右心に入って左心を知る―Swan-Ganzカテーテルで「わかること・わからないこと」
第106回医師国家試験 G問題 第35問
国試問題にチャレンジ
Swan-Ganzカテーテル検査で評価可能なのはどれか。2つ選べ。
- a.左房圧
- b.心拍出量
- c.左室駆出率
- d.左室収縮期圧
- e.心筋酸素消費量
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Swan-Ganzカテーテルは静脈から挿入して右房、右室、肺動脈へ進める右心カテーテルで、右心系の圧、肺動脈楔入圧(PCWP)、熱希釈法による心拍出量、混合静脈血酸素飽和度などを評価できます。PCWPは弁を挟まない液柱を介して左房圧を反映するため、左心系の情報も間接的に得られる点が重要です。一方、容積の情報が必要な左室駆出率は心エコーや左室造影、左室収縮期圧は左心カテーテルで評価し、心筋酸素消費量は二重積を簡便な指標とします。PCWPと心係数を組み合わせたForrester分類は急性心不全の治療方針に直結するため、「どこまで入り、何を測っているか」を理解しておくことが、循環動態モニタリングを読み解く基礎になります。
解答・解説
正解はa, bです
Swan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)は、先端にバルーンを備えた右心カテーテルである。内頸静脈や鎖骨下静脈、大腿静脈などから挿入し、先端のバルーンを膨らませて血流に乗せることで、右房→右室→肺動脈へと進める。透視なしでベッドサイドでも留置でき、ICUや手術室で循環動態の評価や輸液量・強心薬などの調節の判断に広く用いられる。 このカテーテルで直接・間接に得られる主な情報は次のとおりである。 ・右房圧(≒中心静脈圧)、右室圧、肺動脈圧 ・肺動脈楔入圧(PCWP:pulmonary capillary wedge pressure):肺動脈の末梢枝でバルーンを膨らませて血流を遮断したときの圧で、左房圧を反映する ・心拍出量:熱希釈法で測定 ・混合静脈血酸素飽和度(SvO2):肺動脈から採血して測定 ・上記から算出される心係数、体血管抵抗、肺血管抵抗など つまりSwan-Ganzカテーテルはあくまで右心系に入るカテーテルであり、左心系の圧を直接測ることはできない。左房圧はPCWPによって間接的に評価できるが、左室内の圧や左室の容積(駆出率)は左心カテーテルや心エコーなど別の検査で評価する必要がある。この区別ができれば、正解は左房圧と心拍出量の2つとなる。
選択肢考察
- ○a. 左房圧
肺動脈の末梢でバルーンを膨らませて血流を止めると、カテーテル先端から前方(肺毛細血管→肺静脈→左房)は血流のない一続きの液柱となり、その間に弁がないため、先端で測定される圧は左房圧とほぼ等しくなる。これが肺動脈楔入圧(PCWP)であり、正常値はおおむね6〜12 mmHgである。さらに拡張期には僧帽弁が開いているため、僧帽弁狭窄症などがなければPCWPは左室拡張末期圧の目安にもなり、左心不全や肺うっ血の評価に用いられる(PCWPが18 mmHg程度を超えると肺うっ血をきたしやすい)。
- ○b. 心拍出量
Swan-Ganzカテーテルの代表的な機能である。熱希釈法では、カテーテルの右房付近に開口する側孔から一定量の冷却生理食塩液などを注入し、先端近くの温度センサー(サーミスタ)で肺動脈血の温度変化を記録する。温度変化曲線の面積から心拍出量が算出され、心拍出量を体表面積で割った心係数(正常値はおおむね2.5〜4.0 L/分/m2)は、PCWPとともにForrester分類による急性心不全の病態評価に用いられる。
- ×c. 左室駆出率
