「内」なのに外側?―下腹壁動静脈で解き明かすヘルニア門の地図
第106回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
ヘルニアとヘルニア門の組合せで正しいのはどれか。
- a.臍ヘルニア ―― 白線
- b.大腿ヘルニア ―― 大坐骨孔
- c.内鼠径ヘルニア ―― 外側鼠径窩
- d.外鼠径ヘルニア ―― 内鼠径輪
- e.閉鎖孔ヘルニア ―― Treitz靱帯
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ヘルニア門は、脱出する臓器が通る出口であり、各ヘルニアの名前と対応させて覚えることが重要です。鼠径部では下腹壁動静脈を基準にし、その外側の内鼠径輪(外側鼠径窩)から鼠径管に入るのが外鼠径ヘルニア(間接型)、内側のHesselbach三角(内側鼠径窩)から後壁を押し出すのが内鼠径ヘルニア(直接型)です。大腿ヘルニアは大腿輪から鼠径靱帯の下に出て嵌頓しやすく、臍ヘルニアは臍輪、白線ヘルニアは白線の間隙、閉鎖孔ヘルニアは閉鎖管が門で、Treitz靱帯は傍十二指腸ヘルニアに関係します。小児の外鼠径ヘルニアは腹膜鞘状突起の開存が原因であり、高齢女性の腸閉塞では閉鎖孔ヘルニアやHowship-Romberg徴候を思い浮かべることが診断の手がかりになります。解剖学的な位置関係を軸に整理しておくと、手術所見の理解や鑑別診断にもそのまま役立ちます。
解答・解説
正解はdです
ヘルニアとは、臓器や組織が本来あるべき腔から、腹壁などの弱い部分や裂け目を通って別の場所へ脱出した状態をいう。脱出の出口となる部位をヘルニア門、脱出した腹膜の袋をヘルニア嚢、嚢の中に入り込んだ臓器をヘルニア内容と呼ぶ。本問は、代表的な腹壁ヘルニア・骨盤部ヘルニアについて、それぞれがどこから脱出するのか(ヘルニア門)を正しく対応させられるかを問うている。 鼠径部の解剖を理解するには、腹腔側から前腹壁の下部を見たときの構造を思い浮かべるとよい。腹膜には下腹壁動静脈、臍動脈索(内側臍ヒダ)、正中臍索(正中臍ヒダ)によって隆起したヒダができ、その間がくぼみ(窩)になっている。下腹壁動静脈より外側のくぼみが外側鼠径窩で、ここに内鼠径輪(深鼠径輪)が開いている。下腹壁動静脈より内側のくぼみが内側鼠径窩で、これは前方から見た Hesselbach 三角(鼠径三角)に相当し、鼠径管後壁の弱い部分である。 したがって、下腹壁動静脈の外側(内鼠径輪)から鼠径管に入り込むのが外鼠径ヘルニア(間接型)、内側(内側鼠径窩=Hesselbach 三角)の後壁を直接押し出すのが内鼠径ヘルニア(直接型)である。この「下腹壁動静脈との位置関係」を軸に整理すると、名称の「内・外」と窩の「内側・外側」の関係で混乱しにくくなる。
選択肢考察
- ×a. 臍ヘルニア ―― 白線
臍ヘルニアのヘルニア門は臍輪(臍部の筋膜欠損部)である。乳児では出生後の臍輪の閉鎖が不完全なために生じ、成人では肥満・妊娠・腹水などによる腹圧上昇で臍部の脆弱部が開大して生じるが、いずれも臍そのものが門となる。白線(左右の腹直筋鞘が正中で癒合した腱膜)の間隙を門とするのは白線ヘルニアであり、多くは臍より頭側の上腹部に生じるため上腹壁ヘルニアとも呼ばれる。
- ×b. 大腿ヘルニア ―― 大坐骨孔
大腿ヘルニアのヘルニア門は大腿輪である。大腿輪は鼠径靱帯の下方で大腿静脈のすぐ内側にある大腿管の入口で、内側を裂孔靱帯、前方を鼠径靱帯、後方を恥骨筋膜(Cooper 靱帯)に囲まれた狭い孔である。門が狭く硬いため嵌頓を起こしやすく、中高年の女性(特に経産婦)に多い。大坐骨孔を門とするのは坐骨ヘルニアであり、きわめてまれである。
