StudyMed医師国家試験

「ガイドラインに従え」は誤解?―系統的レビューが支える診療ガイドラインの正体

第106回医師国家試験 H問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第106回 H問題 第18問

診療ガイドラインの説明で正しいのはどれか。

  1. a.エビデンスが系統的に検索・評価されている。
  2. b.患者とのコミュニケーションには利用できない。
  3. c.推奨に従わなければ,保険診療の対象とならない。
  4. d.症例対照研究の結果は,推奨の根拠として採用されない。
  5. e.主に専門医に対するアンケート調査に基づいて作成される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、診療ガイドラインとは何か、どう作られ、どう使われるものかを問う問題だ。着眼点は「作り方」「根拠にする研究の範囲」「位置づけ(強制力があるか)」の3つ。この3点を押さえれば、どの選択肢も判断できるよ。
医学生医学生
臨床実習では、指導医の先生がよく「まずガイドラインを確認して」と言っていました。偉い先生たちが集まって決めたルール、というイメージです。
ドクタードクター
多くの人がそう思っているけれど、そこが落とし穴なんだ。日本でガイドライン作成の手引きを示しているMindsは、診療ガイドラインを「医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している。
医学生医学生
システマティックレビューは、衛生学・公衆衛生学の講義でEBMの手順として習いました。文献を網羅的に集めて評価する方法ですよね。
ドクタードクター
その通り。まず臨床上の疑問、つまりクリニカルクエスチョンを立てて、あらかじめ決めた検索式とデータベースで関連文献を網羅的に集める。そして研究の質やバイアスのリスク、結果の一貫性を評価し、必要ならメタアナリシスで統合する。手順が透明で再現可能だから、作成者の好みで都合のいい論文だけを選ぶ、という偏りを小さくできるんだ。だから「エビデンスが系統的に検索・評価されている」が正解になる。
医学生医学生
じゃあ、専門医へのアンケートで作る、というのは違うんですね。偉い先生の意見をまとめたもの、というイメージは間違いでした。
ドクタードクター
そう。作成委員会には専門医のほか、方法論の専門家や他職種、患者代表が加わることもあるけれど、推奨の主な根拠は系統的に評価された研究結果だ。エビデンスが乏しい領域では、デルファイ法などで専門家の合意を形成することもあるが、それは補助的な手段。データに基づかない専門家の意見は、エビデンスの階層ではむしろ最下位なんだよ。
医学生医学生
エビデンスの階層といえば、症例対照研究はかなり下のほうでしたよね。だったら推奨の根拠には使えないのでは?
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。症例対照研究はRCTやコホート研究よりバイアスの影響を受けやすく、確実性は低めに評価される。でも除外はされない。まれな疾患や頻度の低い副作用、喫煙のように倫理的にRCTができない曝露では、症例対照研究が最も利用しやすい根拠になることが多いんだ。確実性が低いことと、使えないことは別物だよ。
医学生医学生
なるほど。CBTでは階層の順番ばかり暗記していました。では、患者さんとのコミュニケーションには使えないというのは?
ドクタードクター
これも誤り。定義にある通り、ガイドラインは医療者だけでなく患者の意思決定も支援するためのものだ。治療の選択肢とそれぞれの利点・欠点を説明する根拠になり、共有意思決定、いわゆるshared decision makingにも役立つ。患者・市民向けにわかりやすく書かれた一般向け版がある疾患も多いよ。
医学生医学生
最後に、推奨に従わないと保険診療にならない、というのは…強制力の話ですね。
ドクタードクター
そう。ガイドラインは学会などが作る指針であって法令ではない。保険診療として認められるかどうかは、健康保険法や療養担当規則、薬の承認内容、診療報酬の算定要件などで決まるんだ。合併症や高齢、患者さんの希望によって、推奨と違う治療を選ぶことは臨床では珍しくない。
医学生医学生
ガイドラインは最良のエビデンスを整理した道具で、最終判断は目の前の患者さんに合わせて行う、ということですね。
ドクタードクター
まさにEBMの考え方だ。EBMは「最良の研究エビデンス」「医療者の臨床的専門技能」「患者の価値観・意向」の3つを統合して方針を決める。ガイドラインは1つ目を提供する道具にすぎない。発展として、GRADEシステムも知っておこう。エビデンスの確実性を高・中・低・非常に低の4段階で評価し、推奨の強さを「強い推奨」と「弱い(条件付き)推奨」に分ける。推奨の強さは確実性だけでなく、益と害のバランス、患者の価値観、コストも踏まえて決まるんだ。
医学生医学生
確実性が高くても、害やコストが大きければ弱い推奨になることもある、ということですか。
ドクタードクター
その通り。さらに注意点として、ガイドラインは平均的な患者を想定しているので個々の患者にそのまま当てはまるとは限らないし、作成時点までのエビデンスに基づくから定期的な改訂が必要だ。作成者の利益相反の開示も求められ、ガイドライン自体の質はAGREE IIという国際的なツールで評価できる。ガイドラインの版や作成方法を確かめる習慣をつけておこう。

