3歳の耳はどう測る?―「遊び」で聴力閾値を引き出す遊戯聴力検査
第106回医師国家試験 E問題 第42問
国試問題にチャレンジ
3歳の女児。3歳児健康診査で難聴が疑われて来院した。妊娠・分娩経過に問題なく,在胎40週2日,体重3,100 gで出生した。鼓膜所見と身体診察所見とに異常を認めない。 この患児に実施する精密検査として最も適切なのはどれか。
- a.音叉検査
- b.純音聴力検査
- c.遊戯聴力検査
- d.語音聴力検査
- e.自記オージオメトリ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
難聴の精密検査の目的は、左右別・周波数ごとの聴力閾値を測定し、難聴の程度や左右差を明らかにすることです。検査は年齢と応答能力に応じて選び、3歳前後では音が聞こえたらおもちゃを操作する遊戯聴力検査が適しており、ヘッドホンを用いれば左右別の気導閾値が測定できます。純音聴力検査・語音聴力検査・自記オージオメトリは理解力や持続的な応答が必要で幼児には難しく、音叉検査は伝音・感音の大まかな鑑別にとどまり閾値は測れません。新生児はABR・OAE・ASSR、乳児期後半〜2歳はCOR、3歳前後から遊戯聴力検査、学童以降は純音聴力検査という流れを押さえておくと、小児の聴覚評価全体を理解できます。言語発達の重要な時期に難聴を見逃さず早期介入につなげるためにも、年齢に応じた検査選択は欠かせない知識です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・3歳の女児で、3歳児健康診査(3歳児健診)で難聴を疑われ、精密検査のために紹介されてきた。 ・妊娠・分娩経過に問題はなく、正期産・正常体重で出生しており、周産期に難聴のリスクとなる要因(早産、低出生体重、重症黄疸など)は見当たらない。 ・鼓膜所見に異常がないため、滲出性中耳炎など鼓膜の変化を伴う伝音難聴は考えにくい。身体診察にも異常はない。
考え方
難聴の精密検査で最も重要なのは、「どのくらいの大きさの音から聞こえるか」という聴力閾値を、左右それぞれ周波数ごとに測定することである。これにより難聴の有無・程度・左右差がわかり、補聴器の必要性などの判断につながる。 聴力検査は、被検者が「聞こえた」ことを自分で応答する自覚的(行動反応)検査と、脳波などを用いて本人の応答なしに調べる他覚的検査に分けられる。自覚的検査は、被検者の年齢・理解力・集中力に応じて適切な方法を選ぶ必要がある。成人や学童で標準的に行う純音聴力検査は、検査の指示を理解し、小さな音に注意を向けて毎回ボタンで正確に応答し続ける必要があり、3歳児には難しい。 そこで3歳前後の幼児では、「音が聞こえたらおもちゃを動かす(ビー玉を穴に落とす、積み木を積む、ペグを差すなど)」という遊びの形にして応答させる遊戯聴力検査を用いる。ヘッドホンを装着できれば左右別に周波数ごとの気導閾値を測ることができ、この年齢の精密検査として最も適している。
選択肢考察
- ×a. 音叉検査
音叉検査(ウェーバー法、リンネ法など)は、音叉の振動音を気導・骨導で聞かせ、伝音難聴か感音難聴か、どちらの耳が悪いかを大まかに推定するスクリーニング的な検査である。聴力閾値(難聴の程度)を数値で測ることはできず、精密検査にはならない。また「どちらの耳で大きく聞こえるか」「どちらが長く聞こえるか」などを比較して答える必要があり、3歳児では正確な応答が期待できない。
- ×b. 純音聴力検査
純音聴力検査は、オージオメータで周波数ごとの純音を聞かせ、気導閾値と骨導閾値を測定する聴力検査の基本である。難聴の程度と種類(伝音・感音・混合)がわかるが、被検者が指示を理解し、聞こえるたびにボタンなどで正確に応答し続けることが前提となる自覚的検査である。通常は就学前後(おおむね5〜6歳)以降でなければ信頼できる結果が得られにくく、3歳児には適さない。
