StudyMed医師国家試験

口の中で始まる消化―唾液のα-アミラーゼと消化酵素の「住所録」

第106回医師国家試験 H問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第17問

唾液に含まれるのはどれか。

  1. a.α-アミラーゼ
  2. b.ジペプチダーゼ
  3. c.トリプシン
  4. d.ペプシン
  5. e.マルターゼ

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は消化酵素の基礎問題だ。ポイントは、それぞれの酵素が「どこから分泌されるか」と「何を分解するか」の2軸で整理できているか。食べ物が口から小腸へ進むにつれて、どこで何が分解されるかを順にたどってみよう。
医学生医学生
ご飯をよく噛んでいると甘くなる、というのは唾液がデンプンを分解しているからですよね。
ドクタードクター
その通り。それを担うのが唾液のα-アミラーゼ、別名プチアリンだ。主に耳下腺から分泌され、デンプンやグリコーゲンの分子内部にあるα-1,4グルコシド結合を切って、マルトースやマルトトリオース、α-限界デキストリンを作る。枝分かれ部分のα-1,6結合は切れないんだ。
医学生医学生
じゃあ答えはα-アミラーゼですね。でも、唾液のアミラーゼって胃に入っても働き続けるんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。胃酸でpHが約2になると失活してしまう。だから働けるのは口の中と、胃の中で食塊がまだ酸と混ざりきっていない間だけ。デンプン消化の主役は、実は膵液の膵アミラーゼなんだ。
医学生医学生
マルターゼも糖を分解する酵素なので、唾液に入っていそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
名前が似ていて紛らわしいよね。マルターゼは小腸上皮の刷子縁、つまり微絨毛の膜表面にある二糖類分解酵素で、マルトースをブドウ糖2分子にする。アミラーゼが作ったマルトースを、吸収できる単糖に仕上げる最終段階の役割だ。ちなみにマルターゼはα-グルコシダーゼの一つで、分子の内部を切るα-アミラーゼとは分類が違うことにも注意しよう。
医学生医学生
生化学の講義で習った「膜消化」ですね。ジペプチダーゼも同じ刷子縁の酵素でしたか。
ドクタードクター
そう。ジペプチダーゼはアミノ酸2個のジペプチドをアミノ酸2分子に分解する。膵液の酵素で小さくなったペプチドを吸収できる形に仕上げる、蛋白質側の最終工程だね。
医学生医学生
ペプシンは胃液でしたよね。組織学実習で、胃底腺の主細胞と壁細胞を見分けたのを覚えています。
ドクタードクター
よく結びつけたね。主細胞が不活性型のペプシノーゲンを分泌し、壁細胞の塩酸による低pHで活性型のペプシンに変わる。至適pHは約2の強酸性だから、十二指腸で中和されると働かなくなる。
医学生医学生
トリプシンは膵液ですね。トリプシノーゲンが何かで活性化されるんでしたっけ。
ドクタードクター
十二指腸粘膜の刷子縁にあるエンテロキナーゼ、別名エンテロペプチダーゼだ。活性化されたトリプシンは、キモトリプシノーゲンなど他の膵酵素前駆体も次々に活性化する。蛋白分解酵素が前駆体で分泌されるのは、膵臓自身を消化しないための仕組みなんだ。
医学生医学生
整理すると、唾液がα-アミラーゼ、胃液がペプシン、膵液がトリプシン、小腸刷子縁がマルターゼとジペプチダーゼ、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。唾液にはほかに、舌腺由来の舌リパーゼ、抗菌作用のあるリゾチーム、分泌型IgA、潤滑作用のあるムチンなども含まれるよ。ここからは臨床とのつながりを見ておこう。血清アミラーゼが高いとき、何を考える?
医学生医学生
消化器内科の実習では、まず急性膵炎を疑うと教わりました。
ドクタードクター
もちろん膵炎は重要だけど、流行性耳下腺炎などの唾液腺疾患でも上がる。アイソザイムを分画して、膵型のP型か唾液腺型のS型かを見れば由来を区別できるんだ。
医学生医学生
刷子縁の酵素に関係する薬もありましたよね。糖尿病のα-グルコシダーゼ阻害薬とか。
ドクタードクター
その通り。アカルボースやボグリボースは刷子縁の二糖類分解酵素を阻害して糖の吸収を遅らせ、食後高血糖を抑える。服用中に低血糖が起きたら、砂糖ではなくブドウ糖を使うのが鉄則だ。砂糖は二糖類だから分解が遅れて吸収されにくいからね。それから、ラクターゼ活性が低いと乳糖不耐症になり、乳製品で下痢や腹部膨満を起こす。酵素の分泌部位を知っていると、こうした臨床現象がすっと理解できるよ。

