化学療法13日目の悪寒戦慄―好中球が消えたとき、まず疑うべき敵は誰か
第106回医師国家試験 E問題 第49問
国試問題にチャレンジ
61歳の男性。急性骨髄性白血病に対する抗がん化学療法開始後13日。今朝から悪寒戦慄を伴う39℃台の発熱を認める。白血球1,100(好中球10%,好酸球1%,好塩基球1%,単球7%,リンパ球81%)。CRP 23 mg/dL。 発熱の原因として最も考えられるのはどれか。
- a.リステリア
- b.黄色ブドウ球菌
- c.ニューモシスチス
- d.サイトメガロウイルス
- e.水痘・帯状疱疹ウイルス
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
化学療法後おおむね7〜14日前後は好中球の最低値の時期で、好中球数500/μL未満での発熱は発熱性好中球減少症として緊急に対応します。好中球減少では黄色ブドウ球菌や緑膿菌などの一般細菌、長期化すればカンジダやアスペルギルスなどの真菌が問題となり、リステリア、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスは主に細胞性免疫不全で問題となる病原体です。起因菌は従来のグラム陰性桿菌主体から、カテーテル普及などを背景にブドウ球菌などのグラム陽性球菌の割合が増えていますが、初期治療では血液培養採取後ただちに抗緑膿菌活性をもつ広域β-ラクタム系薬を投与します。好中球数は白血球数×好中球の割合で絶対数として評価することも重要です。「どの防御機構が障害されているか」から病原体を推定する考え方は、移植医療やHIV診療を含む免疫不全患者の感染症診療全般に応用できます。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・背景:急性骨髄性白血病(AML)に対して抗がん化学療法を開始して13日目である。AMLの寛解導入療法のような強力な化学療法では、骨髄抑制による白血球(とくに好中球)の最低値(nadir)がおおむね投与後7〜14日前後に訪れ、この時期が最も感染に弱い。 ・症状:悪寒戦慄を伴う39℃台の急な発熱。悪寒戦慄は菌血症(血液中に細菌が入り込んだ状態)を強く示唆する所見である。 ・検査:白血球1,100/μLで、そのうち好中球は10%である。好中球絶対数(ANC)は 1,100 × 0.10 = 110/μL と計算され、500/μL未満の高度の好中球減少にあたる。CRP 23 mg/dLと著明に上昇しており、強い細菌性炎症が示唆される。
診断へのプロセス
好中球数が500/μL未満(または48時間以内に500/μL未満になると予想される)の状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔温38℃以上)の発熱をきたしたものを発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)という。本例はこの定義を満たし、化学療法後の骨髄抑制期に起きた典型的なFNである。 好中球は細菌や真菌を貪食して殺す、自然免疫の最前線の細胞である。好中球が枯渇すると、皮膚・口腔・消化管の粘膜(化学療法による粘膜障害で防御が破綻している)や中心静脈カテーテルを入口として、常在菌が容易に血流へ侵入する。したがって、好中球減少時の急性発熱ではまず一般細菌による菌血症・敗血症を考える。
設問の考え方
免疫不全は、どの防御機構が障害されているかによってかかりやすい病原体が異なる。 ・好中球減少(本例):一般細菌(黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・レンサ球菌などのグラム陽性球菌、緑膿菌・大腸菌・肺炎桿菌などのグラム陰性桿菌)、長期化するとカンジダやアスペルギルスなどの真菌。 ・細胞性免疫(T細胞)不全:リステリア、ニューモシスチス、サイトメガロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、結核菌、クリプトコックスなど。 ・液性免疫不全・脾摘後:肺炎球菌やインフルエンザ菌などの莢膜を持つ細菌。 選択肢のうち、好中球減少に伴う急性の高熱と悪寒戦慄、CRP高値という経過に最も合致するのは一般細菌である黄色ブドウ球菌である。FNの起因菌は、かつてはグラム陰性桿菌(とくに緑膿菌)が大半を占めたが、中心静脈カテーテルの普及や粘膜障害を起こす化学療法の増加、キノロン系抗菌薬の予防投与などを背景に、近年はブドウ球菌を中心とするグラム陽性球菌が検出される割合が高くなっている。
選択肢考察
- ×a. リステリア
リステリア(Listeria monocytogenes)はグラム陽性桿菌で、マクロファージなどの細胞内で増殖する細胞内寄生菌である。このため主に細胞性免疫が低下した人(高齢者、妊婦、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用者など)や新生児に、髄膜炎・菌血症を起こす。汚染された乳製品や食肉加工品からの経口感染が多い。好中球減少時の発熱の原因としては頻度が低く、本例で最も考えられる病原体ではない。なお、セフェム系抗菌薬が無効でアンピシリンが第一選択となる点も頻出である。
- ○b. 黄色ブドウ球菌
