StudyMed医師国家試験

白は羊水、灰色は胎盤―T2強調MRIで前置胎盤を読み解く

第106回医師国家試験 E問題 第50問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第50問

36歳の1回経妊1回経産婦。妊娠32週。昨夜からの少量の性器出血を主訴に来院した。自宅近くの医療機関で胎盤位置異常の可能性を指摘されたため,紹介されて受診した。32歳時に自然経腟分娩で第1子を出産している。腹部MRIのT2強調矢状断像を別に示す。  胎盤はどれか。

第106回 E問題 第50問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠後期の性器出血をきっかけに、MRIの矢状断像で胎盤を見つけ出す問題だ。ポイントは2つ。臨床像から何を疑うか、そしてT2強調像で各構造がどんな信号で映るか。まず、妊娠32週の少量出血と聞いて何を考えるかな。
医学生医学生
妊娠後期の出血なら、前置胎盤と常位胎盤早期剝離の鑑別がまず浮かびます。
ドクタードクター
そうだね。その2つを分けるカギは何だろう。
医学生医学生
産婦人科の講義では、早剝は腹痛と子宮の板状硬、前置胎盤は痛みのない出血と習いました。
ドクタードクター
その通り。前置胎盤では腹痛のない出血、いわゆる警告出血を繰り返すことが多い。今回は腹痛の記載がなく、前医でも胎盤位置異常を指摘されているから、前置胎盤が強く疑われる。ちなみに、前置胎盤を疑ったときに絶対やってはいけない診察があるけど、わかるかな。
医学生医学生
内診ですね。指が胎盤に触れて大出血を起こすおそれがあるからだったと思います。
ドクタードクター
正解。特に頸管内に指を入れる内診は避け、経腟超音波やMRIで胎盤の位置を評価する。では画像を読んでいこう。これは母体腹部のT2強調矢状断像で、左が母体の腹側、右が背側、上が頭側だ。右端に縦に並ぶ脊椎が向きの目印になる。T2強調像の信号の基本を覚えているかな。
医学生医学生
水が白く映るのがT2でしたよね。放射線科の実習で「T2は水が白い」と何度も言われました。
ドクタードクター
そう。羊水や尿のような水分の多いものは高信号で白く、胎盤や子宮筋層のような実質は均一な中等度信号、つまり灰色に映る。骨皮質や空気は黒い。これを頭に置いて子宮の中を見ていこう。上方の大きな塊は胎児の体幹で、内部に臓器や四肢の断面がある。その下に続く、頭蓋骨の輪郭に囲まれた楕円形の構造が胎児の頭部だ。
医学生医学生
頭が下にあるので頭位ですね。では、その頭の前下方にある真っ白な部分は胎盤ではないんですか。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。真っ白、つまり強い高信号ということは水そのものだから、羊水なんだ。胎盤は灰色に映るので、白さで区別できる。さらに子宮の前下方、恥骨のすぐ後ろにある白い袋状の構造は、子宮の外にある母体の膀胱だよ。
医学生医学生
となると、胎児頭部の背側から下に向かって、子宮後壁に沿って広がる厚い灰色の組織が胎盤ですね。
ドクタードクター
その通り。均一な中等度信号の厚い組織が子宮後壁に付着し、その下縁が子宮下部、内子宮口の方向まで達している。本来は子宮体部に付着するはずの胎盤が下方に及んでいるから、前置胎盤を示す所見だね。
医学生医学生
後壁付着だと超音波では見えにくいことがあると聞きました。だからMRIなんですか。
ドクタードクター
いい着眼点だ。経腟超音波が診断の基本だけれど、後壁付着の胎盤の評価や、癒着胎盤の合併評価にはMRIが役立つ。もう少し発展させよう。妊娠中期に胎盤が低い位置に見えても、子宮下部が伸びるにつれて見かけ上上方へ移動することがある。だから早い時期の低位付着は経過観察し、妊娠31週末ごろまでに診断を確定するんだ。
医学生医学生
診断がついたら、分娩は帝王切開になりますか。
ドクタードクター
原則として帝王切開だね。出血がなければ妊娠37週末ごろまでに予定帝王切開を計画し、出血時は入院安静とする。胎盤が付いていた子宮下部は収縮が弱いから、術中・術後の大量出血に備えて自己血貯血や輸血の準備をしておく。それから、前回帝王切開の瘢痕に胎盤がかかると癒着胎盤の頻度が高くなり、子宮摘出が必要になることもある。今回は経腟分娩歴だけだけど、既往歴の確認は必ず行おう。
医学生医学生
危険因子には帝王切開歴のほかに、高年妊娠や経産回数、多胎、喫煙、生殖補助医療もありましたね。今回は36歳なので高年妊娠にあたります。
ドクタードクター
よく整理できているね。臨床像で前置胎盤を疑い、内診を避け、画像で胎盤の位置を確かめる。この流れを押さえておけば、実際の場面でも慌てずに対応できるよ。

