StudyMed医師国家試験

「減らす」ではなく「やめる」―禁煙治療のスタートラインに立つために

第106回医師国家試験 D問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第4問

妻に禁煙を促された患者が来院した。  禁煙治療の開始準備として適切でないのはどれか。

  1. a.禁煙の意思確認
  2. b.禁煙開始日の設定
  3. c.喫煙開始年齢の把握
  4. d.喫煙本数の目標設定
  5. e.ニコチン依存症の判定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は禁煙外来の初診で何を準備するかを問う問題だ。着眼点は「禁煙治療のゴールは何か」という一点。それがわかれば、ふさわしくない準備が自然と浮かび上がってくるよ。
医学生医学生
奥さんに言われて来院したという設定が気になります。本人は本当にやめたいんでしょうか。
ドクタードクター
いいところに目をつけたね。家族に促されての受診はよくあるけれど、禁煙治療は本人の意思が前提なんだ。だから禁煙の意思確認は最初にやるべきことのひとつ。保険診療の禁煙治療でも「直ちに禁煙することを希望している」ことが要件に入っているよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った行動変容ステージでいうと、どの段階かを見極めるということですね。
ドクタードクター
その通り。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期と進むモデルで、1か月以内にやめるつもりがある準備期が開始の好機だ。まだ気持ちが固まっていなければ、喫煙の害や禁煙の利益を伝えて動機づけを高めることから始める。
医学生医学生
ニコチン依存症の判定もしますよね。CBTの勉強でTDSという質問票を見た気がします。
ドクタードクター
そう、TDSは10項目の質問票で、5点以上ならニコチン依存症と判定する。依存の程度は治療薬の選び方や離脱症状への備えに関わるし、保険適用のためにも必須の評価だ。では喫煙開始年齢の把握はどうだろう。
医学生医学生
正直、何歳から吸い始めたかを聞く意味があまりピンときません。
ドクタードクター
ここは引っかかりやすいね。開始年齢がわかれば喫煙年数が出て、1日の本数と掛け合わせるとBrinkman指数になる。肺癌やCOPDのリスク評価に使えるし、35歳以上では保険適用の禁煙治療の要件として200以上が求められる。若くして吸い始めた人ほど依存が強い傾向もあるんだ。
医学生医学生
なるほど、累積喫煙量の計算に必要なんですね。呼吸器内科の実習でも問診で必ず聞いていました。
ドクタードクター
次は禁煙開始日の設定。「この日から一本も吸わない」と具体的に決めると、準備も実行もしやすくなる。治療薬の開始時期もこの日が基準だ。ニコチンパッチは開始日から使い、バレニクリンは開始日の1週間前から内服を始める。
医学生医学生
残るのは喫煙本数の目標設定ですね。まず1日10本まで減らす、みたいに段階を踏むのは現実的な気もするんですが。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴なんだ。ニコチン依存はアルコールや薬物の依存症と同じで、治療目標は「減らす」ことではなく完全に「やめる」ことだ。本数の目標を立てると、その本数までは吸ってよいというメッセージになってしまう。
医学生医学生
減らすだけでも体への負担は減りそうに思えますが、違うんですか。
ドクタードクター
本数を減らすと1本あたりを深く吸い込むなどして、ニコチン摂取量が思ったほど減らないことがある。依存も続くから、結局もとの本数に戻りやすい。少しでも吸えば欲求がよみがえるので、開始日からきっぱりやめるのが基本なんだ。だから適切でないのは喫煙本数の目標設定だね。
医学生医学生
依存症という病気として捉えると、断酒と同じ発想なんですね。精神科の実習でアルコール依存症の患者さんの話を聞いたのを思い出しました。
ドクタードクター
いい結びつけだ。最後に臨床での注意点を。標準的な禁煙治療は12週間で計5回の診察を行い、毎回呼気一酸化炭素濃度を測って成果を客観的に確認する。離脱症状としてイライラ、集中困難、不眠、食欲増加などが禁煙後数日でピークになり、多くは2〜4週間で落ち着いていくから、あらかじめ伝えておくと挫折を防ぎやすい。
医学生医学生
バレニクリンはどういう仕組みの薬でしたっけ。
ドクタードクター
ニコチン受容体のα4β2サブタイプの部分作動薬だ。受容体を適度に刺激して離脱症状を和らげつつ、吸っても満足感を得にくくする。悪心や異常な夢、眠気などの副作用があり、服用中の自動車運転などは避けるよう注意されている。短時間の支援なら「5A」、つまり尋ねる、勧める、評価する、支援する、フォローを手配する、という枠組みも覚えておくと外来で役立つよ。

まとめ

禁煙治療の目標は喫煙の完全中止であり、本数を減らす目標を設定することは喫煙の継続を容認するメッセージとなるため、開始準備として適切ではありません。初診では、本人の禁煙の意思と行動変容ステージの確認、TDS(5点以上で依存症)によるニコチン依存症の判定、喫煙開始年齢と本数からのBrinkman指数の算出、禁煙開始日の設定を行います。治療薬はニコチン代替療法を開始日から、バレニクリンを開始日の1週間前から用い、12週間の治療中は呼気CO濃度で成果を確認します。喫煙をニコチン依存症という病気として捉え、断酒と同様に「やめる」ことを目指す考え方は、外来での禁煙支援や患者指導の基本となります。

解答・解説

正解はdです

テーマ

禁煙治療を始める前に何を確認・準備するかを問う問題である。喫煙はニコチンへの依存症であり、アルコールや薬物の依存症と同様に「量を減らす」のではなく「完全にやめる(断煙)」ことが治療目標となる。