まとめ

診療ガイドラインは、クリニカルクエスチョンごとに文献を系統的に検索・評価するシステマティックレビューに基づき、益と害のバランスを考慮して推奨を提示する文書です。RCTだけでなく症例対照研究などの観察研究も、確実性は低めに評価されつつ根拠として採用され、専門家へのアンケートや意見は主な根拠ではありません。医療者と患者双方の意思決定を支援する道具であり、法的強制力はなく、保険診療の可否を決めるものでもありません。GRADEによる推奨の強さの決め方や、改訂・利益相反・AGREE IIといった限界と質の評価も含めて理解しておくことが、EBMを実践しガイドラインを適切に使いこなす土台になります。

解答・解説

正解はaです

診療ガイドラインとは何か、どのように作られ、どう使われるものかを問う問題である。 日本で診療ガイドライン作成の手引きを示している Minds(日本医療機能評価機構の EBM 普及推進事業)は、診療ガイドラインを「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義している。この定義から、次の3点を押さえれば各選択肢を判断できる。 1. 作り方:臨床上の疑問(クリニカルクエスチョン)を立て、文献を網羅的・系統的に検索し(システマティックレビュー)、研究デザインや質を評価したうえで推奨を決める。専門家の意見やアンケートだけで作るものではない。 2. 根拠の範囲:ランダム化比較試験(RCT)だけでなく、コホート研究、症例対照研究など様々なデザインの研究がエビデンスとして評価対象になる。デザインによって確実性(エビデンスレベル)が異なるだけである。 3. 位置づけ:医療者と患者の双方の意思決定を「支援する」ための道具であり、法的・制度的な強制力はない。個々の患者の状態や価値観、医療資源に応じて、ガイドラインと異なる選択をすることもありうる。 この3点に合致するのは「エビデンスが系統的に検索・評価されている」という記述である。

選択肢考察

  1. ○a.  エビデンスが系統的に検索・評価されている。

    現在の診療ガイドラインの中核をなす性質である。クリニカルクエスチョンごとに、あらかじめ決めた検索式・データベースを用いて関連文献を網羅的に集め、一定の基準で選別し、研究の質やバイアスのリスク、結果の一貫性などを評価する(システマティックレビュー)。必要に応じてメタアナリシス(複数研究の結果の統計的統合)も行う。そのうえで、エビデンスの確実性と益・害のバランス、患者の価値観、コストなどを考慮して推奨の強さを決める。こうした透明で再現可能な手順を踏むことで、作成者の主観や恣意的な文献選択による偏りを小さくしている。

  2. ×b.  患者とのコミュニケーションには利用できない。

    誤りである。診療ガイドラインは医療者だけでなく「医療利用者(患者)」の意思決定を支援することも目的としており、治療法の選択肢や、それぞれの利点・不利点を患者に説明する際の根拠として活用できる。インフォームド・コンセントや、患者と医療者が一緒に治療方針を決める共有意思決定(shared decision making)に役立つ。患者・市民向けに分かりやすく書き直した一般向け版のガイドラインが作られている疾患も多い。

