「早く痩せたい」は危険信号―メタボと脂肪肝の中年男性に“正しい処方箋”を出す
第106回医師国家試験 G問題 第45問
国試問題にチャレンジ
47歳の男性。職場の定期健康診断で肥満を指摘され来院した。飲酒は日本酒2合/日を25年間。身長170 cm,体重78 kg,腹囲95 cm。血圧150/90 mmHg。血液生化学所見:空腹時血糖92 mg/dL,尿酸8.8 mg/dL,トリグリセリド220 mg/dL,AST 38 IU/L,ALT 48 IU/L,γ-GTP 97 IU/L(基準8~50)。心電図で異常を認めない。腹部超音波検査で脂肪肝を認める。 患者への指導として適切でないのはどれか。
- a.日本酒は1合/日以下にする。
- b.60分/日の有酸素運動をする。
- c.1か月以内に10 kgの減量をする。
- d.食塩摂取量は6 g/日以下とする。
- e.プリン体を多く含む食事は控える。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
BMI 25以上で高血圧・脂質異常症・高尿酸血症・脂肪肝などの健康障害を伴えば肥満症であり、腹囲基準に脂質・血圧が加われば日本のメタボリックシンドロームの診断基準も満たします。治療の基本は生活習慣の改善で、節酒(純アルコール約20 g/日、日本酒1合程度まで)、1日60分程度の有酸素運動、高血圧に対する食塩6 g/日未満、高尿酸血症に対するプリン体・アルコール・果糖の制限を組み合わせます。一方、1か月で10 kgといった急激な減量は、筋肉量減少、胆石、痛風発作、脂肪肝の増悪、リバウンドなどを招くため不適切で、まずは3〜6か月で現体重の3%以上の減量を目標とします。肥満と飲酒が重なる脂肪肝では減量と節酒を並行することが重要であり、現実的で継続できる目標を設定する視点は、生活習慣病診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・47歳の男性、健診で肥満を指摘 ・身長170 cm、体重78 kg → BMI(体格指数)=78÷(1.7×1.7)≒27.0(BMI 25以上で肥満) ・腹囲95 cm(男性85 cm以上)→ 内臓脂肪蓄積を示唆 ・血圧150/90 mmHg → 高血圧 ・尿酸8.8 mg/dL(7.0 mg/dLを超える)→ 高尿酸血症 ・トリグリセリド220 mg/dL(150 mg/dL以上)→ 高トリグリセリド血症 ・空腹時血糖92 mg/dL → 正常 ・γ-GTP 97 IU/Lと上昇、ALT優位の軽度トランスアミナーゼ上昇、腹部超音波で脂肪肝 ・日本酒2合/日(純アルコール約40 g/日強)を25年間
病態の考え方
腹囲の基準を満たし、さらに脂質(高TG)と血圧の2項目が基準に該当するため、日本のメタボリックシンドロームの診断基準を満たす。BMI 25以上で、肥満に関連する健康障害(高血圧・脂質異常症・高尿酸血症・脂肪肝)を伴っているため、減量が医学的に必要な「肥満症」に当たる。脂肪肝には内臓脂肪型肥満と長期の飲酒の双方が関与していると考えられ、γ-GTPの上昇もアルコールの影響を反映している。
設問の考え方
治療の基本は食事療法と運動療法による生活習慣の改善であり、個々の異常(飲酒、高血圧、高尿酸血症)に対する指導を組み合わせる。各選択肢が、目標値・方法として妥当か、それとも過度・危険な指導かを判断する。「適切でない」ものを選ぶ問題である点に注意する。急激な減量は安全性・持続性の両面で問題があり、適切でない。
選択肢考察
- ×a. 日本酒は1合/日以下にする。
適切な指導である。日本酒1合(180 mL)は純アルコール約20 gに相当し、節度ある適度な飲酒量の目安とされる(ビール中瓶1本、ウイスキーダブル1杯、ワイングラス2杯程度もほぼ同量)。現在の2合/日は多く、アルコールはトリグリセリド・血圧・尿酸をいずれも上昇させ、脂肪肝の増悪因子でもある。節酒は本例のすべての異常の改善に役立つ。
- ×b. 60分/日の有酸素運動をする。
適切な指導である。ウォーキングなどの有酸素運動は内臓脂肪を減らし、インスリン抵抗性・血圧・トリグリセリド・脂肪肝を改善する。わが国の身体活動の指針では、成人は歩行またはそれと同等以上(3メッツ以上)の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)行い、週23メッツ・時を目標とすることが推奨されている。1日60分の歩行(約3メッツ)を毎日行えば約21メッツ・時/週となり、この目標にほぼ合致する。心電図異常もなく、運動を制限すべき理由は見当たらない。