禁煙治療の開始準備

日本の禁煙外来(「禁煙治療のための標準手順書」に基づく)では、初回診察でおおむね次のことを行う。 ・喫煙状況の把握: 1日の喫煙本数、喫煙開始年齢・喫煙年数、過去の禁煙歴など。 ・ニコチン依存症の評価: TDS(Tobacco Dependence Screener)によるスクリーニング。 ・禁煙の意思確認と動機づけ: 本人がやめたいと思っているかを確認し、喫煙の害や禁煙の利益を説明する。 ・禁煙開始日の設定と治療薬の選択: ニコチン代替療法や経口禁煙補助薬を開始する。 ・呼気一酸化炭素(CO)濃度の測定: 喫煙状況の客観的指標、禁煙の成果の確認に用いる。

設問への考え方

禁煙治療のゴールは喫煙本数ゼロであり、「1日○本まで」といった減煙の目標を立てることは、喫煙を続けてよいというメッセージになり治療の方針に反する。本数を徐々に減らすやり方はニコチン依存が続き、結局元の本数に戻りやすい。したがって、開始準備として適切でないのは喫煙本数の目標設定である。

選択肢考察

  1. ×a.  禁煙の意思確認

    適切である。禁煙治療は本人の意思が前提であり、本問のように家族に促されて受診した場合は特に、本人がどの程度やめたいと考えているかを確かめる必要がある。保険診療による禁煙治療でも、「直ちに禁煙することを希望している」ことが対象要件の一つになっている。意思が不十分なら、喫煙の害や禁煙の利益を伝えて動機づけを高めることから始める。

  2. ×b.  禁煙開始日の設定

    適切である。「この日から一本も吸わない」という日を具体的に決めることで、準備と実行がしやすくなる。治療薬の開始時期もこの日を基準に決まり、ニコチンパッチなどのニコチン代替療法は禁煙開始日から使用し、経口禁煙補助薬のバレニクリンは禁煙開始日の1週間前から内服を始める(開始日までは喫煙してよい)。

  3. ×c.  喫煙開始年齢の把握

    適切である。喫煙開始年齢から喫煙年数がわかり、1日の喫煙本数と掛け合わせてBrinkman指数(喫煙指数)を算出できる。Brinkman指数は累積喫煙量の目安として、肺癌やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などのリスク評価に使われるほか、保険適用の禁煙治療の要件(35歳以上では200以上)の判定にも用いる。また、若年で喫煙を始めた人ほどニコチン依存が強い傾向がある。

  4. ○d.  喫煙本数の目標設定

    適切でない。禁煙治療の目標は喫煙を完全にやめることであり、減らす本数の目標を設定するのは治療の考え方と合わない。本数を減らすと1本あたりを深く吸い込むなどしてニコチン摂取量が思ったほど減らないことがあり、依存も持続するため再び本数が増えやすい。少しでも吸えば喫煙欲求がよみがえるため、開始日からきっぱりやめる方法が基本である。

  5. ×e.  ニコチン依存症の判定

    適切である。禁煙外来ではTDS(10項目の質問票)を用い、10点満点中5点以上をニコチン依存症と判定する。依存の程度は治療薬の選択や離脱症状への備えにも関わり、保険適用の禁煙治療を行うためにも必須の評価である。

保険適用の禁煙治療の対象

以下をすべて満たす患者が対象となる。 1. TDSでニコチン依存症と判定(5点以上) 2. 35歳以上ではBrinkman指数(1日喫煙本数×喫煙年数)が200以上(2016年の改定で35歳未満はこの要件が撤廃された) 3. 直ちに禁煙することを希望している 4. 禁煙治療について説明を受け、文書で同意している 標準的な治療は12週間で計5回の診察を行い、毎回呼気CO濃度を測定する。

禁煙補助薬

・ニコチン代替療法: ニコチンパッチ、ニコチンガム。ニコチンを喫煙以外の経路で補い、離脱症状を和らげながら量を減らしていく。禁煙開始日から使用する。 ・バレニクリン: ニコチン受容体(α4β2)の部分作動薬。受容体を適度に刺激して離脱症状を抑えると同時に、喫煙しても満足感を得にくくする。禁煙開始日の1週間前から内服し、計12週間用いる。副作用に悪心、異常な夢、眠気などがあり、服用中の自動車運転などは避けるよう注意される。

行動変容ステージ(多理論統合モデル)

無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の順に進む。準備期(1か月以内に禁煙するつもりがある段階)が禁煙開始の好機である。無関心期・関心期の人には、喫煙の害や禁煙の利点を伝えて動機づけを高める。短時間の禁煙支援には「5A」(Ask: 喫煙状況を尋ねる、Advise: 禁煙を勧める、Assess: 禁煙の意思を評価する、Assist: 禁煙を支援する、Arrange: フォローアップを手配する)という枠組みがある。

離脱症状

イライラ、落ち着かない、集中困難、不眠、食欲増加・体重増加、強い喫煙欲求など。禁煙後数日以内にピークとなり、多くは2〜4週間でおさまっていく。

POINT

・禁煙治療の目標は喫煙の完全中止であり、減煙(本数の目標設定)は行わない。 ・開始準備: 喫煙状況の把握(Brinkman指数)、TDSによるニコチン依存症の判定、禁煙の意思確認、禁煙開始日の設定。 ・TDS 5点以上でニコチン依存症。Brinkman指数=1日喫煙本数×喫煙年数。 ・バレニクリンは禁煙開始日の1週間前から、ニコチン代替療法は禁煙開始日から開始する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。