しこりがなくても見逃せない―マンモグラフィの「微細石灰化」が告げる乳癌
第106回医師国家試験 I問題 第59問
国試問題にチャレンジ
50歳の女性。人間ドックのマンモグラフィで異常を指摘されたため来院した。両側の乳房に腫瘤を触知しない。両側の腋窩リンパ節を触知しない。持参したマンモグラフィの病変部を別に示す。 診断として最も考えられるのはどれか。

- a.乳癌
- b.囊胞
- c.乳腺症
- d.線維腺腫
- e.葉状腫瘍
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
マンモグラフィで、大きさや形のふぞろいな微細石灰化が限局した範囲に集簇している場合は、腫瘤を触知しなくても乳癌、とくに非浸潤性乳管癌(DCIS)や早期浸潤癌を強く疑います。これは乳管内の癌の壊死部にカルシウムが沈着するためで、線状・分枝状や区域性の分布も悪性を示唆します。一方、粗大なポップコーン状(退縮した線維腺腫)、輪状、両側びまん性・散在性の円形石灰化は良性寄りで、嚢胞・乳腺症・線維腺腫・葉状腫瘍はそれぞれ年齢や腫瘤の性状で区別できます。確定診断は拡大撮影や超音波の追加のうえ、ステレオガイド下吸引式組織生検などで病理学的に行います。石灰化の「形態と分布」で良悪性を読む視点は、検診で見つかる非触知乳癌を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・50歳の女性。自覚症状はなく、人間ドックのマンモグラフィ(乳房エックス線撮影)で異常を指摘された。 ・視触診では両側乳房に腫瘤を触れず、腋窩リンパ節も触れない。 ・マンモグラフィの拡大像では、乳腺内の境界が不明瞭な淡い高濃度域に、大きさと形のふぞろいな微細な石灰化が狭い範囲に集まって(集簇して)みられる。
診断へのプロセス
マンモグラフィの石灰化は、良性の石灰化と悪性を疑う石灰化とに分けて読む。良性を示唆するのは、粗大な石灰化(ポップコーン状など)、中心が抜けた輪状・卵殻状の石灰化、両側乳房にびまん性・散在性に分布する円形の小石灰化などである。一方、悪性を疑うのは、微小で形や大きさ・濃度がふぞろいな多形性の石灰化、線状や分枝状の石灰化であり、それらが集簇性・区域性(乳管に沿った広がり)に分布する場合である。これは乳管内で癌細胞が壊死し、その壊死物質にカルシウムが沈着するためで、乳管内に広がる非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ:DCIS)や早期の浸潤癌でよくみられる。 本例は、50歳という乳癌の好発年齢で、限局した範囲に多形性の微細石灰化が集簇しており、周囲には境界不明瞭な濃度上昇も伴う。触知できなくても、この石灰化の性状は乳癌を強く疑わせる所見である。
設問の考え方
「しこりを触れない」ことは乳癌を否定する根拠にならない。検診マンモグラフィの目的は、まさにこのような触知できない早期の乳癌(非触知乳癌)を石灰化などで見つけることにある。石灰化の形態と分布に注目すれば、選択肢の良性疾患との区別がつく。実際の診療では、超音波検査やマンモグラフィの拡大撮影を追加し、ステレオガイド下吸引式組織生検などで病理学的に確定する。
選択肢考察
- ○a. 乳癌
限局した範囲に集簇する微細・多形性の石灰化は、乳管内の癌の壊死部分に生じる石灰化を反映し、乳癌、とくに非浸潤性乳管癌や早期浸潤癌に特徴的なマンモグラフィ所見である。本例では境界不明瞭な濃度上昇も伴っている。50歳という好発年齢とも合致し、触知しない病変であっても最も考えられる診断は乳癌(検診で発見された非触知乳癌)である。
- ×b. 囊胞
乳腺の嚢胞は乳管が拡張して液体がたまったもので、閉経前後の女性に多い。マンモグラフィでは円形〜楕円形で辺縁が平滑、内部濃度が均一な腫瘤として写り、微細石灰化の集簇は伴わない。超音波では内部無エコーで後方エコーが増強する境界明瞭な病変として容易に診断できる。本例の画像所見とは合わない。