まとめ

妊娠後期に腹痛を伴わない性器出血をみたら前置胎盤を疑い、大出血を誘発しうる内診は避けて、経腟超音波やMRIで胎盤の位置を評価します。T2強調像では羊水や膀胱内の尿は高信号(白)に、胎盤は子宮壁に沿った均一な中等度信号(灰色)の厚い組織として描出されるため、信号の違いで胎児、羊水、膀胱と区別できます。本例では子宮後壁に付着した胎盤が子宮下部まで及んでおり、前置胎盤の所見です。前置胎盤は原則として帝王切開で分娩し、子宮下部の収縮不良による大量出血や、帝王切開歴がある場合の癒着胎盤に備える必要があります。MRIの信号の基本と胎盤位置異常の管理をセットで理解しておくことは、産科救急に対応するうえでの土台になります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・36歳、1回経妊1回経産婦(第1子は自然経腟分娩で、帝王切開歴はない)。 ・妊娠32週、昨夜からの少量の性器出血。腹痛や子宮収縮の記載はない。 ・前医で胎盤の位置異常を疑われて紹介されている。

鑑別の考え方

妊娠後期(妊娠28週以降)の性器出血では、主に次の疾患を鑑別する。 ・前置胎盤:腹痛を伴わない出血(無痛性出血)が特徴で、しばしば少量の出血(警告出血)を繰り返す。 ・常位胎盤早期剝離:持続する腹痛・子宮の硬化(板状硬)を伴い、胎児機能不全や播種性血管内凝固(DIC)をきたしうる。 ・切迫早産:規則的な子宮収縮や子宮頸管の短縮・開大を伴う。 本例は腹痛を伴わない少量出血で、前医でも胎盤位置異常を指摘されていることから、前置胎盤が最も疑われる。前置胎盤が疑われる場合、内診(とくに子宮頸管内への指の挿入)は大出血を誘発するおそれがあるため避け、経腟超音波検査やMRIで胎盤の位置を評価する。

画像の読み方

提示されているのは、母体腹部のT2強調矢状断像(体を左右に二分する縦方向の断面)であり、画像の左側が母体の腹側(前)、右側が背側(後)、上が頭側である。右端に母体の脊椎が縦に並んでいるのが目印となる。 T2強調像では、水分の多い構造(羊水・尿など)が高信号(白)に、胎盤のような実質臓器は中等度の均一な信号(灰色)に描出される。 子宮内を見ると、胎児は頭部を下にした頭位で、胎児頭部の背側から下方にかけて、子宮後壁に沿って厚みのある均一な中等度信号の組織が広がり、子宮下部(内子宮口の方向)まで達している。これが胎盤であり、子宮後壁付着の胎盤が子宮下部に及ぶ前置胎盤の像と判断できる。 本問は画像上の各構造を同定させる問題であり、胎盤に相当するのは③である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は子宮内の上方(母体頭側)に位置する大きな構造で、胎児の体幹(胸腹部)である。内部に胎児の臓器や四肢の断面がみられ、下方の胎児頭部(②)と連続している。胎盤ではない。

