性交時出血と異型細胞―細胞診の「次の一手」はコルポスコピー
第106回医師国家試験 D問題 第46問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性。未経妊。3か月前からの性交時出血を主訴に来院した。月経周期は28日型,整。内診で,帯下は白色,子宮は鶏卵大で可動性は良好である。経腟超音波検査で子宮と卵巣とに異常を認めない。子宮頸部の細胞診Papanicolaou染色標本を別に示す。 対応として適切なのはどれか。

- a.子宮内膜組織診
- b.コルポスコピィ
- c.腟分泌物培養検査
- d.低用量経口避妊薬の投与
- e.子宮頸部レーザー蒸散術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
性交時出血(接触出血)は子宮頸部病変、とくに子宮頸癌を疑うべき症状で、細胞診で核腫大やN/C比増大、オレンジG好性の角化異型細胞を認めればHSILから扁平上皮癌が疑われます。ただし細胞診はスクリーニングにすぎず、次に行うべきはコルポスコピーと最も異常の強い部位からの狙い組織診による確定診断です。子宮内膜組織診は体癌の精査、培養ではHPVも腫瘍も診断できず、避妊薬に頸部病変の治療効果はなく、レーザー蒸散術は組織が残らないため浸潤癌の否定前に行ってはいけません。組織診断に応じてCIN1・2は経過観察、CIN3は円錐切除術、浸潤癌は子宮全摘術や化学放射線療法と方針が分かれます。「スクリーニング→精密検査→確定診断→治療」という順序は、若年女性の妊孕性を守りつつ癌を見逃さないための基本原則です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・26歳の未経妊女性で、3か月続く性交時出血を主訴とする。性交時出血(接触出血)は、子宮腟部の病変(子宮頸癌、子宮頸部異形成、子宮頸管ポリープ、子宮腟部びらん、子宮頸管炎など)を疑うべき症状である。 ・月経周期は整で、内診では帯下は白色(感染を強く示唆する膿性・悪臭の帯下ではない)、子宮は鶏卵大(ほぼ正常大)で可動性良好である。経腟超音波検査でも子宮体部・卵巣に異常はない。子宮体部や付属器の病変、周囲への浸潤を思わせる所見は乏しい。 ・子宮頸部細胞診(Papanicolaou染色)では、核の腫大、核/細胞質比(N/C比)の増大、クロマチンの増量など核異型の目立つ異型扁平上皮細胞がみられ、なかにはオレンジG好性(オレンジ色)に染まる角化型の異型細胞も含まれる。高度扁平上皮内病変(HSIL)から扁平上皮癌が疑われる所見である。
設問の考え方
細胞診はあくまでスクリーニング検査であり、細胞診の結果だけで治療を行うことはない。細胞診で異常があれば、次に行うのは精密検査としてのコルポスコピー(腟拡大鏡診)と、その所見に基づく狙い組織診(生検)である。コルポスコピーで病変の部位・範囲・性状を確認し、最も異常が強い部位から組織を採取して、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)か浸潤癌かを組織学的に確定する。その後、組織診断と病変の広がりに応じて、経過観察、レーザー蒸散術、円錐切除術、子宮全摘術などの方針を決める。若年・未経妊の女性では妊孕性温存の観点からも、正確な組織診断で病変の程度を見極めることが重要である。
選択肢考察
- ×a. 子宮内膜組織診
子宮内膜組織診は、子宮体癌(子宮内膜癌)や子宮内膜増殖症を疑う場合の精密検査である。体癌は閉経前後の不正性器出血が典型で、本例は26歳と若く、経腟超音波でも子宮内膜の異常を認めない。細胞診で問題となっているのは子宮頸部であり、内膜の組織診は優先されない。
- ○b. コルポスコピィ
コルポスコピー(腟拡大鏡診)は、子宮腟部を酢酸加工したうえで拡大観察し、白色上皮、モザイク、赤点斑(punctation)、異型血管などの異常所見の有無と範囲を評価する検査である。細胞診で異常を指摘された場合の標準的な精密検査で、同時に最も異常の強い部位から狙い組織診を行い、CINの程度や浸潤癌の有無を確定する。本例の次の対応として最も適切である。
