抗菌薬が効かない熱と腫れた膝―診断が割れても揺るがない「最初の一手」
第106回医師国家試験 D問題 第32問
国試問題にチャレンジ
5歳の女児。両側の膝関節痛を主訴に来院した。2週前から37.5~40.0℃の発熱がみられていた。自宅近くの診療所で抗菌薬を投与されたが解熱しなかった。3日前から両側の膝関節痛を訴え,今朝から立とうとしなくなったため受診した。体温39.0℃。両側の頸部に径15 mmのリンパ節を2個ずつ触知する。右肋骨弓下に肝を3 cm,左肋骨弓下に脾を2 cm触知する。両側の膝関節は腫脹し,熱感がある。尿所見:蛋白(−),糖(−),沈渣に白血球3~5 / 1視野。赤沈80 mm/1時間。血液所見:赤血球320万,Hb 9.6 g/dL,Ht 30%,白血球16,500(桿状核好中球7%,分葉核好中球56%,単球8%,リンパ球29%),血小板52万。免疫学所見:CRP 15 mg/dL。ASO 1,250単位(基準250以下)。咽頭培養は常在菌のみ検出され,血液培養は陰性であった。 治療薬として適切なのはどれか。
- a.鉄剤
- b.抗アレルギー薬
- c.免疫グロブリン
- d.インターフェロンγ
- e.非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
小児で抗菌薬が効かない持続発熱と関節炎をみたら、化膿性関節炎、リウマチ熱、全身型若年性特発性関節炎(JIA)、SLE、白血病を鑑別します。ASO高値と多関節炎・発熱・炎症反応上昇はリウマチ熱(Jonesの基準)を、弛張熱・リンパ節腫脹・肝脾腫・白血球と血小板の増多は全身型JIAを示唆し、本例は両方の要素をもちます。しかしどちらであっても、発熱と関節炎に対する初期治療は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であり、これが正解となります。その先の治療は異なり、リウマチ熱では除菌と再発予防のペニシリン、心炎へのステロイドが、全身型JIAではステロイドやトシリズマブなどの生物学的製剤が用いられ、マクロファージ活性化症候群に注意が必要です。診断を一つに絞りきれない場面でも共通する治療の原則から最初の一手を選ぶ考え方は、実臨床でも役立ちます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・5歳女児。2週間続く37.5〜40.0℃の発熱(1日の中で大きく上下する弛張熱のパターン)があり、抗菌薬に反応しない。 ・3日前から両膝関節の痛み、診察時には両膝の腫脹と熱感があり、関節炎(関節痛だけでなく他覚的な炎症所見を伴う状態)である。 ・両側頸部リンパ節腫脹、肝腫大(右肋骨弓下3 cm)、脾腫(左肋骨弓下2 cm)。 ・検査:赤沈80 mm/1時間、CRP 15 mg/dLと強い炎症反応、白血球16,500と好中球優位の白血球増多、血小板52万と増多、Hb 9.6 g/dLの貧血(慢性炎症に伴うものと考えられる)。 ・ASO(抗ストレプトリジンO抗体)1,250単位と高値で、最近のA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)感染を示す。咽頭培養・血液培養は陰性で、現時点で菌血症や咽頭での溶連菌の検出はない。 ・尿沈渣の白血球3〜5/1視野は軽微で、尿路感染を示すほどではない。
診断へのプロセス
小児の「抗菌薬不応の持続する発熱+関節炎」の鑑別には、化膿性関節炎、リウマチ熱、若年性特発性関節炎(JIA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、白血病などの悪性腫瘍が挙がる。 ・化膿性関節炎:両側性であること、血液培養陰性であることから考えにくい。 ・リウマチ熱:溶連菌感染の2〜4週後に起こる自己免疫性の炎症疾患。ASO高値(先行する溶連菌感染の証拠)に加え、Jonesの診断基準の大症状である多関節炎、小症状である発熱と赤沈・CRP上昇を満たすため、候補となる。 ・全身型JIA:弛張熱が2週間以上続き、関節炎に加えてリンパ節腫脹・肝脾腫を伴い、白血球・血小板増多を示す点は全身型JIAの典型像によく合う。リンパ節腫脹や肝脾腫はリウマチ熱では目立たない所見である。 このように本例は全身型JIAとリウマチ熱のどちらとも読める要素を含み、臨床像だけでは一方に絞りにくい。ただし設問が問うているのは治療薬であり、どちらの疾患であっても関節炎・発熱に対する初期治療として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる、という共通点に着目すれば正解に至る。なお白血病を除外するため、実際の診療では末梢血塗抹や骨髄検査も考慮される。
選択肢考察
- ×a. 鉄剤
