圧の高い方から低い方へ―シャントの向きで読み解く先天性心疾患
第106回医師国家試験 I問題 第11問
国試問題にチャレンジ
左→右シャントをきたすのはどれか。
- a.Ebstein奇形
- b.Fallot四徴症
- c.動脈管開存症
- d.左心低形成症候群
- e.総肺静脈還流異常症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
先天性心疾患は、圧の高い体循環側から肺循環側へ流れる左→右シャント(非チアノーゼ性)と、静脈血が体循環へ流れ込む右→左シャント(チアノーゼ性)に分けて考えると整理しやすくなります。動脈管開存症は出生後も大動脈から肺動脈へ血液が流れ続ける典型的な左→右シャントで、胸骨左縁上部の連続性雑音と脈圧の増大が特徴です。Fallot四徴症、総肺静脈還流異常症、左心低形成症候群はチアノーゼ性心疾患であり、Ebstein奇形も合併する心房間交通を介した右→左シャントでチアノーゼを呈しえます。左→右シャントが長期化すると肺高血圧からEisenmenger化して短絡が逆転し、動脈管開存症では下半身優位のチアノーゼが現れます。早産児の動脈管開存症ではプロスタグランジン合成阻害薬で閉鎖を促し、動脈管依存性の疾患ではプロスタグランジンE1で開存を保つというように、シャントの理解は治療選択にも直結します。
解答・解説
正解はcです
先天性心疾患は、血液の短絡(シャント)の向きによって大きく二つに分けて考えると理解しやすい。
左→右シャント(左右短絡)
圧の高い体循環側(左心系・大動脈)から、圧の低い肺循環側(右心系・肺動脈)へ、酸素化された血液が流れ込む状態である。動脈血に静脈血は混ざらないため、原則としてチアノーゼは生じない(非チアノーゼ性心疾患)。代表は心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)、房室中隔欠損症である。肺血流が増えるため、短絡量が多いと心不全や肺高血圧をきたす。
右→左シャント(右左短絡)
静脈血が肺を通らずに体循環へ流れ込む状態で、動脈血の酸素飽和度が下がり中心性チアノーゼをきたす(チアノーゼ性心疾患)。Fallot四徴症、完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、左心低形成症候群などがこれにあたる。 本問の選択肢のうち、Fallot四徴症、左心低形成症候群、総肺静脈還流異常症はいずれもチアノーゼ性心疾患であり、Ebstein奇形も心房間交通を介した右→左シャントでチアノーゼを呈しうる。なお、左心低形成症候群や総肺静脈還流異常症では、心臓内のどこかの部位で左→右方向の血流も同時に存在する(混合型の短絡)。厳密にいえば「左→右方向の血流を含む」疾患は複数あるが、「左→右シャントを基本病態とする疾患」、言い換えれば非チアノーゼ性の短絡疾患として典型的なものを選ぶ、というのが本問の趣旨である。その観点から、左→右シャントのみを呈する動脈管開存症が正解となる。
選択肢考察
- ×a. Ebstein奇形
三尖弁の中隔尖・後尖が正常な弁輪位置より心尖部側(右室側)へずれて付着する奇形である。弁より上の右室部分が右房と一体化し(右室の心房化)、機能する右室は小さくなる。三尖弁閉鎖不全(逆流)が主病態であり、疾患そのものは短絡ではない。ただし多くの症例で心房中隔欠損や卵円孔開存を合併し、右房圧が上昇するとこの交通を通って右→左シャントが生じ、チアノーゼを呈する。左→右シャントを基本病態とする疾患ではない。
- ×b. Fallot四徴症
心室中隔欠損、肺動脈狭窄(右室流出路狭窄)、大動脈騎乗、右室肥大の4つを特徴とする、最も頻度の高いチアノーゼ性心疾患である。右室流出路狭窄のため右室圧が上昇し、心室中隔欠損を通って静脈血が大動脈へ流れる右→左シャントが基本である。啼泣などを契機に流出路狭窄が強まると低酸素発作(無酸素発作)を起こす。左→右シャント疾患ではない。
