網膜の「さざ波」が消えるとき―律動様小波と糖尿病網膜症
第106回医師国家試験 I問題 第13問
国試問題にチャレンジ
ERGで律動様小波〈OP〉が減弱する眼疾患はどれか。
- a.加齢白内障
- b.糖尿病網膜症
- c.角膜ヘルペス
- d.乾性角結膜炎
- e.流行性角結膜炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ERG(網膜電図)は光刺激に対する網膜全体の電位変化を記録する検査で、網膜機能を他覚的に評価します。a波は視細胞、b波は双極細胞とMüller細胞、律動様小波はアマクリン細胞など網膜内層に由来し、律動様小波は網膜内層の虚血に特に敏感です。そのため微小循環障害による糖尿病網膜症では、眼底変化が明らかになる前から律動様小波が減弱し、早期発見や重症度評価に役立ちます。白内障や角膜・結膜疾患は網膜機能を障害しないためERGは変化せず、むしろ中間透光体の混濁で眼底が見えないときの網膜機能評価にERGが用いられます。網膜色素変性症でのa波・b波の著明な減弱など、波形と網膜の層・血流支配を結びつけて理解することが、眼科検査の解釈の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
ERG(electroretinogram、網膜電図)は、眼に光刺激を与えたときに網膜全体から生じる電位変化を、角膜上に置いた電極などで記録する電気生理学的検査である。網膜の機能を客観的に評価するためのものであり、角膜・結膜・水晶体といった前眼部の疾患ではERGの波形は基本的に変化しない。 ERGの主な成分とその発生源は次のとおりである。 ・a波: 光刺激直後に現れる陰性の波。視細胞(杆体・錐体)に由来する。 ・b波: a波に続く大きな陽性の波。双極細胞およびMüller細胞に由来する。 ・律動様小波(OP: oscillatory potentials): b波の上昇部分に重なる小さな波の群。主にアマクリン細胞など網膜内層に由来する。 律動様小波は網膜内層の循環障害(虚血)に非常に敏感で、眼底に目立った変化が出る前から減弱する。網膜内層は網膜中心動脈系から血流を受けているため、糖尿病網膜症のように網膜の微小循環が障害される疾患ではOPがいち早く低下する。したがって、選択肢のうち網膜の疾患である糖尿病網膜症を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 加齢白内障
白内障は水晶体の混濁であり、網膜そのものの機能は障害されない。そのためERGの律動様小波は減弱しない。むしろ、白内障や硝子体出血などで眼底が透見できないとき、手術で視力回復が見込めるか(網膜機能が保たれているか)を判定するためにフラッシュERGが用いられる。光は混濁した中間透光体をある程度通過するため、網膜が正常であればERGは記録できる。
- ○b. 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、高血糖による網膜毛細血管の障害(周皮細胞の脱落、基底膜の肥厚、毛細血管の閉塞など)によって網膜の虚血をきたす疾患である。律動様小波は網膜内層の虚血に敏感な成分であり、糖尿病網膜症では早い段階から減弱し、進行すると消失する。検眼鏡で網膜症が明らかになる前から低下することがあり、網膜症の早期発見や重症度の評価に役立つ。網膜症が進行するとb波の振幅も低下する。
- ×c. 角膜ヘルペス
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)による角膜の感染症で、上皮型(樹枝状角膜炎・地図状角膜炎)と実質型(円板状角膜炎など)がある。病変は角膜にとどまり、網膜の電気的な反応には影響しないため、ERGは変化しない。
- ×d. 乾性角結膜炎
涙液の量や質の異常により角膜・結膜の表面が障害される病態で、ドライアイとほぼ同義である。Sjögren症候群に伴うものが代表的である。眼の表面の疾患であり、網膜機能は保たれるため、ERGには影響しない。
- ×e. 流行性角結膜炎
アデノウイルス(主に8型・37型・54型など)による感染力の強い結膜炎で、角膜に点状の混濁(多発性角膜上皮下浸潤)を残すことがある。結膜・角膜の疾患であり網膜は障害されないため、ERGは変化しない。
ERGの成分と発生源
・a波(陰性波): 視細胞 ・b波(陽性波): 双極細胞、Müller細胞 ・律動様小波(OP): アマクリン細胞など網膜内層
ERG所見と代表的疾患
・律動様小波の減弱: 糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症など網膜内層の循環障害。 ・a波・b波ともに減弱〜消失(non-recordable): 網膜色素変性症(早期から著明に減弱し、診断に有用)、広範な網膜剝離、眼内金属異物による網膜障害(網膜鉄症)など。 ・陰性型(b波がa波より小さい): 網膜中心動脈閉塞症、先天停在性夜盲、X連鎖性若年網膜分離症など、網膜内層(双極細胞レベル)の障害。
ERGの臨床的な使い道
・網膜の機能を他覚的に評価できる。 ・白内障や硝子体出血で眼底が見えない症例で、術後の視機能回復の見込みを判断する。 ・網膜色素変性症などの遺伝性網膜疾患の診断。
糖尿病網膜症の病期(改変Davis分類)
・単純網膜症: 毛細血管瘤、点状・斑状出血、硬性白斑。 ・増殖前網膜症: 軟性白斑、網膜内細小血管異常(IRMA)、静脈の数珠状拡張。無灌流領域の拡大。 ・増殖網膜症: 新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剝離。 視力低下の原因としては、どの病期でも起こりうる糖尿病黄斑浮腫も重要である。
POINT
・ERG(網膜電図)は網膜機能の検査であり、角膜・結膜・水晶体の疾患では異常をきたさない。 ・a波は視細胞、b波は双極細胞・Müller細胞、律動様小波はアマクリン細胞など網膜内層に由来する。 ・律動様小波は網膜の虚血に敏感で、糖尿病網膜症では早期から減弱する。 ・網膜色素変性症ではERGが著しく減弱〜消失する。 ・中間透光体の混濁で眼底が見えないときの網膜機能評価にERGを用いる。