黄色ブドウ球菌はグラム陽性球菌で、皮膚や鼻腔に常在する。好中球減少時には、皮膚のバリア破綻部位や中心静脈カテーテル挿入部から血流に侵入し、菌血症・敗血症をきたす。好中球が最も少なくなる化学療法後2週前後に、悪寒戦慄を伴う急な高熱とCRPの著明な上昇が出現した本例の経過は、一般細菌による菌血症として矛盾しない。発熱性好中球減少症の起因菌としてグラム陽性球菌が占める割合は近年増加しており、選択肢の中で最も考えられる病原体である。
- ×c. ニューモシスチス
ニューモシスチス(Pneumocystis jirovecii)は真菌の一種で、ニューモシスチス肺炎(PCP)を起こす。主に細胞性免疫不全(HIV感染症でCD4陽性T細胞が200/μL未満、長期のステロイド投与、免疫抑制療法中など)で発症し、乾性咳嗽・労作時呼吸困難・低酸素血症が数日〜数週かけて進行するのが典型である。胸部CTでは両側のすりガラス影を示し、血中β-D-グルカンが上昇する。本例には呼吸器症状の記載がなく、好中球減少を契機とした急性の悪寒戦慄を伴う高熱とは合致しない。
- ×d. サイトメガロウイルス
サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、多くの成人が不顕性に感染して体内に潜伏している。細胞性免疫が低下すると再活性化し、肺炎、網膜炎、腸炎などを起こす。臓器移植後や造血幹細胞移植後(とくに生着後の移植後1〜3か月ごろ)、HIV感染症などが代表的なリスクである。好中球減少期早期の急性発熱の原因としては一般細菌の方がはるかに考えやすく、また悪寒戦慄やCRPの著明高値は細菌感染を示唆する所見である。
- ×e. 水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)もヘルペスウイルス科のウイルスで、初感染で水痘を起こしたのち知覚神経節に潜伏し、細胞性免疫の低下時に再活性化して帯状疱疹を起こす。免疫不全者では皮疹が広範囲に広がる汎発性帯状疱疹や内臓播種をきたすことがある。本例には皮疹の記載がなく、好中球減少期の悪寒戦慄を伴う高熱とCRP高値という経過からは細菌感染の方が考えやすい。
発熱性好中球減少症(FN)
・定義:好中球数が500/μL未満、または48時間以内に500/μL未満への減少が予測される状態で、腋窩温37.5℃以上(口腔温38.0℃以上)の発熱を生じたもの。 ・好中球減少時は炎症反応が弱く、肺炎でも浸潤影が乏しい、膿が形成されにくいなど感染巣がはっきりしないことが多い。そのため発熱自体を緊急事態とみなし、原因菌の同定を待たずに治療を始める。 ・初期対応:血液培養を2セット以上(中心静脈カテーテルがあればカテーテルと末梢の両方から)採取したうえで、速やかに緑膿菌にも有効な広域β-ラクタム系抗菌薬(セフェピム、ピペラシリン・タゾバクタム、メロペネムなど)を経験的に投与する(経験的治療)。 ・バンコマイシンなど抗MRSA薬の追加は、カテーテル関連感染や皮膚・軟部組織感染の疑い、血行動態が不安定な場合、MRSA保菌者、血液培養でグラム陽性球菌が検出された場合などに検討する。 ・重症化リスクの評価にはMASCCスコアが用いられ、低リスク群では経口抗菌薬や外来治療が選択肢となる。 ・広域抗菌薬を数日投与しても解熱しない遷延例では、カンジダやアスペルギルスなどの深在性真菌症を考え、抗真菌薬の追加を検討する。
起因菌の変遷
かつて好中球減少時の菌血症はグラム陰性桿菌(緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌など)が主体であった。中心静脈カテーテル留置の一般化、口腔・消化管粘膜障害の強い化学療法、キノロン系薬の予防投与の普及などにより、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)やレンサ球菌などのグラム陽性球菌の割合が増えている。ただし、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌の菌血症は急速に重症化しやすいため、初期治療では必ずカバーする。
免疫不全の型と主な病原体
・好中球減少・好中球機能異常:黄色ブドウ球菌、緑膿菌などの一般細菌、カンジダ、アスペルギルス ・細胞性免疫不全:リステリア、結核菌・非結核性抗酸菌、ニューモシスチス、クリプトコックス、サイトメガロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、トキソプラズマ ・液性免疫不全・脾摘後:肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌などの莢膜保有菌
POINT
・化学療法後7〜14日前後は好中球の最低値の時期で、発熱性好中球減少症を起こしやすい。 ・好中球絶対数=白血球数×好中球の割合。500/μL未満で高度減少と判断する。 ・好中球減少時の急性発熱はまず一般細菌による菌血症を考え、血液培養採取後ただちに抗緑膿菌活性をもつ広域β-ラクタム系薬を投与する。 ・起因菌はグラム陰性桿菌主体から、黄色ブドウ球菌などグラム陽性球菌の割合が増加している。 ・リステリア、ニューモシスチス、CMV、VZVは細胞性免疫不全で問題となる病原体である。
