コレステロールとCKが同時に高い―健診データに潜む甲状腺機能低下症を見抜け
第106回医師国家試験 G問題 第44問
国試問題にチャレンジ
52歳の女性。会社の健康診断で総コレステロール270 mg/dLと血清CK 400 IU/L(基準30~140)とを指摘され来院した。自覚症状は特にない。生来健康であり,サプリメントを含め薬は服用していない。運動習慣はなく,転倒の既往もない。最近,便秘と乾燥肌とが気になっているという。 診断のためのスクリーニング検査項目として適切なのはどれか。
- a.GH
- b.LH
- c.FSH
- d.TSH
- e.ACTH
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
原因の見当たらない高コレステロール血症とCK上昇が同時にみられ、便秘や乾燥肌、寒がり、体重増加などを伴う場合は、甲状腺機能低下症を疑います。甲状腺ホルモン不足によりLDL受容体の発現が低下してコレステロールが上昇し、ミオパチーとクリアランス低下によってCKも上昇します。中年女性では慢性甲状腺炎(橋本病)が最も多い原因であり、負のフィードバックで潜在性の段階から上昇するTSHがスクリーニングとして最も鋭敏な指標です。実際にはFT4と組み合わせて評価し、橋本病を疑えば抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体を追加します。スタチン開始前に二次性脂質異常症として甲状腺機能低下症を除外することは、横紋筋融解症などの合併症を防ぐうえでも重要な臨床の基本です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・52歳の女性(中年女性) ・健康診断で総コレステロール 270 mg/dL(高コレステロール血症) ・血清CK(クレアチンキナーゼ)400 IU/L(基準30~140)と高値 ・薬剤・サプリメントの服用なし(スタチンなど薬剤性のCK上昇は否定的) ・運動習慣なし、転倒歴なし(激しい運動や外傷による筋損傷でCKが上がったとは考えにくい) ・最近の便秘と皮膚の乾燥
診断へのプロセス
中年女性に「脂質異常症」と「原因の見当たらないCK上昇」が同時にみられ、さらに便秘・乾燥肌という非特異的だが代謝低下を示唆する症状が加わっている。この組み合わせから最初に考えるべきは甲状腺機能低下症である。 ・甲状腺ホルモンは肝臓のLDL受容体の発現を促すため、ホルモンが不足するとLDLの取り込みが減り、血中コレステロールが上昇する。 ・甲状腺ホルモンが不足すると骨格筋の代謝が障害され(甲状腺機能低下性ミオパチー)、さらにCKのクリアランスも低下するため、血清CKが上昇する。 ・腸管運動の低下により便秘が、汗腺・皮脂腺の分泌低下により皮膚乾燥が起こる。 中年女性における甲状腺機能低下症の原因として最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)である。
設問の考え方
問われているのは「スクリーニング」として最初に測るべき項目である。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン(遊離T4など)がわずかに低下した段階から、負のフィードバックによって下垂体からのTSH(甲状腺刺激ホルモン)分泌が敏感に上昇する。そのためTSHは甲状腺機能異常を拾い上げる最も感度の高い指標であり、スクリーニング項目として最適である。実際の診療ではTSHとFT4(遊離サイロキシン)を同時に測定し、橋本病を疑えば抗TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体・抗サイログロブリン抗体を追加する。
選択肢考察
- ×a. GH
GH(成長ホルモン)は下垂体前葉から分泌される。成人のGH分泌不全症では内臓脂肪の増加や脂質異常症を伴うことがあるが、血清CKの上昇や便秘・乾燥肌を説明するものではない。また、本例に下垂体疾患を疑わせる所見(他の下垂体ホルモン欠乏症状など)もなく、スクリーニング項目として適切ではない。
- ×b. LH
LH(黄体形成ホルモン)は性腺機能を評価する下垂体ホルモンである。52歳の女性では閉経に伴って高値となることが多く、閉経状態の確認には役立つが、高コレステロール血症とCK上昇・便秘・乾燥肌の組み合わせを説明する疾患の検出にはつながらない。
- ×c. FSH
FSH(卵胞刺激ホルモン)も性腺系の下垂体ホルモンで、閉経後は高値となり閉経の指標となる。閉経によるエストロゲン低下でLDLコレステロールは上がりうるが、CK上昇は説明できない。本例の病態を明らかにするためのスクリーニング項目ではない。
- ○d. TSH
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、甲状腺ホルモンの減少を下垂体が感知して分泌を増やすため、原発性甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン値が基準範囲内にとどまる潜在性の段階から上昇する。高コレステロール血症・CK上昇・便秘・乾燥肌から甲状腺機能低下症(特に慢性甲状腺炎)を疑う本例で、最初に測定すべき最も感度の高いスクリーニング項目である。
- ×e. ACTH
ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)は副腎皮質機能の評価に用いる。ACTH過剰によるCushing病では脂質異常症を伴いうるが、中心性肥満・満月様顔貌・皮膚線条・高血圧などを呈し、CK上昇は典型的でない。逆にACTH低下による副腎不全では低血糖・低Na血症・倦怠感などが中心となる。いずれも本例の所見とは合わない。
甲状腺機能低下症の主な症状・所見
・全身症状: 易疲労感、寒がり(寒冷不耐)、体重増加、無気力 ・皮膚: 乾燥、粘液水腫(圧痕を残さない浮腫)、脱毛、眉毛外側の脱落 ・消化器: 便秘 ・神経・筋: 腱反射の弛緩相遅延、筋力低下、こむら返り ・循環器: 徐脈、心拡大、心嚢液貯留 ・女性: 月経過多 ・検査: 高コレステロール血症、CK・LDH・ASTなど筋逸脱酵素の上昇、低Na血症、貧血
慢性甲状腺炎(橋本病)
自己免疫性の甲状腺炎で、中年女性に多い。びまん性甲状腺腫を呈し、抗TPO抗体・抗サイログロブリン抗体が陽性となる。甲状腺機能は正常のことも多いが、進行すると甲状腺機能低下症となる。治療は機能低下があればレボチロキシン(T4製剤)の補充である。
TSHとFT4の組み合わせによる解釈
・TSH高値+FT4低値: 原発性甲状腺機能低下症(顕性) ・TSH高値+FT4正常: 潜在性甲状腺機能低下症 ・TSH低値〜正常+FT4低値: 中枢性(下垂体性・視床下部性)甲状腺機能低下症 ・TSH低値+FT4高値: 甲状腺中毒症
臨床上の注意
脂質異常症に対してスタチンを開始する前には、二次性脂質異常症の原因として甲状腺機能低下症を除外しておく。スタチンは副作用としてCK上昇や筋症状を起こしうるため、薬剤性と思われていた筋障害が実は甲状腺機能低下症によるものだった、ということがある。また甲状腺機能低下症を放置したままスタチンを投与すると横紋筋融解症のリスクが高まる。
POINT
・原因不明の高コレステロール血症とCK上昇の組み合わせをみたら甲状腺機能低下症を疑う。 ・便秘・乾燥肌・寒がり・体重増加なども甲状腺機能低下症を疑うきっかけとなる。 ・中年女性の甲状腺機能低下症の原因は慢性甲状腺炎(橋本病)が最多。 ・甲状腺機能のスクリーニングにはTSHが最も鋭敏(FT4と組み合わせて評価)。 ・脂質異常症の治療前には二次性の原因(甲状腺機能低下症など)を除外する。
