真珠の首飾りと両側肺門―ぶどう膜炎から読み解くサルコイドーシスと血清ACE
第106回医師国家試験 I問題 第57問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。2週前から続く発熱と両眼の霧視とを主訴に来院した。意識は清明。身長170 cm,体重54 kg。体温37.2℃。脈拍84/分,整。血圧144/72 mmHg。呼吸数16/分。咽頭に異常を認めない。両側の頸部と左腋窩とに無痛性のリンパ節腫脹を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。細隙灯顕微鏡検査で両眼に虹彩炎を認める。眼底検査で両眼に真珠の首飾り状の硝子体混濁を認める。胸部エックス線写真を別に示す。 診断に有用な血液検査項目はどれか。

- a.ALT
- b.ALP
- c.AFP
- d.ACE
- e.ACTH
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
両眼の肉芽腫性ぶどう膜炎(真珠の首飾り状・雪玉状の硝子体混濁)と両側肺門リンパ節腫脹(BHL)の組み合わせは、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を特徴とするサルコイドーシスを強く示唆します。血清ACEは肉芽腫の類上皮細胞が産生するため病変量に応じて上昇し、診断基準の特徴的検査所見の一つであるとともに病勢の指標にもなりますが、感度は高くないため正常でも否定はできません。診断基準にはほかに血清リゾチームや可溶性IL-2受容体の高値、ガリウムシンチ・FDG-PETの集積、BALのCD4/CD8比上昇が含まれ、高カルシウム血症やツベルクリン反応陰性化も特徴です。ALT・ALP・AFP・ACTHはいずれも非特異的または別の目的の検査であり、略語の意味を正確に押さえることが鑑別の鍵となります。突然死につながる心病変の検索を含め、全身の臓器病変を評価する視点を身につけることが臨床でも重要です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・30歳男性。2週間続く微熱(37.2℃)と両眼の霧視(かすみ目)。 ・両側頸部と左腋窩の無痛性リンパ節腫脹。咽頭所見なし、肝脾腫なし。 ・眼:両眼の虹彩炎(前部ぶどう膜炎)と、真珠の首飾り状(数珠状)の硝子体混濁。 ・胸部エックス線写真:両側の肺門部が左右対称性に張り出しており、両側肺門リンパ節腫脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)の所見である。肺野に明らかな浸潤影はない。
診断へのプロセス
両眼のぶどう膜炎と全身のリンパ節腫脹を同時に呈する若年者では、サルコイドーシス、Behçet病、結核、悪性リンパ腫、梅毒などが鑑別に挙がる。このうち、硝子体中に白い小塊が連なる「真珠の首飾り状(数珠状)」や「雪玉状」の硝子体混濁は、類上皮細胞肉芽腫が硝子体内に形成されるサルコイドーシスに特徴的な眼所見である。さらに胸部エックス線写真でBHLがみられ、無痛性の表在リンパ節腫脹も肉芽腫の形成で説明できる。Behçet病では口腔内アフタ・皮膚症状・陰部潰瘍を伴い、眼所見は前房蓄膿を伴う非肉芽腫性の炎症が典型でBHLは来さない。悪性リンパ腫はBHLを呈しうるが、左右対称性のBHLとぶどう膜炎の組み合わせはサルコイドーシスを強く示唆する。以上からサルコイドーシスと診断する。
設問の考え方
サルコイドーシスの診断は、臓器病変の臨床所見(眼・肺・皮膚・心臓など)、特徴的な検査所見、そして生検による非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の証明を組み合わせて行う。血液検査で診断基準に含まれるのは、血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性の上昇、血清リゾチームの上昇、血清可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)の上昇である。選択肢の中ではACEがこれに該当する。
選択肢考察
- ×a. ALT
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は主に肝細胞に含まれる酵素で、ウイルス性肝炎、脂肪肝、薬剤性肝障害など肝細胞が障害されると血中に漏れ出て上昇する。サルコイドーシスでも肝臓に肉芽腫ができることはあるが、ALTは疾患特異性がなく診断基準にも含まれない。本例では肝腫大などの肝病変を示す所見もなく、診断に有用とはいえない。
- ×b. ALP
