StudyMed医師国家試験

網膜の「さざ波」が消えるとき―律動様小波と糖尿病網膜症

第106回医師国家試験 I問題 第13問

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第106回 I問題 第13問

ERGで律動様小波〈OP〉が減弱する眼疾患はどれか。

  1. a.加齢白内障
  2. b.糖尿病網膜症
  3. c.角膜ヘルペス
  4. d.乾性角結膜炎
  5. e.流行性角結膜炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はERG、網膜電図の問題だ。押さえるべきは2点。ERGが「眼のどこ」の機能を見ている検査なのか、そして律動様小波が網膜のどの層の、どんな異常に敏感なのか。まずERGとはどんな検査か説明できるかな。
医学生医学生
光刺激を与えて、眼から出る電位を記録する検査ですよね。でも眼のどこの反応なのかはあいまいです。
ドクタードクター
ERGは網膜全体から生じる電位変化を、角膜上に置いた電極などで記録する検査なんだ。つまり網膜の機能を客観的に評価するもの。角膜・結膜・水晶体といった前眼部の病気では、波形は基本的に変わらない。
医学生医学生
そうすると、選択肢のうち角膜や結膜の病気、白内障はすべて対象外になりますね。網膜の病気は糖尿病網膜症だけです。
ドクタードクター
その通り、それだけで正解にたどり着ける。ただ、理由まで理解しておきたい。ERGの主な波と発生源は覚えているかな。
医学生医学生
生理学の講義で、a波が視細胞、b波が双極細胞と習いました。律動様小波はどこでしたっけ。
ドクタードクター
b波にはMüller細胞も関わっている。律動様小波はb波の上り坂に重なる小さなさざ波のような波の群で、主にアマクリン細胞など網膜内層に由来する。そしてこの成分は、網膜内層の循環障害にとても敏感なんだ。
医学生医学生
網膜内層は網膜中心動脈から、外層は脈絡膜から栄養されるんでしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。糖尿病網膜症では、高血糖によって周皮細胞の脱落や基底膜の肥厚、毛細血管の閉塞が起こり、網膜内層が虚血に陥る。そのため律動様小波は早い段階から減弱し、進行すると消失する。検眼鏡で網膜症がはっきりする前から低下することがあるのがポイントだ。
医学生医学生
眼底所見より先に機能の変化が出るなら、早期発見にも役立ちそうですね。
ドクタードクター
そう、早期発見や重症度の評価に使える。網膜症が進むとb波の振幅も下がってくる。では、白内障についてはどう考える?
医学生医学生
水晶体が濁っていたら光が届かないので、ERGも小さくなりそうな気がします。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだ。白内障は網膜そのものの機能を障害しないから、律動様小波は減弱しない。むしろ、白内障や硝子体出血で眼底が見えない人に、手術で視力が回復しそうか、つまり網膜機能が保たれているかを判断するためにフラッシュERGを使う。強い光は混濁をある程度通過するから、網膜が正常ならERGは記録できるんだ。
医学生医学生
眼科の臨床実習で、硝子体出血の患者さんの術前にERGを測っていたのはそういう意味だったんですね。残りの角膜ヘルペス、乾性角結膜炎、流行性角結膜炎はどれも眼の表面の病気です。
ドクタードクター
そうだね。角膜ヘルペスは単純ヘルペスウイルスによる角膜炎で、樹枝状角膜炎が有名。乾性角結膜炎はいわゆるドライアイで、Sjögren症候群に伴うものが代表的。流行性角結膜炎はアデノウイルスによる感染力の強い結膜炎で、院内感染対策が重要になる。どれも網膜は障害されないから、ERGは変化しない。
医学生医学生
ERGで異常が出るほかの疾患も知っておきたいです。CBTの勉強で網膜色素変性症が出てきた気がします。
ドクタードクター
大事な疾患だね。網膜色素変性症は視細胞が障害されるので、a波・b波ともに早期から著しく減弱し、記録できなくなることもある。診断に非常に有用だ。広範な網膜剝離や眼内金属異物による網膜障害でも減弱する。また、b波がa波より小さくなる陰性型は、網膜中心動脈閉塞症や先天停在性夜盲など網膜内層の障害でみられる。律動様小波の減弱は、糖尿病網膜症のほか網膜中心静脈閉塞症など網膜内層の循環障害でも起こる。
医学生医学生
どの波が障害されるかで、網膜のどの層に問題があるかを推測できるんですね。
ドクタードクター
その通り。波の発生源と網膜の血流支配を結びつけておけば、どんな選択肢が来ても対応できる。糖尿病の患者さんは定期的な眼底検査が欠かせないけれど、黄斑浮腫はどの病期でも起こりうることも臨床では覚えておこう。

まとめ

ERG(網膜電図)は光刺激に対する網膜全体の電位変化を記録する検査で、網膜機能を他覚的に評価します。a波は視細胞、b波は双極細胞とMüller細胞、律動様小波はアマクリン細胞など網膜内層に由来し、律動様小波は網膜内層の虚血に特に敏感です。そのため微小循環障害による糖尿病網膜症では、眼底変化が明らかになる前から律動様小波が減弱し、早期発見や重症度評価に役立ちます。白内障や角膜・結膜疾患は網膜機能を障害しないためERGは変化せず、むしろ中間透光体の混濁で眼底が見えないときの網膜機能評価にERGが用いられます。網膜色素変性症でのa波・b波の著明な減弱など、波形と網膜の層・血流支配を結びつけて理解することが、眼科検査の解釈の基礎になります。

