StudyMed医師国家試験

立ち上がった瞬間に見える「足りない水」―起立時の血圧低下で読む脱水

第106回医師国家試験 H問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第4問

脱水を示唆する所見はどれか。

  1. a.徐脈
  2. b.腋窩の湿潤
  3. c.頸静脈の怒張
  4. d.両下腿の浮腫
  5. e.起立時の血圧低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、身体所見から体液量の過不足を推定する問題だ。コツは、それぞれの所見を「脱水側」と「溢水側」に振り分けること。体液が減ると循環に何が起き、体がどう代償しようとするかを考えれば、答えは導けるよ。
医学生医学生
脱水というと、口が渇くとか皮膚がカサカサするイメージがあります。
ドクタードクター
それも大事な所見だね。まず病態生理から整理しよう。脱水で循環血液量が減ると、心臓へ戻る血液、つまり静脈還流が減って1回拍出量が落ちる。すると体は交感神経を働かせて、心拍数を上げ、血管を収縮させて血圧を保とうとするんだ。
医学生医学生
心拍出量は1回拍出量と心拍数の積だから、1回拍出量が落ちた分を心拍数で補うということですね。生理学の講義で習った式です。
ドクタードクター
その通り。だから脱水でみられるのは頻脈で、徐脈ではない。逆に、脱水なのに頻脈がない場合は、β遮断薬を飲んでいないか、高齢者で自律神経障害がないかを考える必要があるよ。
医学生医学生
では、起立時の血圧低下が脱水のサインになるのはなぜですか。
ドクタードクター
代償が効いている段階では、寝ている間の血圧は保たれていることが多い。ところが立ち上がると、重力で血液が下肢にたまり、静脈還流がさらに減る。もともと余裕のない循環では代償しきれず、血圧が下がり脈も速くなる。これが起立性低血圧で、循環血液量減少を示す鋭敏な所見なんだ。
医学生医学生
臥位から立位で収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上下がったら起立性低血圧、でしたよね。OSCEの対策で覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。これが正解だ。では残りの選択肢も見ていこう。腋窩の湿潤はどう考える?
医学生医学生
脇は普段から汗で少し湿っている場所なので、湿っていれば水分は足りていそうです。むしろ乾燥していたら脱水を疑う、ということでしょうか。
ドクタードクター
その理解で合っている。腋窩の乾燥は、特に高齢者の脱水を疑う手がかりとしてよく使われる。湿潤はむしろ脱水を否定する方向の所見だね。次に頸静脈の怒張はどうかな。
医学生医学生
頸静脈は中心静脈圧を反映するので、怒張していれば圧が高い、つまり体液が多い状態ですよね。循環器内科の実習で、心不全の患者さんの頸静脈がくっきり張っていたのを覚えています。
ドクタードクター
いい観察だ。心不全や輸液過多、腎不全による体液貯留など溢水を示唆する。心タンポナーデや緊張性気胸のように右心への流入が妨げられる病態でもみられるね。脱水では中心静脈圧が下がるから、頸静脈はむしろ虚脱して、臥位でも見えにくくなるんだ。
医学生医学生
両下腿の浮腫も、間質に水がたまっている状態なので溢水側ですね。
ドクタードクター
そう。両側性の下腿浮腫は心不全、腎不全、ネフローゼ症候群や肝硬変による低アルブミン血症などで起こる。体内の水分とナトリウムが過剰であることを示す所見だ。
医学生医学生
整理すると、脱水側は頻脈と起立時の血圧低下と腋窩の乾燥、溢水側は頸静脈の怒張と浮腫、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。ほかの脱水所見として、口腔粘膜や舌の乾燥、皮膚ツルゴールの低下、毛細血管再充満時間の延長、尿量減少、体重減少なども覚えておこう。溢水側には体重増加、肺のcrackles、Ⅲ音などが加わるよ。
医学生医学生
検査ではどんな変化が出ますか。
ドクタードクター
血液が濃縮されるのでヘマトクリットや総蛋白が上がり、腎前性の変化としてBUN/クレアチニン比が上昇しやすい。尿は濃縮されて尿比重が高くなる。臨床で注意したいのは高齢者で、口渇を感じにくく、皮膚の弾力も加齢で落ちているから、ツルゴールだけで判断すると誤りやすい。
医学生医学生
病棟でご高齢の患者さんのツルゴールを見たとき、もともと皮膚の戻りが遅くて判断に迷いました。
ドクタードクター
そういうときこそ、腋窩の乾燥や起立時の血圧と脈拍の変化など、複数の所見を組み合わせて評価するのが大切なんだ。ただし起立試験は転倒の危険もあるから、患者さんを支えながら安全に行おう。

