空気から患者を守る部屋―AML化学療法と「陽圧」のバイオクリーン室
第106回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
急性骨髄性白血病の抗がん化学療法を実施する場所として最も適切なのはどれか。
- a.陰圧室
- b.手術室
- c.回復室
- d.集中治療室
- e.バイオクリーン室
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
急性骨髄性白血病の寛解導入療法では、シタラビンとアントラサイクリン系薬剤により正常造血も強く抑えられ、高度の好中球減少が数週間続くため、細菌に加えアスペルギルスなどの空中を漂う真菌による感染のリスクが極めて高くなります。そのため、HEPAフィルターを通した清浄な空気で室内を陽圧に保つバイオクリーン室(無菌室)で治療と骨髄抑制期の管理を行うのが適切です。陽圧室は中の易感染患者を守る部屋、陰圧室は結核・麻疹・水痘など空気感染症患者を隔離して外の人を守る部屋であり、目的が正反対である点は混同しやすいポイントです。発熱性好中球減少症への速やかな広域抗菌薬投与、抗真菌薬予防、食事や持ち込み物の制限と合わせて、骨髄抑制期の感染対策を総合的に理解しておくことが、血液内科診療や院内感染対策の基本となります。
解答・解説
正解はeです
急性骨髄性白血病(AML)の寛解導入療法では、シタラビンとアントラサイクリン系薬剤(ダウノルビシンやイダルビシン)を組み合わせた強力な化学療法を行う。白血病細胞だけでなく正常な造血も強く抑えられるため、治療開始後およそ2〜4週間にわたり好中球数が500/μL未満、しばしば100/μL未満という高度の好中球減少が続く。 この時期に最も警戒すべきは感染症、とくにアスペルギルスなどの糸状菌(カビ)による侵襲性真菌感染症である。アスペルギルスの胞子は空気中を漂い、吸い込むことで肺に感染する。したがって、患者が過ごす部屋の空気そのものを清浄に保つことが重要になる。 設問は「どこで化学療法を行うか」を問うているが、実質的には「高度の好中球減少期を安全に過ごすのに適した環境はどこか」という問いである。空気を高性能フィルターで濾過し、室内を陽圧に保つ部屋、すなわちバイオクリーン室(無菌室)が最も適切となる。
選択肢考察
- ×a. 陰圧室
陰圧室は室内の気圧を周囲より低くし、空気が室外へ漏れ出さないようにした部屋である。結核、麻疹、水痘など空気感染(飛沫核感染)する病原体をもつ患者を隔離し、周囲の人を守るために用いる。空気は廊下など周囲から室内へ流れ込むため、外部の真菌胞子や病原体を招き入れやすく、易感染状態の患者を守る目的とは正反対である。
- ×b. 手術室
手術室は外科的処置を行う場所である。清潔度の高い空調を備えているが、数週間にわたる入院生活や化学療法を行うための部屋ではない。AMLの化学療法は点滴による薬物治療であり、手術室を使う理由はない。
- ×c. 回復室
回復室(リカバリールーム)は、手術直後の患者が麻酔から覚醒し、呼吸・循環が安定するまで短時間観察する場所である。化学療法やその後の長期の好中球減少期の管理を行う場所ではない。
- ×d. 集中治療室
集中治療室(ICU)は、ショックや呼吸不全など生命を脅かす重症病態に対し、人工呼吸管理や循環管理を集中的に行う場所である。化学療法中に敗血症性ショックなどを起こせばICU管理が必要になることはあるが、化学療法そのものを行う標準的な場所ではない。また、重症患者が多く出入りするICUは感染防御の面でも骨髄抑制期の患者に適した環境とはいえない。
- ○e. バイオクリーン室
バイオクリーン室(無菌室、クリーンルーム)は、HEPAフィルター(高性能微粒子除去フィルター)で濾過した清浄な空気を室内に送り込み、室内を周囲より陽圧に保つことで外部の空気が入り込まないようにした部屋である。空気中の真菌胞子や細菌を大幅に減らせるため、AMLの寛解導入療法後のように高度かつ長期の好中球減少が予想される患者の感染予防に適している。したがって、化学療法を行い骨髄抑制期を過ごす場所として最も適切である。
陽圧室と陰圧室の違い
陽圧室(バイオクリーン室):室内の気圧が高く、空気は室内から室外へ流れる。外からの病原体の侵入を防ぎ、「中にいる患者」を守る。対象は造血幹細胞移植患者、急性白血病の化学療法後など高度の免疫不全患者。 陰圧室:室内の気圧が低く、空気は室外から室内へ流れ、排気はフィルターを通して外へ出す。室内の病原体が漏れ出すのを防ぎ、「外の人」を守る。対象は結核、麻疹、水痘などの空気感染症患者。
好中球減少期の感染対策
・好中球数500/μL未満(または48時間以内に500/μL未満になると予想される場合)で37.5℃以上の発熱があれば発熱性好中球減少症(FN)とし、速やかに広域抗菌薬(抗緑膿菌作用をもつβラクタム系薬など)を開始する。 ・高リスク患者では抗真菌薬の予防投与(ポサコナゾールなど)も考慮される。 ・生もの(刺身、生野菜など)を避ける食事制限、手指衛生、生花や鉢植えの持ち込み制限なども行われる。
AMLの化学療法の概要
寛解導入療法はシタラビン+アントラサイクリン系薬剤(いわゆる7+3療法)が基本である。寛解が得られたら地固め療法(大量シタラビン療法など)を行い、予後不良群では同種造血幹細胞移植が検討される。急性前骨髄球性白血病(APL)は例外で、全トランス型レチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が中心となる。
POINT
・AMLの寛解導入療法後は高度の好中球減少が数週間続き、細菌・真菌感染のリスクが極めて高い。 ・感染予防のため、HEPAフィルターを通した空気で陽圧に保たれたバイオクリーン室(無菌室)で管理する。 ・陽圧室は「中の患者を守る」、陰圧室は「外の人を守る(空気感染症の隔離)」と区別して覚える。
