離脱症状は「作用の裏返し」―アルコールから覚醒剤まで一つの原則で解く
第107回医師国家試験 A問題 第20問
国試問題にチャレンジ
精神作用物質と離脱症状の組合せで正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.アヘン ―― 縮瞳
- b.アルコール ―― 発汗
- c.抗不安薬 ―― 不眠
- d.ニコチン ―― 食欲低下
- e.メタンフェタミン ―― 疲労感
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
精神作用物質の離脱症状は、身体がその物質に適応した状態で中断されることで生じ、原則として物質の急性作用の逆が現れます。アルコールや抗不安薬などの中枢神経抑制薬では発汗、振戦、不眠、不安、けいれんといった過興奮が、メタンフェタミンなどの刺激薬では疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進が離脱症状となります。オピオイドの縮瞳は中毒症状であり離脱では散瞳・流涙・鼻漏・下痢が、ニコチン離脱では食欲低下ではなく食欲増加・体重増加がみられる点がよく問われます。アルコール離脱には長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬とビタミンB1、ベンゾジアゼピン系の中止には漸減が基本です。「作用の裏返し」という原則を持っておけば、未知の組合せにも対応でき、入院患者の離脱症状を見逃さない臨床判断にもつながります。
解答・解説
正解はb, c, eです
精神作用物質を反復使用して身体依存が形成されると、急に中止・減量したときに離脱症状(禁断症状)が出現する。身体は薬物が存在する状態に適応(神経適応)しているため、薬物が抜けると、その薬物の急性作用とはおおむね逆向きの症状が「反跳」として現れる。 したがって各物質について「使用中に何が起こるか(急性作用・中毒症状)」を押さえておけば、離脱症状の多くは推測できる。 ・中枢神経抑制薬(アルコール、ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬・睡眠薬、オピオイド):離脱時は中枢神経・交感神経の過興奮(不眠、不安、焦燥、発汗、振戦、頻脈、けいれんなど)が出る。 ・中枢神経刺激薬(メタンフェタミン、コカインなど):離脱時は活動性の低下(疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進)が出る。 ・ニコチン:刺激作用と食欲抑制作用をもつため、離脱時はイライラ、不安、集中困難、食欲増加・体重増加が出る。 この「作用の裏返し」という原則に沿って各選択肢の組合せを検討すればよい。
選択肢考察
- ×a. アヘン ―― 縮瞳
縮瞳はアヘン(モルヒネなどのオピオイド)の急性作用・中毒症状であり、離脱症状ではない。オピオイドはμ(ミュー)オピオイド受容体を介して動眼神経副交感核(Edinger-Westphal核)を刺激し、ピンポイント瞳孔と呼ばれる強い縮瞳を起こす。これは意識障害・呼吸抑制とともにオピオイド中毒の三徴として知られる。逆に離脱時には散瞳が起こり、あわせて流涙、鼻漏、あくび、立毛(鳥肌)、発汗、筋肉痛・関節痛、腹痛、下痢、嘔吐、不眠、不安・焦燥などが出現する。短時間作用型のヘロインやモルヒネでは最終使用から数時間〜半日程度で始まり、数日でピークを迎える。
- ○b. アルコール ―― 発汗
アルコールは中枢神経抑制作用をもち、長期大量飲酒によってGABA-A受容体の機能低下やグルタミン酸(NMDA)受容体の増加といった適応が生じる。そのため断酒すると中枢神経と交感神経が過剰に興奮する。最終飲酒から数時間〜48時間ほどの早期離脱症状(小離脱)として、発汗、手指振戦、頻脈、血圧上昇、嘔気・嘔吐、不眠、不安・焦燥、一過性の幻覚(主に幻聴や幻視)がみられ、全身性のけいれん発作(離脱けいれん)も起こりうる。発汗はこれらの自律神経症状の代表であり、組合せは正しい。なお、断酒後48〜96時間ごろには意識障害・幻視・著明な自律神経症状を伴う振戦せん妄(後期離脱症状、大離脱)が現れることがある。