  2. ×b.  ②

    ②は楕円形で辺縁に頭蓋骨の輪郭があり、内部に脳実質と正中構造がみられることから、胎児の頭部(脳)である。胎児は頭部が母体の骨盤側を向く頭位である。胎盤ではない。

  3. ○c.  ③

    ③は胎児頭部の背側で子宮後壁に沿って広がる、厚みのある均一な中等度信号(灰色)の組織であり、胎盤である。その下縁は子宮下部に達しており、胎盤が本来の付着部位である子宮体部より下方、内子宮口付近にまで及んでいることがわかる。無痛性の性器出血と合わせて前置胎盤と診断する根拠になる。

  4. ×d.  ④

    ④は胎児頭部の前下方にある、T2強調像で強い高信号(白)を示す領域で、羊水である。羊水は水分そのものであるためT2強調像で白く描出され、胎盤の中等度信号とは明確に区別できる。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は子宮の前下方、恥骨の後ろに位置するT2強調像で高信号の袋状構造で、尿をためた母体の膀胱である。子宮の外にある構造であり、胎盤ではない。

前置胎盤(placenta previa)

・定義:胎盤の一部または全部が子宮下部に付着し、内子宮口を覆う、またはその辺縁が内子宮口にかかる状態。 ・分類:胎盤が内子宮口を覆う程度により、全前置胎盤、部分前置胎盤、辺縁前置胎盤に分けられる。超音波での暫定的な定義として、内子宮口が閉鎖した状態で、内子宮口を覆う胎盤の辺縁から内子宮口までの最短距離が2cm以上のものを全前置胎盤、2cm未満のものを部分前置胎盤、ほぼ0(胎盤辺縁が内子宮口縁に一致)のものを辺縁前置胎盤とする。実際には部分前置胎盤と辺縁前置胎盤を区別することは難しい。 ・低置胎盤:胎盤は内子宮口を覆っていないが、胎盤の下縁と内子宮口との距離が2cm以内のものをいう。 ・危険因子:前回帝王切開などの子宮手術歴、経産回数の多さ、高年妊娠、多胎妊娠、喫煙、生殖補助医療による妊娠など。 ・症状:妊娠後期の無痛性性器出血(警告出血)。子宮下部が伸展する妊娠後期や陣痛発来時に胎盤付着部が剝がれて出血する。 ・診断:経腟超音波検査が基本である。妊娠中期には子宮下部の伸展に伴い胎盤の位置が見かけ上上方へ移動(placental migration)することがあるため、早い時期の低位付着は経過観察し、妊娠31週末ごろまでに診断を確定する。後壁付着の胎盤の評価や、癒着胎盤の合併評価にはMRIが有用である。 ・禁忌と管理:内診(特に頸管内への指の挿入)は大出血を招きうるため行わない。出血時は入院安静とし、必要に応じて子宮収縮抑制薬を用いる。分娩は原則として帝王切開で行い、出血がなければ妊娠37週末ごろまでに予定帝王切開を計画する。胎盤剝離面となる子宮下部は収縮が弱いため、術中・術後の大量出血に備えて自己血貯血や輸血の準備を行う。 ・癒着胎盤:前置胎盤に帝王切開瘢痕が重なると、胎盤が子宮筋層に侵入する癒着胎盤(placenta accreta spectrum)の頻度が高くなり、子宮摘出が必要となることがある。

MRIの信号の基本(T2強調像)

・高信号(白):羊水、尿(膀胱)、脳脊髄液など水分の多いもの ・中等度信号(灰色):胎盤、子宮筋層、胎児の実質臓器 ・低信号(黒):骨皮質、空気、流れの速い血液など

POINT

・妊娠後期の無痛性性器出血では前置胎盤を疑い、内診は行わず経腟超音波やMRIで胎盤位置を確認する。 ・T2強調矢状断像では、羊水・膀胱内の尿は高信号(白)、胎盤は子宮壁に沿った均一な中等度信号の厚い組織として描出される。 ・本例の胎盤(③)は子宮後壁に付着し、子宮下部に及んでいる。 ・前置胎盤は原則帝王切開で分娩し、帝王切開歴があれば癒着胎盤の合併に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。