部陰影の中に散在する高吸収域は、真菌塊(fungus ball)の中に沈着したカルシウム塩(リン酸カルシウムや硫酸カルシウムなど)や、真菌の代謝で集積した鉄・マンガンなどの金属を反映すると考えられ、副鼻腔真菌症に特徴的なCT所見である。 ・生検組織のGrocott染色で真菌の菌糸が多数確認された。 以上より、右上顎洞の副鼻腔真菌症(アスペルギルスによる非浸潤性の真菌塊が最も考えられる)と診断できる。
選択肢考察
- ×a. 上顎洞癌
上顎洞癌(多くは扁平上皮癌)も一側の鼻閉、頬部の違和感・腫脹、血性や悪臭のある鼻漏、歯痛、流涙などで発症し、一側性の上顎洞陰影を示すため重要な鑑別対象である。進行するとCTで洞壁の破壊を伴う腫瘤として描出される。早期では骨破壊がなく副鼻腔炎と区別しにくいこともあり、そのため生検が重要となる。本例ではCTで骨破壊がなく、生検組織で真菌の菌糸が確認されており、癌を示す所見はない。
- ×b. 歯性上顎洞炎
歯性上顎洞炎は、上顎の小臼歯・大臼歯の根尖病巣(う歯や歯周炎)の炎症が、薄い骨を隔てて接する上顎洞に波及して生じる。一側性で、嫌気性菌の関与により悪臭(腐敗臭)のある膿性鼻漏を伴うことが多い。CTでは一側上顎洞の陰影と原因歯の根尖周囲の骨透亮像がみられる。洞内陰影の中に点状の高吸収域が散在する所見や、生検での真菌の菌糸は歯性上顎洞炎では説明できない。
- ×c. 慢性副鼻腔炎
一般的な細菌性の慢性副鼻腔炎は両側性であることが多いが、一側性に生じることもあり、一側性の陰影というだけでは否定できない。しかし本例では、洞内陰影に散在する高吸収域と、Grocott染色で確認された多数の真菌の菌糸という特異的な所見があり、真菌症とする方がこれらをすべて説明できる。最も考えられる診断としては不適切である。
- ○d. 副鼻腔真菌症
一側性の上顎洞陰影の内部に点状・斑状の高吸収域が散在するCT所見は、副鼻腔真菌症(特に真菌塊)に特徴的である。さらに生検組織のGrocott染色で、黒色に染まる隔壁のある菌糸が鋭角に分岐しながら密集しており、アスペルギルスによる真菌症と考えられる。骨破壊がないことから、組織内に浸潤しない非浸潤性(真菌塊型)が最も考えやすい。臨床像(中年、一側の鼻閉・頬部違和感)とも合致する。
- ×e. 術後性上顎嚢胞
術後性上顎嚢胞は、慢性副鼻腔炎に対する上顎洞根本術(Caldwell-Luc手術)などを受けてから十数年〜数十年を経て、術後の瘢痕に囲まれた腔に粘液が貯留して生じる嚢胞である。頬部の腫脹・痛み、歯痛などをきたし、CTでは内部が比較的均一な液体濃度の嚢胞性病変として描出され、骨壁の菲薄化や膨隆を伴う。本例では手術歴の記載がなく、内部に高吸収域が散在する不均一な陰影であること、真菌が検出されたことから合致しない。
副鼻腔真菌症の分類
大きく、真菌が粘膜・組織に浸潤しない非浸潤性と、組織に浸潤する浸潤性に分けられる。 ・非浸潤性 真菌塊(fungus ball、菌球症):最も頻度が高い。健常な中高年に多く、一側の上顎洞に好発する。原因菌はアスペルギルスが最多。洞内に乾酪状(チーズ様)の真菌塊が貯留し、乾酪性副鼻腔炎とも呼ばれる。 アレルギー性真菌性副鼻腔炎(AFRS):真菌に対するI型・III型アレルギーを背景に、好酸球を多く含む粘稠なアレルギー性ムチンが貯留する。喘息や鼻茸を合併しやすい。 ・浸潤性 急性浸潤性:糖尿病(特にケトアシドーシス)、好中球減少、臓器移植後、ステロイドや免疫抑制薬の使用など免疫不全患者に発症する。ムーコル(ケカビ)やアスペルギルスが原因となり、血管に侵入して組織壊死を起こし、眼窩・頭蓋内へ急速に進展する。致死率が高く、緊急の外科的切除と抗真菌薬投与が必要。 慢性浸潤性:数か月〜年単位で緩徐に進行し、骨破壊を伴って悪性腫瘍と紛らわしいことがある。
真菌塊の臨床像と診断
・症状:一側の鼻閉、膿性・血性鼻漏、後鼻漏、悪臭、頬部痛・違和感など。無症状でCTで偶然見つかることもある。 ・CT:一側上顎洞の陰影内部に点状・線状の高吸収域(石灰化様陰影)がみられるのが特徴。洞壁の肥厚硬化を伴うことがあり、まれに骨の菲薄化・破壊もみられるため、上顎洞癌との鑑別が必要となる。 ・MRI:真菌塊はT2強調像で著明な低信号を示す。 ・病理:真菌の同定にはGrocott染色(真菌の細胞壁を黒く染める)やPAS染色が有用。アスペルギルスは幅が均一で隔壁のある菌糸が鋭角(約45°)に分岐する。ムーコルは幅が広く不整で隔壁がほとんどない菌糸が直角に近い角度で分岐する点で区別する。
治療
・真菌塊:内視鏡下副鼻腔手術で真菌塊を完全に除去し、洞の換気と排泄路を確保すれば治癒が期待でき、抗真菌薬の全身投与は通常必要ない。 ・浸潤性:外科的な壊死組織の切除と抗真菌薬(アスペルギルスにはボリコナゾール、ムーコルにはアムホテリシンBなど)の全身投与、および基礎疾患の管理を行う。
POINT
・一側性の上顎洞陰影の鑑別:上顎洞癌、歯性上顎洞炎、副鼻腔真菌症、術後性上顎嚢胞、一側性慢性副鼻腔炎。 ・洞内陰影に散在する点状の高吸収域(石灰化様陰影)は副鼻腔真菌症(真菌塊)を示唆する。 ・Grocott染色は真菌を黒く染める。隔壁のある菌糸が鋭角に分岐すればアスペルギルス。 ・原因菌はアスペルギルスが最多で、上顎洞に好発する。 ・非浸潤性は手術で除去、免疫不全者の浸潤性(ムーコル症など)は緊急の切除と抗真菌薬。 ・骨破壊を伴う場合は上顎洞癌との鑑別に生検が必要。