まとめ

脱水では循環血液量が減少して静脈還流と1回拍出量が低下し、交感神経による代償で頻脈となりますが、立ち上がると下肢への血液貯留で代償しきれず起立時の血圧低下が生じるため、これは循環血液量減少を示す鋭敏な所見です。起立性低血圧は臥位から立位で収縮期血圧20 mmHg以上または拡張期血圧10 mmHg以上の低下が目安です。一方、頸静脈の怒張や両下腿の浮腫は溢水を、腋窩の湿潤は脱水を否定する方向を示し、脱水では腋窩の乾燥や頸静脈の虚脱がみられます。検査ではヘマトクリット・BUN/クレアチニン比・尿比重の上昇が参考になり、特に高齢者ではツルゴールだけに頼らず複数の所見を組み合わせることが重要です。所見を「脱水側」と「溢水側」に振り分ける考え方は、輸液管理や心不全診療など日常臨床の体液評価の土台になります。

解答・解説

正解はeです

本問は、体液量の過不足を身体診察とバイタルサインから推定できるかを問うている。 脱水(体液量減少)では循環血液量が減り、心臓へ戻る血液(静脈還流)が少なくなる。すると1回拍出量が落ちるため、体は交感神経を働かせて心拍数を増やし、血管を収縮させて血圧を保とうとする。この代償がまだ効いている段階では、臥位の血圧は保たれていても、立ち上がった瞬間に血液が下肢へ移動して還流がさらに減り、血圧が下がったり脈が速くなったりする。これが起立時の血圧低下(起立性低血圧)であり、循環血液量減少を示す鋭敏な所見である。 一方、頸静脈の怒張や下腿浮腫は、血管内や間質(細胞と細胞の間)に水分が過剰にたまった状態、すなわち溢水(体液過剰)を示す所見である。選択肢を「脱水側の所見」と「溢水側の所見」に振り分けて考えると整理しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  徐脈

    脱水で循環血液量が減ると、1回拍出量の低下を補うために交感神経が亢進し、心拍数は増える。したがって脱水でみられるのは頻脈であり、徐脈ではない。なお、脱水にもかかわらず頻脈がみられない場合には、β遮断薬の内服、高齢者の自律神経障害などが隠れていないか考える必要がある。

  2. ×b.  腋窩の湿潤

    腋窩は通常、汗などで適度に湿っている部位である。脱水になると発汗や皮膚の水分が減り、腋窩は乾燥する。腋窩の乾燥は高齢者の脱水を疑う手がかりとしてよく用いられる。湿潤していることはむしろ脱水を否定する方向の所見である。

  3. ×c.  頸静脈の怒張

    頸静脈は右心房の圧(中心静脈圧)を反映する。頸静脈が張って見えるのは中心静脈圧が上がっている状態で、心不全、輸液過多、腎不全による体液貯留など溢水を示唆する(ほかに心タンポナーデや緊張性気胸など右心への流入障害でもみられる)。脱水では中心静脈圧が下がるため、頸静脈はむしろ虚脱し、臥位でも見えにくくなる。

  4. ×d.  両下腿の浮腫

    浮腫は間質液が増えた状態であり、体内の水分・ナトリウムが過剰であること(溢水)を示す所見である。両側性の下腿浮腫は心不全、腎不全、ネフローゼ症候群や肝硬変による低アルブミン血症などでみられる。脱水を示唆する所見ではない。

  5. ○e.  起立時の血圧低下

    循環血液量が減っている状態で立ち上がると、重力により血液が下肢に貯留して静脈還流がさらに減り、心拍出量と血圧が低下する。代償機構で補いきれないため起立時に血圧が下がり、あわせて脈拍も増加する。一般に、臥位から立位になって収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期血圧が10 mmHg以上低下する場合を起立性低血圧とする。循環血液量減少を反映する所見であり、脱水を示唆する。

体液量の評価に用いる主な所見

脱水(体液量減少)を示唆する所見:頻脈、起立時の血圧低下・脈拍増加、腋窩や口腔粘膜・舌の乾燥、皮膚ツルゴール(皮膚の張り)の低下、毛細血管再充満時間(爪を圧迫して離した後に色が戻るまでの時間)の延長、頸静脈の虚脱、尿量減少、体重減少など。 溢水(体液過剰)を示唆する所見:頸静脈の怒張、下腿などの浮腫、体重増加、肺のcrackles(水泡音)、胸水・腹水、Ⅲ音の聴取など。

検査所見の目安

脱水では血液が濃縮されるため、ヘマトクリットや総蛋白が上昇し、BUN/クレアチニン比が上昇しやすい(腎前性腎障害)。尿は濃縮され、尿比重が高くなる。

注意点

高齢者では口渇を感じにくく、皮膚の弾力も加齢で低下しているため、ツルゴールだけで判断すると誤りやすい。腋窩の乾燥や起立時の血圧・脈拍の変化など、複数の所見を組み合わせて評価することが大切である。

POINT

・脱水:頻脈、起立時の血圧低下、腋窩・口腔の乾燥、頸静脈の虚脱 ・溢水:頸静脈の怒張、浮腫、体重増加、肺のcrackles ・起立性低血圧の目安は、立位で収縮期血圧20 mmHg以上または拡張期血圧10 mmHg以上の低下

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。