左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)は、(左室拡張末期容積−左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積で求める指標であり、左室の容積の情報が必要である。臨床では主に心エコー検査で評価し、ほかに左心カテーテルでの左室造影、心臓MRI、心臓核医学検査などでも求められる。右心系にとどまるSwan-Ganzカテーテルでは測定できない。
- ×d. 左室収縮期圧
左室収縮期圧は、大腿動脈や橈骨動脈などからカテーテルを逆行性に大動脈弁を越えて左室内まで進める左心カテーテル検査で直接測定する。Swan-Ganzカテーテルは静脈側から右心系に入るため、左室内の圧は測れない。PCWPが反映するのは左房圧(および拡張期の左室圧)であり、収縮期の左室圧ではない。
- ×e. 心筋酸素消費量
心筋酸素消費量は、主に心拍数、心筋収縮力、左室壁応力(収縮期血圧や左室の大きさで決まる後負荷)によって規定される。直接測定するには冠血流量と動脈血・冠静脈洞血の酸素含量の差が必要であり、Swan-Ganzカテーテル検査では評価できない。臨床的には、心拍数×収縮期血圧で求める二重積(double product、rate pressure product)が簡便な指標として用いられ、運動負荷試験などで参照される。
Swan-Ganzカテーテルの構造
・先端のバルーン:血流に乗せて進める/楔入圧を測る ・先端孔:肺動脈圧・PCWPの測定、混合静脈血の採血 ・近位側孔(右房付近):右房圧(中心静脈圧)の測定、熱希釈法での冷水注入 ・サーミスタ(先端付近):血液温度の測定
主な正常値の目安
・右房圧:2〜8 mmHg程度 ・右室圧:収縮期15〜30 mmHg、拡張末期2〜8 mmHg程度 ・肺動脈圧:収縮期15〜30 mmHg、拡張期4〜12 mmHg程度(平均肺動脈圧が25 mmHg以上で肺高血圧症とされてきたが、2022年の欧州のガイドライン以降は20 mmHgを超える場合と定義が改められている) ・肺動脈楔入圧:6〜12 mmHg程度 ・心係数:2.5〜4.0 L/分/m2
Forrester分類
急性心筋梗塞に伴う心不全の病態を、PCWP(18 mmHgを境に肺うっ血の有無)と心係数(2.2 L/分/m2を境に末梢循環不全の有無)で4群に分ける分類である。Swan-Ganzカテーテルで得られる値をそのまま使うため、本カテーテルの臨床的役割を理解するうえで重要である。 ・I群:うっ血なし・低灌流なし(正常) ・II群:肺うっ血あり(利尿薬・血管拡張薬) ・III群:低灌流あり、うっ血なし(輸液) ・IV群:両方あり(強心薬、機械的補助など)
PCWPが左房圧を反映しない状況
僧帽弁狭窄症ではPCWP(≒左房圧)が左室拡張末期圧より高くなる。また、陽圧換気で高いPEEPをかけている場合や、カテーテル先端が肺の上方(肺胞内圧が血管内圧を上回る部分)にある場合も、正確に反映しないことがある。
右心カテーテルと左心カテーテル
・右心カテーテル(静脈から挿入):右房圧、右室圧、肺動脈圧、PCWP、心拍出量、SvO2、シャント率の評価 ・左心カテーテル(動脈から挿入):左室圧、大動脈圧、左室造影(駆出率、壁運動)、冠動脈造影
POINT
・Swan-Ganzカテーテルは右心カテーテルであり、右房圧・右室圧・肺動脈圧・肺動脈楔入圧(PCWP)・心拍出量(熱希釈法)・混合静脈血酸素飽和度が得られる。 ・PCWPは左房圧を反映する(僧帽弁狭窄症などがなければ左室拡張末期圧の目安にもなる)。 ・左室駆出率は心エコーや左室造影、左室収縮期圧は左心カテーテルで評価する。 ・心筋酸素消費量の簡便な指標は二重積(心拍数×収縮期血圧)。 ・PCWPと心係数はForrester分類に用いる。
