StudyMed医師国家試験

大動脈と動脈に挟まれて―十二指腸水平部が閉じる「上腸間膜動脈症候群」

第106回医師国家試験 I問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第106回 I問題 第10問

十二指腸を閉塞するのはどれか。

  1. a.薬物性腸炎
  2. b.十二指腸憩室
  3. c.好酸球性胃腸炎
  4. d.上腸間膜動脈症候群
  5. e.十二指腸粘膜下異所性膵

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、十二指腸の内腔そのものを閉塞させる病態を選ぶ問題だ。選択肢はどれも十二指腸や腸管に関係する疾患だけど、「粘膜の炎症を起こすのか」「多くは無症状なのか」「内腔を物理的にふさぐのか」という視点で整理すると答えが見えてくる。まず、十二指腸の解剖はどのくらい覚えているかな。
医学生医学生
球部、下行部、水平部、上行部の4つに分かれていて、大部分が後腹膜に固定されている、と解剖学実習で習いました。
ドクタードクター
その通り。ポイントは水平部だ。水平部は第3腰椎あたりの高さで、脊椎と腹部大動脈の前を右から左へ横切っている。そしてその前を、大動脈から前下方に分かれた上腸間膜動脈が下りてくる。つまり水平部は、後ろの大動脈と前の上腸間膜動脈に挟まれた位置にあるんだ。
医学生医学生
なるほど、血管でサンドイッチされているような形ですね。その隙間が狭くなると十二指腸が押しつぶされる、ということでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが上腸間膜動脈症候群、つまり正解だ。大動脈と上腸間膜動脈の間の角度は、ふつうはある程度開いていて、そこを脂肪組織がクッションのように支えている。この脂肪が減ると角度が狭くなり、水平部が圧迫されて閉塞するんだ。
医学生医学生
脂肪が減る、ということは、急に痩せた人に起こりやすいんですか。
ドクタードクター
いい推論だね。急激な体重減少、たとえば神経性やせ症や悪性腫瘍、重症熱傷のあと、それに長期臥床ややせ型で内臓下垂のある人がリスクになる。脊柱側弯症の矯正手術や体幹のギプス固定のあとに起こることも知られている。症状は食後の上腹部痛や膨満感、悪心・嘔吐で、胆汁性の嘔吐になることもある。
医学生医学生
食べると苦しくなって、さらに食べられずに痩せて悪化する、という悪循環になりそうですね。
ドクタードクター
鋭いね。実際にそうした悪循環に陥ることがある。もう一つの特徴が体位による変化だ。仰臥位で悪化し、腹臥位や左側臥位、胸膝位で楽になる。腸間膜が重力で前に移動して、圧迫がゆるむからなんだ。
医学生医学生
解剖がわかっていると、体位で症状が変わる理由も自然に理解できますね。では、ほかの選択肢も確認させてください。薬物性腸炎は抗菌薬やNSAIDsで起こるものですよね。
ドクタードクター
そう。腸管粘膜にびらんや潰瘍、炎症が起こる疾患で、主な症状は下痢、腹痛、血便だ。抗菌薬関連ではClostridioides difficileによる偽膜性腸炎などがある。NSAIDs潰瘍が治る過程で膜様狭窄を残すことはあるけれど、舞台は主に小腸や大腸で、十二指腸閉塞の原因として挙げる疾患ではない。
医学生医学生
十二指腸憩室は、乳頭の近くにできると黄疸を起こすと聞いたことがあります。これは閉塞といえないんですか。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。乳頭近くの憩室が総胆管や膵管を圧迫して閉塞性黄疸や胆管炎、膵炎を起こすものをLemmel症候群というけれど、閉塞されるのは胆管・膵管であって十二指腸そのものではない。十二指腸憩室の大部分は筋層を欠く仮性憩室で、ほとんどは無症状なんだ。
医学生医学生
好酸球性胃腸炎は、消化器内科の実習で下痢と好酸球増多の患者さんを見ました。狭窄も起こしうると習った気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。好酸球がどの層に浸潤するかで、粘膜型、筋層型、漿膜下型に分けられる。筋層型では壁肥厚によって幽門部や小腸に狭窄をきたすことがあるけれど頻度は低く、十二指腸閉塞を代表的な病態とする疾患ではない。治療は副腎皮質ステロイドが中心だ。
医学生医学生
異所性膵は、内視鏡で中心にくぼみのある粘膜下腫瘍として見つかるものですよね。
ドクタードクター
その通り。胃前庭部の大弯側や十二指腸、空腸の粘膜下に多く、ほとんどは無症状で偶然見つかる。まれに膵炎や嚢胞形成を起こすことはあっても、十二指腸の内腔をふさぐほど大きくなることはまれだ。
医学生医学生
まとめると、炎症を起こすもの、無症状のことが多いもの、そして解剖学的に挟まれて閉塞するもの、という分け方ですね。
ドクタードクター
完璧だ。診断も押さえておこう。腹部単純X線では胃と十二指腸口側の拡張がみられ、上部消化管造影では水平部で大動脈の走行に一致した直線的な途絶と、口側の球部・下行部の拡張がみられる。造影CTでは大動脈と上腸間膜動脈のなす角度や距離が小さくなっていることを確認する。
医学生医学生
治療はすぐ手術になるんでしょうか。
ドクタードクター
まずは保存療法だ。絶食と胃管による減圧、補液を行い、食後の体位を工夫しながら経腸栄養などで体重を回復させて、上腸間膜動脈周囲の脂肪を増やしていく。それでも改善しなければ十二指腸空腸吻合術などの手術を考える。臨床では、やせ型の若い女性や術後の長期臥床の患者が繰り返し嘔吐するとき、この疾患を思い浮かべられるかどうかが大切だよ。
医学生医学生
十二指腸閉塞の原因としては、新生児の十二指腸閉鎖や輪状膵もありましたね。小児科の講義でdouble bubble signを習いました。
ドクタードクター
いいつながりだね。先天性では十二指腸閉鎖・狭窄、輪状膵、腸回転異常症、後天性では上腸間膜動脈症候群のほか、十二指腸潰瘍の瘢痕狭窄、膵頭部癌や十二指腸癌、外傷による十二指腸壁内血腫などがある。年齢と背景から原因を絞り込めるように整理しておこう。

