StudyMed医師国家試験

「冷静に見える」は受け入れた証ではない―障害受容の5段階と寄り添い方

第106回医師国家試験 G問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第13問

障害の受容について正しいのはどれか。

  1. a.ショック期では,感情が抑制されやすい。
  2. b.否認期では,自己の障害の理解が重要である。
  3. c.混乱期では,抑うつ的になることはまれである。
  4. d.悲観期では,家族の強い励ましが重要である。
  5. e.いったん受容に至れば,障害受容は完成する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、突然障害を負った人がそれを受け入れていく心理的な過程、つまり障害受容がテーマだ。ポイントは、各段階の心の状態と、そのとき医療者や家族がどう関わるべきかをセットで押さえること。まず、障害受容の段階モデルを知っているかな。
医学生医学生
リハビリテーション医学の講義で、上田敏の段階説を習いました。ショック期、否認期、混乱期、解決への努力期、受容期の順だったと思います。
ドクタードクター
その通り。では最初のショック期から考えよう。受傷や発症の直後、本人の心はどんな状態だと思う?
医学生医学生
大きなショックを受けているので、泣いたり取り乱したりと、感情が激しく出る時期かなと思っていました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実は逆なんだ。起きたことがあまりに大きすぎて心が受け止めきれず、「自分のこととは思えない」という現実感の乏しさや、感情が麻痺したような鈍さがみられる。つまり感情は抑制されやすい。これが正解だ。一見落ち着いて無関心に見えても、受け入れたわけではなく、心を守るための反応なんだよ。
医学生医学生
臨床実習で脳神経外科を回ったとき、脊髄損傷で入院した方が驚くほど淡々としていて不思議だったんですが、そういうことだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだね。この時期は身体の治療を優先しつつ、安心できる環境を整えることが大切だ。次に否認期。身体状態が落ち着いてくると、障害にうすうす気づき始めるけれど、「いずれ元どおりに治る」と考えて認めない。ここで障害を正しく理解させることが最優先だと思う?
医学生医学生
いずれは理解が必要ですが、否認は防衛機制なので、無理に突きつけると逆効果になりそうです。
ドクタードクター
いい判断だ。この時期に理解を迫ったり一方的に告知を突きつけたりすると、防衛がかえって強まったり、関係がこじれたりしかねない。気持ちを受け止めながら、時間をかけて段階的に現実に向き合えるよう支えるのが基本だ。だから「否認期では自己の障害の理解が重要」とするのは適切でない。
医学生医学生
混乱期は、治らない現実を否認しきれなくなる時期ですよね。抑うつはまれ、というのは違和感があります。
ドクタードクター
その違和感は正しい。混乱期の反応は、外に向かえば医療者や家族への怒り・恨み、内に向かえば悲嘆・自責・抑うつになる。抑うつはまれどころか典型的な反応で、自殺念慮がみられることもあるから注意が必要だ。
医学生医学生
悲観している時期に家族が強く励ますのは、良さそうにも思えますが……。
ドクタードクター
そこがよく出る落とし穴だよ。悲嘆や抑うつが前面に出ている人に「頑張れ」と強く励ますと、頑張れない自分をさらに責めたり、わかってもらえないと孤立感を深めたりしやすい。うつ病の患者さんへの対応と同じ考え方だね。共感的に寄り添い、傾聴して見守る関わりが基本で、家族にも強い励ましは控えるよう助言する。
医学生医学生
精神科の実習でも、うつ病の患者さんに安易に励まさないようにと指導されました。最後の、受容に至れば完成というのはどうでしょう。
ドクタードクター
これも誤りだ。受容期に至った後でも、退院や復職、家族の変化、加齢や合併症による機能低下などをきっかけに、再び否認や混乱に戻ることがある。段階はもともと一方向に進むとは限らず、行きつ戻りつするものなんだ。
医学生医学生
受容はゴールではなく、社会に戻っていく出発点ということですね。
ドクタードクター
そう。受容の本質は、失った能力にとらわれず、障害があっても人間としての価値は損なわれないと実感する「価値の転換」だと考えられている。そこから新しい役割や生きがいを見つけていく。だから受容後も社会参加に向けた継続的な支援が必要なんだ。
医学生医学生
キューブラー・ロスの死の受容過程と似ていますね。否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容でした。
ドクタードクター
よく結びつけたね。対象は死にゆく人の心理だけれど、段階を行きつ戻りつすることや、抑うつの時期に安易な励ましを避けることは共通している。臨床では、患者さんがいまどの段階にいるのかを見極め、その段階に合った関わり方を選ぶことが、リハビリの意欲や生活の質を大きく左右するよ。
医学生医学生
混乱期の怒りを向けられても、個人攻撃と受け取らずに受け止めることも大事そうです。
ドクタードクター
その通り。怒りも受容に向かう過程の一部と理解しておけば、医療者も落ち着いて対応できる。段階ごとの心理と関わり方を一対一で覚えておこう。