- ×c. 腟分泌物培養検査
腟分泌物培養は、細菌性腟症や頸管炎など感染症が疑われる場合に行う検査である。子宮頸癌の原因の大部分は高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染だが、HPVは培養では検出できず(検出にはHPV-DNA検査などを用いる)、培養で腫瘍性病変の診断をつけることもできない。帯下も白色で感染を強く疑う所見に乏しい。
- ×d. 低用量経口避妊薬の投与
低用量経口避妊薬(OC)は避妊や月経困難症、子宮内膜症などに用いられ、長期服用で卵巣癌や子宮体癌のリスクを下げることが知られている。しかし子宮頸部の異常を治療する作用はなく、長期使用ではむしろ子宮頸癌のリスクがわずかに高まるとの報告もある。悪性が疑われる病変に対して確定診断をせずに投与するのは不適切である。
- ×e. 子宮頸部レーザー蒸散術
レーザー蒸散術は、病変部の組織をレーザーで焼灼・蒸散させる治療法で、主にCIN2〜CIN3など上皮内にとどまる病変のうち、病変全体がコルポスコピーで観察できる例に行われる。組織が残らないため病理学的評価ができず、浸潤癌が否定されていない段階で行うと癌を見逃すおそれがある。コルポスコピーと組織診で病変の程度を確定する前に行うべきではない。
子宮頸癌の概要
・原因の大部分は高リスク型HPV(16型、18型など)の持続感染である。HPV感染の多くは自然に排除されるが、持続すると子宮頸部上皮内腫瘍(CIN1→CIN2→CIN3)を経て浸潤癌へ進展することがある。 ・好発部位は扁平上皮と円柱上皮の境界(扁平円柱上皮境界:SCJ)付近の移行帯である。 ・組織型は扁平上皮癌が多く、腺癌も増加している。 ・近年は20〜30歳代の若年女性での罹患が増えており、妊孕性への影響が問題となる。 ・初期は無症状のことが多く、進行すると性交時出血(接触出血)、不正性器出血、帯下の増加などがみられる。
子宮頸がん検診から治療までの流れ
1. 細胞診(スクリーニング):結果はベセスダシステムで報告される(NILM:陰性、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCC、AGC、AISなど)。ASC-USではHPV検査で振り分けを行うことがある。 2. 精密検査:コルポスコピーと狙い組織診。 3. 組織診断に基づく治療: ・CIN1:多くは自然消退するため経過観察。 ・CIN2:経過観察を基本とし、持続例や進行例では治療(レーザー蒸散術など)を考慮。 ・CIN3:円錐切除術(診断と治療を兼ねる)が基本で、条件を満たせばレーザー蒸散術も選択肢。 ・微小浸潤癌(ⅠA期):円錐切除術または子宮全摘術など。妊孕性温存を希望する場合は円錐切除術で対応できることがある。 ・浸潤癌(ⅠB期以降):広汎子宮全摘術や同時化学放射線療法など。
パパニコロウ染色での異型細胞の見かた
・悪性を疑う所見:核の腫大、N/C比の増大、クロマチンの増量・不均等分布、核形不整、核小体の明瞭化。 ・角化型扁平上皮癌ではオレンジGに好染する角化した異型細胞や、オタマジャクシ型・線維型などの奇妙な形の細胞がみられる。
予防
HPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(二次予防)が柱である。日本では20歳以上の女性に2年に1回の細胞診による検診が推奨されてきた。
POINT
・性交時出血(接触出血)では子宮頸部病変、とくに子宮頸癌をまず疑う。 ・子宮頸部細胞診はスクリーニング。異常があれば、次はコルポスコピー+狙い組織診で確定診断する。 ・治療(レーザー蒸散術、円錐切除術、子宮全摘術など)は組織診断と進行度が確定してから選ぶ。 ・子宮内膜組織診は子宮体癌の精密検査であり、頸部病変には用いない。 ・子宮頸癌の主因は高リスク型HPVの持続感染で、若年女性で増加している。