まとめ

上腸間膜動脈症候群は、十二指腸水平部が後方の腹部大動脈と前方の上腸間膜動脈に挟まれて圧迫され、十二指腸閉塞をきたす疾患です。急激な体重減少、やせ型体型、長期臥床、脊椎手術やギプス固定などで両血管の間の脂肪が減り、角度が狭くなることが誘因となり、食後の腹痛・嘔吐が仰臥位で悪化し腹臥位や左側臥位で軽快するのが特徴です。上部消化管造影での水平部の直線的途絶と口側拡張、CTでの血管間の角度・距離の減少が診断の手がかりで、治療は減圧と栄養療法による保存療法が基本です。一方、薬物性腸炎や好酸球性胃腸炎は主に粘膜の炎症性疾患、十二指腸憩室や異所性膵は多くが無症状であり、憩室による胆管・膵管の圧迫(Lemmel症候群)と十二指腸自体の閉塞を区別することが重要です。解剖学的位置関係から症状や体位変化の理由を説明できるようにしておくと、十二指腸閉塞の鑑別全般に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

十二指腸の内腔を閉塞(通過障害)させる病態を、選択肢の中から選ぶ問題である。各疾患が「十二指腸に何を起こすか」を、病変の部位と機序から考える。

解剖から考える

十二指腸は球部・下行部・水平部・上行部の4部に分けられ、大部分が後腹膜に固定されている。このうち水平部(第3部)は、第3腰椎の高さで脊椎と腹部大動脈の前面を右から左へ横切る。その前方を、腹部大動脈から前下方へ分岐した上腸間膜動脈(superior mesenteric artery:SMA)が下行するため、水平部は大動脈とSMAに前後から挟まれた位置にある。 この「大動脈とSMAがなす角度(通常はおよそ40〜60°程度)」が狭くなると、水平部が両者の間で圧迫されて閉塞する。これが上腸間膜動脈症候群であり、選択肢の中で十二指腸閉塞を本質的な病態とする疾患はこれである。

ほかの選択肢の位置づけ

薬物性腸炎や好酸球性胃腸炎は主に粘膜の炎症を起こす疾患で、症状の中心は腹痛・下痢・出血である。十二指腸憩室と十二指腸の異所性膵はいずれも多くが無症状で、偶然見つかることが多い。まれに狭窄や周囲臓器の圧迫をきたすことはあっても、十二指腸閉塞の代表的原因とはいえない。

選択肢考察

  1. ×a.  薬物性腸炎

    薬物性腸炎は、抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗悪性腫瘍薬、免疫抑制薬などにより腸管粘膜にびらん・潰瘍・炎症が生じるもので、下痢、腹痛、血便が主症状である。抗菌薬によるものには、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)感染による偽膜性腸炎や、右側結腸に多い急性出血性大腸炎がある。NSAIDsによる小腸・大腸潰瘍は治癒過程で輪状・膜様の狭窄を残すことがあるが、主な舞台は小腸や大腸であり、十二指腸閉塞の原因として挙げられる疾患ではない。

  2. ×b.  十二指腸憩室

    十二指腸憩室は、十二指腸壁の一部が袋状に外へ突出したもので、消化管の憩室としては大腸に次いで多い。大部分は下行部内側のファーター乳頭(十二指腸乳頭)付近に生じる、筋層を欠く仮性憩室であり、ほとんどが無症状である。乳頭近傍の憩室が総胆管や膵管を圧迫して閉塞性黄疸や胆管炎、膵炎を起こすことがあり、これをLemmel症候群というが、閉塞されるのは胆管・膵管であって十二指腸そのものではない。合併症として憩室炎、出血、穿孔がありうる。