- ×c. 内鼠径ヘルニア ―― 外側鼠径窩
内鼠径ヘルニア(直接型鼠径ヘルニア)は、下腹壁動静脈の内側で鼠径管後壁を直接押し出して脱出するヘルニアであり、ヘルニア門は内側鼠径窩(前方から見た Hesselbach 三角)に相当する鼠径管後壁である。後壁全体が膨隆することが多いが、一部に限局した欠損が門となることもある。外側鼠径窩は下腹壁動静脈の外側にあり、内鼠径輪が位置する部位で、こちらは外鼠径ヘルニアの門である。名称の「内」と窩の「外側」が逆に組み合わされている点が誤りである。
- ○d. 外鼠径ヘルニア ―― 内鼠径輪
外鼠径ヘルニア(間接型鼠径ヘルニア)は、下腹壁動静脈の外側にある内鼠径輪(深鼠径輪)から鼠径管内に入り、精索(女性では子宮円索)に沿って鼠径管を下行し、外鼠径輪から皮下へ、さらに陰嚢内へ達することがある。内鼠径輪は腹腔から精索が鼠径管に入る入口であり、ここがヘルニア門となるので組合せは正しい。小児の鼠径ヘルニアはほぼすべてこの型で、胎生期に精巣下降とともに形成される腹膜鞘状突起が閉鎖せずに残ることが原因である。成人でも鼠径ヘルニアの中で最も頻度が高い。
- ×e. 閉鎖孔ヘルニア ―― Treitz靱帯
閉鎖孔ヘルニアのヘルニア門は閉鎖孔(正確には閉鎖膜に開いた閉鎖管)で、閉鎖動静脈・閉鎖神経の通り道である。やせた高齢の多産女性に多く、閉鎖神経の圧迫による大腿内側から膝への放散痛(Howship-Romberg 徴候)が特徴的で、腸閉塞の原因として CT で診断されることが多い。Treitz 靱帯(十二指腸提筋)は十二指腸空腸曲を吊り下げる構造で、その周囲の腹膜陥凹に腸管が入り込む傍十二指腸ヘルニア(内ヘルニアの一種)に関係するが、閉鎖孔ヘルニアとは無関係である。
主なヘルニアとヘルニア門
・外鼠径ヘルニア(間接型): 内鼠径輪(外側鼠径窩)。下腹壁動静脈の外側から脱出。小児では腹膜鞘状突起の開存が原因 ・内鼠径ヘルニア(直接型): 鼠径管後壁(内側鼠径窩=Hesselbach 三角)。下腹壁動静脈の内側から脱出。中高年男性に多く、腹壁の脆弱化が原因 ・大腿ヘルニア: 大腿輪(大腿静脈の内側)。鼠径靱帯の下方に膨隆。中高年女性に多く嵌頓しやすい ・臍ヘルニア: 臍輪 ・白線ヘルニア(上腹壁ヘルニア): 白線の間隙 ・閉鎖孔ヘルニア: 閉鎖孔(閉鎖管) ・坐骨ヘルニア: 大坐骨孔・小坐骨孔 ・腰ヘルニア: 上腰三角(Grynfeltt)・下腰三角(Petit) ・傍十二指腸ヘルニア: Treitz 靱帯近傍の腹膜陥凹(内ヘルニア)
Hesselbach 三角
下腹壁動静脈(外側)、腹直筋外縁(内側)、鼠径靱帯(下方)で囲まれる三角形の領域で、鼠径管後壁のうち横筋筋膜しかない弱い部分である。内鼠径ヘルニアはここから脱出する。
鑑別と治療
外鼠径ヘルニアと内鼠径ヘルニアは身体所見だけでは区別が難しいことも多く、手術時に下腹壁動静脈との位置関係で最終的に判定される。鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアは、膨隆が鼠径靱帯の上か下かで区別する。成人の鼠径部ヘルニアの治療は手術(メッシュを用いた前方アプローチや腹腔鏡下修復術)であり、小児では開存した鞘状突起を高位で結紮する。
POINT
・外鼠径ヘルニア: 内鼠径輪(外側鼠径窩)、下腹壁動静脈の外側 ・内鼠径ヘルニア: Hesselbach 三角(内側鼠径窩)、下腹壁動静脈の内側 ・大腿ヘルニア: 大腿輪(大腿静脈の内側)、鼠径靱帯の下、中高年女性、嵌頓しやすい ・閉鎖孔ヘルニア: 閉鎖孔、やせた高齢女性、Howship-Romberg 徴候 ・白線を門とするのは白線ヘルニア、Treitz 靱帯は傍十二指腸ヘルニア