- ○c. 1か月以内に10 kgの減量をする。
適切でない指導であり、これが正解である。1か月で10 kg(本例の体重の約13%)の減量は極端な食事制限を要し、筋肉量の減少、胆石の形成、高尿酸血症の悪化や痛風発作の誘発、急激な減量による脂肪肝の増悪などの危険がある。また継続が困難でリバウンド(体重の再増加)を起こしやすく、再増加分は脂肪として蓄積しやすい。肥満症の減量目標は、まず3〜6か月で現体重の3%以上の減少であり、それだけでも血圧・脂質・肝機能の改善が期待できる。本例なら数か月で2〜4 kg程度から始めるのが現実的である。
- ×d. 食塩摂取量は6 g/日以下とする。
適切な指導である。血圧150/90 mmHgは高血圧に該当し、高血圧治療ガイドラインでは生活習慣修正として食塩摂取量6 g/日未満が推奨されている。なお食品表示にナトリウム量が記載されている場合は、Na量(g)×2.54で食塩相当量(g)に換算できる。
- ×e. プリン体を多く含む食事は控える。
適切な指導である。血清尿酸値7.0 mg/dLを超えると高尿酸血症であり、本例の8.8 mg/dLは該当する。尿酸はプリン体の代謝産物であるため、レバーなどの内臓類、魚卵、干物などプリン体の多い食品を控える(1日のプリン体摂取量400 mg程度が目安)。アルコール、特にビールや、果糖を多く含む清涼飲料も尿酸を上げるため併せて控えるよう指導する。
肥満と肥満症
日本ではBMI 25以上を肥満とし、そのうち①肥満に起因・関連する健康障害(耐糖能障害・2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症など)を合併する、または②内臓脂肪型肥満(ウエスト周囲長で男性85 cm以上・女性90 cm以上、CTで内臓脂肪面積100 cm²以上)である場合を、減量治療が必要な「肥満症」と診断する。BMI 35以上は高度肥満とする。
メタボリックシンドロームの診断基準(日本)
必須: 腹囲 男性85 cm以上、女性90 cm以上 加えて以下の2項目以上: ・脂質: トリグリセリド150 mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール40 mg/dL未満 ・血圧: 収縮期130 mmHg以上 かつ/または 拡張期85 mmHg以上 ・血糖: 空腹時血糖110 mg/dL以上 本例は腹囲・脂質・血圧の基準を満たす。
減量の進め方
・目標: 肥満症では3〜6か月で現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%の減少 ・食事: 摂取エネルギーの目安は25 kcal×目標体重(kg)/日以下(高度肥満では20〜25 kcal) ・運動: 有酸素運動を中心に、レジスタンス運動を組み合わせる ・行動療法: 体重を毎日記録するなどしてセルフモニタリングを促す
脂肪肝と飲酒
脂肪性肝疾患は、代謝異常と飲酒量の組み合わせで整理される。近年の国際的な新名称では、代謝異常を伴う脂肪性肝疾患をMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)とし、代謝異常に加えて中等量の飲酒(男性で純アルコール約30〜60 g/日)がある場合をMetALDと呼ぶ。本例のように肥満と飲酒の両方が関与する例では、減量と節酒を並行して行うことが重要である。
純アルコール量の計算
純アルコール量(g)=飲酒量(mL)×アルコール度数(%)÷100×0.8(比重) 例: 日本酒1合 180 mL×15%×0.8≒22 g
POINT
・BMI 25以上に肥満関連の健康障害を伴えば肥満症であり、減量治療の対象となる。 ・減量は緩やかに行い、まず3〜6か月で3%以上の体重減少を目標とする。急激な減量はリバウンドや合併症の原因となり不適切。 ・高血圧では食塩6 g/日未満、高尿酸血症ではプリン体・アルコール・果糖の制限。 ・適正飲酒量は純アルコール約20 g/日(日本酒1合程度)。 ・有酸素運動は1日60分程度(週23メッツ・時)が目安。