- ○c. 抗不安薬 ―― 不眠
抗不安薬の代表であるベンゾジアゼピン系薬は、GABA-A受容体に作用して抗不安・鎮静・催眠・抗けいれん・筋弛緩作用を示す。長期連用後に急に中止すると、これらの作用が反転し、不眠(反跳性不眠)、不安・焦燥の増強、振戦、発汗、知覚過敏、ときにけいれん発作やせん妄が出現する。特に半減期の短い薬剤ほど血中濃度が急速に低下するため、離脱症状や反跳現象が起こりやすい。組合せは正しい。臨床では離脱を避けるため数週〜数か月かけて漸減するか、長時間作用型に置き換えてから減量する。
- ×d. ニコチン ―― 食欲低下
ニコチンには食欲抑制作用があるため、禁煙(ニコチン離脱)ではむしろ食欲が増し、体重が増えやすい。ニコチンの離脱症状は最終喫煙から24時間以内に始まり、易刺激性(イライラ)、不安、抑うつ気分、集中困難、落ち着きのなさ、不眠、喫煙への強い渇望、食欲増加・体重増加などがみられる。1〜2週間程度で軽快することが多い。食欲低下は離脱症状ではないため、組合せは誤りである。
- ○e. メタンフェタミン ―― 疲労感
メタンフェタミンは覚醒剤の一種で、ドパミンやノルアドレナリンの放出促進・再取り込み阻害によって覚醒、多幸感、疲労感の消失、食欲低下、不眠などをもたらす。使用を中止するとこれと逆の状態となり、強い疲労感・倦怠感、過眠、抑うつ気分、意欲低下、食欲亢進がみられる(いわゆる「つぶれ」)。抑うつが強いときには自殺念慮にも注意が必要である。疲労感は典型的な離脱症状であり、組合せは正しい。なお覚醒剤の身体依存は比較的弱いとされるが、精神依存は強く、慢性使用では幻覚妄想状態(覚醒剤精神病)やフラッシュバックも問題となる。
依存と離脱の基本
・精神依存:薬物を求める強い欲求(渇望)があり、使用をコントロールできない状態。ほぼすべての依存性物質でみられる。 ・身体依存:薬物の存在に身体が適応し、中断により離脱症状が出る状態。 ・耐性:同じ効果を得るのに必要な量が増えていく状態。
主な物質の作用と離脱症状
・アルコール:作用=鎮静・抑制。離脱=発汗、振戦、頻脈、不眠、不安、幻覚、けいれん、振戦せん妄。精神依存・身体依存ともに強い。 ・ベンゾジアゼピン系(抗不安薬・睡眠薬):作用=抗不安・催眠。離脱=不眠、不安・焦燥、振戦、けいれん、せん妄。短時間作用型で起こりやすい。 ・オピオイド(アヘン、モルヒネ、ヘロイン):作用=鎮痛、多幸感、縮瞳、呼吸抑制、便秘。離脱=散瞳、流涙、鼻漏、あくび、立毛、発汗、下痢、腹痛、筋肉痛。精神依存・身体依存ともに強い。 ・覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、コカイン:作用=覚醒、多幸感、食欲低下、散瞳、頻脈。離脱=疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進。精神依存が強い。 ・ニコチン:作用=軽度の覚醒、食欲抑制。離脱=イライラ、不安、集中困難、食欲増加・体重増加。 ・大麻、幻覚薬(LSD等):主に精神依存が問題となり、身体依存は乏しい(大麻には軽度の離脱症状も報告されている)。
治療上の要点
・アルコール離脱:長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬で症状を抑え、ウェルニッケ脳症予防にビタミンB1を補充する。 ・ベンゾジアゼピン系:急な中止を避け、ゆっくり漸減する。
POINT
・離脱症状は原則として「その物質の作用の逆」が出る。 ・抑制薬(アルコール、抗不安薬、オピオイド)の離脱では過興奮(不眠、不安、発汗、振戦、けいれん)。 ・オピオイド:使用中は縮瞳、離脱で散瞳・流涙・鼻漏・あくび・下痢。 ・刺激薬(メタンフェタミン)の離脱では疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進。 ・ニコチン離脱ではイライラと食欲増加・体重増加(食欲低下ではない)。
