StudyMed医師国家試験

離脱症状は「作用の裏返し」―アルコールから覚醒剤まで一つの原則で解く

第107回医師国家試験 A問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第107回 A問題 第20問

精神作用物質と離脱症状の組合せで正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.アヘン ―― 縮瞳
  2. b.アルコール ―― 発汗
  3. c.抗不安薬 ―― 不眠
  4. d.ニコチン ―― 食欲低下
  5. e.メタンフェタミン ―― 疲労感

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、精神作用物質とその離脱症状の組合せを判断する問題だ。暗記で押し切るより、一つの原則を持っておくとぐっと楽になる。それは「離脱症状は、その物質の作用のおおむね逆が出る」ということ。まずは離脱症状がなぜ起こるのかから考えよう。
医学生医学生
薬を続けていると体が慣れてしまって、急にやめるとバランスが崩れる、というイメージでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。反復使用で身体が薬物のある状態に適応すると、これを身体依存という。その状態で薬が抜けると、抑えられていたものが反跳して出てくる。だから中枢神経抑制薬なら過興奮、刺激薬なら活動性の低下が離脱症状になるんだ。
医学生医学生
精神依存と身体依存の違いは薬理学の講義で出てきましたが、正直あいまいでした。
ドクタードクター
精神依存は「使いたくてたまらない」渇望があって使用をコントロールできない状態、身体依存は中断で離脱症状が出る状態だ。では具体的に見ていこう。アルコールはどうかな。
医学生医学生
アルコールは抑制系なので、やめると興奮側に振れて、発汗や手の震えが出るんですね。
ドクタードクター
正解。長期大量飲酒でGABA-A受容体の機能が落ち、NMDA型グルタミン酸受容体が増えるといった適応が起こる。断酒すると数時間〜48時間ほどで発汗、手指振戦、頻脈、不眠、不安、一過性の幻覚、ときにけいれんが出る。これが早期離脱症状だ。
医学生医学生
精神科の実習で、入院後2〜3日目に虫が見えると言い出した患者さんがいて、振戦せん妄と教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。振戦せん妄は断酒後48〜96時間ごろに出る後期離脱症状で、意識障害、幻視、著明な自律神経症状を伴う。予防と治療には長時間作用型のベンゾジアゼピン系薬を使い、ウェルニッケ脳症予防にビタミンB1の補充も忘れずに。次は抗不安薬だ。
医学生医学生
ベンゾジアゼピン系は眠らせる薬なので、やめると逆に眠れなくなる、ということですね。
ドクタードクター
その通り、反跳性不眠だ。不安・焦燥の増強、振戦、発汗、知覚過敏、ときにけいれんやせん妄も起こる。半減期の短い薬ほど血中濃度が急に下がるので離脱が起こりやすい。だから臨床では数週〜数か月かけて漸減したり、長時間作用型に置き換えてから減らしたりする。
医学生医学生
アヘンの縮瞳も正しそうに思えたんですが、どうでしょうか。
ドクタードクター
そこがひっかけだ。縮瞳はオピオイドの使用中、つまり急性作用・中毒の所見なんだ。ピンポイント瞳孔、意識障害、呼吸抑制は中毒の三徴として有名だね。離脱では逆に散瞳が起こり、流涙、鼻漏、あくび、鳥肌、発汗、腹痛、下痢、筋肉痛などが出る。
医学生医学生
作用の裏返しで考えれば、離脱は散瞳になりますね。ニコチンの食欲低下はどうですか。
ドクタードクター
ニコチンには食欲を抑える作用がある。だから禁煙するとむしろ食欲が増えて体重が増えやすい。離脱症状はイライラ、不安、集中困難、不眠、強い喫煙欲求などで、食欲低下は当てはまらない。
医学生医学生
禁煙外来の見学で、体重増加を気にして禁煙をためらう患者さんがいたのを思い出しました。メタンフェタミンは刺激薬なので、離脱では逆にぐったりする、ということですね。
ドクタードクター
その通り。覚醒剤はドパミンやノルアドレナリンの放出を促し、覚醒、多幸感、疲労感の消失、食欲低下をもたらす。中止するとその裏返しで、強い疲労感、過眠、抑うつ、意欲低下、食欲亢進が出る。抑うつが強いときは自殺念慮にも注意が必要だ。
医学生医学生
つまり正しい組合せは、アルコールと発汗、抗不安薬と不眠、メタンフェタミンと疲労感の3つですね。
ドクタードクター
正解。最後に発展知識をまとめよう。覚醒剤は身体依存が比較的弱い一方で精神依存が強く、慢性使用では幻覚妄想状態やフラッシュバックが問題になる。大麻や幻覚薬は主に精神依存が問題だ。また臨床では、入院や手術で飲酒や内服が突然途切れたときに離脱症状が出ることがある。術後せん妄と思っていたら実はアルコール離脱だった、ということもあるので、入院時の飲酒歴や服薬歴の聴取は欠かせない。

