硬い殻に閉じ込められた心臓―収縮性心膜炎は「広がれない」病気
第106回医師国家試験 D問題 第18問
国試問題にチャレンジ
収縮性心膜炎について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.β遮断薬が有効である。
- b.左心不全が主体である。
- c.心臓拡張障害がみられる。
- d.ジギタリスが有効である。
- e.右室と左室の拡張末期圧が等しい。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
収縮性心膜炎は、慢性炎症で肥厚・硬化した心膜が心臓を外から締めつけ、拡張期の充満が障害される疾患で、心筋の収縮能は通常保たれます。4心腔が硬い容器に閉じ込められるため拡張期圧が等しくなり、心室内圧曲線はdip and plateau型を示し、心膜ノック音を聴取することがあります。臨床的には頸静脈怒張、Kussmaul徴候、肝腫大、腹水、浮腫といった右心不全症状が主体で、肝硬変との誤診に注意が必要です。代償的な頻脈で心拍出量を保っているため、β遮断薬やジギタリスは有効とはいえず、慢性で確立した例の根本治療は心膜切除術です。拘束型心筋症や心タンポナーデとの鑑別も含め、「収縮ではなく拡張の障害」という病態から所見と治療を導けるようにしておきましょう。
解答・解説
正解はc, eです
収縮性心膜炎の病態生理と治療を問う一般問題である。 収縮性心膜炎は、心膜(心臓を包む膜)が慢性炎症の結果として線維性に肥厚・硬化し、しばしば石灰化して、心臓を硬い殻のように覆ってしまう疾患である。原因としては特発性(ウイルス性心膜炎後を含む)、心臓手術後、縦隔への放射線治療後、結核などが挙げられる。かつては結核性が多かったが、現在の先進国では特発性や心臓手術後が多い。 病態の本質は「心室が広がれない」ことにある。心筋そのものの収縮力は基本的に保たれるが、拡張期に心室へ血液が流れ込もうとしても、硬い心膜により容積が一定以上に増えない。そのため次のような特徴が生じる。 ・拡張期の充満障害(拡張障害)が主体で、1回拍出量が低下する。 ・4つの心腔が同じ硬い容器に閉じ込められているため、拡張期圧が上昇して互いにほぼ等しくなる。 ・静脈圧の高い右心系への影響が臨床的に目立ち、頸静脈怒張、肝腫大、腹水、下腿浮腫など右心不全症状が主体となる。 ・低下した1回拍出量を心拍数の増加で補って心拍出量を保っている。 この病態を踏まえると、心拍数を下げる薬剤や陽性変力作用を狙う薬剤は根本的な改善につながらず、治療の基本は外科的な心膜切除術となることが理解できる。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬が有効である。
β遮断薬は心拍数を減らし(陰性変時作用)、心収縮力を弱める(陰性変力作用)薬剤である。収縮性心膜炎では拡張期の充満量が機械的に制限されて1回拍出量が増やせないため、代償的な頻脈によって心拍出量を維持している。β遮断薬でこの頻脈を抑えると心拍出量がさらに低下するおそれがあり、また硬い心膜による拡張制限そのものは改善しない。心拍数を下げるカルシウム拮抗薬も同様の理由で避けるべきとされる。したがって誤りである。
- ×b. 左心不全が主体である。
拡張障害は4心腔すべてに及ぶが、臨床的に前面に出るのは体循環側のうっ血、すなわち右心不全症状である。頸静脈怒張、吸気時に頸静脈圧がむしろ上昇するKussmaul徴候、肝腫大、腹水、下腿浮腫などが目立ち、肺うっ血による起坐呼吸などの左心不全症状は比較的乏しい。腹水や肝腫大が目立つため、肝硬変と誤診されることもある。したがって誤りである。
- ○c. 心臓拡張障害がみられる。
肥厚・硬化した心膜が心臓の外から拡張を機械的に制限するため、拡張障害(充満障害)が病態の中心となる。心室は拡張早期には急速に血液が流入するが、心膜の限界容積に達すると急に流入が止まる。このため心室内圧曲線では拡張早期に急峻に低下したのち急上昇して平坦になるdip and plateau(平方根記号様)波形がみられる。心音では拡張早期の急な流入停止に対応する心膜ノック音を聴取することがある。一方、収縮能(左室駆出率)は通常保たれている。したがって正しい。
- ×d. ジギタリスが有効である。
ジギタリスは陽性変力作用(収縮力増強)と房室伝導抑制による心拍数低下作用をもつ。主な適応は心房細動の心拍数調節や収縮能の低下した心不全である。収縮性心膜炎は収縮能が保たれた拡張障害の病態であり、収縮力を強めても機械的な拡張制限は解除されず、心拍数を下げれば代償的頻脈を損なうおそれもある。心房細動を合併した場合のレートコントロールに用いられることはあるが、本症そのものに有効な薬剤ではない。したがって誤りである。
- ○e. 右室と左室の拡張末期圧が等しい。
硬い心膜に囲まれた閉鎖空間の中では、拡張期に心腔内圧が上昇すると、その圧が心膜内の全体にほぼ均等に及ぶ。その結果、右房圧・右室拡張末期圧・肺動脈楔入圧(左房圧を反映)・左室拡張末期圧がほぼ等しい値に上昇する(拡張期圧の等圧化。差はおおむね5mmHg以内)。心臓カテーテル検査で確認される特徴的所見であり、心タンポナーデでも同様にみられる。したがって正しい。
収縮性心膜炎の主な所見
・身体所見:頸静脈怒張、Kussmaul徴候(吸気時に頸静脈怒張が増強)、心膜ノック音、肝腫大、腹水、下腿浮腫。奇脈(吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下)は心タンポナーデほど頻度は高くない。 ・心電図:低電位、非特異的ST-T変化、心房細動を合併しやすい。 ・胸部X線:心陰影は拡大しないことが多く、心膜の石灰化を認めることがある(側面像で観察しやすい)。 ・CT/MRI:心膜の肥厚(おおむね4mm以上)や石灰化。 ・心エコー:心室中隔の拡張早期の異常運動(septal bounce)、呼吸による左右心室充満の変動の増大、下大静脈の拡張と呼吸性変動の消失。 ・心臓カテーテル:dip and plateau波形、4心腔の拡張期圧の等圧化。
鑑別:拘束型心筋症
拡張障害と右心不全という点で似るが、拘束型心筋症は心筋自体が硬くなる疾患である。心膜肥厚がないこと、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が高値になりやすいこと、組織ドプラで僧帽弁輪の拡張早期速度(e')が低下すること(収縮性心膜炎では保たれる)などが鑑別点となる。
心タンポナーデとの比較
どちらも拡張障害と拡張期圧の等圧化をきたすが、心タンポナーデでは奇脈が顕著で、Kussmaul徴候やdip and plateauは典型的でない。
治療
慢性で確立した例では心膜切除術が根本治療である。うっ血に対しては利尿薬で対症的に対応する。発症早期で炎症が残る一過性の収縮性心膜炎では、抗炎症治療で改善する場合がある。
POINT
・収縮性心膜炎=硬化した心膜による拡張障害(収縮能は保たれる) ・右心不全症状が主体(頸静脈怒張、Kussmaul徴候、肝腫大、腹水、浮腫) ・4心腔の拡張期圧が等しくなる、心室圧曲線はdip and plateau ・心膜ノック音、心膜の肥厚・石灰化 ・代償性頻脈を抑えるβ遮断薬は不適、ジギタリスも有効でない ・根本治療は心膜切除術