- ○c. 動脈管開存症
動脈管は胎児期に肺動脈と下行大動脈をつなぐ血管で、通常は出生後数日以内に閉鎖する。これが閉じずに残ると、出生後は大動脈圧が肺動脈圧より常に高いため、収縮期・拡張期を通じて大動脈から肺動脈へ血液が流れる。すなわち典型的な左→右シャントであり、聴診では胸骨左縁上部に連続性雑音を聴取する。肺血流の増加により左房・左室の容量負荷をきたす。なお、未治療のまま高度の肺高血圧が進行すると短絡が逆転して右→左となること(Eisenmenger化)があり、この場合は下半身優位のチアノーゼ(differential cyanosis)を呈するが、本来の病態は左→右シャントである。
- ×d. 左心低形成症候群
左室・僧帽弁・大動脈弁・上行大動脈が高度に低形成(大動脈弁や僧帽弁の閉鎖を伴うことが多い)で、左心系が体循環を担えない疾患である。肺から左房に戻った血液は卵円孔(心房間交通)を通って右房へ流れ(左→右方向)、右室から肺動脈に拍出された血液の一部が動脈管を経て大動脈へ流れることで体血流が維持される(右→左方向)。つまり体循環は静脈血と動脈血が混じった血液に依存しており、チアノーゼ性心疾患に分類される。動脈管が閉鎖するとショックに陥るため、プロスタグランジンE1で動脈管の開存を維持する必要がある(動脈管依存性の体循環)。左→右シャント疾患には該当しない。
- ×e. 総肺静脈還流異常症
すべての肺静脈が左房に接続せず、垂直静脈・上大静脈・冠静脈洞・門脈などを経由して右房へ還流する疾患である。酸素化された肺静脈血が右心系へ戻る点は左→右方向の血流ともいえるが、体循環へ血液を送るためには、右房に集まった混合血が心房中隔欠損(卵円孔)を通って左房へ流れる必要があり、ここは右→左シャントとなる。その結果チアノーゼを呈するため、チアノーゼ性心疾患に分類される。肺静脈の還流路が狭窄している型(特に下心臓型)では、肺うっ血と高度の低酸素血症をきたし、新生児期の緊急手術の対象となる。
先天性心疾患の短絡による分類
・左→右シャント(非チアノーゼ性): 心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、動脈管開存症、房室中隔欠損症(心内膜床欠損症)など。肺血流増加 → 心不全・肺高血圧。 ・右→左シャント(チアノーゼ性): Fallot四徴症、完全大血管転位症、総肺静脈還流異常症、三尖弁閉鎖症、総動脈幹症、左心低形成症候群、肺動脈閉鎖など。 ・短絡を主病態としないもの: 大動脈縮窄症(単独)、肺動脈弁狭窄症、大動脈弁狭窄症など。
Eisenmenger症候群
左→右シャントが長期間持続すると肺血管に不可逆的な変化が生じ、肺血管抵抗が上昇する。肺動脈圧が体血圧に近づく・上回ると短絡が右→左に逆転し、チアノーゼが出現する。この段階では短絡閉鎖手術は原則として適応外となる。
動脈管開存症のポイント
・女児に多く、先天性風疹症候群や早産児で頻度が高い。 ・連続性雑音(機械様雑音)、脈圧の増大(拡張期に大動脈から肺動脈へ血液が逃げるため拡張期血圧が低下)。 ・早産児ではインドメタシン(またはイブプロフェン)などのプロスタグランジン合成阻害薬で閉鎖を促す。成熟児・年長児ではカテーテル閉鎖術や外科的結紮術を行う。 ・逆に、動脈管に血流を依存する疾患(左心低形成症候群、肺動脈閉鎖など)では、プロスタグランジンE1で動脈管の開存を保つ。
POINT
・左→右シャントの代表はVSD、ASD、PDA(いずれも非チアノーゼ性)。 ・動脈管開存症は大動脈から肺動脈への左→右シャントで、連続性雑音と脈圧増大が特徴。 ・Fallot四徴症、総肺静脈還流異常症、左心低形成症候群はチアノーゼ性(右→左シャントを含む)。 ・Ebstein奇形は三尖弁の付着位置異常で、心房間交通を介した右→左シャントによりチアノーゼを呈しうる。 ・左→右シャントが持続するとEisenmenger化して右→左シャントに逆転する。