まとめ

唾液に含まれる消化酵素はα-アミラーゼ(プチアリン)で、主に耳下腺から分泌され、デンプンのα-1,4グルコシド結合を内部から切断しますが、胃酸で失活するため、デンプン消化の主役は膵アミラーゼです。ペプシンは胃底腺の主細胞からペプシノーゲンとして分泌され塩酸で活性化、トリプシンは膵液中のトリプシノーゲンがエンテロキナーゼで活性化され、マルターゼやジペプチダーゼは小腸刷子縁で最終分解を担う膜消化酵素です。臨床的には、血清アミラーゼが膵炎だけでなく唾液腺疾患でも上昇しP型・S型の分画で由来を区別できること、α-グルコシダーゼ阻害薬服用中の低血糖にはブドウ糖を用いること、ラクターゼ低下で乳糖不耐症が起こることなどにつながります。消化酵素を「分泌部位」と「基質」の2軸で整理しておくことは、検査値の解釈や薬の作用機序を理解する基盤となります。

解答・解説

正解はaです

消化酵素を「どこから分泌されるか」と「何を分解するか」の2軸で整理できているかを問う基礎問題である。 食物は口腔から小腸へ進む間に、段階的に分解される。 ・口腔(唾液):デンプンの分解を始めるα-アミラーゼ(プチアリンともいう) ・胃(胃液):蛋白質の分解を始めるペプシン ・十二指腸(膵液):三大栄養素すべてを分解する酵素群(トリプシン、キモトリプシン、膵アミラーゼ、膵リパーゼなど) ・小腸上皮の刷子縁(微絨毛の膜表面):最終段階の分解を担う膜消化酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼ、ジペプチダーゼなど) 選択肢のうち唾液に含まれるのはα-アミラーゼだけである。ほかはそれぞれ胃液・膵液・小腸の刷子縁に属する酵素であり、分泌部位を思い出せれば容易に消去できる。

選択肢考察

  1. ○a.  α-アミラーゼ

    唾液に含まれる代表的な消化酵素で、主に耳下腺から分泌される。デンプンやグリコーゲンの分子内部にあるα-1,4グルコシド結合を切断する(エンド型に作用する)酵素であり、マルトース、マルトトリオース、α-限界デキストリンなどを生じる。α-1,6結合(枝分かれ部分)は切断できない。唾液アミラーゼは胃に入って酸性(pH約2)にさらされると失活するため、実際に働く時間は口腔内と、胃内で食塊がまだ酸と混ざっていない間に限られる。デンプン消化の主役は膵液中の膵アミラーゼである。 なお、この酵素はα-グルコシダーゼ(マルターゼなど、端から1個ずつブドウ糖を外す酵素)とは別の種類である点に注意する。

  2. ×b.  ジペプチダーゼ

    小腸上皮の刷子縁膜(および一部は細胞内)に存在するペプチド分解酵素で、ジペプチド(アミノ酸2個からなるペプチド)をアミノ酸2分子に加水分解する。膵液の酵素で小さく分解されたペプチドを、吸収可能な形に仕上げる役割をもつ。唾液には含まれない。