まとめ

障害受容は、上田敏のモデルではショック期、否認期、混乱期、解決への努力期、受容期の順にたどるとされ、受傷直後のショック期には現実感の乏しさや感情の鈍麻がみられ、感情は抑制されやすいのが特徴です。否認期には障害の理解を無理に迫らず受け止めて段階的に支え、混乱期には怒りや悲嘆・抑うつが典型的に現れるため、強い励ましは避けて共感・傾聴で寄り添います。段階は一方向に進むとは限らず、受容に至った後も生活の変化を契機に後戻りすることがあるため、受容は完成形ではなく社会参加への出発点と捉えます。キューブラー・ロスの死の受容過程とも共通点が多く、患者の心理段階を見極めて関わり方を選ぶ姿勢は、リハビリテーションや慢性疾患診療など幅広い臨床場面で役立ちます。

解答・解説

正解はaです

障害の受容(障害受容)とは、ある日突然身体に障害を負った人が、その障害を自分の一部として受け入れていく心理的過程のことである。リハビリテーション医学では、上田敏が示した段階モデルがよく用いられる。障害を負った人は、おおむね次の順に段階をたどるとされる。 ショック期 → 否認期 → 混乱期(怒り・恨み、悲嘆・抑うつ)→ 解決への努力期 → 受容期 各段階の心理状態と、周囲(医療者・家族)の関わり方を結び付けて覚えておくことが、本問を解く鍵である。 ・ショック期: 受傷・発症の直後である。現実感が乏しく、感情が麻痺したように鈍くなる。 ・否認期: 身体状態が落ち着き、障害に気づき始める。しかし「治るはずだ」と障害を認めない。 ・混乱期: 障害が治らないという現実を否認しきれなくなる。怒りや他者への攻撃、あるいは悲嘆・抑うつが現れる。 ・解決への努力期: 他人に頼るのではなく、自分で努力する必要があると気づき、前向きな取り組みが始まる。 ・受容期: 価値観が転換し、障害を自分の一部として受け入れ、新たな役割や生きがいを見いだす。 これらの段階は必ず一方向に進むわけではない。行きつ戻りつしながら進み、ある段階にとどまることもある。この点も重要である。以上から、ショック期に感情が鈍り抑制されるとする a が正しい。

選択肢考察

  1. ○a.  ショック期では,感情が抑制されやすい。

    正しい。ショック期は受傷・発症の直後の時期である。起きたことがあまりに大きいため心が受け止めきれず、「自分のこととは思えない」という現実感の乏しさや、感情の鈍麻(感情の平板化・麻痺)がみられる。一見落ち着いて無関心にも見えるが、これは受け入れを拒んでいるのではない。心を守るための反応として感情が抑えられている状態である。この時期は、身体的な治療を優先しつつ、安心できる環境を整えることが大切である。

  2. ×b.  否認期では,自己の障害の理解が重要である。

    誤り。否認期は身体状態が安定し、障害の存在にうすうす気づき始める時期である。しかし、心理的な防衛機制(心を守るための無意識の働き)である否認が強く、「いずれ元どおりに治る」と考えて現実を受け入れられない。障害を正しく理解することは最終的には必要である。しかし、この時期に理解を迫ったり、障害の告知を一方的に突きつけたりすると、心理的な負担が大きい。かえって防衛が強まったり、関係がこじれたりすることもある。そのため、この時期に障害の理解を最優先するのは適切でない。本人の気持ちを受け止めながら、時間をかけて段階的に現実へ向き合えるよう支えることが重要である。

