たばこが「守る」?―喫煙の例外、Parkinson病の謎を解く
第106回医師国家試験 H問題 第5問
国試問題にチャレンジ
喫煙が発症リスクとならないのはどれか。
- a.喉頭癌
- b.歯周病
- c.子宮内発育遅延
- d.慢性閉塞性肺疾患
- e.特発性Parkinson病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
たばこの煙にはニコチン、一酸化炭素、多数の発癌物質が含まれ、喉頭癌やCOPDをはじめ、歯周病、胎児発育不全など全身の多様な疾患のリスクを高めます。一方、疫学的に喫煙者で発症が少ないとされる例外がParkinson病と潰瘍性大腸炎で、機序は確立しておらず、逆因果の可能性も議論されています。同じ炎症性腸疾患でもCrohn病は喫煙で増悪するという対照的な関係もあわせて押さえておきたいポイントです。こうした負の関連があっても喫煙を勧める理由には決してならず、喫煙歴の聴取と禁煙支援はあらゆる診療の基本です。喫煙関連疾患を広く知り、例外を正しく理解することは、試験対策だけでなく患者指導の説得力にもつながります。
解答・解説
正解はeです
本問は、喫煙と関連する疾患を正しく知っているかを問う問題である。 たばこの煙にはニコチン、一酸化炭素、多数の発癌物質(ベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、ニトロソアミン類など)が含まれ、癌、呼吸器疾患、心血管疾患、口腔疾患、妊娠・胎児への悪影響など、全身のさまざまな病気のリスクを高める。喫煙は「健康に良い点はない」と考えるのが原則である。 ただし疫学研究では、例外的に喫煙者のほうが発症率が低いとされる疾患が知られており、その代表がParkinson病と潰瘍性大腸炎である。本問は、4つの喫煙関連疾患の中からこの「逆相関」を示す疾患を選ばせる構成になっている。仮にParkinson病との関係を知らなくても、他の4疾患がいずれも喫煙で増えることを確実に押さえていれば消去法で正解できる。
選択肢考察
- ×a. 喉頭癌
喉頭は吸い込んだ煙が直接通過する部位であり、喉頭癌は喫煙との関連が極めて強い癌である。患者の大部分が喫煙者であり、その関連の強さは肺癌以上とされる。組織型の大半は扁平上皮癌で、飲酒も危険因子となり、喫煙と飲酒が重なるとリスクはさらに高まる。喫煙が発症リスクとなる疾患である。
- ×b. 歯周病
ニコチンによる血管収縮や一酸化炭素の影響で歯肉の微小循環が低下し、好中球などの免疫機能も抑えられるため、歯周組織の感染に対する抵抗力と修復力が落ちる。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病の発症・重症化が数倍多いとされ、治療への反応も悪い。また歯肉の血流が減るため出血などの炎症症状が目立たず、発見が遅れやすい。喫煙が発症リスクとなる疾患である。
- ×c. 子宮内発育遅延
妊娠中の喫煙では、ニコチンによる子宮・胎盤の血管収縮で胎盤血流が減り、一酸化炭素が結合したヘモグロビン(CO-Hb)の増加で胎児への酸素供給も低下する。その結果、胎児の発育が妨げられ、子宮内発育遅延(現在は胎児発育不全〈FGR〉と呼ぶ)や低出生体重児が増える。喫煙妊婦から生まれた児は非喫煙妊婦の児より出生体重が平均でおよそ200 g程度軽いとされる。ほかに流産、早産、前置胎盤、常位胎盤早期剝離、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクも高まる。喫煙が発症リスクとなる。
- ×d. 慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、たばこの煙などの有害物質を長期に吸入することで生じる肺の慢性炎症性疾患であり、肺胞の破壊(気腫病変)と末梢気道病変により不可逆的な気流閉塞をきたす。最大の原因は喫煙で、患者の9割以上に喫煙歴がある。禁煙は進行を遅らせる最も有効な介入である。喫煙が発症リスクとなる代表的疾患である。
- ○e. 特発性Parkinson病
多くの疫学研究で、喫煙者は非喫煙者よりParkinson病の発症率が低いという負の関連が示されている。ニコチンによるドパミン神経保護作用などが仮説として挙げられているが、機序は確立していない。また、発症前からの性格傾向や、病前段階でドパミン系の変化によりニコチンへの依存が生じにくいといった逆因果の可能性も議論されている。いずれにせよ喫煙が発症リスクとはならない疾患であり、これが正解となる。ただし、この関係は予防目的で喫煙を勧める根拠には決してならない。
喫煙と関連する主な疾患
悪性腫瘍:肺癌(特に扁平上皮癌・小細胞癌)、口腔・咽頭・喉頭癌、食道癌(扁平上皮癌)、胃癌、膵癌、肝癌、腎盂・尿管癌、膀胱癌、子宮頸癌など。 呼吸器疾患:COPD、気管支喘息の増悪、特発性肺線維症、自然気胸、肺Langerhans細胞組織球症など。 循環器疾患:虚血性心疾患、脳卒中(特にくも膜下出血)、腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、Buerger病(閉塞性血栓血管炎)など。 消化器疾患:消化性潰瘍、Crohn病(喫煙で発症・再燃が増える)など。 口腔疾患:歯周病など。 妊娠・周産期:胎児発育不全、低出生体重児、流産・早産、前置胎盤、常位胎盤早期剝離、乳幼児突然死症候群など。 その他:骨粗鬆症、2型糖尿病、関節リウマチ、Graves病眼症の悪化など。
喫煙者で発症が少ないとされる疾患
Parkinson病、潰瘍性大腸炎。潰瘍性大腸炎は禁煙後に発症・増悪することがある一方、同じ炎症性腸疾患でもCrohn病は喫煙で悪化するという対照的な関係にある。
POINT
・喫煙で発症が少ないとされる例外:Parkinson病、潰瘍性大腸炎 ・Crohn病は喫煙で増悪(潰瘍性大腸炎と逆) ・喉頭癌、COPDは喫煙との関連が特に強い ・妊娠中の喫煙は胎児発育不全・低出生体重の原因となる ・負の関連があっても喫煙を勧める理由にはならない