まとめ

精神作用物質の離脱症状は、身体がその物質に適応した状態で中断されることで生じ、原則として物質の急性作用の逆が現れます。アルコールや抗不安薬などの中枢神経抑制薬では発汗、振戦、不眠、不安、けいれんといった過興奮が、メタンフェタミンなどの刺激薬では疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進が離脱症状となります。オピオイドの縮瞳は中毒症状であり離脱では散瞳・流涙・鼻漏・下痢が、ニコチン離脱では食欲低下ではなく食欲増加・体重増加がみられる点がよく問われます。アルコール離脱には長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬とビタミンB1、ベンゾジアゼピン系の中止には漸減が基本です。「作用の裏返し」という原則を持っておけば、未知の組合せにも対応でき、入院患者の離脱症状を見逃さない臨床判断にもつながります。

解答・解説

正解はb, c, eです

精神作用物質を反復使用して身体依存が形成されると、急に中止・減量したときに離脱症状(禁断症状)が出現する。身体は薬物が存在する状態に適応(神経適応)しているため、薬物が抜けると、その薬物の急性作用とはおおむね逆向きの症状が「反跳」として現れる。 したがって各物質について「使用中に何が起こるか(急性作用・中毒症状)」を押さえておけば、離脱症状の多くは推測できる。 ・中枢神経抑制薬(アルコール、ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬・睡眠薬、オピオイド):離脱時は中枢神経・交感神経の過興奮(不眠、不安、焦燥、発汗、振戦、頻脈、けいれんなど)が出る。 ・中枢神経刺激薬(メタンフェタミン、コカインなど):離脱時は活動性の低下(疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進)が出る。 ・ニコチン:刺激作用と食欲抑制作用をもつため、離脱時はイライラ、不安、集中困難、食欲増加・体重増加が出る。 この「作用の裏返し」という原則に沿って各選択肢の組合せを検討すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  アヘン ―― 縮瞳

    縮瞳はアヘン(モルヒネなどのオピオイド)の急性作用・中毒症状であり、離脱症状ではない。オピオイドはμ(ミュー)オピオイド受容体を介して動眼神経副交感核(Edinger-Westphal核)を刺激し、ピンポイント瞳孔と呼ばれる強い縮瞳を起こす。これは意識障害・呼吸抑制とともにオピオイド中毒の三徴として知られる。逆に離脱時には散瞳が起こり、あわせて流涙、鼻漏、あくび、立毛(鳥肌)、発汗、筋肉痛・関節痛、腹痛、下痢、嘔吐、不眠、不安・焦燥などが出現する。短時間作用型のヘロインやモルヒネでは最終使用から数時間〜半日程度で始まり、数日でピークを迎える。

  2. ○b.  アルコール ―― 発汗

    アルコールは中枢神経抑制作用をもち、長期大量飲酒によってGABA-A受容体の機能低下やグルタミン酸(NMDA)受容体の増加といった適応が生じる。そのため断酒すると中枢神経と交感神経が過剰に興奮する。最終飲酒から数時間〜48時間ほどの早期離脱症状(小離脱)として、発汗、手指振戦、頻脈、血圧上昇、嘔気・嘔吐、不眠、不安・焦燥、一過性の幻覚(主に幻聴や幻視)がみられ、全身性のけいれん発作(離脱けいれん)も起こりうる。発汗はこれらの自律神経症状の代表であり、組合せは正しい。なお、断酒後48〜96時間ごろには意識障害・幻視・著明な自律神経症状を伴う振戦せん妄(後期離脱症状、大離脱)が現れることがある。