Hb 9.6 g/dLと貧血はあるが、強い炎症が続いていることに伴う慢性炎症性貧血(炎症性サイトカインにより鉄の利用が障害される状態)と考えられる。鉄欠乏性貧血を示す小球性の所見や血清鉄・フェリチンの情報はなく、炎症性貧血では貯蔵鉄はむしろ保たれるため、鉄剤は適応とならない。原疾患の炎症を抑えることが貧血の改善につながる。
- ×b. 抗アレルギー薬
抗アレルギー薬は、肥満細胞からのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離を抑える薬(クロモグリク酸ナトリウム、トラニラストなど)や抗ヒスタミン薬を指し、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹などに用いる。本例にアレルギー疾患を示す所見はなく、JIAにもリウマチ熱にも効果はない。
- ×c. 免疫グロブリン
免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)は川崎病、免疫性血小板減少症(ITP)、ギラン・バレー症候群、重症感染症(抗菌薬との併用)などに用いられる。小児の発熱とリンパ節腫脹からは川崎病も思い浮かぶが、本例では眼球結膜充血・口唇の変化・発疹・四肢末端の変化など川崎病の主要症状はなく、関節炎が主体である。JIAやリウマチ熱に対してIVIGは標準的治療ではない。
- ×d. インターフェロンγ
インターフェロンγはマクロファージを活性化するサイトカイン製剤で、慢性肉芽腫症に伴う重症感染症の予防、腎細胞癌、成人T細胞白血病リンパ腫(菌状息肉症を含む)などに用いられる。むしろ炎症を増強する方向に働く可能性があり、JIAやリウマチ熱の治療には用いない。
- ○e. 非ステロイド性抗炎症薬〈NSAIDs〉
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害してプロスタグランジン産生を抑え、解熱・鎮痛・抗炎症作用を示す。リウマチ熱の関節炎にはNSAIDs(古典的にはアスピリン)が著効し、数日で症状が改善するのが特徴である。全身型JIAでも、発熱と関節炎に対する初期治療としてNSAIDsが用いられる(効果が不十分な場合は副腎皮質ステロイド、さらにIL-6受容体抗体トシリズマブなどの生物学的製剤へ進む)。いずれの診断であっても最初に選択されうる薬剤であり、本問の正解となる。
リウマチ熱
・A群溶連菌による咽頭炎の2〜4週後に、菌体成分と心臓・関節などの組織との交差反応(分子相同性)によって起こる非化膿性の炎症性疾患。5〜15歳に多い。衛生環境や抗菌薬の普及により日本では現在まれである。 ・Jonesの診断基準:大症状は心炎、多関節炎、舞踏病(Sydenham舞踏病)、輪状紅斑、皮下結節。小症状は発熱、関節痛、赤沈・CRP上昇、心電図のPR時間延長。先行する溶連菌感染の証拠(ASO上昇、咽頭培養・迅速抗原陽性など)があり、大症状2つ、または大症状1つ+小症状2つで診断する(なお2015年改訂では地域のリスクに応じて基準が細分化されている)。 ・関節炎の特徴:膝・足・肘・手などの大関節に起こり、関節から関節へ移動する移動性多関節炎。関節の変形は残さない。 ・治療:溶連菌の除菌にペニシリン系抗菌薬、関節炎にNSAIDs(アスピリンなど)、中等度以上の心炎にはステロイド。再発予防としてペニシリンの長期予防投与(二次予防)を行う。 ・最も重要な後遺症はリウマチ性心疾患(特に僧帽弁狭窄症・閉鎖不全症)である。
全身型若年性特発性関節炎(全身型JIA)
・16歳未満で発症し6週間以上持続する原因不明の関節炎をJIAと呼び、全身型・少関節炎・多関節炎などの病型に分けられる。 ・全身型は弛張熱(2週間以上)、リウマトイド疹(発熱時に出現するサーモンピンク色の皮疹)、リンパ節腫脹、肝脾腫、漿膜炎などの全身症状を伴う。IL-6やIL-1などのサイトカインが病態の中心である。 ・検査:白血球増多(好中球優位)、血小板増多、CRP・赤沈上昇、血清フェリチン高値。リウマトイド因子・抗核抗体は通常陰性。 ・治療:NSAIDs → 副腎皮質ステロイド → 生物学的製剤(トシリズマブ、カナキヌマブなど)。 ・重篤な合併症としてマクロファージ活性化症候群(MAS)があり、血小板・白血球の急な減少、フェリチン著増、凝固異常に注意する。
POINT
・小児の抗菌薬不応の持続発熱+関節炎では、リウマチ熱、全身型JIA、SLE、化膿性関節炎、白血病を鑑別する。 ・ASO高値+多関節炎+発熱・炎症反応上昇 → リウマチ熱(Jonesの基準)。 ・弛張熱+関節炎+リンパ節腫脹・肝脾腫+白血球・血小板増多 → 全身型JIA。 ・どちらも関節炎・発熱の初期治療はNSAIDs。リウマチ熱の心炎にはステロイド、除菌と再発予防にペニシリン。