  3. ×c.  混乱期では,抑うつ的になることはまれである。

    誤り。混乱期は、障害が治らないという現実を否認しきれなくなり、感情が大きく揺れる時期である。外に向かう反応として、怒りや恨み(医療者や家族への攻撃的態度、他罰的な言動)が現れる。内に向かう反応として、悲嘆・自責・抑うつが現れる。抑うつ状態はこの時期に「まれ」どころか典型的な反応の一つであり、自殺念慮がみられることもあるため注意が必要である。

  4. ×d.  悲観期では,家族の強い励ましが重要である。

    誤り。「悲観期」は、混乱期のうち悲嘆・抑うつが前面に出る局面を指すと考えられる。悲観して抑うつ的になっている人を「頑張れ」と強く励ますと、逆効果になりやすい。「頑張れない自分」をさらに責めたり、「わかってもらえない」と孤立感を深めたりするためである。これはうつ病の患者への対応と同じ考え方である。この時期は、本人の悲しみや苦しみに共感的に寄り添い、傾聴し、見守る支持的な関わりが重要である。家族にも、強い励ましを控えるよう助言する。

  5. ×e.  いったん受容に至れば,障害受容は完成する。

    誤り。障害受容は一度到達すれば終わりというものではない。受容期に至った後でも、退院や復職、家族構成の変化、加齢や合併症による機能低下などの出来事をきっかけに、再び否認や混乱、抑うつの状態に戻ることがある。また、受容はゴールではない。障害をもちながら社会で役割を果たし生活していくための出発点であり、社会復帰・社会参加へ向かうプロセスの一段階と捉えるべきである。そのため、受容後も継続的な支援が必要である。

上田敏による障害受容の段階

1. ショック期: 受傷直後。感情が鈍麻し、現実感が乏しい。 2. 否認期: 障害に気づき始めるが、心理的防衛として否認する。「治るはず」と考える。 3. 混乱期: 否認しきれなくなる。怒り・恨み(外に向かう攻撃)と、悲嘆・抑うつ(内に向かう自責)が現れる。 4. 解決への努力期: 依存から離れ、自ら努力する必要に気づく。 5. 受容期: 価値観が転換し(障害があっても人間としての価値は損なわれないと実感する)、新しい役割や生きがいを得る。

関連するモデル

・キューブラー・ロス(Kübler-Ross)の死の受容過程: 否認と孤立 → 怒り → 取り引き → 抑うつ → 受容。死にゆく患者の心理を扱う。段階を行きつ戻りつする点や、抑うつ期に安易な励ましを避ける点は、障害受容と共通する。 ・コーン(Cohn)のモデル: ショック → 回復への期待 → 悲嘆 → 防衛 → 適応。 ・フィンク(Fink)の危機モデル: 衝撃 → 防御的退行 → 承認 → 適応。

関わり方のポイント

・ショック期: 安全と安心を確保する。身体的なケアを優先する。 ・否認期: 否認を無理に崩さず、受け止める。時期をみて段階的に情報を伝える。 ・混乱期: 怒りを個人攻撃として受け取らない。抑うつには共感・傾聴で寄り添い、強い励ましは避ける。自殺のリスクにも注意する。 ・解決への努力期: 具体的な目標設定や訓練で、主体的な取り組みを後押しする。 ・受容期: 社会参加・社会復帰を支援する。状況の変化による後戻りにも備える。

価値転換論

障害受容の本質を、失った能力にとらわれない「価値の転換」とみる考え方がある(デンボー、ライトらによる)。具体的には、価値の範囲の拡大、身体の外観を従属的なものとみること、障害の波及効果の抑制、比較価値から資産価値への転換などである。

POINT

・障害受容の段階(上田敏): ショック期 → 否認期 → 混乱期 → 解決への努力期 → 受容期 ・ショック期は感情の鈍麻・抑制が特徴である。 ・否認期は、障害の理解を無理に迫らず、時間をかけて支える。 ・混乱期は、怒りや抑うつが典型的に現れる。 ・悲嘆・抑うつの時期に強い励ましは逆効果であり、共感・傾聴が基本である。 ・受容は完成形ではなく、状況の変化で後戻りしうる。社会復帰への出発点である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。