  3. ×c.  トリプシン

    膵液に含まれる蛋白分解酵素(エンドペプチダーゼ)で、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン)のカルボキシ基側のペプチド結合を切断する。膵腺房細胞から不活性型のトリプシノーゲンとして分泌され、十二指腸粘膜の刷子縁にあるエンテロキナーゼ(エンテロペプチダーゼ)によって活性型になる。活性化されたトリプシンは、キモトリプシノーゲンやプロカルボキシペプチダーゼなど他の膵酵素前駆体も次々に活性化する。唾液には含まれない。

  4. ×d.  ペプシン

    胃液に含まれる蛋白分解酵素である。胃底腺の主細胞から不活性型のペプシノーゲンとして分泌され、壁細胞から分泌される塩酸による低pH環境で活性型のペプシンに変わる(生じたペプシン自身もペプシノーゲンを活性化する)。至適pHは約2と強い酸性で、十二指腸で中和されると働かなくなる。唾液には含まれない。

  5. ×e.  マルターゼ

    小腸上皮の刷子縁膜に存在する二糖類分解酵素(α-グルコシダーゼの一つ)で、マルトース(麦芽糖)のα-1,4グルコシド結合を切断してブドウ糖2分子にする。アミラーゼが作ったマルトースなどを最終的に単糖へ分解する役割を担う。唾液には含まれない。

消化液ごとの主な消化酵素

・唾液:α-アミラーゼ(デンプン)。ほかに舌腺(エブネル腺)由来の舌リパーゼ、抗菌作用をもつリゾチーム、分泌型IgA、潤滑作用をもつムチンなどを含む。1日の分泌量は約1〜1.5 Lである。 ・胃液:ペプシン(蛋白質)、胃リパーゼ、塩酸、内因子(ビタミンB12の吸収に必要)。 ・膵液:トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ(蛋白質)、膵アミラーゼ(デンプン)、膵リパーゼ(中性脂肪)、ホスホリパーゼA2、コレステロールエステラーゼ、ヌクレアーゼ。蛋白分解酵素はいずれも不活性型の前駆体として分泌される。 ・小腸刷子縁:マルターゼ、スクラーゼ、イソマルターゼ(α-限界デキストリナーゼ)、ラクターゼ(二糖類・オリゴ糖)、アミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼ(ペプチド)、エンテロキナーゼ(トリプシノーゲンの活性化)。

糖質の消化の流れ

デンプン →(唾液・膵アミラーゼ)→ マルトース・マルトトリオース・α-限界デキストリン →(刷子縁のマルターゼ・イソマルターゼなど)→ ブドウ糖。単糖になって初めて小腸上皮から吸収される。

臨床とのつながり

・α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボース、ミグリトール)は、刷子縁の二糖類分解酵素を阻害して糖の吸収を遅らせ、食後高血糖を抑える糖尿病治療薬である。副作用として腹部膨満・放屁増加がある。服用中の低血糖では、ショ糖(砂糖)は分解されにくく吸収が遅れるため、ブドウ糖を投与する。 ・血清アミラーゼ上昇は膵炎だけでなく、唾液腺疾患(流行性耳下腺炎など)でもみられる。アイソザイム(P型:膵型、S型:唾液腺型)の分画で由来を区別できる。 ・ラクターゼ活性が低下すると乳糖不耐症となり、乳製品摂取後に下痢や腹部膨満を生じる。

POINT

・唾液の消化酵素はα-アミラーゼ(プチアリン)で、デンプンのα-1,4結合を切断する。胃酸で失活する。 ・ペプシン=胃液(主細胞、ペプシノーゲンが塩酸で活性化)。 ・トリプシン=膵液(トリプシノーゲンがエンテロキナーゼで活性化)。 ・マルターゼ、ジペプチダーゼ=小腸刷子縁の膜消化酵素。 ・血清アミラーゼには膵型(P型)と唾液腺型(S型)がある。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。