  3. ×c.  推奨に従わなければ,保険診療の対象とならない。

    誤りである。診療ガイドラインは学会などが作成する標準的な指針であり、法令ではなく、保険診療の可否を決めるものでもない。保険診療として認められるかどうかは、健康保険法や療養担当規則、薬剤の承認内容(適応症・用法用量)、診療報酬の算定要件などによって定まる。実際の診療では、合併症や高齢、患者の希望などを理由にガイドラインの推奨と異なる治療を選ぶことは珍しくなく、その判断は医師の裁量と患者との合意に委ねられる。

  4. ×d.  症例対照研究の結果は,推奨の根拠として採用されない。

    誤りである。症例対照研究は観察研究の一つで、RCT やコホート研究に比べるとバイアスの影響を受けやすく、エビデンスの確実性は一般に低く評価される。しかし根拠から除外されるわけではない。まれな疾患や、発生頻度の低い有害事象、倫理的に RCT が行えない曝露(喫煙など)の評価では、症例対照研究が最も利用可能な根拠となることが多く、推奨の根拠として採用される。

  5. ×e.  主に専門医に対するアンケート調査に基づいて作成される。

    誤りである。診療ガイドラインは、主にシステマティックレビューやメタアナリシスで評価された研究結果に基づき、学会などが組織した作成委員会(専門医のほか、方法論の専門家、他職種、患者代表などが参加することもある)で推奨がまとめられる。エビデンスが乏しい領域では、デルファイ法などで専門家の合意(コンセンサス)を形成して推奨とすることもあるが、それは補助的な手段であり、アンケート調査を主な根拠にするわけではない。専門家の意見はエビデンスの階層では最も下位に置かれる。

根拠に基づく医療(EBM:evidence-based medicine)

①入手可能な最良の研究エビデンス、②医療者の臨床的専門技能、③患者の価値観・意向、の3つを統合して個々の患者の診療方針を決める考え方である。ガイドラインは①を整理して提供する道具であり、②③と組み合わせて用いる。

エビデンスの階層(確実性の高い順の目安)

ランダム化比較試験のシステマティックレビュー・メタアナリシス > 個々のランダム化比較試験 > 非ランダム化比較試験 > コホート研究 > 症例対照研究 > 症例集積・症例報告 > 専門家の意見(データに基づかないもの)。

GRADE システム

現在多くのガイドラインで用いられるエビデンス評価・推奨作成の枠組みである。エビデンスの確実性を「高・中・低・非常に低」の4段階で評価し(RCT は「高」、観察研究は「低」から出発し、バイアスのリスク、非一貫性、非直接性、不精確さ、出版バイアスで下げ、大きな効果や用量反応関係などで上げる)、推奨の強さを「強い推奨」と「弱い推奨(条件付き推奨)」に分ける。推奨の強さは、エビデンスの確実性に加え、益と害のバランス、患者の価値観、コストや資源を総合して決める。

診療ガイドラインの限界と注意点

・平均的な患者を想定しているため、個々の患者にそのまま当てはまるとは限らない。 ・作成時点までのエビデンスに基づくため、定期的な改訂が必要である。 ・作成者の利益相反(COI)の管理と開示が求められる。 ・ガイドラインの質を評価する国際的な評価ツールとして AGREE II がある。

POINT

・診療ガイドライン:システマティックレビューでエビデンスを評価し、益と害のバランスを考えて推奨を示す文書。 ・医療者と患者双方の意思決定を支援する道具であり、強制力はなく、保険診療の可否とも無関係。 ・症例対照研究など観察研究もエビデンスとして採用される(確実性は RCT より低い)。 ・専門家の意見・アンケートは主な根拠ではない(エビデンス階層の最下位)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。