- ×c. 乳腺症
乳腺症は、女性ホルモンの影響で乳腺に増殖や嚢胞形成などの変化が混在する良性の状態で、30〜40歳代に多い。月経周期に伴って強まる乳房痛や、境界のはっきりしない硬結として自覚されることが多い。石灰化を伴う場合もあるが、多くは円形でそろった小石灰化が両側乳房にびまん性・散在性に分布する形をとる。本例のような限局した多形性微細石灰化の集簇は乳癌をまず考えるべき所見であり、乳腺症とは考えにくい。
- ×d. 線維腺腫
線維腺腫は乳管上皮と間質がともに増殖する良性腫瘍で、10〜30歳代の若い女性に多く、よく動く弾性硬の境界明瞭な腫瘤として触れる。マンモグラフィでは辺縁平滑な楕円形の腫瘤として写り、閉経前後に退縮すると粗大なポップコーン状の石灰化を伴うことがあるが、これは良性を示す石灰化である。本例の微細で多形性の集簇石灰化とは性状が異なる。
- ×e. 葉状腫瘍
葉状腫瘍は間質成分が主体となって増殖する線維上皮性腫瘍で、40歳代を中心に発症し、短期間で急速に大きくなることが特徴である。良性・境界病変・悪性に分類され、局所再発しやすい。マンモグラフィでは線維腺腫に似た辺縁平滑で分葉状の大きな腫瘤として写り、通常は触知できる大きさになる。本例のような非触知で微細石灰化の集簇を主体とする所見とは合わない。
マンモグラフィの基本所見
・腫瘤:形状(円形・楕円形・多角形・分葉状・不整形)と辺縁(境界明瞭平滑、微細分葉状、微細鋸歯状、スピキュラ)で評価する。不整形・スピキュラ(腫瘤から放射状に伸びる線状影)を伴う腫瘤は悪性を強く疑う。 ・石灰化:形態と分布の組み合わせで評価する。 良性を示唆:粗大・ポップコーン状(退縮した線維腺腫)、中心透亮性・輪状(脂肪壊死など)、血管の石灰化、びまん性・散在性の円形石灰化。 悪性を疑う:微小円形・淡く不明瞭な石灰化が集簇・区域性に分布するもの、多形性(大きさ・形・濃度がふぞろい)の石灰化、微細線状・微細分枝状の石灰化(乳管内の癌に沿って鋳型状に沈着する)。 ・局所的非対称性陰影、構築の乱れ(腫瘤を伴わずに乳腺の構造が一点に引き込まれる所見)なども癌を疑う所見である。 ・評価はカテゴリー1(異常なし)〜5(悪性)で判定し、カテゴリー3以上は精密検査の対象となる。
乳癌検診
・日本では40歳以上の女性に2年に1回のマンモグラフィ検診が推奨されている。 ・マンモグラフィは石灰化の検出に優れ、超音波検査が苦手とする非触知の非浸潤癌を見つけやすい。一方、乳腺濃度の高い若年者(高濃度乳房)では病変が乳腺に隠れやすく、超音波検査の併用が検討される。
精密検査の流れ
石灰化病変ではマンモグラフィのスポット拡大撮影で形態を詳しく評価し、超音波検査で対応する病変を探す。病理診断には、超音波ガイド下の針生検、あるいは超音波で同定できない石灰化病変にはステレオガイド下吸引式乳房組織生検を行う。広がり診断には造影MRIが有用である。
良性乳腺疾患の特徴(年齢と所見の目安)
・線維腺腫:10〜30歳代。可動性良好な境界明瞭の腫瘤。 ・乳腺症:30〜40歳代。周期的な乳房痛、境界不明瞭な硬結。 ・嚢胞:40歳代前後。超音波で無エコー、後方エコー増強。 ・葉状腫瘍:40歳代中心。急速増大する大きな腫瘤。 ・乳管内乳頭腫:血性乳頭分泌の原因として多い。
POINT
・触知しなくても、マンモグラフィの微細・多形性石灰化の集簇(または区域性分布)は乳癌を強く疑う。 ・悪性を疑う石灰化:微細、多形性、線状・分枝状、集簇性・区域性分布。良性の石灰化:粗大・ポップコーン状、輪状、びまん性散在性。 ・悪性を疑う腫瘤:不整形、スピキュラを伴う。良性:境界明瞭平滑、内部均一。 ・石灰化で見つかる非触知乳癌は非浸潤性乳管癌(DCIS)が多い。確定はステレオガイド下吸引式組織生検などの病理診断で行う。 ・線維腺腫の石灰化は粗大・ポップコーン状で良性所見である。