解答・解説

正解はbです

ERG(electroretinogram、網膜電図)は、眼に光刺激を与えたときに網膜全体から生じる電位変化を、角膜上に置いた電極などで記録する電気生理学的検査である。網膜の機能を客観的に評価するためのものであり、角膜・結膜・水晶体といった前眼部の疾患ではERGの波形は基本的に変化しない。 ERGの主な成分とその発生源は次のとおりである。 ・a波: 光刺激直後に現れる陰性の波。視細胞(杆体・錐体)に由来する。 ・b波: a波に続く大きな陽性の波。双極細胞およびMüller細胞に由来する。 ・律動様小波(OP: oscillatory potentials): b波の上昇部分に重なる小さな波の群。主にアマクリン細胞など網膜内層に由来する。 律動様小波は網膜内層の循環障害(虚血)に非常に敏感で、眼底に目立った変化が出る前から減弱する。網膜内層は網膜中心動脈系から血流を受けているため、糖尿病網膜症のように網膜の微小循環が障害される疾患ではOPがいち早く低下する。したがって、選択肢のうち網膜の疾患である糖尿病網膜症を選べばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  加齢白内障

    白内障は水晶体の混濁であり、網膜そのものの機能は障害されない。そのためERGの律動様小波は減弱しない。むしろ、白内障や硝子体出血などで眼底が透見できないとき、手術で視力回復が見込めるか(網膜機能が保たれているか)を判定するためにフラッシュERGが用いられる。光は混濁した中間透光体をある程度通過するため、網膜が正常であればERGは記録できる。

  2. ○b.  糖尿病網膜症

    糖尿病網膜症は、高血糖による網膜毛細血管の障害(周皮細胞の脱落、基底膜の肥厚、毛細血管の閉塞など)によって網膜の虚血をきたす疾患である。律動様小波は網膜内層の虚血に敏感な成分であり、糖尿病網膜症では早い段階から減弱し、進行すると消失する。検眼鏡で網膜症が明らかになる前から低下することがあり、網膜症の早期発見や重症度の評価に役立つ。網膜症が進行するとb波の振幅も低下する。

  3. ×c.  角膜ヘルペス

    単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)による角膜の感染症で、上皮型(樹枝状角膜炎・地図状角膜炎)と実質型(円板状角膜炎など)がある。病変は角膜にとどまり、網膜の電気的な反応には影響しないため、ERGは変化しない。

  4. ×d.  乾性角結膜炎

    涙液の量や質の異常により角膜・結膜の表面が障害される病態で、ドライアイとほぼ同義である。Sjögren症候群に伴うものが代表的である。眼の表面の疾患であり、網膜機能は保たれるため、ERGには影響しない。

  5. ×e.  流行性角結膜炎

    アデノウイルス(主に8型・37型・54型など)による感染力の強い結膜炎で、角膜に点状の混濁(多発性角膜上皮下浸潤)を残すことがある。結膜・角膜の疾患であり網膜は障害されないため、ERGは変化しない。

ERGの成分と発生源

・a波(陰性波): 視細胞 ・b波(陽性波): 双極細胞、Müller細胞 ・律動様小波(OP): アマクリン細胞など網膜内層

ERG所見と代表的疾患

・律動様小波の減弱: 糖尿病網膜症、網膜中心静脈閉塞症など網膜内層の循環障害。 ・a波・b波ともに減弱〜消失(non-recordable): 網膜色素変性症(早期から著明に減弱し、診断に有用)、広範な網膜剝離、眼内金属異物による網膜障害(網膜鉄症)など。 ・陰性型(b波がa波より小さい): 網膜中心動脈閉塞症、先天停在性夜盲、X連鎖性若年網膜分離症など、網膜内層(双極細胞レベル)の障害。

ERGの臨床的な使い道

・網膜の機能を他覚的に評価できる。 ・白内障や硝子体出血で眼底が見えない症例で、術後の視機能回復の見込みを判断する。 ・網膜色素変性症などの遺伝性網膜疾患の診断。

糖尿病網膜症の病期(改変Davis分類)

・単純網膜症: 毛細血管瘤、点状・斑状出血、硬性白斑。 ・増殖前網膜症: 軟性白斑、網膜内細小血管異常(IRMA)、静脈の数珠状拡張。無灌流領域の拡大。 ・増殖網膜症: 新生血管、硝子体出血、牽引性網膜剝離。 視力低下の原因としては、どの病期でも起こりうる糖尿病黄斑浮腫も重要である。

POINT

・ERG(網膜電図)は網膜機能の検査であり、角膜・結膜・水晶体の疾患では異常をきたさない。 ・a波は視細胞、b波は双極細胞・Müller細胞、律動様小波はアマクリン細胞など網膜内層に由来する。 ・律動様小波は網膜の虚血に敏感で、糖尿病網膜症では早期から減弱する。 ・網膜色素変性症ではERGが著しく減弱〜消失する。 ・中間透光体の混濁で眼底が見えないときの網膜機能評価にERGを用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。