- ○c. 遊戯聴力検査
遊戯聴力検査は、音が聞こえたら玩具を操作するという遊びを通して応答させる検査で、おおむね3歳前後から実施可能となる。検査への興味と集中を保ちやすく、幼児でも信頼性のある応答が得られる。ヘッドホンを用いれば左右別に周波数ごとの気導閾値を測定でき、難聴の程度や左右差を評価して補聴器装用の判断にも役立つ。骨導閾値の測定は幼児では遮蔽(マスキング)の関係で困難なことが多い。3歳児健診で難聴を疑われた本児の精密検査として最も適切である。
- ×d. 語音聴力検査
語音聴力検査は、「ア」「キ」などの単音節の語音を聞かせて復唱や書き取りをさせ、ことばをどの程度正しく聞き取れるか(語音明瞭度・語音了解閾値)を調べる検査である。補聴器の適合評価や、内耳性と後迷路性(聴神経以降)の難聴の鑑別に用いる。一定の言語能力と認知能力が必要なうえ、聴力閾値そのものを周波数ごとに測る検査ではないため、3歳児の難聴の精密検査として最初に選ぶものではない。
- ×e. 自記オージオメトリ
自記オージオメトリ(ベケシー型オージオメトリ)は、被検者が音が聞こえている間はボタンを押し続け、聞こえなくなったら離す操作を繰り返すことで、音の大きさが自動的に上下し閾値が記録される検査である。連続音と断続音の記録の差から、内耳性難聴・後迷路性難聴・機能性難聴(心因性難聴など)の鑑別に用いられる。持続的な注意と正確な操作が必要であり、3歳児には実施できない。
小児の年齢に応じた聴力検査
・新生児〜乳児:他覚的検査が中心。新生児聴覚スクリーニングでは自動聴性脳幹反応(AABR)や耳音響放射(OAE)が用いられる。精密検査では聴性脳幹反応(ABR)、聴性定常反応(ASSR:周波数ごとの閾値推定が可能)などで閾値を推定する。 ・乳児期後半〜2歳ごろ:条件詮索反応聴力検査(COR)。音と同時に光や人形を見せる条件付けを行い、音だけで音源の方向を振り向くかを観察する。スピーカーから音を出すため、原則として左右別の評価はできず、良い方の耳の聴力を反映する。 ・3歳前後〜:遊戯聴力検査(ピープショウテストなども含む)。ヘッドホンで左右別に気導閾値を測定できる。 ・学童以降:純音聴力検査、語音聴力検査など成人と同じ検査が可能になる。 ・年齢を問わず、行動反応による検査の結果に疑問がある場合や重複障害がある場合は、ABRやASSRなどの他覚的検査で確認する。
3歳児健診と難聴
3歳児健診では、ささやき声検査や絵を使った聞き取り検査などの聴覚検査が行われる。軽度〜中等度の難聴や一側性難聴は、新生児聴覚スクリーニングをすり抜けたり、成長後に発症・進行したりして、言葉の遅れなどで初めて気づかれることがある。3歳ごろは言語発達にとって重要な時期であり、見逃すと言語・コミュニケーション能力の発達に影響するため、疑われた児には早期に精密検査を行う。小児の難聴の原因としては滲出性中耳炎が最も多いが、本例のように鼓膜所見が正常であれば感音難聴の可能性も考え、閾値測定を行う必要がある。
聴力検査の用語
・気導聴力:外耳道から入った音が中耳・内耳を経て聞こえる経路の聴力。 ・骨導聴力:頭蓋骨の振動が直接内耳に伝わる経路の聴力。 ・気導のみ低下し骨導が正常なら伝音難聴、両方が同程度に低下すれば感音難聴、両方低下し気導と骨導に差があれば混合性難聴である。
POINT
・難聴の精密検査の目的は、左右別・周波数ごとの聴力閾値を測定することである。 ・検査法は年齢で選ぶ:乳児はABR・ASSR(他覚的検査)、乳児期後半〜2歳はCOR(条件詮索反応聴力検査)、3歳前後からは遊戯聴力検査、学童以降は純音聴力検査。 ・音叉検査は伝音・感音の大まかな鑑別のみで、閾値は測れない。 ・語音聴力検査・自記オージオメトリは言語・認知能力と持続的な協力が必要で、幼児には適さない。