  3. ×c.  好酸球性胃腸炎

    好酸球性胃腸炎は、消化管壁への好酸球の著明な浸潤を特徴とするアレルギー性の炎症性疾患で、しばしば末梢血好酸球増多やアレルギー疾患の既往を伴う。好酸球が浸潤する層により、粘膜型(下痢、腹痛、吸収不良、蛋白漏出、鉄欠乏性貧血)、筋層型(壁肥厚による狭窄症状)、漿膜下型(好酸球性腹水)に分けられる。筋層型では幽門部や小腸の狭窄をきたすことがあるが、頻度は低く、十二指腸閉塞を代表的病態とする疾患ではない。治療は副腎皮質ステロイドが中心である。

  4. ○d.  上腸間膜動脈症候群

    上腸間膜動脈症候群(上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症)は、十二指腸水平部が腹部大動脈とSMAの間に挟まれて圧迫され、急性または慢性の十二指腸閉塞をきたす疾患である。SMA周囲の脂肪組織が減ると大動脈とSMAの角度が狭くなるため、急激な体重減少(神経性やせ症、悪性腫瘍、重症熱傷など)、長期臥床、やせ型で内臓下垂のある人、脊柱側弯症の矯正手術や体幹のギプス固定・コルセット装着後などが誘因となる。食後の上腹部痛、腹部膨満、悪心・嘔吐(胆汁性のことがある)を示し、仰臥位で増悪し、腹臥位・左側臥位・胸膝位で軽快するのが特徴である。十二指腸造影では、水平部で大動脈の走行に一致した直線的な途絶と、口側の球部・下行部の拡張を認める。

  5. ×e.  十二指腸粘膜下異所性膵

    異所性膵(迷入膵)は、本来の膵臓と血管的・解剖的なつながりをもたない膵組織が他の部位に存在するもので、胃(特に前庭部の大弯側)、十二指腸、空腸の粘膜下に多い。内視鏡では中心に臍のようなくぼみ(開口部)をもつ粘膜下腫瘍として見つかることが多く、ほとんどは無症状である。まれに膵炎、嚢胞形成、腫瘍化を起こすことがあるが、十二指腸の内腔を閉塞するほど大きくなることはまれであり、十二指腸閉塞の原因として一般的ではない。

上腸間膜動脈症候群の整理

・機序:大動脈とSMAの角度・距離が狭くなり、その間を通る十二指腸水平部が圧迫される。CTでは大動脈とSMAのなす角度がおおむね25°以下、両者の間の距離が8mm以下程度に狭くなることが診断の目安とされる。 ・誘因:急激な体重減少、やせ型体型、長期臥床、脊椎手術・ギプス固定、腹部手術後など。 ・症状:食後の上腹部痛・膨満、嘔吐、体重減少。体重減少が症状を悪化させ、さらに痩せるという悪循環に陥ることがある。 ・体位による変化:仰臥位で悪化し、腹臥位・左側臥位・胸膝位で軽快する(腸間膜が重力で前方に移動し、圧迫がゆるむため)。 ・検査:腹部単純X線で胃と十二指腸口側の拡張(ガスや液体の貯留)、上部消化管造影で水平部の直線的途絶、造影CTで大動脈とSMAの角度・距離の減少を確認する。 ・治療:まず保存療法(絶食、胃管による減圧、補液、食後の体位工夫、経腸栄養で体重を回復させSMA周囲の脂肪を増やす)。改善しない場合は手術(十二指腸空腸吻合術など)を行う。

十二指腸閉塞・通過障害をきたす主な原因

・先天性:十二指腸閉鎖・狭窄(ダウン症候群に合併しやすく、腹部X線でdouble bubble sign)、輪状膵、腸回転異常症(Ladd靱帯による圧迫、中腸軸捻転)。 ・後天性:上腸間膜動脈症候群、十二指腸潰瘍の瘢痕狭窄、膵頭部癌・十二指腸癌などの悪性腫瘍、膵炎や後腹膜の腫瘍による圧迫、十二指腸壁内血腫(腹部外傷、特に小児)。

POINT

・上腸間膜動脈症候群は、十二指腸水平部が腹部大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫されて起こる十二指腸閉塞である。 ・誘因は急激な体重減少、やせ型、長期臥床、ギプス固定・脊椎手術。症状は仰臥位で悪化し、腹臥位・左側臥位・胸膝位で軽快する。 ・十二指腸造影で水平部の直線的途絶と、口側の拡張がみられる。 ・十二指腸憩室の多くは無症状で、乳頭近傍の憩室による胆管・膵管の圧迫がLemmel症候群。 ・異所性膵は胃・十二指腸の粘膜下腫瘍として偶然見つかることが多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。