  3. ○c.  抗不安薬 ―― 不眠

    抗不安薬の代表であるベンゾジアゼピン系薬は、GABA-A受容体に作用して抗不安・鎮静・催眠・抗けいれん・筋弛緩作用を示す。長期連用後に急に中止すると、これらの作用が反転し、不眠(反跳性不眠)、不安・焦燥の増強、振戦、発汗、知覚過敏、ときにけいれん発作やせん妄が出現する。特に半減期の短い薬剤ほど血中濃度が急速に低下するため、離脱症状や反跳現象が起こりやすい。組合せは正しい。臨床では離脱を避けるため数週〜数か月かけて漸減するか、長時間作用型に置き換えてから減量する。

  4. ×d.  ニコチン ―― 食欲低下

    ニコチンには食欲抑制作用があるため、禁煙(ニコチン離脱)ではむしろ食欲が増し、体重が増えやすい。ニコチンの離脱症状は最終喫煙から24時間以内に始まり、易刺激性(イライラ)、不安、抑うつ気分、集中困難、落ち着きのなさ、不眠、喫煙への強い渇望、食欲増加・体重増加などがみられる。1〜2週間程度で軽快することが多い。食欲低下は離脱症状ではないため、組合せは誤りである。

  5. ○e.  メタンフェタミン ―― 疲労感

    メタンフェタミンは覚醒剤の一種で、ドパミンやノルアドレナリンの放出促進・再取り込み阻害によって覚醒、多幸感、疲労感の消失、食欲低下、不眠などをもたらす。使用を中止するとこれと逆の状態となり、強い疲労感・倦怠感、過眠、抑うつ気分、意欲低下、食欲亢進がみられる(いわゆる「つぶれ」)。抑うつが強いときには自殺念慮にも注意が必要である。疲労感は典型的な離脱症状であり、組合せは正しい。なお覚醒剤の身体依存は比較的弱いとされるが、精神依存は強く、慢性使用では幻覚妄想状態(覚醒剤精神病)やフラッシュバックも問題となる。

依存と離脱の基本

・精神依存:薬物を求める強い欲求(渇望)があり、使用をコントロールできない状態。ほぼすべての依存性物質でみられる。 ・身体依存:薬物の存在に身体が適応し、中断により離脱症状が出る状態。 ・耐性:同じ効果を得るのに必要な量が増えていく状態。

主な物質の作用と離脱症状

・アルコール:作用=鎮静・抑制。離脱=発汗、振戦、頻脈、不眠、不安、幻覚、けいれん、振戦せん妄。精神依存・身体依存ともに強い。 ・ベンゾジアゼピン系(抗不安薬・睡眠薬):作用=抗不安・催眠。離脱=不眠、不安・焦燥、振戦、けいれん、せん妄。短時間作用型で起こりやすい。 ・オピオイド(アヘン、モルヒネ、ヘロイン):作用=鎮痛、多幸感、縮瞳、呼吸抑制、便秘。離脱=散瞳、流涙、鼻漏、あくび、立毛、発汗、下痢、腹痛、筋肉痛。精神依存・身体依存ともに強い。 ・覚醒剤(メタンフェタミン、アンフェタミン)、コカイン:作用=覚醒、多幸感、食欲低下、散瞳、頻脈。離脱=疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進。精神依存が強い。 ・ニコチン:作用=軽度の覚醒、食欲抑制。離脱=イライラ、不安、集中困難、食欲増加・体重増加。 ・大麻、幻覚薬(LSD等):主に精神依存が問題となり、身体依存は乏しい(大麻には軽度の離脱症状も報告されている)。

治療上の要点

・アルコール離脱:長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬で症状を抑え、ウェルニッケ脳症予防にビタミンB1を補充する。 ・ベンゾジアゼピン系:急な中止を避け、ゆっくり漸減する。

POINT

・離脱症状は原則として「その物質の作用の逆」が出る。 ・抑制薬(アルコール、抗不安薬、オピオイド)の離脱では過興奮(不眠、不安、発汗、振戦、けいれん)。 ・オピオイド:使用中は縮瞳、離脱で散瞳・流涙・鼻漏・あくび・下痢。 ・刺激薬(メタンフェタミン)の離脱では疲労感、過眠、抑うつ、食欲亢進。 ・ニコチン離脱ではイライラと食欲増加・体重増加(食欲低下ではない)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。