ALP(アルカリホスファターゼ)は肝・胆道系と骨に多く含まれ、胆汁うっ滞(閉塞性黄疸、原発性胆汁性胆管炎など)や骨芽細胞活性の亢進(骨転移、骨Paget病、成長期など)で上昇する。サルコイドーシスの肝病変で胆道系酵素が上がることはあるが非特異的であり、診断基準の項目ではない。本例の診断に有用な検査ではない。
- ×c. AFP
AFP(α-フェトプロテイン)は胎児期に産生される蛋白で、成人では肝細胞癌や卵黄嚢腫瘍成分を含む胚細胞腫瘍の腫瘍マーカーとして用いられる。若年男性の縦隔腫瘍では胚細胞腫瘍の鑑別でAFPを測ることがあるが、本例の画像は前縦隔腫瘤ではなく両側対称性の肺門リンパ節腫脹であり、ぶどう膜炎も含めた全体像はサルコイドーシスを示す。AFPはサルコイドーシスの診断には役立たない。
- ○d. ACE
ACE(アンジオテンシン変換酵素)は、サルコイドーシスの肉芽腫を構成する類上皮細胞(活性化したマクロファージ)が産生するため、病変が広がると血清ACE活性が上昇する。上昇は全身の肉芽腫の量(病勢)をある程度反映し、診断基準の特徴的検査所見の一つであるとともに、経過観察や治療効果の判定にも用いられる。ただし感度は高くなく(上昇するのは患者の半数強程度)、正常値でも否定はできない。また、甲状腺機能亢進症、糖尿病、Gaucher病などでも上昇することがあり、ACE阻害薬を内服していると低値になる点にも注意する。
- ×e. ACTH
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)は下垂体前葉から分泌され、副腎皮質からのコルチゾール分泌を促す。Cushing病や異所性ACTH産生腫瘍では高値、副腎性Cushing症候群では低値、Addison病(原発性副腎皮質機能低下症)では高値となるなど、主に視床下部-下垂体-副腎系の評価に用いられる。サルコイドーシスが視床下部・下垂体に及ぶと下垂体機能低下を来すことはあるが、本例にその所見はなく、サルコイドーシス自体の診断には用いない。
サルコイドーシスの概要
・原因不明の全身性肉芽腫性疾患で、病理学的には乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫)が特徴である。 ・発症年齢は20〜30歳代と50〜60歳代(とくに女性)に多い。健診の胸部エックス線写真でBHLを指摘されて見つかることも多い。 ・主な罹患臓器:肺・縦隔リンパ節(最多)、眼、皮膚、心臓、神経、肝臓、腎臓、骨など。 ・心病変(房室ブロック、心室性不整脈、心不全)は突然死の原因となり、予後を左右する。
眼病変
・日本人では眼病変の頻度が高く、霧視・飛蚊症・羞明などで眼科を受診して発見されることが多い。 ・特徴的な眼所見:肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)、隅角結節またはテント状の周辺虹彩前癒着、塊状の硝子体混濁(雪玉状、数珠状=真珠の首飾り状)、網膜血管周囲炎(とくに静脈周囲炎)、多発性網脈絡膜滲出斑・光凝固斑様の萎縮病巣、視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫。
特徴的な検査所見(日本の診断基準)
1. 両側肺門リンパ節腫脹(BHL) 2. 血清ACE活性高値または血清リゾチーム値高値 3. 血清可溶性インターロイキン2受容体(sIL-2R)高値 4. 67Gaシンチグラフィまたは18F-FDG PETにおける著明な集積所見 5. 気管支肺胞洗浄液(BAL)のリンパ球比率上昇、またはCD4/CD8比の上昇 これらのうち2項目以上を満たすことが臨床診断の要件の一つとなる。組織診断群では、生検で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を証明する。
その他の検査所見
・高カルシウム血症・高カルシウム尿症:肉芽腫のマクロファージが1α水酸化酵素をもち、活性型ビタミンD(1,25-(OH)2D)を過剰に産生するため。 ・ツベルクリン反応の陰性化(細胞性免疫の低下を反映)。 ・γグロブリンの上昇。
治療
自然寛解が多いため、無症状のBHLのみなら経過観察が基本。眼病変にはまずステロイド点眼などの局所療法を行い、心病変・神経病変、重い眼病変・肺病変などでは副腎皮質ステロイドの全身投与を行う。
POINT
・ぶどう膜炎(虹彩炎、真珠の首飾り状・雪玉状の硝子体混濁)+BHL → サルコイドーシス。 ・血液検査で診断基準に入るのは、血清ACE高値(またはリゾチーム高値)、sIL-2R高値。 ・ACEは類上皮細胞が産生し、病勢の指標にもなるが、感度は高くない。 ・他の特徴:高カルシウム血症(活性型ビタミンDの産生)、ツベルクリン反応陰性化、67Ga・FDG集積、BALのCD4/CD8比上昇。 ・病理は非乾酪性類上皮細胞肉芽腫。心病変は突然死の原因となる。
